エデン条約調印式当日
式場現場古聖堂を中心に爆撃が発生
後に実行犯である“アリウス分校”が同地を襲撃
現場の生徒達がこれに対処するも負傷者大多数
(軽傷者59名/重傷者234名)
──な、にが……起き、た……⁉︎
調印式は滞りなく進もうとしていた……筈だ、トリニティの生徒とゲヘナの生徒、その両者の友好の手が今まさに結ばれようとしたその瞬間に凄まじい熱と衝撃に襲われた、これは──爆撃か?
空気が熱い、呼吸の度に気管が焼けそうになる、焦げた肉と鉄の匂い──皮肉な事に嗅ぎ慣れていた『死』の匂いが充満している。
──だ、誰か……誰か居ないんですか‼︎
爆撃そのもので死に至る事はないだろう、だがこの熱と瓦礫による肉体への危害は別だ、其れ等は容易に命を絶つ事が出来る。
私は、何をしていたのだろう、こんな事を起こさない為に行動してきたのではなかったのか、その為に友人達を傷つけてまでやってきたのではなかったのか。
『クズが』『人殺し』『なんでおまえだけが』
アリウスで過ごしていた時に見た悪夢で見た内容が脳内で反芻される。
『お前のせいだ』『お前のせいだ』
──う、うう゛うぅう゛うぅ゛っ゛‼︎
一年振りに聞いたその声で私は膝を折ってしまい胃の中身をぶちまけてしまった、私が吐いても彼女達は救われないというのに。
『お前が居るから人が死ぬんだよ』
違う、違う‼︎違う‼︎違う‼︎思い出すな‼︎考えるな‼︎
そんな事を考えてる暇なんてないだろう‼︎今私がやらねばならない事を考えるんだ‼︎だって、そうじゃないと──。
このままだと、私はただの人殺しだ。
◆
走る、掴む、投げる。
奔る、跳ぶ、蹴る。
疾る、狙う、撃つ。
その繰り返し、繰り返した果てに何があるわけじゃないけれど、決して私達の罪が軽くなるわけじゃないのだけど、それでもこうするしかない、それしか知らない、だから一人一人確実に落として行く。
内1人からガスマスクを顔を隠す意味も兼ねて拝借する、アリウスの制服で身を包んで顔を隠したから正体が割れるまで時間を有するだろう、恐らく向こうにはこの事は伝わっているだろうけど関係ない、私はただ1人ずつ無力化していき銃声が鳴り止まない方へ足を進める、そうして都合三箇所程潰した時だろうか、私は
青白い肌をした亡霊の様なナニカとそれを率いるアリウススクワッド、そのリーダーである錠前サオリが銃口を先生に差し向けている現場を、そしてその銃口からは排煙が出ている、先生の身体──お腹から流れ出る、あかい、えきたい。
──……ぁ、ああ、、ああぁあアああア‼︎
無意識だった、私は、錠前サオリに対して発砲していた。
「……報告の反逆者か、まさかその正体がお前とは思わなかったが」
この時点で私は自分の失策を悟った、先生が撃たれた事で冷静を失った事、それにより声を荒げてしまった事、激情に駆られて発砲してしまった事、結果私の存在と位置がバレてしまった事。
それでも私にはもうこの激情を止める事は出来ない、それまでの考えや感情が全て嘘だったのではと思える程、心の底から湧き出る。
──何故……‼︎何故先生を撃った‼︎錠前サオリ‼︎
「何故貴様がそっちに付いている‼︎守月スズミ‼︎」
一年振りに顔を合わせたサオリの表情は怒りに染まっていた、当然だろう、向こうからすれば私は裏切り者だ。
正直言って内心私が一番私に驚いている、まさか自分が此処まで怒りを露わに出来るとは思ってもいなかった。
「新手……?仲間割れ……?」
あれは……ゲヘナの風紀委員長の空崎ヒナか、かなり重体の様だが行動に問題はなさそうだけど戦闘は厳しいか?だったら此処は──。
──ヒナさん‼︎先生は重体ですが
その声に呼応する様に空崎ヒナは動いてくれた、万に一つ追っ手が向かってもそんじょそこらの生徒に空崎ヒナを突破出来るとは思えない。
問題は私がこの四人を抑えなければならないという点だ、言うまでもなくこの四人は手加減して戦える相手ではない、本当に殺す気でやらねば逆にこちらが殺されてしまう、一番の最悪はこの四人がフリーになる事、最低でもサオリは止めたいが……
「……まさか本当に裏切ったとはな、生徒に情でも移ったか?」
──そう受け取ってくれて構いません。
アリウスの生徒はこの世全てを恨んでいると言っても過言ではない、その怒りの矛先は大凡全ての生徒に向けられる、特にトリニティにはより苛烈になる。
だからここまで苛烈になるとは思わなかったが逆に言えば憎悪も振り切ってしまえばこうもなるだろうと理解はできる……だけどこの違和感はなんだろう、もっとこう──根本的な相違点がある様な……
「
──
「ええ勿論来ますよ?今回の作戦は
「スバル、お前の持ち場はどうした、お前の位置はここでは無いはずだ」
「既に守月スズミによってかなりの
それに現在スクワッドがここで溜まっている事に比べるならば私がここに居る事は些事でしょう、早く行ってください」
まずい、このままではスクワッド四人が自由に動いてしまう‼︎すぐに止めなくては──‼︎
「行かせるわけないでしょう?何の為に私が出てきたと思ってるんですか」
「……ここは任せる」
──行ってしまった、このままでは被害者が増え続けてしまう、すぐに止めに向かわないと、その為にはスバルさんを時間を掛けずに倒さなくてはならない、しかしスバルさんも相当に強い……果たして私にそれが出来るだろうか。
「迷っていますね?」
──……何の事でしょうか。
「今貴女には迷いが生じているのでは、と聞いたんです、これは受け売りですが“迷っている人は弱い”んだそうです」
──なにが、言いたいんですか、貴女は。
「迷いは恐怖と不安を生みだします、其れ等を克服するのが生物の……延いては人間の生きる目的なのだとしたら?そしてアリウスは其れ等を克服する術を知っているとしたら……貴女はどうします?」
──
「そうでしょうね、ですが
端的に言いましょう、アリウスは今回の一件を利用して『天国へ到達』しようとしています」
──……は?
あまりの発言に呆然としてしまった、その隙を突かれてスバルさんに先手の攻撃を許してしまう、クソッそれが狙いだったのか。
──発言で油断させて隙を付く……まぁ常套手段ではありますね。
「敵を前にして別の事考える暇もないでしょう」
不味いな……この人は私の手の内を知っている、何故なら私のやり方はアリウスのやり方でもある。
一対多なら連携を乱すなり油断を誘うなりで幾らでも崩し様はある、身体能力が自慢の人との一対一ならその強みを活かさない様立ち回れば勝てないまでも負けない戦い方は出来る。
しかし自分と同等以上の技量を持った人間との一対一、しかも自分の手の内が割れている相手と来た、考えうる中で最も相性最悪な敵といっても良い。
しかし妙な事に攻撃に苛烈さが無い、何とか私でも捌ける程度の攻撃、言うなれば悪辣さが薄い、思い返せば初手の一撃で落とせなくても腕や足にダメージを負わせる事くらいは出来た筈だ、そんな致命的な隙を私は晒したのだから。
「攻撃を捌きながら聞いてください、決して周囲に分かる反応はせずに」
攻防の合間に他ならぬスバルさん自身が私にそう耳打ちしてきた、また油断を誘おうとでもいうのだろうか。
「先程言った『天国へ到達』……私はその本当の方法を
──とある方……?あぐっ……‼︎
一瞬止まった動きを咎める様に私は投げられた。
「残念でしたね、
受け身は間に合った……が、肺の中の空気を一気に押し出された、かなり不味いな、いやそれよりも。
「
──……誰ですか、その人物は。
銃を使った鍔迫り合いにて更に耳打ちにてそのとある方という人物の名を聞き取る、正直言って私の知り合いに天国云々に興味がある人は思い当たらない。
……は?
──……は、ぁ?なに、言ってるんですか、貴女……
「私は真実を話したまでです、時間も頃合いですので私は消えますが、追いかけてくるならご自由に?私は
──なっ‼︎ちょ、待ちなさい‼︎
私はのらりくらりと逃げるスバルさんを追いかけて、この戦場から離れざるを得なくなった、スクワッドのメンバーとは違う明らかな異質感、無視してはいけない感じがする、追って事の顛末を問いたださなくてはならない。
エデン条約調印式当日
式場現場古聖堂を中心に爆撃が発生
後に実行犯である“アリウス分校”が同地を襲撃
現場の生徒達がこれに対処するも負傷者大多数
(軽傷者59名/重傷者234名)
守月スズミ
本件の重要参考人として捕縛する事を決定する
世界──タロットに於いては『完成』『完全』等を意味する、それがズレたという事は即ち逆位置──『衰退』『未完成』『調和の崩壊』を意味する