守月スズミへ愛を込めて   作:Another2

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なんか年明けてた、時間の流れが早いぞ


決意と覚悟

──それで、被害は?

 

 私は今正義実現委員会の部室にて今回の騒動に於ける被害をイチカから聞き受けています。

 

「はい……相手は教材用催涙弾の弾薬倉庫を占拠、その後トラップ等を駆使して約三時間もの間抵抗の末、逮捕に至りました」

 

 ……まぁそれくらい粘れるでしょうね、あそこで訓練を積んだならばそれくらいは凌げる。

 

「銃弾や爆薬による負傷者多数、後は打撲によるものが少数といった所です」

 

 打撲……?いや今は良い。

 聞けば聞くほど頭が痛くなる、アズサさん……少し派手に動き過ぎでしょう、とても目立ってるじゃないですか、潜入員の自覚はあるんでしょうか。

 

──それで……何故私を招集したのでしょう。

 

 そう、今回私がここに来たのは正義実現委員会から呼び出しを受けたのは何も今回の被害内容を確かめるだけではない。

 

「今回の犯人……白洲アズサさんは抵抗した際に銃撃の他に近接格闘術(CQC)の使用が確認されました、それがここまで被害が広がった原因でもあるんですが……」

 

 ふむ、やはりアズサさんは近接格闘術(CQC)を使用し生徒を無力化した様ですね、となると私が此処に呼ばれた理由はやはり──。

 

「率直に聞きますけど、アズサさんと何かしらの関係を持っていたりしますか?」

 

──何故今回の犯人、その……白洲アズサさん、でしたか?その方と私に関係があると?

 

「質問してんのは()()()です、()()()()じゃない、だけど私と貴方は()()()()だから答えます、今回逮捕した白洲アズサが扱った近接格闘術(CQC)にはある癖がありました。

 とは言っても直接対峙してないと判らない物ではありましたが……()()()()だったんですよ、身体の動かし方や重心の置き方が、()()()()()()()()に教えた近接格闘術(CQC)と、全く‼︎」

 

()()()()()であるならそれで良い、それならこの話はここで終わりますから。

 ()()()()()としては()()()()であって欲しいし貴方まで逮捕したくはない、だから()()()()が欲しいんです、貴方が()()()である()()()()が」

 

 不味いな、近接格闘術(CQC)の癖から繋がりを見つけてくるとは思わなかった。

 ……どうする、正直なところイチカだけならば制圧し逃亡するのは可能だ、だが今回の事に当たってそんな手緩い体制を敷いている筈がない、姿こそ見えないが伏兵が多数居ると睨んで良い。

 最悪なのは此処で私とアズサさんがアリウスに所属している事が露呈する事、恐らくこの口ぶりからそれはまだバレていない、ならば……

 

──申し訳ありません、アズサさんとは以前交流がありまして、その際に少し手解きを行いました。

 ……どうやら皆さんに多大なるご迷惑をお掛けした様です、全ては私が徒に技術を流出させた事にあります、申し訳ありませんでした。

 

 こう言い切るしかない、

 

「……分かりました、()()()()それで良いです、ですが今後は無闇矢鱈に技術の流出はしないでください、全ての人間が技術を正しく扱える訳じゃないんですから」

 

──そう、ですね、仰る通りです。

 

 そうして私は正義実現委員会の部室を後にした。

 イチカは正義実現委員会の役目を全うしただけに過ぎない、そこに間違いは無い。

 きっと様々な葛藤があっただろうと予想は容易い、彼女には彼女の『正義』があって、それに準ずる行動をしただけだ、誓って彼女に非は無い。

 非があるとすれば、私だ。

 今もこうして皆を騙し続けている、アリウスに所属している事を隠し続けている、機会はこの一年余り何処にでもあった、だけど私は今日まで言う事は無かった、それは明確な『裏切り』に他ならない。

 トリニティの皆を傷つけたくはない、しかしだからと言ってアリウスの人間を簡単に見捨てられる程非情になれない。

 彼処は『地獄』だ、争い、飢餓、恨み、憎悪、このキヴォトスに於いて最も『死』が身近に存在する正しく呪いの坩堝、そこに『生』の気配は薄く此方とは比べるべくもない、彼処に比べたならば例えゲヘナ(混沌)であっても『天国』だろう。

 

 ──天国……天国と言えばシスターフッドが確か人は死後天国に向かう為に善行を積むとかなんとか言っていた気がするがどうだったか……。

 死後の世界に興味がないと言えば嘘になるが確実に私は天国へはいけないだろうし、何より生まれてこの方神とやらに祈った事も無ければその存在を信じた事も無い、もし本当に神がこの世に存在するならばアリウスはあんな場所になっていなかった筈だ。

 断じて言っておくが私は決してシスターフッドが嫌いな訳ではない、少し考えが合わないだけである。

 


 

──それで……何故こんな事を?

 

「し、侵入者に備えて……‼︎防衛を固めていたんだ、な、何かが起きてからでは遅いから……それで」

 

──それで?

 

「う……その、ごめんなさい……」

 

「す、スズミさん……私は大丈夫ですので……‼︎」

 

 今現在、私は最近設立されたという補習授業部が利用している合宿所に来ています。

 というのもこの補習授業部にアズサさんが所属しており、どうやら近頃行われた特別学力試験なる物に失格になってしまったが為にどうやら学力を強化する合宿を行っている──というのを今回の同行者である伊落マリーさんに教えて頂きました。

 で、問題なのはここから、目的地が一緒なので二人で向かい到着したまでは良かったのですが合宿所に張り巡らされた罠──それも物凄く見覚えのある形式の物──要はアリウスで見た物なのですが、それが仕掛けられており私は内心頭を抱えました。

 このまま入れば私は兎も角マリーさんまで巻き込んでしまうのでマリーさんを待機させてトラップの解除に回りました、そして冒頭の言及になる訳です。

 

──はぁ……今回は怪我人こそ出なかったから良かったものの、ただでさえ貴女は暴行沙汰で補習授業部に入れられているのですから、あまりこういった行動は控えないと本当に除籍処分を貰うことになりますよ?

 

 因みに私とアズサさんの関係は私を目視したアズサさんが恐らく咄嗟なのでしょうが私の名前を呼んだ事で普通に皆さんにバレました。*1

 私の除籍発言が効いたのかアズサさんもよく反省した様です、それで漸くマリーさんの本題に入ったのですがどうやら生徒間のいじめ問題があった様です。

 そこを通りかかったアズサさんが救助に入ったものの今度は正義実現委員会に連絡が渡り結果としてかなりの規模の戦闘になってしまった様です。

 

──何故その様な事を……

 

「む、私は売られた喧嘩を買っただけだ、あの時も──」

 

──あぁいえ、其方の方ではなく……何故、いじめ被害に割り込む様な真似を?

 今回の様に不要な因縁をつけられて、不必要な戦いにまで発展している、誰かに報告するのではいけなかったのですか。

 

 これは……素朴な……そう、純然たる疑問だ、なにせ彼女の視点で物事を考えた場合、今回の事はあまりにも不要な事だ。

 目立つ目立たないだとか、そんな理由じゃない、本当にやる意味が無いからだ、現場を見つけて、誰かに知らせる、それだけでよかった筈なのに、何故白洲アズサは応戦してしまったのか、そこが気になった。

 

「ふむ……単に言えば『気に入らなかった』からだけど、もっと言うならそうだな……上手く言葉に出来ないんだが、なんとなく『そうすべき』だと思った。

 正義実現委員会が掲げる様な高尚な正義感で動いた訳じゃない、ましてや誰かに言われてやった訳でもない、『私自身』『そうしたかった』からあの時私は彼女達の前に立ったんだ」

 

──それは、単なる自己満足ではないのですか。

 

「確かにそうかもしれない、だけどあのまま何もせずその場を去っていたら、多分後味の良くない感覚になっていたと思う。

『本当に何もしなくて良かったのか?』

 ──と、そんな気持ちでいっぱいになっていたかもしれない、考え過ぎかもしれないけれど、私はあの時の行動に『後悔』はない、この結果にも全て『納得』している」

 

 自分のやるべき事ではなく自分がやりたい事を行なったと彼女は言った。

 ──なんて強い人なのだろうか、あの地獄の様な場所で育って尚自己意思を埋没させずにいる。

 彼女は『人間』に成れたのだ、自己意思で判断し行動する存在に、それは物言わぬ忠実に任務を全うするだけの『兵士』より尊く、気高い存在と言わざるを得ない。

 

 知りたい事は知れた、彼女は立派に前に進んでいる、それが知れて良かった。

 後は私の方の幾つかの『心残り』を払拭するのと、実行に移す為の『覚悟』を決めなくては……最悪の場合アリウスだけでなくトリニティも敵に回す可能性もあるのだから。

 その為にもまずはレイサさんの元へ向かわなくては、彼女は先に釘を刺さねばまず動くだろう、その次にイチカとセリナさん、やる事が多いですね……

 


 

 翌日、私はレイサさんと共に自警団活動を行なっています、名目としてはエデン条約の調印式が近いのもあってその準備の為に正義実現委員会の主要人物は出払っている為その間に活発的になる不良達への抑制なのですが、まあやる事は変わりありません。

 レイサさんと言えば最近は放課後スイーツ部なるグループの……確か杏山カズサさんによく絡みに行っていると本人から聞き及んでいます。

 それでレイサさんがカズサさんの事を私に言ってくるのでなんともまあ、本人とは面識は殆どないのですけどカズサさんの詳細を知らされています、個人情報がかなり漏れてますけど良いのでしょうか。

 

──レイサさんは……『正義』とは何だと思いますか?

 

「え?えぇと、正義……ですか?」

 

 それはつい、という他ない。

 私もこんな事を問うつもりはなかったし、そのまま釘を刺して別れるつもりだった。

 だからこの質問は本当に意図しないで口から漏れた物だ。

 

「私はそういった難しい事はよく分からないですけど……『自分が正しいと思った事をやる』それが私が思う『正義』だと思います」

 

──その志した正義が誤ち……即ち間違いならば……

 

「その時は引き留めてあげたら良いんです!その人と向き合って、説得して、ちゃんと正しい道を歩めるように!」

 

──正しい道……ですか。

 

「……スズミさん?」

 

 正しい道、私達(アリウス)はとうにそれを踏み外したのだろう。

 いいや、恐らくは私達が歩んだあの道こそが正しい物だと教育されていたのだろう、気が遠くなるほど長い月日を掛けて。

 

──何もありませんよ、お互いに明日の調印式が終わるまで気を抜かない様心掛けましょう。

 

 レイサさんと別れた私は帰路に着く、時間はもう夕暮れ時だ、一日の終わりを告げるあの太陽が今日だけは憎い。

 どうか時間よ過ぎ去らないでくれ、そのままの時であってくれと願わずにはいられない、けれど──

 

──そんな都合の良い話なんてある筈が無いですよね。

 

 目の前には正義実現委員会の制服を着込んだ()()()の姿、そして──。

 

──貴女も一緒でしたか。

 

 そのイチカの側には()()()さんの姿もあった、何の用かは最早尋ねるまでも無いだろう。

 

「何の用かは聞かないんですね、スズミ()()

 

 それは久しぶりに聞いたイチカからのさん付け、既に疑念は確信に至っているのだろう。

 

──必要ないでしょう。

 

「そうですか……トリニティ自警団所属守月スズミ…。貴女を()()()()()()の所属、及びトリニティの裏切り者の容疑で捕縛します」

*1
アズサ「む、スズミじゃないか、何故ここに居るんだ」

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