Q. カードゲーマーは星の救世主になれますか?   作:上殻 点景

5 / 29
用語解説

▪打点……カードの攻撃力の事。

▪妨害……魔法を無効化するカードの事。

▪バウンス……カードを場から手札に戻す事。

知らなくても読めますが、知っているともっと面白く読めます。


対抗呪文(5)

 目に入るは天幕。

 刺繍が各所に施された白い布。補修がされ、刺繍の一部は元の絵柄を保持できてはいない布。一部は赤く染まり、染みになっていることから使用頻度が高いことが伺える。

 

 「ここは姫の部屋か」

 「目が覚めましたか、姫様ッ」

 「ああ、今ばっちり覚めたぜ、じいさん」

 

 寝起きの耳には大きすぎる老執事の声だ。

 

 「目覚めたばかりで悪いのですが第二王女様がお尋ねになります」

 「第二王女?」

 

 そいつは急な話だな、と俺は返す。

 

 今更、第二王女が俺を訪ねてくるのか。

 

 (それなら魔王軍と戦う前に来て欲しかったぜ)

 

 いまだに顔も知らぬ第二王女に思いをぶつける。

 

 「で、どんな奴なんだ」

 「姫様の妹に当たる方です」

 「第二王女なのに妹なのか」

 「王妃が変わった都合という奴ですな」

 「なるほど」

 

 複雑な王国の事情ってヤツだな。

 

 「で、その妹は何を」

 「建前は姫様の様子を見にですが」

 「本音のところは」

 「情報を探りに来たのでしょうな」

 

 老執事は険しい目で俺を見る。

 

 「第二王女様は王国の暗部、工作部隊のトップ」

 

 「最近まで魔王軍との戦後交渉をしておられた方でもあります」

 「第三王女より有能な説があるな」

 「王国でも屈指の切れ者ですぞ」

 

 戦後を見据えての敗戦交渉ねぇ。

 

 (通りで王国に居なかったわけか)

 

 老執事は言葉を続ける。

 

 「そんな中、連戦連敗だった姫が奇跡を起こしたのです」

 

 老執事の目は真剣だ。

 

 「暗部でなくとも、理由を知りたくなるものでございます」

 

 人の好奇心はスゲーもんだ。

 

 「個人的には入れ替わってる事実ぐらい知られてもいいと思うが」

 「心配しているのは、そこではありません」

 

 姫様のお体の安全のほうですぞ、と老執事は言葉を続ける。

 

 「第二王女様は目的のためなら手段を選びません」

 「つまり」

 「最低でも尋問」

 「最悪で」「洗脳ですな」

 

 全部、致命傷じゃねーか。

 

 (見知らぬ人間ならしも、身内にやっていい行為ではないだろ)

 

 「もう少し穏便にだな」

 「それほど姫達の仲は悪いということです」

 

 よっこいしょっと老執事は準備を始める。

 

 「とりあえず洗脳殺しの眼鏡を用意する所からですな」

 「物騒な準備なことで」

 

 俺はベットから起き上がる。

 

 ◇◆◇

 

 眼鏡をかけ、

 魔除けの札を張り、

 魔術返しの服を着させられた、俺である。

 

 (眼鏡をかけたキョンシーだな)

 

 お札を頭に貼る意味は本当にあるのだろうか。

 

 「ご機嫌うるわしや、我が姉上様」

 

 笑みを浮かべる第二王女。

 スカイブルーのような透き通った青色のショートヘヤー

 薄いリップは、幼さをのこした美貌をひきたてる。

 

 しゅっとした肩に、豊かなふくらみは大きく、黒いゴスロリはぴちっとそれを包み込む。

 

 (リボンがついた黒靴がナイスポイントだ)

 

 クソみたいな感想を抱きつつ俺は言葉を返す。

 

 「よ、ようこそ我が妹」

 

 ガタガタな俺の言葉。

 

 手元に浮かぶは老執事特製のカンペだ。

 魔法で見えなくしてあり、目線を追尾する優れものだ。

 のらりくらりと質問をかわし、第二王女を部屋から追い出すまでの道筋が示してある。

 

 「姉上様、体調の方はいかがですか?」

 「実はまだ優れていないの、だから──」

 

 俺はコホコホと咳をする。

 妹はニコニコと笑顔で答える。

 

 「地方で見つけた薬がありまして、コレを」

 「薬は治療師に言われた物しか飲むなと──」

 

 俺は“さっさと帰れ”と悲しい顔をする。 

 妹は“だがことわる”と楽しい顔をする。

 

 「安心してください。許可は取ってあります」

 「では執事に確認を──」

 

 俺はあせった顔になる。

 妹はゆっくりと口を開く。

 

 「こちらが許可書類となっております」

 

 「おファ〇ク」

 「はいっ?」

 

 アカン、つい本音が。

 

 心の中指が口から出てしまった。

 

 (やはり俺は駆け引きに向いていないな)

 

 パワカに頼るプレイヤーの悪い思考である。

 

 「こうなりゃ、プランBだな」

 「あのー、姉上様?」

 

 俺は眼鏡を外し、

 

 頭のお札を破り捨て、

 

 妹に真っ向から宣言をする。

 

 「お前に宇宙決闘を挑む」

 「はいっ?」

 

 『【宇宙決闘法】が申請されました』

 『対価を選んでください』

 

 「俺が負けたら欲しい情報を全て喋る」

 「姉上が勝ったら?」

 「あー......お願いを1つ聞いてもらう感じで」

 「意味深な要求ですね」

 

 妹は訝しむ。

 だが俺は止まらない。

 

 「で、どうするんだ」

 

 煽るように言葉を吐き、

 妹は少々の考慮の後、

 口をひらく。

 

 「ええ、構いません」

 

 『決闘が承認されました』

 

 「では仲介人は私、ミスターがさせていただきます」

 

 すでに服を脱いでいる老執事ことミスター。

 

 「両者、準備はよろしいですか」

 「もちろん」

 「大丈夫です」

 

 2人の準備は既に完了。

 

 両者、向き合い、睨み合う。

 

 一陣の風が吹き、

 静寂なる姫の自室は、

 壮絶なる戦場の開始点となる。

 

 「では、決闘開始ッ!!」

 

 ミスターの掛け声が、決闘の火ぶたを落とす。

 

 「先行は私───工作員を出して終了」

 「青の低コストカードか?」

 「ただの打点です」

 

 妹のデッキは、

 青の速攻デッキ?

 

 (妙に違和感があるな)

 

 頭の靄が晴らせぬまま、俺に手番が移る。

 

 「俺は何もせずターンエンド」

 「なら、私は攻撃してターン終了で」

 

 妹の追加の打点は無し。

 

 「動いてこないのか」

 「ゆっくりゲームしたいので」

 「冗談はほどほどにしてくれ」

 

 どうも腹に一物抱えた奴とはやりにくい。

 

 

 ◇◆◇

 

 数ターンが経ち、

 妹の工作員が打点を刻み、

 俺のライフは着実に削られるが、

 

 魔力もその分溜まっている。

 俺は意気揚々に魔法の宣言をおこなう。

 

 「魔法《剣の創造》を発動ッ」

 

 「では──妨害をそこに」

 

 妹の手札が光り、

 カウンターが如く、

 魔法《剣の創造》は跡形もなく消え去る。

 

 (まさか、魔法が無効化されるとは)

 

 妹のターンに動かなかったのは、魔法を唱える魔力を構える為か。

 

 そして、青、打点、妨害、この3つから導き出されるのは 

 

 「クロックパーミッションかッ」

 「何ですか、それは?」

 「妹のデッキ構築だよ」

 

 軽い打点でライフを奪い、

 相手の主要なカードは妨害を撃つ。

 個人的には苦手なデッキタイプの1つだ。

 

 だが勝ち方がないわけじゃない。

 

 (妨害ができないほどの物量をぶつける)

 

 それが俺のデッキでの唯一の勝ち方。

 

 問題はそれまでライフが残るかだが。

 

 「ならもう一回《剣の創造》」

 「妨害で」

 

 二度目も通らずか。

 

 (こいつは長丁場になりそうだ)

 

 戦いはゆっくりと終わりに進む。

 

 ◇◆◇

 

 俺のライフは、

 妹の三度の攻撃により限界。

 だが、妹の手札も残り少ない。

 

 (おそらくここが勝負所)

 

 ここで魔法を無効化されたら、運が無かったと諦めるしかない。

 

 「俺は全ての魔力を使い《王家の剣》を召喚ッ」

 「流石姉上様、切り札を引いていたのですね」

 「馬鹿言え、初手から握ってたさ」

 

 切り札は最後まで取っておくってな。

 

 勝ち筋消されるのが怖くて出せなかったとか言ってはいけない。

 

 (だって高コストカードとか、無効化してくださいって言ってるようなもんだし)

 

 俺は生唾を飲み、

 一瞬の沈黙の後、

 妹が口をひらく。

 

 「《王家の剣》は通ります」

 「妨害は切れたようだな」

 

 読みが当たって一安心。

 

 そのまま《王家の剣》に指示を出す。

 

 「ならば───」

 「ですが───攻撃前、剣に対象に」

 

 「除去かッ」

 「バウンスで」

 

 妹の手元が光り、

 無残にも《王家の剣》は手札に戻される。

 俺の場に攻撃できるカードはもうなにもない。

 

 「効果、知ってたのか」

 「当然、知ってたからこそ通しました」

 「まだ妨害もってんのかよ」

 

 この妹、何手先を見てゲームしてんだか。

 

 (これはちょっと言い訳できないぐらいには完敗したな)

 

 「見事だぜ」

 

 俺は手札を畳み、

 盛大に笑顔で言う。

 

 妹は驚いた顔で俺を見る。

 

 「こ、工作員で攻撃です」

 「ライフで受ける」

 

 妹の一撃が、俺の最後のライフを刈り取る。

 

 「勝者、第二王女ッ」

 

 老執事の宣言は、

 部屋に響きわたり、

 この戦いの幕が降りる。

 

 ◇◆◇

 

 姫の自室にて、

 正座するは俺。

 前に立つは妹。

 

 「んで、何を答えればいい?」

 「正直、姉上様に聞くことは無くなりました」

 

 腕を組む妹。

 はーというため息からは、

 “自分の取り越し苦労”だったみたいな音がきこえる。

 

 「姉上様が入れ替わってるのも、魔王軍撃退の状況も部下から聞いていましたし」

 

 現在の王国の状況は全て把握しています、と妹は締めくくる。

 

 (つまり隠し事なんて最初から無駄だったと)

 

 いや、俺の努力は何だったんだ。

 

 あれ、待てよ?

 

 「なら一体何しに来たんだ」

 「人物調査です」

 

 妹の視線は俺を見つめる。

 

 いや、姫の中の俺に語り掛けるような感じだ。

 

 「入れ替わったアナタだけは情報が無かったので」

 「んで結果はどうだった」

 「無害もいいところです」

 

 お守りも取る、

 感情も隠さない、

 不利な決闘を挑む。

 

 「もう馬鹿とかの評価でいいと思います」

 「本人の前で言うことかソレ」

 「事実なので」

 

 妹は呆れた目で俺を見る。

 

 「それに初めて見ました、負けて笑顔の人」

 「そうか、結構いると思うが?」

 

 個人的にはいい勝負が出来て満足だし。 

 

 「まあ、害がないというのはミスターが執事をしている時点で分かっていたことですが」

 

 妹の視線は老執事の方にむく。

 

 「姫様は王国の姫ですので」

 「本物もこのぐらい度胸があれば」

 「だからこそ、人は人なのですよ」

 「興味深い知見と受け取っておきます」

 

 うんうんと納得する2人。

 

 俺1人だけ蚊帳の外の気分である。

 

 「よくわからん話だ」

 

 まあ、難しい話は置いといてだな。

 

 俺は妹の前に立つ。

 

 「とりあえず、もう一戦しようぜ」

 「えっ、もう一回決闘をですか?」

 

 当然、それ以外になにがあるんだ。

 

 「だって、負けっぱなしは癪だし」

 「それだけの理由で宇宙決闘を?」

 

 「もちろん」

 

 妹は頭を抑える。

 俺は疑問を口にする。

 

 「宇宙決闘って一日に何回もできないのか」

 「いえ何度でもできますぞ」

 「老執事(ミスタ―)ッ!!」

 

 老執事は楽しそうに笑う。

 妹は俺に詰め寄ってくる。

 

 「いいですか宇宙決闘は最終手段なのですよ」

 「でも宣言しないとゲームできないし」

 「そういう事ではないですッ」

 

 妹から“ヤバい人”を見る目で俺は見られる。

 

 「老執事(ミスタ―)、見てないで助けてください」

 「ふぉふぉふぉ、無理ですな」

 

 この後、飯を食べるまで言い合いは続き、

 

 俺の評価がカードゲーム馬鹿になるのであった。




ここまで読んでいいただきありがとうございます。

以下、後書きです。

Q.妹のデッキは?
A.青単工作員。工作員でクロックを刻み、妨害(確定打消し)と除去で
 テンポを取るデッキ。フィニッシャーとして大型の海竜が採用。

Q.第二王女なのに妹?第四王女でいいじゃん。
A.第二王女の方が言葉が好きだったからという理由。
 そもそもそんなに女性の引き出しがない作者の敗北ともいう。

Q.主人公負けるんかい。
A.いや、むしろなんで紙束で善戦してんだ定期。きちんと考えられた
 妹のデッキに対して、その場しのぎのデッキで戦う主人公はバケモン。

以上となります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。