先生が就任したらしいです。
らしい、というのは私がこの情報を知ったのはモモッターにて情報が入り乱れており、更には生徒達が口にしているからで、私自身はまだ先生と出会った事は無いのですが。
どうやら情報によると連邦生徒会長が失踪したらしくキヴォトス全域が大混乱、トリニティでも秩序の乱れが見入られました。
……変わりないのはアリウス位でしょう、あそこは閉鎖的で外の情報が滅多に入りませんから。
先生という方が就任した事を
トリニティ自治区の方は最近自警団活動に協力してくださっているレイサさんが引き受けてくれました、以前にセリナさんと行った遊園地で出会ったあの方ですね、お変わりなく元気そうでよかったです。
あ、あと二年生に進級しました。
シャーレがあるD.U地区のその外郭地区に向かったのは良いのですが連邦生徒会長が失踪した影響が大きいのか治安がお世辞にも良いとは言えず建物や道路がボロボロでした、道中で下手人達は当然無力化させましたが数が余りにも多すぎるので撃つよりも
シャーレのビルに到着し入館手続きを行う、とは言っても学籍を入力するだけで入れてしまう程の簡単な物でとてもセキュリティが高いとは言えないお粗末な物でした、これでは簡単に侵入或いは突入されるでしょう、最低限の警備として見張りくらいは配置していても良いと思うのですが。
シャーレのビルの中は案外広いが造りとしては結構単純でした、室内の間取り図もありましたし。
間取り図に従い先生の執務室まで向かいドアをノックし許しを貰ってから中に入るとその人はいた。
“いらっしゃい、初めまして……かな?”
『普通』だと思った、それが私がこの人に抱いた『第一印象』
いや、よく見るとヘイローがないので明確な相違点ではあるのだが、それ以外は本当に普通な、何処にでもいる普遍的な人間だと、私はそう思いました。
──初めまして、トリニティ所属の二年生、自警団活動を行っている守月スズミと申します。
“これはご丁寧にありがとう、それで……今日はどうして?”
直後にあぁいや別に用がなくても気軽にきても良いんだけどね⁉︎と即座に訂正を入れるあたり余程人が良いのか、又は生真面目なのか或いはその両方でしょう。
──最近連邦生徒会が設立した組織が漸く起動したと耳に挟みまして、その事実確認も兼ねて先生に一度挨拶をと。
嘘は言ってない、個人的にも先生という人物が気になったのは本当のことだから。
そこから互いに幾つか話をした、私が行っている活動内容や先生の業務内容、それから……先生の体質、つまりヘイローを持たないが故に弾丸一発が致命傷になるという事も。
先生は私が知りたい事や聞きたい事を素直に答えてくれた。
普通ならもっと隠そうとするはずなのに、出会って数分しか経過していない私に何一つ隠す事なく明かしてくれた。
私が敵とは思わないのか?
今この場で危害を加えるとは思わないのか?
何故自分の弱点になる事まで喋ったんだ?
そう、思わずにはいられなかった。
少なくとも
──先生、貴方は……何故そこまで答えてくれるのでしょうか、私が貴方に危害を加える等の考慮はしなかったのですか?
気になってしまって、つい聞いてしまった。
“……本当に危害を加えるつもりの人は態々ノックなんかしないよ”
──……
“それに……”
──それに?
“どんなに悪い子であっても、生徒である以上信じてみたいから”
──それは、
それは、どれだけ自身の身を削る行いか理解しているのだろうか。
──例え、貴方が生徒に騙されたとしても、ですか?
“そうだね、私は最後まで生徒の事を信じていたい”
『良い人』だと思った、それが私がこの人に抱いた『第二印象』
この人は
その事がこの短い会話の中でよく分かった。
私は会話を終えトリニティに戻ることにした、その際に先生と連絡先を交換したので必要とあれば頼って欲しいとの事。
最後の最後まで優しい事だ、同時にわかった事もある、あの人は決して生徒に手をあげない。
最後の最期まで生徒を恨む事なく、憎む事なく、生徒の事を信じるのだろう、真っ直ぐとした信念がある人だ、その生き方が少しだけ羨ましいと思った。
先生と出会ってから早いもので数ヶ月、あれから先生は様々な事に奔走している様で『シャーレの先生』の噂は最早キヴォトス中の話題の種となっている。
最近の事で気になる話題と言えばカイザーグループの理事が何故か指名手配されていた事*1とミレニアムにてミレニアムプライスという催しが開催されていた様です*2、そして直近に控えたトリニティとゲヘナの間に結ばれる友好条約として『エデン条約』
エデン……楽園、ですか。
これはかつてワイズさんから聞いた事なのですが、トリニティの生徒の中にはゲヘナの生徒を悪魔と称する者が居て我々は天使の側であると主張しているらしく、彼女はそれが余りにも滑稽に見えたので何処の派閥にも所属しなかったらしいのですが、エデン条約について彼女はこう語っていました。
『
政治に基本無関心な彼女が興味を持ち発言した数少ない出来事だっただけによく印象に残っています。
まぁその本人はトリニティを卒業した後自由奔放にキヴォトス中を巡っているそうですが……本人申告が確かなら今あの人ゲヘナに居るんですよね、何やってるんですかあの人。
『ヒノム火山にあるアビスが私を呼んでいるのよ』
そんな事知りませんし想像上とは言え私の思考に割り込んでこないでください。
まぁそんな事もあってあの人は卒業してからの方が余程元気です。
それで今現在の私ですが、正義実現委員会の訓練を行なっています。
どうやらイチカ経由で私の
断ろうにもイチカは存外に頑固なので一度決めたら此方が首を縦に振るまで張り詰められました。
因みに同じ理由でセリナさん経由で救護騎士団の緊急助っ人として団員に組み込まれているので三足の草鞋状態ですね、図書委員会にねじ込まれなくて良かった、流石に四足の草鞋は無理です。*3
今行ってるのは射撃訓練ですね、拳銃を扱った基礎的な物でこの訓練は基本的に一年生全員が参加しています、意図としては室内等の挟所においての突発的な遭遇戦を想定し咄嗟の射撃が可能な様にしている様でメインが他の銃種の方も参加しています。
というのも最近はサブに拳銃を持って使い分けるスタイルに移行していっているらしく銃火器の複数持ちが珍しくなくなってきています。
流石に移行して時が浅いのか私の様にまだメインのリロード中にサブの射撃で牽制する様な手練れは居ませんがそれも時間の問題でしょう。
ふと、気になる撃ち方をしている人を見かけました、精度と速度は素晴らしいですが、あの撃ち方と動作は……ふむ。
──もう一度。
「はっはい‼︎」
例の撃ち方をしていた子にもう一度発砲する様に促し、先程と同じ動作をして発砲をしましたが途中で銃に異変が起きた様です、
「あ、あれ……?」
──新たに知識を得て試したくなる気持ちも分かります、貪欲に知識を求めるその姿勢にも好感を得ますが、それでも聞き齧っただけの知識を無闇に試すのは推奨出来ません、実戦であったならば致命的な被害を被る事になりますよ。
私は彼女から銃を受け取り詰まった弾を抜き取る。
──初弾を手動で排莢していましたね、これは弾丸を確実に薬室に装填し空撃ちを防ぐテクニックで上手く扱えば非常に効果的な戦技です。
しかし貴女はスライドの際に排莢口を手で覆ってしまう癖がある為に排莢の邪魔をしてしまっているのです。
──加えて、貴女は発砲の際に大きく膝を曲げて反動を逃す動作をしています、反動力を作動に利用する
しかし
──貴女の撃ち方は短所にも天与の才能にもなります、矯正するのも良いですがその撃ち方で
「ありがとうございます……」
言い過ぎてしまったでしょうか、しかしこれも彼女の為、不要な事故は起こさせたくはないのも事実。
──それから先程の射撃精度と速度はお見事でした、これからも励んでください。
「は、はい‼︎ありがとうございます‼︎」
どうやら自信を取り戻せた様で何よりです。
「いやぁ、精が出ますね、もう立派に教官じゃないですか、スズミ」
──イチカ……後ろから声を掛けるのは控えてくださいと何度言えば……
それに貴女の学年は
「そうですよ?だから貴女の所に来たんじゃないですか」
暗に私とやるのが一番吸収出来ると言われている、ツルギ委員長とかいるでしょう……
「ツルギ先輩はその……ほら、あぁ今丁度やってますね」
さらっと私の内心を読んだのかツルギ委員長の方に視線をやるとそこは向かってくる生徒達相手をちぎっては投げちぎっては投げ状態、どうやら受け身の鍛錬を積ませているらしいのですが……
──あの人の翼ってあんな風に動かせるんですね、いつ見ても凄まじいです。
「ツルギ先輩が例外なだけですよ?普通は無理です」
ツルギ委員長は手足だけではなくあの細長い翼を相手の身体に巻き付けて、それこそロープの様に扱う事で相手を投げていました。
実質手足がもう2本増えた様な物ですね、通常の人体の過剰部位……私やツルギ委員長達の場合ですと翼ですが、これは自分の意思で動かせますので活用しない手はありません。
ですが言うは易し行う難しとも言う様に、本来二本の手足を十分に動かすので手一杯な人間が本来なら存在しない部位を意図的に、然もあの様に自由自在に動かすとなると相当の鍛錬が必要になります。
もし仮にあのツルギ委員長を崩すのであれば足並みを揃え、部隊分けにし波状攻撃を行い体力と精神力を削っていく得策……と思われがちなのですがあの人の場合回復が早過ぎるのでそれも不可能、正直言って一番相手にしたくないです。
以前一度だけ訓練としてツルギ委員長と近接訓練を行ったのですが、何度転がしても即座に立ち上がりますし、4回目辺りから自ら回転する事で着地し反対の手で反撃に転じたりしてきたので、咄嗟に掴んでる方の手を引き寄せ腕の関節を外し地面に転がしたのですが何事もなく立ち上がり自力で治してました、怖い。
次からはその手段も通じなくなりましたし、あの人私とやる時普通に翼も使ってくるので単純に処理する物が倍になります、後あの人何気に手足が長いですし、ツルギ委員長に接近戦は絶対に勝てません。
「そのツルギ先輩を何回も転ばした貴女も大概ですけどね、どれだけ鍛えたらそこまで出来るんです?」
──只管に回数を重ねたら誰でも出来る様になりますよ。
「出来るか」
うーん手厳しい一言。
それはそれとして、一年生達の射撃訓練の様子を見るのはこれくらいで良いでしょう、イチカも早くやりたくてウズウズしてますし。
……貴女本当に隠さないようになりましたね。
守月スズミ、その生徒の事は去年から知っていた、というのもイチカとハスミがよく口にしていた生徒で
曰く、何処か浮世離れな所がある、自分の事に無頓着、トリニティに於いて何処の派閥にも所属しない生徒等々……
ただ全員が共通して『年齢の割に結構強い』と例外無く述べていた。
ある日からイチカが格闘技の様な動きをしていたのを目にした、どうやら例の守月スズミは
というのも
だが
だが周囲の反応は違う、反応の仕方は様々だが大方同じ様な内容として『銃で撃った方が早い』だ。
確かに手持ちの銃火器で相手を制圧出来るならそれに越した事はない、
だがもしも弾薬が尽きたら?突発的な遭遇戦になったら?相手が自棄になって突撃してきたら?
その時に自分達は何もせず、何も出来ずにいるのか?仮にも正義の名を冠する組織に所属する生徒がそんな体たらくでいいのか?
だからあの時イチカがスズミを紹介して来た時、かなり無理を言ってスズミに近接格闘の訓練に付き合ってもらった、既にイチカ経由でスズミの格闘能力を聞いていたからだ。
するとやはりというかなんというか聞いていた以上に動ける事に驚いた、総合的な身体能力で言えば私の方が上回っている、しかしスズミはその差を培ったであろう技量でカバーしていた。
そして身体能力の差を即座に理解したのかスズミは決して自分から攻めてくる事はなかった、あくまで防御、迎撃に徹して此方の攻撃を捌く事に注力し隙を見せたら組み技や投げ技に繋げて相手の体力を削る戦法をとっていた。
実に効果的だ、流石の私でも地面に叩きつけられ脳を揺らされたり、組み技で酸欠に陥れば回復するのに十数秒は掛かる。*4
何度か投げられた際に自分から回転し空いている手で取りに行った、完全に虚を突いたと認識した。
だがスズミは事もあろうに後ろに引くと同時に掴んでいる腕を引き寄せ私の身体を引き寄せ体勢を崩しその上で腕の関節を外して捌き切ってしまった。
否が応でもそう認識させられる、おそらく関節を外したのは咄嗟の行動だろう、だが逆を言えば咄嗟にそんな行動を取れる程スズミは鍛えられている、それは一体どれほどの積み重ねがあるのだろうか。
そしてそれが必要になる様な所に身を置いていたという事も、私達が長い訓練の末に漸く扱える代物をスズミは難なく扱えている事実。
今もスズミは外れた骨をはめ治そうとしている、人体の構造を熟知している証拠だろう、まぁ外された骨は自分で治したが、手本の様な綺麗な外し方だったので治すのも楽だった。
相手に攻撃を当てれず地面に転ばされる、そんな経験は一年の時に先輩達と手合わせした時以来だ、次第にその付き合いは無くなっていた、だからまぁ……この時の私はちょっとだけ『楽しく』なっていた。
最終的に翼まで使う形になってしまい最早訓練では無くなってしまっていた、反省。
結果的に言えば久々に良い汗を掛けたと思う、地面に伏して最早肩どころか全身で息をしているスズミを見て思わず『欲しい』と思ってしまう。
それが彼女の為にならないと理解してはいるが、仮にスズミとイチカが私とハスミの様なコンビで立ち回り組織を運営すれば安定感は凄まじい物があるだろう、二人の相性も決して悪い訳じゃない。
寧ろその事を認識させる為にイチカが態々連れて来たのではと勘繰ってしまう程だ、しかし最終的に決めるのはスズミ本人であるべきだし、無理矢理加入させる権限等存在する筈もない、寧ろ何処にも所属していないからこそ出来る事や見える物もあるのも事実。
……まぁ好意を抱いている友人と共に居たいという気持ちは大いに分かるが。
アズサさんが問題行動の末捕縛されました、何故。
運命──タロットに於いて良くも悪くも大きな転換を暗示する