守月スズミへ愛を込めて   作:Another2

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スズミの出番もっと増えろ増えろ…


もう一人の潜入員と一人の善良人

 任務に就いてソレなりの時間が経過した頃、追加の通達が行われた、どうやら新たな人員を送るらしくその者はトリニティのさらに中枢へと潜入、然る後にティーパーティと呼ばれるこの学園の率いる者を暗殺を執り行うらしい。

 追加人員の名は白洲アズサ、彼女はとある人物が錠前サオリの仲介を経てトリニティに転校生として在籍する様で、その事を知らせてくれた。

 白洲アズサと出会い私がこれまでに得た情報、要はトリニティ自治区の地理や校内に存在する様々な派閥や組織についての情報を提供した、その際少し彼女と会話をしたのだが曰く、聞いていた情報よりも差異があるらしい、それを聞いて私は自身が得て共有した情報に嘘偽りは無いと訂正したがどうやらそう言う事では無いらしい、一体何の事を言っていたのだろうか。

 

 手筈通りに彼女へ情報共有を行い私の任務も終了かと思えたが、どうやら引き続きこの場に残り任務を続行せねばならないらしい、どうも他に潜入した兵士たちとの連絡が途絶えたらしく本部は失敗と看做したようで、その中で私とは以前変わらず連絡が取れたので実行日までに更なる情報収集に励めとの事、その任務を伝えた際に白洲アズサの表情が歪んで見えたのは何故だろう、彼女は私に情報の伝達をしただけに過ぎないのだから彼女自身は何も気にする必要は無いと言うのに。

 


 

──サオリからトリニティに潜入する様指示を出された、私は当然それに了承したがその際に現地には手筈通りであるならば既に此方からの潜入員がいる筈なのでその者と情報共有を行えとの事だ。

 その者の名は守月スズミ、以前に出向かせた潜入員の一人であり、他の者達の連絡が途絶えた中スズミの連絡だけは継続して繋がっていた為に、無事に任務を継続出来ているだろうと言うマダムの判断だ。

 当時の私は知る故も無かったがスズミは()()()()()()()()()()()だったらしく、一時はサオリが率いるスクワッドへの加入も視野されていたらしい、しかしどのような状況でも、それこそあの()()()()()()()でも眉一つ動かさず的に命中させ、更に最低限の弾丸の消費で抑えられていた、其れ等の成績から既に実地任務が可能と判断され最も困難とされる潜入任務を言い渡されたらしい。

 その判断は正しくスズミは此方の予想を上回る量の情報を提供してくれた、トリニティ自治区の地理や地形、校内に存在する様々な派閥、そして一筋縄では突破できないであろう正義実現委員会という存在。

 これらの事前知識があるのと無いのとでは今後の立ち回りに大きく影響が出る、有効に活用しなくては。 

 それから……スズミには暫くの任務続行を旨を伝えた、本人はそうですか、了解致しました、と簡潔に了承していた、私と同い年とは思えない、それこそ歴戦の兵士を思わせるスズミの言葉に私は居た堪れない気持ちになった、彼女程強く在れたのなら私も早く変われたのだろうか。

 


 

 任務によってトリニティに潜入してそんなに経っていない頃、私は少しヘマをした。

 ヘマをしたと言っても任務に支障が出る物ではなくて、ほんの少しだけ怪我をしたと言うだけなのだが、その際に救護騎士団──名を鷲見セリナと言う人物に見つかってしまい逢えなく御用となってしまった。

 鷲見セリナの力はとても弱く、簡単にふり解けるほどなのだが、当人の絶対に離さないという強い意志に根負けし大人しく救護騎士団の病室にまで連れられてしまった、本当にこの程度の傷であればすぐに治るし本当に問題は無かったのだが……いいや、この際救護騎士団の情報を少しでも持ち帰る事に目的を変更しよう、そう割り切れればこの状況も存外悪く無い。

 

 病室に連れられた私は目の前の光景に圧倒させられていた、三大校の内の一つトリニティ、その医療施設なのだからある程度の設備の質は想定していたのだが実際に目にしてみて自分の認識が甘いと言う事をむざむざと知らされた。

 まず置いてある薬品の種類の多様性、常に清潔が維持されている治療器具の数々、数十人が一挙に押しかけても問題ないであろうベッドの数々、そしてそれらを運用する人員の手際の良さ、全てにおいて想定を上回っていた、どれもアリウスでは信じられない光景であった、一個人が完全な赤の他人の為にここまで尽力を尽くすと言うのは考えられなかった。

 

 傷の治療を受けた後、医療が終わったのですぐに立ち去ろうとしたのだが絶対安静を申されてしまった、何故。

 曰く、完全に傷が治るまではここに居させると言うのと単純に栄養失調と言う点から絶対に帰さないらしい、どう言う事かと問いてみれば、食事によって得られる栄養が余りにも足りなさ過ぎる為に傷の治りも遅く、今後の体調にも影響が出る可能性があるのでここで徹底的に治療するらしい。

 食事として出されたのは全体的に黄色く白い粒がたくさん入った未知の物、しかし漂う香りは今まで嗅いだ事のない物で、堪らず私は鷲見セリナにこれは何かと聞いてみたら、彼女は驚きの表情を浮かべた後にこの食べ物の説明をしてくれた、何やら小難しい事を言っていたが要点を纏めるとこれは【たまご粥】と言うらしく、今の有り合わせで栄養価が高く且つ消化にいい物を用意したらしい。

 初めて見たたまご粥を掬い上げ恐る恐る口に運ぶ、白く湯気立ったそれを見て高温であるのが見て取れる、覚悟を決め口に含み、瞬間口内に一気に広がったのは今まで感じたことの無い熱、だがそれ以上に感じたのは未知数のソレ()、完全な未知の経験故に言葉で言い表す事すら不可能だった、その様子を見ていたセリナが慌てふためいている、どうやら私は涙を流している様で、美味しく無かったのか、それとも熱すぎたのかと聞いてきた。

 温度はまぁ、熱いには熱いが苦という程では無い、然し美味しい……美味しい?私にはそれがよく分からなかった、その旨を彼女に伝えると彼女は呆然として、それこそ信じられぬ物を見たと言わんばかりの顔を浮かべていた。

 すると彼女が身体を震わせながらこれを食べて良い気持ちになったか、それとも嫌な気持ちになったかと聞いてきた、私はその質問に対して良い気持ちかどうかは分からない、でも嫌な気持ちでは無いと答えた。

 更に彼女はもっと食べたいですか?と聞いてきた、それに対して残すのも申し訳ないので肯定で返した。

 次に彼女は私が今まで食べてきた物と比べて何方が良かったかと聞いてきた、これには迷わずにこっちの方が良いと答えた、食べていて身体が温まって、何処かホッとする様な、そんな気分になるとも。

 そうすると彼女はそれが嬉しいと言う事なのだと、美味しいと言う事なのだと涙を流して教えてくれた。

 

 それが、私と鷲見セリナとの初めてのやり取りであり、今後長い付き合いになり初めて心を許せる人との出会いだった。

 


 

──その日は数が減ってきた消毒液や包帯の補充の為に買出しに出掛けていた時の事でした。

 少々時間を掛けてしまった私は急ぎ足で救護騎士団の病室まで戻っていたのですがその道すがら、とんでもない人を見かけました。

 身体中から血を流し足取りが覚束無い彼女──後ほど聞いた名前は守月スズミという方を見た私は否が応もなく飛び出して彼女に駆け寄りました、見た感じ私と歳の差はそう無い、下手をすれば同い年の可能性すらある彼女に安否を問うと何も問題はないと返されました。

 当然そんな物信じられる筈もなく、というより傷だらけの生徒を放っておくのは救護騎士団云々より人としてやってはいけない行為なので緊急救護を行うために確保しました、初めは軽い抵抗はされましたがこちらが折れない事を悟ったのか即座に大人しくなり、そのまま病室まだ着いてきてくれました、こういう時ミネ先輩のように力があれば問答無用で連れ帰れるのですが……

 

 病室に着いた私はすぐに彼女の救護を開始しました、彼女はどこか落ち着かないのかソワソワとしていましたが治療中はとても大人しかったです、正義実現委員会の方々もこれぐらい大人しいと楽なのですけど、本来傷を消毒するためにアルコール綿を傷に当てるのですが、どのような方でも反応をするのですがこの方は一切動じませんでした、不可思議に思いましたが此方としてもスムーズに治療を行えるので助かりました。

 止血をして血を拭き取った後にガーゼを巻きそれを包帯で固定して応急手当ては完了です。

 

 さて、傷の手当てをした際に当然触診をしたのですがまだ未熟な私でも分かるほどの栄養失調、そこに出血が重なったのだからかなりの重体者だ、それなのに彼女は傷の手当てが終わったのを確認するや否やすぐさまここを立ち去ろうとしました、何を考えているのでしょうか。

 そんな彼女に今の容態を説明して完治するまでここから出さないと言う旨を伝え、彼女は渋々ではあるが従ってくれました、素直なのは助かるんですけどもう少しご自身の身体を労ってください。

 とりあえずベッドに横になる様指示を出し私はすぐに食事の準備をする、間に合わせでしかありませんがすぐに作れるように材料は常に整えてあります。

 そうして彼女に振る舞ったのはたまご粥でした、彼女はこれを見つめるや否やこれは何かと聞いてきました、この質問に対しとある疑念が湧いてきた私はされども表情に出さずにたまご粥であると説明した、すると彼女の口からたまご粥とは何かと問われた。

 私の中でその疑念が大きくなってきたのを他所にたまご粥の説明をして口に運ばせる、食べさせてあげようと思ったのですが、そこまでしなくても大丈夫と言う彼女の主張により断念、無理矢理食べさせるのもダメですからね。

 彼女はスプーンで一口分掬い上げたそれをマジマジと見つめた後に漸く口に入れました、その瞬間それまで一切動じず無表情を貫いていた彼女はまるで別人なのではと思うほどに表情が変わり一回、二回と咀嚼しそして飲み込みました。

 その後1秒?2秒?の静寂があったかと思いきや彼女が突然涙を流し始め私も慌てました、堪らず私は彼女に美味しく無かったのか、それとも熱すぎたのかと捲し立ててしまいました、今思い返してみてもとんでもない失態ですね。

 彼女は温度は熱くはあれど苦ではないと答えてくれました、一先ずその事にホッとしたのも束の間、私は彼女の次の発言に言葉を失いました。

 

『美味しいって何ですか?』

 

 この発言を聞いた瞬間、私の中にある疑念が確信に変わりました、たまご粥を知らない事といい、あれ程の傷で問題ないという発言と言い、彼女はきっととんでも無い環境で身を置いていたのでは無いか、虐待か或いはそれ以上の……?

 私はできる限り平静を保ちながら美味しいと言う事を教えるために敢えてこちらから質問を返しました。

 これを食べて良い気持ちだったか嫌な気持ちだったか、それに対して彼女は。

 

『良い気持ちなのかは分かりかねます、ですが嫌な気持ちでは無いですよ』

 

 そう答えてくれました、決して望んだ答えでは無かったものの次の質問を投げかける、もっとこれを食べたいか否かの質問を彼女に問う、これに対しては。

 

『折角振る舞ってくれたのですから、全て食べますよ、無論貴方がそれで良ければ、ですが』

 

 そう彼女は言った、そんなの良いに決まってる、最後に私は今まで食べてきた物と今食べた物、どちらが良かったか聞いた、これには彼女も即答してくれました。

 

『勿論此方です、これ、たまご粥……でしたか?これを食べると身体が暖かくなって、どこかホッとして、すごく落ち着いた気分になります』

 

 その言葉を聞いて私は遂に涙を堰き止めることが出来なくなっていた、それも構わず彼女に寄り添って、それが嬉しいと言う事なのだと、それが美味しいと言う事なのだということを彼女に伝えた。

 

 これが、今後長い付き合いになる彼女こと守月スズミさんとの最初のやりとりでした。




 因みにこの後スズミは病室のベッドで就寝をとるのですが例の悪夢に魘されます、それを耳にしたセリナが飛んできて落ち着かせて事なきを得ました。

Tips:この世界のスズミは潜入員適正:SSです。
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