その写真は本物ですか?




この短編は職員M様の企画「Mの奇妙な物語杯」ように書いたものです。

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遺影だと思った話

 Aさんには怪談を集めることが趣味の友人がいるそうだ。

 その友人とはそれなりに長い付き合いであり、ときたま彼は友人のように怪談を集めては、採録した話を提供しているのだという。

 

「提供……というより、少し張り合って遊んでるみたいなものなんですけどね。あいつほど本気じゃないし」

 

 遊びと呼びはするものの、生来の凝り性がAさんの怪談集めをより深いところへと押し進めていた。

 心霊スポットの話を聞けば、そこに足を運び、またほかに訪れたことのある人物の話を聞いて回る。祟りのある岩の噂を聞けば、見物に訪れる。

 仲間内からは怪談集め好きの友人と同じように扱われているそうだ。

 つまるところ、これは彼にとっていつも通りの行動だったという。

 

「去年の暮れに知人から廃墟に行った話を聞いたんです。そのとき、そこで少しおかしくなってしまった人とお話できることになって」

 

 そのおかしくなってしまった人というのは、件の知人と共に廃墟を訪れたBさんという女性のことで、なんでも酷い悪夢に悩まされるようになったらしい。

 

 恐怖体験の中心人物となったであろうBさんとの対話は、Aさんにとって願ったりかなったりだった。

 彼は少し不謹慎だと思いつつ、目のクマが濃く髪の手入れも万全でない疲弊した人物を想像して、ワクワクしていたのだそう。

 

 しかし当日、実際にBさんに会ってみると彼は落胆した。彼女は、小洒落た格好で、気も随分落ち着いた人物だったのだ。

 

「実際はそんなものか。なんて失礼なことを思っちゃいました。でも素っ気ない態度をとるのもあれですし、近くのカフェでお話を聞くことになったんです。けど」

 

 知人から聞いていた話といくらか食い違いがあった。より詳細になったと言い換えてもよい。

 

 彼が聞いていた話というのは、元がなんの施設かわからず、使われなくなった理由も不明の廃墟に向かった話だった。

 そこで件の知人とBさん他ふたりは、ある小部屋に残された机の上に、遺影を見つけたのだという。

 その中にいる人物は、生前のカラー写真のままにっこりと笑みを浮かべていて、その周りには明らかに最近置かれたらしい菊の花が添えられていたそうだ。それをまっさきに見つけたBさんが、帰宅して以降悪夢に苛まれているとのことだった。

 

 しかしBさんがいうには、用途不明と聞かされていた施設はBさん宅に程近い場所にある結婚式場の廃墟であり、また閉館理由も経営不振だったそうだ。

 

 とはいえ、件の知人が覚えていなかっただけだろうと思い、そういう細かなところも覚えているらしいBさんへの期待が高まった。

 

 彼女らは、経営当時の雑貨が残るその中を慎重に進んでいったのだという。

 やがて控室と思しき部屋に入ったとき、例の遺影を発見したそうだ。しかし、Bさんは初め遺影と気づかず、やれ閉館を惜しんだオーナーが残していったものだとか、ここで結婚した夫婦の親の写真だとか、現在生きている人物として思いついたものを片っ端からあげたあと、仲間にそれは遺影だと指摘されたそうだ。

 

「気持ちが悪い。そうは思いませんか。目の前の死体を死体と気づかず話しかけていたみたいな。実際、Bさんはそういう気持ちになったみたいです。でもね」

 

 これはすでに死んだ人間の写真である。

 指摘されたBさんは、すぐに受け止めきれずに写真に近寄って行ったらしい。

 そうしたことで、彼女は気づいてしまったのだ。

 髪の先端や、影の質が不自然なのだ。人間の肌はたとえ写真だとしてももっと皺が細かい。

 例えるなら世に出て数か月もたっていない、初期のイラスト生成AIのようだった。

 

 その事実に気づき、やはり本物の遺影ではなかったこれは架空の遺影なのだ、そう仲間に伝えたところで、途端にその異質さにBさんは気が付いた。

 お仲間もBさんの発言を気味悪く思って、遺影に寄って確かめたものの、Bさんとまったく同じ結論に至ったそうだ。

 

 わっと、逃げるように廃墟付近に止められた車に戻り、彼女らはそのまま帰宅した。それからだ。

 Bさんはたびたび、件の結婚式場で目覚めるようになったのだ。

 ここもAさんが知人から聞いていた話と違った。知人はBさんが夢の中で遺影の人に会う夢を見るようになってしまったのだと説明した。

 だが実際は、Bさんは夢遊病を患い、目覚めれば遺影の前に立っているようになったのだという。

 

「まさかそんなことがあるはずないと思いました。……だって、夢遊病の人なんて周りにいないし、いきなりそうといわれても信じられないでしょう? いくらBさんの家に近いらしいとはいえ、あんなにも身なりがいい人が」

 

 彼は、Bさんとの話が終わり、今度は現地に赴いた。

 Aさんはただ現地に向かうだけでなく、怪談好きの友人やそのほかの友人に怪談話をするとき、たびたび現場の写真を見せて楽しんでいたそうだ。

 話に聞いた遺影を写して見せてやれば話も盛り上がるだろうと現地についてみると、少し……いや、明らかに異様な光景が広がっていた。

 

 どう見ようとも廃墟となっているはずの結婚式場、その駐車場にたくさんの車が止まっていたのだ。しかしまさかこんな大人数で肝試しをすることもないだろうし、ましてや結婚式を行っているはずもない。この近くに寄ったなにかの団体が、ここを勝手に駐車場として利用したのだ。そう言い聞かせたAさんは、式場へと足を踏み入れた。

 

 静かな場内の古びた床を踏み、自分の足音を聞いて安心したそうだ。一歩進むごとに大きく軋む音を立てるほど劣化していて、たとえ靴を脱いでスリッパで移動している人間がいたとしても音はなるはずだと、そう思ったかららしい。

 

 遺影のある控室にたどり着くためには、式場内を探索しなくてはならない。

 車の件もあり、目的を素早く済ませてそこを去りたかったAさんは、焦っていたのか、本来控室であるはずもない、大きな両空き扉を開いていた。

 

 そこは結婚式が実際に行われていた広いホールで、当時のまま来客用の丸い机と椅子とがきれいに配置されていた。もちろんその中に人間がいるはずもなく。しかし、あの車に乗っていた人のうちだれかくらいは新郎新婦を祝うために出席しているのではないか。

 

 見ただけで誰もいないことなんてわかりきっていた。そんなはずもない。でも隅から隅まで確認しないと気が済まず、執拗なまでに入り口近くの右の壁からずぅと部屋の輪郭をなぞるように目を凝らして、時には椅子に指さししてまで人間の不在を確かめたのだ。

 

 しかしその神経質な確認も、中心にきたときに終わった。

 

 いたのだ。写真が。

 

 白い額縁で飾られた二枚の写真が、新郎新婦がいるはずのもっとも中心で最奥に。

 大きなケーキを置いていてもおかしくはない長机に。

 たくさんの白い菊の花によって華やかに飾られながら。

 

 一つは、見覚えのある顔。Bさんの写真だった。

 もう一つは一度たりとも見たことのない男性の写真で、遺影のようだった。

 明かりのついていないホールの、その一番奥にある写真だから、唯一わかったのは、彼らがにっこりと笑みを浮かべていることだけだった。

 幸せそうに。

 結婚式場ににつかわしい笑顔で。

 

「もちろん。写真なんて撮らずに帰りましたよ。すぐにね。だってもし、たまたまきれいに撮れてしまって、あの男の遺影が作り物なんてわかってしまうようだったら……その、嫌じゃないですか」

 

 帰宅後しばらくして、知人からBさんが音信不通になったとの連絡があった。

 その間にBさんに会う機会も、会う意欲も湧かなかったものだから、結局あれが何だったのかわからず仕舞いだという。




最近は禍話ばかり聞いています。あとは近畿地方のやつ読み返したり、梨さんのSCP読んだり。
とはいえ今回のコレに怖がらせる意図はないから、ローファンタジー、あるいは奇譚であると主張したい……けどその区分がないのでノンジャンルです。

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