──私がスタングレネードを愛用している理由ですか?
そうですね……誰も傷つかないから、でしょうか、ご存知の通りスタングレネードは中にある火薬による強烈な閃光と爆発音により相手を傷つけずに無力化する物です、えぇ、傷付けずに無力化できるという点が素晴らしい、たとえ敵であってもその人は私たちと変わらない一人の生徒ですから。
私は人を傷つけるのは好きではない、誰かが誰かを傷つけるのも、自分が傷つけるのもだ。
痛いのも好きじゃない、与えるのも与えられるのもだ。
初めて銃を持って“ソレ”を撃った時の事は今でも脳内にこびり付いている、私がかつて所属していた場所はこのキヴォトスでも屈指の悪環境だった、幼少時より敵を倒す為にひたすら訓練を積むのだ。
あの場所での訓練は苛烈を極めた、ある子は訓練の厳しさに、ある子は心をやられて、一人、また一人と脱落していった。
脱落した者に救いなどない、曰く軟弱な者に与える物資も時間もないとのこと、とは言え人材に乏しかったのも事実なので、脱落者……通称“廃棄品”と呼ばれた者達にはその者達にしか出来ない仕事を与えられた。
それが
当然の事だが顔を隠す等はしない、一切の情け容赦なく、かつての仲間であっても撃てる者こそが最上の兵士だからだ。
あの場所では完全に心を無に出来た者こそ、“最高傑作”と呼ばれた。
──今でも思い出す、初めて銃を持って“的”を撃ったその時を、その子は昨日まで同じご飯を食べていた子だった、話し合う事こそ無かったが互いに明日も生きていけると思っていたのだ。
だがその結末がこれだ、その子はやめてくれと助けてくださいと懇願している、身体には傷がないところを探すのが難しい、出血も酷い、だけど射撃を止めてしまえば次は私があちらに立ってしまう。
──だからこれは仕方ない事なんだ。
だなんて自分にとって都合の良い言い訳を脳内で反芻させ、その子を撃った、訓練を終えた後の的にされた子達の末路は言うまでも無い、“処分”されたのだ。
訓練終わりの際は決まって必要最低限の水と食料のみを配給されあとは強制的に睡眠時間だ、1日は24時間あると言うがそのうち約20時間程訓練をし残りの4時間は睡眠と朝と夜の食事を行う、だが私はその日の食事は喉を通らなかったし、睡眠ではあの子の断末魔が怨嗟のように聞こえ碌に眠れなかったのを今でも覚えている。
──私はよく音楽を聴いていますが、周りの人たちが言うには私のセンスは少し…いえ、かなりズレているらしく度々指摘されてしまいます。
ですが私にとってはこれでいい、いいえ、これが良いのです、私にとって音楽とは私の世界に彩りを与えてくれた物ですから。
あの場所は閉鎖的だった、それ故に目新しい物など入って来るはずも無い、いや、それすらも上の人間の思惑通りなのだろう、目新しい物に意識を割かせずただひたすらに訓練を繰り返させ私達の思考能力を低下させ、ソレが普通であると認識させる、人道など微塵も感じられないが偉く効果的だ、事実あそこにいた誰もが──当時の私でさえも不自然であるとは思わなかった。
そんなある日私は当時のアリウスでも傑作候補として名高かった錠前サオリと出会った、曰くマダムからの命令で私を含む複数の人員がトリニティやゲヘナに潜入することになったらしい。
──マダム、姿こそ見た事ないがあの地獄のアリウスをどうあれ統一したと聞いている。
そんな人が私達に命令を下した、それは重大な任務だ、必ず果たさねばならない、私は入念な準備を整え、地下墓所を通りトリニティの自治区に赴く、そこで私は“様々な色”を見た、煌びやかな様々な色、アリウスではみることのなかった明るい色、唯一見知った白い色もアリウスの黒ずんだ白ではなく純白その物だ、そんな景色に圧倒されているとふと耳に流れてきたソレに私はらしくもなく呆けていた。
どうやらソレは【音楽】と言うらしい、どこか騒々しくはあれど不愉快ではなく耳に残るソレは既に失われた筈の私の心を掴んで離さなかった。
以来私は任務もこなしつつあの時聞いた音楽が脳から離れないでいる、そして紆余曲折あり私は音楽を流す物、ヘッドホンと呼ばれるソレを入手した私は耳に当てて早速音楽を流す、そうすると耳の中いっぱいに音楽が響き渡り、私は音楽の中に入り込める。
うん、思ったとおりだ、耳いっぱいに音が広がってあの場所の嫌な音を上書きできる、音楽を聴いている時だけ、私はあの場所の事を忘れられるような気がした。
──いつ来てもここからみる星空は綺麗ですね……
星空が好きなのか、ですか?そうですね…星空と言うよりはこの何気ない空をみるのが好きなんです、以前は空を見る余裕はありませんでしたから。
任務に当たって数日経った頃、癖が抜けずに夜中に見回りをした事があります、今となっては恥ずかしい話なのですが、当時の私は余裕がなく周りの全てが不確定要素に包まれた場所だったので、落ち着ける環境では無かったのです、因みにその活動を続けた結果今の自警団に勧誘されたのですが。
ええと、話がずれましたね、そう、夜中の見回りをしていたのですが、その時は街の灯りも落ちていて星空が綺麗な日でした、私は初めて、満天とは言わなくとも綺麗な星空を見ました、暫くそこから動けなかったんだと思います、そうして陽が昇って【朝日】を見たんです。
その時のことはよく覚えてませんが恐らく泣いていたんだと思います、だってその時みた空が余りにも綺麗だったから。
その言葉に表せない程の、キヴォトスではありふれていて、だけど私にとっては虚しい日常の始まりを告げる合図でしか無かったソレが今も私の脳内に焼きついて離れないのです。
その時に感じた朝日はとても暖かくて、膝を屈して目を逸らしたくなるほどの眩さで、だけどその恩恵を全て享受するには私が背負った罪が余りにも重すぎて、その時はその場から逃げるように自室に戻ってしまいました。
──今も私が背負う罪は流されていません、だからこそ私が犯した罪以上に私は人を護らなくてはならない、だけど人を傷つけたくはないという矛盾を担いでいる私はやはり半端者なのでしょうね。
“そんな事ないよ”
“スズミは半端者なんかじゃ無いよ、それに、私はスズミが罪人とも思わない”
──先生は優しいですね、ですがだれが許そうとも私が私を許せないのです、今でも私は睡眠に入るとあの時の感触が思い出してしまう……‼︎
あの子達は今も尚私を許してくれてないんです‼︎
……私は、決して幸福に生きてはいけない存在なのです。
“それは誰が決めたの?その子?それともベアトリーチェ?”
──それ、は……
“正直な事を言うと今のスズミは自分は幸福になる価値は無いと勝手に決めつけてるだけだ、確かに過去は消えない、だけどそれでも未来を蔑ろにしていい事にはならないんだよ”
──ですが……
“スズミ、君が自分より誰かを尊重出来る優しい子であるというのは誰よりも知っているつもりだ、だけどね──”
駄目だ、それ以上は言わないでくださいそれ以上の言葉は、私は私を許してしまいそうになる。
“世界の誰がどう言おうと私はスズミを許すし私はスズミの幸福を願うよ”
──私は…幸せに生きてもいいのでしょうか?
“うん、スズミは人より何倍もしんどい事を経験してるんだ、だから人よりも何倍も幸せになるべきなんだよ”
“だから自分が幸福になる資格なんて無いなんて絶対に言うな”
──ありがとう……ございます。
ここだけの話、星空に心を奪われたのは事実です、だけど、“星”そのものに心を惹かれたのは貴方のお陰なんですよ、先生。
星に憧れ手を伸ばし届かないから憧れることが出来る、だけど星の方から寄ってきては抵抗のしようがないでしょう?
だから先生?責任の方、取ってくださいね?
書いてて心が辛かった、でも書き切りました。