「スズミさん!明日は一緒に遊園地に行きましょう‼︎」
あの日セリナさんの世話になってから早いものでもう一ヶ月程経過した様で、あの日限りの関係で終わるかと思ったのだが、彼女が言うには私の治療はまだ終わってないらしく完全に治療が終了するまで付きっきりになるらしく、私としてもまさかここまで長い付き合いになるなんて思わなかった。
そして今日、突然ゆうえんちと言う場所に向かう事を伝えられた、ソレはどの様な場所なのか、何故そこに向かうのか質問した。
曰く、ゆうえんちとは様々な遊具が立ち並びその全てがそこらにある公園にある遊具のソレを遥かに上回るのだとか、そしてそこに向かう理由は私の為であるらしい、何やら“たのしい”という感情を知る為にゆうえんちに向かうのだとか、彼女がその事をとても楽しそうに言うので柄にも無く私もその日を楽しみにしていた。
翌日、私は黒の上下に白のパーカーを着込み、セリナさんと共にゆうえんちへと向かった、その際に視界を埋め尽くさんばかりの大小様々な動く
少し歩くと今度はゆったりとした動きではあるがその見た目に虚を突かれた、それは馬の形をしたナニカが胴体を棒で貫かれ上下に揺れていると言う、言葉にするとあまりにも凄惨な状況に陥っている物体に人が跨り同じ所をグルグル回ると言う余りにも奇怪な代物を見つけた、セリナさんによればあれはメリーゴーランドと呼ばれる物らしい。
しかし成程、よくよく観察してみればあの突き刺さった棒に捕まらねばあのスピードで上下に動き続ける中で体勢を維持し続けると言う状況は体幹を鍛えるのに適しているだろう、それを聞いたセリナさんがそういう為に使われる物では無いと叱られてしまった、何故。
他にも
セリナさんに気になった物に乗ってみましょうと言われたので、ずっと気になっていたあのジェットコースターなる物を経験しておきたい、あの絶えず悲鳴を上げ続けさせるという高性能な代物、予め経験しておく事で耐性を付けるのも悪く無いだろう。
その旨を伝えるとセリナさんは少し顔を青ざめていたが快諾してくれた、これは後で聞いたのだがセリナさんはこう言った所謂絶叫系の乗り物があまり得意では無いらしい、悪い事をしたと思っている。
それなりに並びいよいよ私たちの番が回ってきた、安全の為に荷物の類は押収されてしまったが、終わり次第返却されるんだとか、そこまでは良い、問題はその後足が床につかない状態で身体を固定されてしまった事だ、幸いにしてある程度腕と足が動かせるが大変不利な姿勢になってしまった。
成程、まずは身体を固定して逃げられない様にするのか、とても合理的だ、しかもこの機体は数十人を同時に対して執行可能らしく、セリナさんと私も含め同じ状態に、しかも歳が近い子供達が陥ってしまっている、ここからどのような事が起こるのか案じていると、突然機体が動き出してしまった。
馬鹿な、一番前や後方には私と同じ状態の子しか居ない、操舵手の類はこの機体には乗っていないは確認済みだ、まさか……コイツは遠隔操作で動いているとでも言うのか⁉︎
動き出してすぐに目に入ったのは壁かと誤認してしまいそうな角度の坂、どうやらコイツはアレを登るらしいが如何せん速度が遅すぎる、しかし恐怖心を煽るには最適だ。
もはや地上の人間が豆粒程の高度まで上昇し、遂にその時が来た、一瞬動きが止まったかと思いきやその瞬間までの思考を全て過去にする速度で機体は動いた、最早乗り物に乗っていると言う感覚も無くここまでくると最早落下である、確かな浮遊感に襲われた最中、思考を切り替える暇もなく次は身体に重圧が襲い掛かる、まるで体全体が鉛や鋼鉄の重りで押さえ付けられているかの様な、そんな感覚だ、ソレが凡そ一分弱程続き機体は元の位置に戻った、どうやら終了の様だ、乗組員は皆無事なのだがあろう事か喜びの声でもう一度乗ると宣う者が多数存在する、なんて強靭な精神の持ち主なんだ、私は既にジェットコースターという拷問装置に恐れを抱きつつある、セリナさんは涙声を上げプルプルと震えていた、拘束が解けたのですぐさま安全な場所へと私たちは向かった。
ジェットコースター……恐ろしい乗り物だった、苦痛こそなかったが悲鳴を上げさせるのに特化した物なのだろう、一休みを終えた後私たちは次の乗り物へと向かった、目的地はメリーゴーランドと言う乗り物、何度見ても奇妙な形をした乗り物だ、先ほどのジェットコースターに比べるまでも無く遅く上下の動きも遅いと言うのに乗っている者は一様に楽しそうにしている、私もあれに乗れば彼女達の気持ちが分かるのだろうか。
そうした思考を巡らせてる内に私達の出番が回ってきた、どうやらこれには肉体を固定する拘束具は無い様でホッと胸を撫で下ろす、たとえ短時間であろうとも身動きが取れないと言うのは不安を覚えさせる。
皆搭乗し終えたのか機械が動き始めた、出始めはゆっくりと徐々に加速していくそれは愉快な音楽を追随させウマモドキは緩やかに上下に動く。
……ふむ、ゆったりとしたペースでなかなか悪くない、寧ろさっき乗った物の動きが激しすぎた分此方のこれはちょうど良いまである、それに時間が経つにつれだんだんと気分が高揚してきた、成程、これは単純ながらとても良い物だ、この乗り物に対して疑念視が渦巻いていたが実際に経験してみてソレは払拭された。
メリーゴーランドを堪能した後に小腹が空いたので、軽めの食事を摂ることになった、あの日からセリナさんに色々な物を食べさせてもらっており、その全てが未知な物でありとても美味しい。
今回頂くのはチュロスと言う物らしく、セリナさんから偶に頂くお菓子の類なのだとか、お店に並び注文を完了させると寄越されたのは棒状のソレ、断面を見ると歯車を彷彿とさせる形をしているが長さにして5.6cm程の物が盛り付けられている、飲食コーナーなる物があったので席に着きチュロスなる物を食す。
まず一口目を口にして最初に感じたのはサクリとした食感に中身はフワリとした物、これは確か以前食べたパン等に使われている生地に感触に近い、しかし口に広がる味はパンの味と比べるまでも無い甘さ、生地だけでここまで美味しいのなら共に添えられたこの器に入っている物──チョコソースと言う物らしい、それをつけて食べる、すると次は口の中に新しい味が広がる、おそらくこれがチョコと呼ばれる物だろう、凄い……一つ追加要素を入れるだけでここまで味が変わるなんて、私は思わずセリナさんにも食べて欲しいと思った、同じ物を注文していたのを忘れていた、恥ずかしい、それはそうとなぜセリナさんは私が食事をする時はいつも微笑ましい物を見る表情をするのでしょうか。
そうしていると賑やかな遊園地に於いて似つかわしく無い、不安気で寂しい雰囲気を纏う子が居るのを目撃する、その子は薄い紫と水色の髪色をしており星の形のヘイローを持つ子だった、その子があまりにも心細そうにしていた物だから気づけば私はその子の元に駆け寄っていた、年頃は私やセリナさんより一つ下だろうか、広場のど真ん中で立ち止まるのもあれだったので、私は手早くセリナさんの元へ戻って行った。
事情を説明しこの子の事を聞くと名前は宇沢レイサと言うらしく、年齢は14との事、それで何をしていたのか尋ねてみれば休日の遊園地の平和を乱すスケバンなる者が居ないか探ってみたは良いものの存外に見当たらず次第に心細くなっていった模様、何をしているのか。
事情を聴き終えた後レイサさんのお腹が盛大に鳴り本人は物凄く恥ずかしそうにしていた、どうやら朝っぱらからこの活動をしていた為に空腹でもあったらしい、本当に何をしているのか、まぁここで会ったのも何かの縁なので、食べ掛けで非常に申し訳なかったのだがチュロスを分けてあげる事にした、レイサさんは初めは遠慮していたのだが空腹には抗えなかったらしく観念して口にしてくれた。
その際に何故分けてくれたのかと聞かれたのだが、自身の恩人、つまりはセリナさんなのだが彼女ならこうしたと伝えるとセリナさんは物凄く恥ずかしそうにしていたし、レイサさんも顔を真っ赤にしながらお楽しみのところお邪魔しました、それとご馳走様でしたと言って猛スピード立ち去ってしまった、セリナさんからはまた怒られてしまった、何故。
そんな一悶着もありつつ次の乗り物へ向かう、時間的にもこれが最後となるだろう、私達が向かったのは──。
「えっと……これで良かったのですか?他にも色々ありますけれど……」
「いえ、
最後に私たちが向かったのは観覧車と言う大きな乗り物、ゆっくりと回転し、上昇して遠くの景色を一望するのが醍醐味なんだと、最初にセリナさんから聞いた時に最後にこれに乗りたいと決めていたのだ。
列に並び備え付けられている小部屋、正しくはゴンドラと呼ばれる物に乗り込む、地面から徐々に離れていく、そして私は遠くまで一望出来るであろう景色に想いを巡らせる。
中層辺りまで上昇した頃だろうか、下を向けばもはや地面は遥か彼方にあって尚離れて行く、視線を上げれば遥か遠くまで景色が見え地平線の彼方まで視界に収められるだろう、そして上を見上げれば空がこんなにも近い、私にも鳥の様な自由に空を駆ける事のできる翼があれば、全てを忘れて飛び去る事が出来たのに、そんな考えを咎める様に夕焼け色の日差しが差し込む、どうやら陽が沈むのは近いらしい。
最上層に到達し辺りを見渡す、遠方にまで続く美しい街並み、この美しく、尊くもある景色を形成するまでに人々はどれだけの月日を掛けたのだろう。
あの場所で只管に教え込まれた物であり、全ては虚しく、どこまで行こうと全てはただ虚しいと言う教え、実際訓練時はそう思っていたし私自身もその教えに違和感を覚えたことはなかった、けれど──。
『あなたは何故人を助けるのですか?』
出会って数日の内にこの様な事を尋ねた事がある、すると彼女は
『私が私である為ですよ、例えどの様な人物であろうと私の目の前で負傷者がいて、困っているのならあらゆる理由を捨て置いて私はその人を救護します』
『例えそれが無意味で、虚しい事だとしてもですか?』
『人を助けるのに意味や理由なんて必要ありませんよ、
全ては虚しい物だ、それを否定する気はない、だけど……それでも──。
──良い景色ですね、この景色を見れただけで大きな価値があると思える程に……
全ては虚しい物だからこそ、彼女やこの景色の様な物がより輝きを放ち、綺麗で尊く感じれるのかもしれない、そしてその様な物を私は永遠に感じていたいと思ってしまっている。
──恐らく私はあの時より弱くなりつつあるのだろう。
人の心を無くし任務を遂行できる者が至高の兵士と呼ばれる、あの場所の皆は死に物狂いでそうなるべく訓練していた、かつての私もそうだ。
だけど今の私は違う、
私のこの考えは裏切りになるのだろう、酷い人間もいたものだ、長年世話になった場所の思い出よりほんの数ヶ月過ごした程度でしかない場所の思い出の方が素晴らしい物だと思っていて尚且つそれを失いたくないと感じている、こんな感情なんて、本来は持ち合わせていいはずがないのに。
結局の所私は全てに於いて半端者だったのだ、敵を倒す事もできず、感情を押し殺す事も出来ない、挙げ句の果てには簡単に周りの環境に絆されてしまう、本当にどうしようもなく愚かで、救いようがない。
そんな事を思い耽っている私を案じてくれたのかセリナさんが心配そうな声を上げてくれる、私は何も問題はないと答えたが彼女は納得はしていない表情ながらも了承してくれた、困った事があれば遠慮なく相談して欲しいと言う言葉も添えて。
観覧車が一周し久しぶりに思える地面に足をつけ、時間も時間なので私たちは帰路に着く、何事にも代え難い時間を過ごせた、またいつかこの様な時間を過ごしてみたい、その時までにはきっと答えも出ているはずだから。
準レギュラー枠に迫るセリナさん迫真のメンタルケア、因みにあんなこと考えてるけどスズミはもう大分光側に堕ちてます、あと一押しが足りない。
Tips:スズミはセリナと出会ってから負傷する回数が減りました。