あの後イチカと私で仲良く怒られた後も幾度か共に仕事をこなし交流を深めていきました、ただそれだけのことだったのですが、何故か委員長から深く感謝を述べられまして、本人が言うには。
『イチカがあそこまで楽しそうにしてるのは初めてみたよ、情けない話だがアタシじゃあそこまで出来なかったことだろう、改めて感謝するよ、組織の長としても、個人的にもね』
そう言われ、彼女の連絡先を渡されました、勿論イチカの分も、本人物凄く嬉しそうにしていまして、期間が終わった後も頻繁に連絡を取り合っているのが現状です。
終わったと言えばつい先日正義実現委員会の体験加入期間が終了致しました、極短い間でしたがとても良い経験ができたと思います、それなりの人数とも交流を取れたと自負もありますし、ですが……治安維持の為とは言えやはり人を撃つという行為に対しての嫌悪感は結局払拭出来ませんでした。
『別に銃撃だけが相手を制圧する手段ってわけじゃない、必要な時には砲撃とかするし閉所での乱闘になったら
正義実現委員会ではあまり使われない物……恐らくあの人は答えを知っている、知っていて尚私自身に気づかせるつもりなのでしょう、それが成長につながると知っているから。
| スズミ、ちょっといいです? |
| 構いませんが……何かありましたか? |
| 時間はあるんですね? |
| なら救護騎士団の部屋に来てください |
| 早く |
| わかりました、すぐに向かいます |
イチカからモモトークによる連絡を貰い救護騎士団の部屋に向かう事になりました、何やら急ぎの用があるらしくやや駆け足気味です。
「スズミ、何か言うことがあるんじゃないですか?」
何故私は部屋に入った途端に詰められているのでしょうか、鬼気迫る勢いでイチカに詰められています、背後にはこれまた怒り顔のセリナさん、こう言うのを確か前門のなんとかと言った気がします。
そして私は二人が怒り心頭の理由が測りかねます、何かをやらかした記憶はありませんし、迷惑をかけた記憶もありません、多分。
「スズミさん、本当に心当たりがないんですか?」
セリナさんからも詰められている、因みにセリナさんはイチカと私が仲良くなったのを純粋に祝福してくれました、その際に私のことも呼び捨てで良いと言われたのですが、今更変えれる訳もなく……
それはそれとして本当に心当たりがありません、後に残る様な怪我は最近した覚えはありませんし、ちゃんと食事もとっている筈です、しかしこの2人の怒り様から察するに相当なことをしたに違いないでしょう。
「心底心当たりが無いって顔してるわね?」
うっ、この声はまさか。
「お久しぶり……って訳でも無いかしらスズミ?」
──ワイズさん……あなたですか
「ご機嫌よう、やや心外ではあるわね、そんな顔されちゃあ流石に傷つくわ……そんなに私と会いたくなかった?」
──いえ、そう言うわけではなく
「それじゃあ何?」
──あなた遺跡探索以外で古書館から出る事とかあったんですね
「吹っ飛ばすわよ」
ワイズさん、改め白百合ランカさんとはあれ以来それなりに交流がありその際に本名を教えていただいたのですが、本人の要望によりワイズと呼ぶ様に釘を刺されて今に至ります、それを聞いてたウイさんのなんとも言えない表情は記憶に新しいですね。
「それでスズミ……貴方本当に身に覚えがないの?隠しているとかでもなく?」
私が隠し事……?私の出自はワイズさんが知っているとして除外、この人は無闇矢鱈と口を溢す人じゃないのはここ数回の交流で確認済み、となると必然的に私がトリニティに入学してからの出来事になるわけですが、比較的交流が浅いワイズさんやイチカと違いセリナさんもこの場にいる今ここに来てからの事は大概知られている筈。
……参りましたね、本当に心当たりがない、この三人に共通していて且つ私自身の事で三人が怒る事柄とはなんでしょうか。
「はぁ……聞いてはいたけど貴女本当に自分の事に関しては疎いというか関心がないと言うか……まぁ私も余り言えた事じゃないけれど、ねえ?」
全く耳が痛い話ですね、しかし依然かわりなく私が詰められている理由が不明だ、おそらくこの様子から察するに私は既に何かをしでかした後だ、従ってそれは既に過ぎた事なのでしょう。
さらに言うならそれは私に関する事で且つ時間経過によって発生する出来事……まさか、いやそんな筈は、しかしもうこれしか考えられない、しかしそこまで怒る事なのだろうか?
──あの、もしかしたらですが……
──御三方は私の誕生日について怒っているのですか?
恐る恐ると自身の考えを口に出してみる、確かに私の誕生日は既に過ぎている、と言うより私自身が自分の誕生日について無頓着だったと言わざるを得ない、その日は私が生まれただけの日でしかない、更に言うなら他にその日に生まれた人もいるだろう、何も特別な事はない筈。
「半分正解、事実はもっと単純でこの子達は貴女が自分の誕生日の事を黙ってた事に怒っているのよ」
何故ワイズさんは私の誕生日を知っているのでしょうか、なんて事は聞くまでもない事だろう、どうせ調べればわかる事でしょうし。
それでなぜ黙っていた事に対して怒りが向くのだろうか、私が生まれた日なんて、誰にも関係はないのに。
──あの、私の誕生日と
「私達は無関係です、なんて言おう物なら本当に怒りますよ」
──すみません、それもう怒ってるんじゃ……
「なにか?」
──いえ、なにも
「スズミさん、これまでのあなたの行動から考えて私たちとは全く違う環境で育ってきたのはある程度想像はつきます、ですが自分が生まれた日というのは何よりも特別な日なんです、それに対して無頓着というのは……」
──特別……ですか、私はそうは思いませんが
「えっ……」
──私が生まれたから何か特別な事があるのですか?
「それは……」
──そもそも私自身自分の誕生日にあまり関心が……
「はいストップ、これ以上はお互いに嫌な物になってしまうわ、私が嫌いな展開そのものね、先ずはお互いの認識を共有しましょう、と言っても……スズミの方はだいたい想像つくけど、ねえ?」
うぐっ、ジロリと見つめられている、この人のこの視線はすごく苦手だ、蛇に睨まれた蛙とはこの事を言うのだろう。
「まずはスズミ、こちらの認識や考察が正しければと言う前提の元で話させてもらうけれど……貴女、自分の誕生日を生まれてから一度も祝ってもらった事がないんじゃなくて?」
認識だの考察だのよく口が回る物だ、恰も証拠から考えて結論を出した、という体で口に出しているがその実この人は私の出自を知り尽くしている、得た知識をそのまま出力するだけなのだから考えるも何もないだろう、私はこの人の友人が少ない理由がなんとなく理解した。
──えぇ、確かに……その通りですよ、それが何か?
「成程……そう言う事ですか、スズミ、これだけは言わせてください、生まれてから一度も祝ってもらった事がないなんて、普通ではないんです」
──普通ではない……ですか
生憎の事なのだが其方の普通を私は知らないし、其方も此方の普通を全ては知ってはいないだろう。
いや、今その事はいい、それは意味のない事だ。
──ふむ、祝うとは具体的に何をするのでしょうか?
「色々ですよ、やりたい事をやればいいんです、誕生日ってそう言う物ですから」
……自分にはまだわからないことだ、しかし納得は出来る、要はこの人達は私の誕生日を祝いたいのだろう、打算も思惑も何も無い、本当にただ祝いたいだけなのだ、それだけの事がどうしてこんなにも心地よく感じれるのだろう、不思議と嫌では無い。
とは言え私にそう言った慣習に疎いのはもうわかってもらった筈、こういうのは勝手がわからないのもまた事実、さてどうしたものか……
──やりたい事、と言われましても、パッと思い浮かぶ物がないのですが
「うーん……後は贈り物とかもありますね、何か欲しい物とかあります?」
成程、形残る物でもいいのか、それは盲点だった、私が欲しい物……
──一つ、心当たりがあります。
そう言って私達が出向いたのはオーディオ専門店と呼ばれる所で、有り体に言えば音楽機器を扱う店である、トリニティに入学して暫く経過した時に初めて耳にした音楽というものに私は心が惹かれたのだ。
──ここです、実は以前から音楽に興味がありまして、足を運びたかったのですが時間の都合等が取れなくて……
「じゃあ都合が良いですね、早く中に入っちゃいましょう」
私はイチカに腕を引っ張られ、セリナさんに背中を押される形で店の中に半ば強引に入店させられました、その時のワイズさんはとてもいい表情をしていたとだけ述べておきます。
ズラリと、文字にするならまさしくそんな感じで大小様々な機械が並んでいました、これが全て音楽に関する機械とでも言うのでしょうか、御三方からはどう言ったものが欲しいのかと問われているのですが、特にこれといったものは無く音楽が聴ければそれで良かったので取り敢えず目に付いた物を手に取りました。
「それでいいんですか?」
──はい、耳を包んでくれるこの形が気に入りました、これなら外の音も入らないでしょうし
私が手に取った物はヘッドホンとよばれる物らしい、性能の程は詳しくないがこれなら耳を覆うことができる。
これなら、もうあの音を聞かなくて済む。
「それじゃ会計済ませちゃいましょうか、三人は先に外で待ってなさい、ね?」
どうやらワイズさんが会計をするらしい、最年長らしい事でもやってみたかったのでしょうか。
「まぁ、とうに過ぎたとは言え貴女の誕生日だからねぇ……まぁプレゼントって奴よ、有り難く貰っときなさい」
「さて、次が控えてるんで急ぎますよスズミさん」
どうやらまだ催しが残っているらしい、今日は一日中遊び倒すつもりなのでしょう、今までならそんなことをする暇はないと思っていたのですが……自然と嫌な感じはしなかった。
「や、初めまして……だよね」
──どちら様でしょうか
「うーん、名乗る程の者でも無いよ、此処には偶々足を運んだだけだからね」
なんとも言えない不思議な人に出会ったものだ、恐らく年上の生徒だと思われるが……人を惹き寄せるナニカをこの人は持っている、正直心の奥底まで見透かされている感覚でワイズさんよりも不気味だ、それなのに一切の不安を自分に感じさせない、それがかえって恐怖感を煽る。
「うーん……そんなあからさまに警戒されると流石に傷ついちゃうなぁ」
「それで……貴方は何に悩んでるのかな?こんな私でよければ相談に乗るよ?」
その方は本当に不思議な人だった、懐に入り込んでくるのがうまいと言うか、違和感を感じさせないのがうまいとでも言うのだろうか……
「ほらほら、思い詰めてると息が詰まっちゃうよ?」
……確かに思い悩んでいるのは事実だ、この人に話せば何かわかることもあるのかもしれない。
──私は、此処とは異なる環境下に身を置いてました、そこでは此方の当たり前が当たり前ではなく、その逆も然りでした。
──……多くの人を自分の為に傷つけて、切り捨てて……今日まで生きてきたんです。
──私は、生まれてきてよかったのでしょうか。
「……極端な考えだねぇ」
──自分の手はとうの昔に汚れていて、誰の手も取る資格なんて持ち合わせていないんです、だけど……
「周りが放ってくれないんだね」
──……はい、仰る通りです。
「だけど自分はそれを享受する資格を持ち合わせていないと」
──……その通りです。
「私が思うに考えを詰めすぎなんだと思うんだよ、その類の答えは必死に生きて死ぬ最後の瞬間まで出ないよ、個人的な考えだけどね」
──そう、ですか……
「あと言えることがあるとすればもうちょっと友達を頼ってごらん、それじゃあね」
……行ってしまった、結局彼女の名前は分からなかったがそれなりに有意義な時間ではあったと思う。
あれから答えを探す日々が続いているが答えはまだ見つかっていない、名も知らぬあの生徒が言っていたようにセリナさん達に頼るという手段もあるにはあるが、こればかりは自分の力で見つけなくてはならないだろう、自分の過去のいざこざに皆を巻き込むわけにはいかないから。
自分の過去と決別し本当の意味で答えを得るその時まで私は立ち止まる暇はない、その為にも私は出来る限りの事を尽くすのだ。