守月スズミへ愛を込めて   作:Another2

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大変喜ばしい事に本家からの供給が溢れそうなので此処に筆を取りました。


灰色の私

 あれから少し時が経ちました。

 少し前に行ったテストという物の結果も出まして、一応学生としての仕事は一段落ついたと思います、結果はまぁ……一応詰め込めるだけ詰め込んだのでそれなりの点数を貰えましたが可もなく不可もなくと言った所でしょう。

 勉強中にワイズさんの所に出向いたところ、余り良い点数を取らない方が後々身の振り方が楽と言っていましたがどうやら成績が優秀だと色々な派閥から勧誘があって煩わしいのだとか、確かに身動きが取り難くなるのは難点ですね、優秀な結果は必ずしも自分に良い事として返ってこないという教訓でしょう。

 ……そういえばこの様な形のテストは初めて行いましたね、彼方での方式とだいぶ異なった為に困惑しましたが誰も傷つけずに済むのは良い事です。

 

 さて、そんな私ですが一応と言いますか、そろそろ本格的に何処かの部活に身を置かなくてはならないのですが、今現在一部の方…というよりも御三方ですが、その御三方から熱烈に勧誘をいただいています。

 貴女達、以前三人で私の誕生日を祝った仲ではなかったのですか、それとこれは話が別?さっさと所属先決めろ?優柔不断な私が悪い?何故私が怒られているのでしょうか。

 

 セリナさんが言うには医療騎士団は常に人手不足であり簡単な治療技術でさえ習得するには時間が掛かる、でも既に簡単な治療技術を習得してて且つ患者の対応もある程度熟せる私は喉から手が出る程欲しいのだとか、ふむ。

 

 イチカも同様に、正義実現委員会も人手不足であり、一年の内から既にある程度の実力もあり且つ迅速に動ける私は欲しいと、将来的にはツルギ先輩とハスミ先輩のコンビの様に立ち回れる可能性もあるらしいです、成程。

 

 ワイズさんは……自分が欲しいから、その方が楽しい、だけでした、完全に私欲じゃないですか、しかも楽しいってそれ貴女だけですよね?いえ確かに知識の吸収効率は比ではないのは認めますが……貴女私を遺跡探索に振り回したいだけでしょう。

 

 そもそも私は何処かの組織に身を置ける様な身ではなくてですね……そもそもこの体験期間も自分が何をやりたいかを見つける為の物でしたし、足を運んだからといって必ずそこを選ぶと言うわけではなくて。

 ああっデモ活動みたいな事しないでください恥ずかしい。

 セリナさん、嫌ならちゃんと断っていいんですよ。

 イチカ、貴方実は楽しんでますね?

 ワイズさん、貴方にはウイさんがいるでしょう。

 

 そんな事もあって私は何処の組織にも所属したくない旨を三人に伝えたところ一部の方*1から不満の声が上がりましたが概ね了承を頂きました、その代わりに今の自分は何がしたいのか尋ねられたので……

 

──派閥組織に所属しない、自分の手の届く範囲での治安維持活動でしょうか。

 

 そう伝えたらセリナさんとイチカがそれは既存の正義実現委員会と何が違うのかと尋ねられました。

 第一に正義実現委員会は人手不足とは言ってもやはり大きな治安維持組織でありその実動数には目を張る物があります。

 その反面大規模組織故に集団として動く為その動きは目立つ物があり個人の意向で気軽に動ける様な物でもないとラヴァ委員長が仰っていましたし。

 その点私が行うこの活動はあくまでボランティアの様な物になるので個人意思での活動が可能、それは即ち迅速な行動が出来るという意味でもあります。

 また、暴動鎮圧の際に機関銃等の重火器、規模によっては戦車や迫撃砲の運用も視野に入る正義実現委員会と異なりこの活動にて扱われる武装はあくまで拳銃等の小銃や手榴弾等の携行品だけに留め双方の被害を最小限に抑えるという面も含まれますね、欲を言えば近接格闘術(CQC)も欲しいですが……こればかりは長期の鍛錬や担い手の技量が必要なので……

 

 加えて、対処に当たった際に負傷者が生じた場合の応急手当も目的としています。

 これは現在の救護騎士団の治療体制が悪いというわけではなく単純に救護騎士団のみでは手の届かない場所をカバーする意味合いも含まれます、尤も本格的な治療行為は当然行えませんのでこの活動にて行う処置は止血や患部を冷やす等の応急処置、つまりは本格的な治療までの繋ぎです、負傷を長時間放置した際どうなるかは今更語るまでもないでしょう。

 

 此処まで説明して御二方は、本当に渋々と言った感じではありますが私の意見に了承してくれまして、解散の形となりましたがその際にワイズさんが私に耳打ちをして来ました。

 

「良くそこまで口が回るわね?貴女が今言った事は完全に建前……って訳ではないけれど……少なくとも本質でもない」

 

 やはりというかなんというか、この人に隠し事は出来ないらしい。

 そう、あの説明はこの活動の目的の全てを語った訳ではない、本当の目的は別にある。

 

──私の事についてあの二人が知る必要はありません。

 

「貴女の経歴を考えれば仕方のない事だけれど……あんまり古巣に囚われすぎない方が身の為よ?」

 

()()()()()()()()()()()()なのだから、自分の気持ちに正直になりなさいな」

 

──……それは。

 

 許される筈がない、だって私は──大多数の屍の上に立って生きているのだから。

 


 

 煮え切らない、とは正しくこの事だろう。

 私は珍しく目を掛けているお気に入りの後輩の守月スズミに対してそう思った。

 この子はこの学園に所属してる子の中では極めて稀有な性質……言い方を変えるなら()()()()()()()()()()()()を持っている。

 彼女の経歴は既に知っている、かつてトリニティから爪弾きにされたアリウス、そこに所属しトリニティに派遣された諜報員、それが彼女の正体。

 私とて全てを知る訳ではないがアリウスには暗い噂しか聞かないし、爪弾きにされ僻地に追いやられた事を考えたら少ない資源を奪い合う争いが起こっていると考えていい。

 ただアリウスから彼女が出向いて来た事を考えると一段落はしたみたいだけど逆を言えば今のアリウスを統治している何者かがいるという事、それは即ち今のアリウスは一つの組織として機能している、しかもより軍事的な方向へと。

 彼女……スズミの諜報員としての能力は決して低くない、寧ろティーパーティーの情報網を未だにすり抜けられている時点で相当な物、あの馬鹿(赤盃ラヴァ)が言うには年齢の割に相当腕が立つらしい事からアリウスでの訓練も相当高レベルに熟していると見て良い。

 その上本人の人格面も極めて良い、人当たりのいい性格をしているのはあの後輩二人を見ても明らか、まぁちょっと抜けてる部分はあるけれど。*2

 

 あの子が欲しい、と心からそう思う。

 

 人格面、能力面共に良く、更には元々何も知らないのもあって貪欲に知識を収集しようとするその姿勢も好ましい、正直言って何の隔たりも無ければ即座に囲い込んで引き入れている。

 あの子の境遇もアリウスの現状も大凡検討は付いている、その上で私はあの子が欲しい。

 ここを卒業した後の活動を視野に入れてキヴォトスの各地に用意した拠点を利用すればあの子1人くらいなら十分に匿える。

 私ならばあの子を鳥籠から外に出してあげられる、でもそれは私という新たな鳥籠に押し込む行為他ならない、それではダメなのだ。

 ……幾千の策を講じてもそれは全てあの子の未来の可能性を塞ぎ得る物ばかり、それは本当の意味であの子を救う事には繋がらない、ほんの少しだけあの子が私を選んでくれる事を期待したがあの子は自分の意思で立つ事を選んだ。

 

結局、私では無理だったのだ。

 

 自分が認めた人間以外を遠ざけ拒絶していた様な人間がどうやって他人を救えるのだろう、他人と関わろうとすらしようとしてこなかったくせに。

 もしあの馬鹿達(赤盃ラヴァ・花咲サヨナ)の様に正しい馬鹿になれたなら、あの子を助け導けたのだろうか。

 もしあの子達(仲正イチカ・鷲見セリナ)の様に私も同い年なら同じ目線で物事を語れたのだろうか。

 そんな考えていてもどうしようもない事(IF)ばかりが脳裏に過ぎる、本当にままならないものだ。

 


 

 私の人生は私だけの物……ですか、もし本当にそうだったならどれだけ良かったか。

 私はワイズさんが行った言葉を脳内で繰り返していた、あの人も相当人が悪い、私がそんな事出来る立場ではないと知った上で言っているのだ。

 アリウスに身を置いている私を案じての言葉なのは分かる、ほんの少しの付き合いでもあの人の頭の良さは身に染みて理解している、今のアリウスの環境についてもあの人は理解しているのだろう。

 ……セリナさんもイチカも決して頭が悪い方ではない、私の境遇について大凡の検討は付けている筈だ。

 

 その上であの人達は言うのだ、此方側に来いと。

 

 嬉しかった、報われた気がした、救われたとすら思った。

 

 だが、私はその手を取ることが出来なかった。

 

 その手を取るには私の手はもう汚れ過ぎている、だから──これで良いんだ。

 

()()()()

 

 考えるな、意識するな、許されたいなどと、救われたいなどと。

 現実を叩きつける様に数少ない彼方から持ち込んだ内線が鳴る、当然傍聴対策は済ませてある。

 

『定期報告だ』

 

 相手は錠前サオリだった、此方側の人と違い、やはりいつ聞いても冷たく温度を感じさせない声だと思う、らしいといえばらしいのだが。

 

──依然問題ありません、引き続き調査を続けます。

 

『誰にも悟られていないだろうな?』

 

──勿論です、その様な下手はしていません。

 

 無論嘘である、私の正体はワイズさんにはバレている、だがその事を明かせば芋蔓式に私の此処での関係が洗われるだろう、そしてそうなれば私は彼女達を殺さなくてはならない、それは、それだけはダメだ。

 だって、あの人達は初めて出来た──。

 

『では、引き続き任務を続行しろ、次の定期報告を待つ』

 

 通信が切れる、一息を入れる。

 これはアリウスに対しての明確な反逆行為だ、露見すれば私は処刑されるだろう。

 清い白には私はなれない、しかし私はもう真っ黒な存在にも戻れない、どっちつかずの中途半端な灰色の存在、それが今の私だ。

*1
主に黒い人と白い人

*2
自分の誕生日忘れたり




次回からエデン入ります
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