スズミ視点
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セリナ視点
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セリナとイチカの事前の作戦会議
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その時のセリナの回想(スズミの所属判明)
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セリナ視点
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スズミ視点
「トリニティ自警団所属守月スズミ……貴女を
トリニティの裏切り者、か……確かに言い得て妙だ、アリウスから潜入員としてここに派遣された私は確かに裏切り者だろう、彼方がそういう認識で出向いてくるならば態々訂正してやる必要もない。
──一応聞きますが……何故私がアリウスだと?
「それは、貴方が同行してくれたら話しますよ」
──白洲アズサさんから知り得ましたね?
「さあ?どうでしょう?」
──以前の問答から私とアリウスを結び付けるならそれしかないでしょう、何かしらの原因でアズサさんがアリウス分校出身である事を知り、そのアズサさんと前から知り合いである私もアリウス分校の出身と推測するのは極自然な事では?
「本っ当に頭が回りますね……これまでもそうやって暗躍してきたんです?」
──さあ?どうでしょうね?
「っ……!アンタはいつもそうだ‼︎いつもそうやって煙に巻いた態度で答えを濁して有耶無耶にする‼︎そんなに私達が頼りないのか‼︎信用できないのか‼︎」
「イチカさん、少し落ち着いて下さい、私も気持ちは同じですが……。
スズミさん、何故私達には何も言ってくれないのですか?貴方にとって私達は……秘密を打ち解けられる程信用がないのですか?」
違う、そうじゃないんだ、頼りないから何も言わないんじゃない、信用できないから何も言わないんじゃない、これは私の問題なんだ、いつか起き得る出来事を只管に先延ばしにしてきた私の責任だ。
貴女達はとっても強いから、肉体的にではなく精神が多少の困難なんか乗り越えれる位強い、だから真実を述べたら貴女達は必ず私の味方をして、共に戦おうとするだろう、私はそれが一番恐ろしいというのに。
・もし二人が傷ついてしまったら?
・その傷が生涯残る物になってしまったら?
・或いは戦いの最中に殺されてしまったら?
そんな事、想像するだけでも恐ろしい。
アリウスの恨みの深さは並大抵のものではない、特にトリニティの生徒とならば尚更だ、あの人達は躊躇なく生徒達を殺すだろう、だってそういう訓練をしてきたのだから。
全員を助けられるとは思わないし不可能だというのは理解している、だったらせめてこの二人には危害が及ばない様にしたい、その為には──。
そうすれば──多少身体に損傷は残るだろうが、あくまでその程度……少なくとも死ぬ事はない、危険に身を晒す事は無くなる……筈だ。
──少なくとも私は、貴女達の事を頼りにしていますし、信用も信頼もしています。
「だったら──‼︎」
──だからこそ‼︎
──『信用』も『信頼』もしているからこそ‼︎貴女達には──いや、トリニティの生徒には何も言わなかった‼︎
貴女達の人となりはこの一年で分かったつもりです──断言します、貴女達は良い人達だそれは間違いない‼︎それでも、
原因はどうあれ『アリウス』は『トリニティ』から排斥された側なんです、そして人間は叩いて良い対象を見つけると集団で寄ってたかって叩き始める──知らないだなんて言わせませんよ、貴女達二人は……その事を良くご存知の筈です。
私の記憶にも新しい──アズサさんも関わった例のいじめの事件、その対応にこの二人も駆り出されていたのだから知らない筈がない。
──イチカ、前に貴女は言いましたね、人は皆弱く醜いと、信じていた人間に裏切られるのが世の常だと。
そんな事はとっくに知っています、アリウスでは死が常に隣にあって、信じていた人間に背後から刺されるなんてのはよくある事です、常に人から何かを奪わなくてはならない、そうやってその日その日を生きていくんです、いや……そうしなければ生きていけなかった、それがアリウスという場所です。
そんな場所で生まれ育った私は……初めから貴女達と共に過ごして良い存在では──
「──お前‼︎」
「それだけは……‼︎
大事なのは『今』なんじゃないのか‼︎
ああ──また私は間違えてしまった。
「お前がそんな事を言うのなら──‼︎」
私は、貴女達にそんな顔をさせたくなかったのに。
「そんな事を言えなくなるまでぶっ叩いてやる‼︎」
私は──貴女にまた誰かを傷つける決断をさせてしまった。
だけど私も退くわけにはいかない、こうなってしまったら力尽くでイチカを退けなければならないのだが、下手に後遺症を残す様な傷は残せない──様に手加減出来る様な相手ではない、寧ろ半端に仕掛けたら返り討ちに遭ってしまうだろう、全くよくここまで強くなってくれたと思う。
──随分と感情的じゃないですか、
「感情的にもなるさ‼︎親友が一人になろうとしてるんだから‼︎」
言葉や表情は感情的でも繰り出してくる攻撃は決して直線的では無く精彩を欠く事なく攻め立ててくる、イチカの強みであり厄介な部分。
以前までならば技量差でなんとか凌げたのだが何処ぞの誰か*1が鍛えてくれたお陰で拙かった技量面がカバーされてしまっている。
もう一つ疑問なのは未だに介入してこないセリナさんの存在、この攻防の間恐ろしい程に沈黙を保ち続ける彼女は一時も目を離さない、私がイチカを制圧した際の追撃か或いは横槍の隙を伺っているのか……彼女は戦闘能力に秀でている訳ではないが要警戒だ。
「随分余裕ですね、色々考える暇があるなんて」
──いえ別に、本当によく強くなってくれたなと。
「ええまあ、どっかの誰かさんが鍛えてくれたので」
皮肉を言えるだけの余裕も持ち合わせているのか、いやこれは元からだったか?
そう、私は可能な限り教えた、攻撃の仕掛け方や捌き方、足運びや受け身の取り方まで一通り、他ならぬイチカが求めてきたし彼女もそれに本気で取り組んでいた──でも当然教えていない技術もある。
人を殺す為の技は当然ながら相手を制圧する際に扱う技を幾つか私は彼女は愚か正義実現委員会の誰にも教えていない、そう──誰にも。
私は──トリニティで暮らしてきた中でほぼ全ての生徒に当てはまる『癖』のような物を見出した。
見出した──というよりはキヴォトスでは『それ』が殆ど常識なのだから必然的に分かった、というだけなのだが。
私が見出した『
イチカが仕掛けて来た右手による格闘を捌きつつ──手首と腕を掴む、突き出されている関係上身体の重心は私に寄っている、あとはそのまま背負い込む様に地面に投げつけてやればいい。
当然何度も投げられたイチカの事、受け身は完璧だ、
そうすれば自然と──僅か一瞬とはいえ反対の手に持っていた『銃』から意識が逸れる、
私が見出した癖──キヴォトスの生徒は肉弾戦よりも銃器を扱った銃撃戦を好む傾向がある──という物、従って攻防の意識はどうしても銃に向いてしまいその他が疎かになりがちだ、イチカはその辺を改善して来てはいるもののどうしても長年の癖は咄嗟には抜けない物だ──そこを遠慮なく突く。
──格闘戦程の距離ではこの様な長物より手回しのいいハンドガンやナイフの方が速い、それは教えたはずですが……武器取りの対処迄は教えていませんでしたね。
「いやホント……タチ悪すぎでしょアンタ……‼︎」
例え完璧に受け身を取れたとしても地面に思い切り叩きつけたから脳は多少揺れた筈、ほんの少しは動けないとみていいな、次はセリナさんを──。
そう決めた瞬間、私の視界を閃光が包んだ。
『まず先に私が無力化されます、セリナさんはその後です』
私は──スズミさんを止める為に事前にイチカさんと話し合った事を思い出す。
『知ってると思いますけど
『出来るなら戦わずに止めるに越した事はないんですけどね……』
『いや無理でしょ、あの人一度決めたら梃子でも動かないですし、だったら最初から
まぁ、結果としてその通りだったわけですけど。
『んで続きですけど、あの人の性格上私達二人で出向けば必ず私の方に意識が向く──コレは単純に戦力比の話、それで私が何かしらの方法で無力化された後スズミは必ず貴女の方に向きます、その瞬間を狙ってください』
まあイチカさんの言わんとしている事は理解できます、私はミネ団長やイチカさんの様に戦闘能力に秀でている訳ではないですし、もしスズミさんと戦う事になったら私は戦力外でしょう。
イチカさんの策とはまさにそこを突くという物で、彼女が言っている事は正しい……正しいのですが同時に悔しくもある、私がもう少し強かったら、二人がかりで戦えたなら、そんな事をせずとも取り押さえれた筈なのに。
◆
──戦闘の才なんてあっても困るだけですよ、こんな物持ち合わせていた所で人を傷つける事しか出来ない、私には……セリナさんの様に人を治療して救護出来る方がとても羨ましいと思います。
スズミさんの所属が判明した時、いつしかそんな事を言われた事を思い出す、その言葉を裏付ける様にスズミさんの強さは同年代で見ても頭ひとつ抜けていた。
1、2年であの強さを手にするのはほぼ不可能だ、幼少の頃から厳しい訓練をしていなくては手にする事は出来ない程の、そんな疑心を確定させる様に判明した、スズミさんがアリウス分校の出身であるという事実、それと同時に彼女がそれまで受けて来た仕打ちをこれまでの彼女の行動から察するまでには時間は必要なかった。
つまりはそういう事だったのだ、スズミさんが
私は、胃の内容物を吐き出しそうになるのをサヨナ前団長に宥められ、なんとか持ち直しました、アリウス分校の事はトリニティの歴史に少し詳しければ比較的容易く手に入る、要はその程度の厳重度。
『各々方、お気持ちの方お察し致しますが、今は切り替えてください、守月スズミの所属が判明した今、我々が次に行うべき行動は当人の次の行動の把握です』
ぱん、と両手を叩いてそう発言したサヨナ前団長は切り替える様促してくれた、こういう時この人の切り替えの速さは尊敬出来るし頼りになる。
『まず第一に思考すべきは守月スズミが真に『アリウスの刺客』であり
スズミさんがそんな事をする筈がない──とは誰も言えなかった、何せ今日至るまで誰も彼女の出自を知らなかったのだから。
『その場合は即座に現在位置を割り出し確保する必要があります、トリニティはその構造上外部からの攻撃には強いですが内部からの攻撃には弱いのです。
もし仮に守月スズミがトリニティに『敵対心』を持っていた場合、我々はトロイの木馬を一年近く放置していた事になります、加えてトリニティは足並みを揃えて行動する事は不得手ですから』
“随分はっきり言うね、仮にも元所属校でしょ”
『所属していたからこそ言える事でもあります、トリニティの生徒の得意科目は
そんな最中に内側から攻撃されたら成す術も無くトリニティは崩壊し──延いてはキヴォトス全体の秩序の崩壊も見受けられるでしょう、仮にも三大校、その影響は計り知れません』
『次に考えねばならない事は……これは最悪の事態ですが守月スズミが──この事に対して自責の念を感じ……たった一人で事の収束を図ろうとしている場合、です』
『それが……最悪ですか?』
ふと、溢れてしまった言葉、皆が疑問を浮かべていた、それはそうだろう、だってトリニティやキヴォトスの秩序の崩壊よりも最悪な事態が何も思い浮かばなかったからだ、そんな中先生だけが納得の行った顔をして深刻な表情を浮かべていた。
『セリナ、貴女の疑問は正しい、一人で片を付ける──それの何が最悪なのか、皆さんもそれが疑問なのでしょう。
良いですか皆さん、守月スズミ一人がこの事を処理をすると言う事、それは──彼女一人に重責を担わせる事他なりません』
その言葉で私を含め皆がハッとさせられた、漸く気がついたのだ、事の重大性について。
『私は在校時から隠す様な事をしていませんでしたから敢えて言いますが……私は『トリニティ総合学園』そのものは好ましく思いますし『愛して』もいますが、この学園の在り方だけは心底嫌悪しています。
『優秀だから』と『才能があるから』と勝手に期待し勝手に持ち上げる、その果てに失敗すれば簡単に捨て去る事が出来る、決まってその者達は口を揃えてこう宣う『失敗したのはアイツだ』『私は悪くない』と、誰一人として『大丈夫』の一言さえ掛けることも肩を支えようともしない、その所為で気に病んで失意の底に呑まれた生徒を私は何人も見て来ました──私は、そんな人を一人でも無くす為に救護騎士団に入団し医療の道を志したのです』
『一人で片を付けようとする者は
ですがトリニティとアリウスの関係は最早一人の動きでどうにかなる問題ではない、末期症状に陥った病巣を治療するには如何なる名医であってもたった一人で処置できるはずがありません、これはトリニティ全体で執り行われる必要があります、これは仮にも守月スズミをトリニティに編入させた我々の責任でもあるのです。
……話が難しくなりましたね、結論から述べるならば──守月スズミがトリニティへの報復を考えているにせよアリウスへの単騎決着を考えているにせよやる事は変わりありません、直ちに守月スズミの身柄を確保兼保護、後に徹底的な救護を行います』
最後に宜しいですね?と締め括ってサヨナ前団長は口を閉じた。
◆
そして今、その当の本人が目の前にいてその発言の節々からサヨナ前団長の疑念、その後者の方が的中したのだと認識した、スズミさんからは憎悪の類の感情を感じない、その代わりに自分自身さえも押し潰さんとする自責の念に溢れている、彼女には早急的な治療が必要──否、ずっとそうだったのだ、彼女には長期的な精神の治療が必要だった。
私はスズミさんが出会った当初よりも感情豊かになり少しずつではあるが他者との交友が増えていくのを見て治療が完了したと思った、
私は、取り返しのつかない事をした、私が最後まで診なければならなかったのに──。
──当たった、まず間違いなく命中した、私が投擲した閃光弾は此方を向いたスズミさんを完全に捉えた、銃弾では余程上手く当てないと気絶させれないだろうし、そもそもスズミさんは痛覚が訓練によって鈍い傾向があるから痛みによる気絶を狙うのは不可能、麻酔弾も考えたけれど銃火器による発砲音で避けられる可能性もあるから除外した。
スズミさんは閃光弾の影響でよろけて体勢が崩れた‼︎イチカさんも即座に起き上がった‼︎スズミさんが丁度遮蔽物になったからイチカさんに閃光弾の影響はない‼︎
ここを逃せばもう彼女を止める事はできない‼︎
だから今‼︎
ここで‼︎
──掴み取った最初で最後の好機‼︎視覚と聴覚が効かない今抑え込む‼︎
「──え?」
それは誰の発言だったのか、呆気に取られた様な言葉が自然と漏れ出していた。
なにせ視界も聴覚も効いていない筈のスズミさんが、イチカさんを転ばした際に抜き取っていた銃をイチカさんの下に
勿論これも計算したのだろう、これでイチカさんの勢いが殺された、そんな致命的な隙を見逃す程彼女は甘くはない、足を手前に払い顔を奥に押しその勢いで体を倒す、手は銃を取った関係で塞がっている、受け身は取れない、従って再び地面に叩きつけられる。
私は自分の体内時間に絶対の自信があるわけではないがどう数えても5秒以内の、本当に一瞬の反撃だった、此方の気が緩んだ一瞬をこの人も狙っていたのだ。
──危なかった、間一髪……
「なん、で……‼︎みえ、て──」
──『
今度こそ本当に
──……今更銃を構えてどうするんですか、セリナさん、撃つと判断したならば必ず当てなくてはならなかった、撃たれるとわかっていて何もしない程私は甘くはない……そんな事既に周知の筈ですが。
それに震えで銃身がブレている、それでは当たる筈がない……いや、当てる気はそもそもなかったのか……なんにせよもう貴女が私に対して出来る事はない、今の貴女がすべき事は倒れているイチカさんを連れて治療する事です、それでは。
この言葉を最後にもう会う事はないだろう、これでいいんだ、これでいい……筈、だ。
その足元の横の地面に、銃弾が当たる。
流石に二発目なら分かる、態と外したのだ。
──……セリナさん、貴女は──
「止まりなさい‼︎守月スズミ‼︎」
初めて……かもしれない、セリナさんがこんなに大きな声を出したのを聞いたのは、振り返るとセリナさんは息を荒げて、涙も流して、それでも尚震えながらも銃を構えて私を止めようと抗っていた。
──セリナさん、貴女は本当に優しくて、暖かい、そんな貴女だから、私はこの世界に於いても生きていても良いのだと認識させられた。
貴女は決して戦闘に優れた人ではないけれど、本当の強さと言う物を知っていて、それを持っている、それは稀有な物で──尊くて、決して失われてはいけない物です。
「だったら‼︎」
──だからこそ、その優しさを持って、
「──‼︎スズミさん、貴女は、もしかして……‼︎」
──セリナさん、イチカさんが目を覚ましたら伝えておいてください。
「……必ず」
◆
ああ……思ってもいないとはいえ、あんな事を言うのはかなり気が滅入りますね、これでイチカは大丈夫でしょう、多分。
覚悟も決めた。
もう──迷いは無い。
塔──タロットに於いて崩壊やトラブルを暗示するカード、又の名を『神の家』
後一話二話でエデン条約編“は”終わると思います、接続章なので。