キツネが化けたような美女の
るりはあまりの恐怖に後ずさりをし、もはや自分ではどうすることもできない無力さに嘆いた。
「わたくしは皆さんを守れなかったのでございますか……! 一番お姉さんなのに……無力なのでございますか……!?」
「うふふふ……オスどもはみんな私の魅力に溺れ、そして売れなくなったら被害者面してお金を巻き上げればいいのよ。オスなんて性欲に溺れたチョロい下等生物なのだから、美しい私に惹かれて当然なのよ。オスどもから金を巻き上げて、私が贅沢できればそれで……うふふふ……」
「っ……!」
るりは罪魔の放った男性への
性欲は生きる上で子孫を残すために必要なものだが、それを自分の欲望で金を巻き上げたり、自分からやっておいてやらされたと嘘をついて名誉を落とすやり方には前から憂いていたるりだった。
すみれの言ってた七つの大罪をエネルギーとしているのなら、るりは学校で習った武士道精神に則って罪魔の前に立つ。
「あなたは何故、生きる上で必要な行為を悪用するのでございますか?」
「は? そんなの私自身への褒美に決まってるじゃない。金を稼いで贅沢することの何が悪いの? 大体騙される方が悪いんだから」
「いいえ、騙されるのが悪いのなら、それは間違いでございます。人を騙せば新たな憎しみが生まれ、そして二度と修復が不可能なほど信頼を失うものなのでございます。もしビジネスだとすれば、信頼と信用を失えば、儲かる者ももうからないのでございます。そしてその生きる上で、子孫を残す上で必要な性的欲求を自分の利己的な目的のために殿方を騙し、そして売れなくなったら自分は買わされたと嘘をついて巻き上げるなど、地上げ屋のすることでございます! あなたは同じ女性として、わたくしが色欲の罪をここで正すのでございます!」
するとるりの胸から黒い霧が現れ、川のような水がるりを守った。
さらにその水は笛となり、るりもついに妖魔使いとして認められたのだ。
僅かながら意識を取り戻したはなは、ありったけの力を込めてるりに叫ぶ。
「紺野先輩っ……!
「春日さん……かしこまりました! 紺野るり、参ります! 妖魔変化!」
はなの指示に従い、るりは呪文を唱えて笛を吹く。
すると水がるりを包み込み、舞踊を踊りながらクルクル回り、私服から黒い着物姿へと変わった。
着物の柄は
るりは浮かんだ名乗りを叫ぶ。
「水の妖魔使い! 紺野るり! あなたの色欲を鎮め、節度のある想いを与えます!」
「ふざけた真似を……! オスなんて色仕掛けで騙してむしり取ってなんぼなのよっ!」
美女の罪魔は女性の魅力を引き出すようなにおいでるりの嗅覚を惑わそうとする。
しかしるりは扇で仰いでにおいを跳ね返し、罪魔はそのにおいに酔ってうつむいた。
るりは罪魔のところへ飛び出し、まるで川の流れのようにしなやかに動いていた。
「くっ……! 何でそんな流れるように動けるのよ!」
「これが川の流れ……。力が自然と湧いてくるのでございます! そしてこれは……天候によって変わる水流の動きでございますね!」
るりは動き回りながら罪魔にダメージを与え続け、その光景を見たはなはるりのたくましい姿に安心した。
次第にひまわりたちも目を覚まし、るりの妖魔使いとしての姿に驚きながらも感動した。
ダメージを負い続けた罪魔は動けなくなり、もはや言葉すら出なくなるほどだった。
るりは扇をギュッと握りしめ、踊りながら必殺技を放つ。
「あなたの邪な欲望を浄化させ、そして悔い改めてもらうのでございます!
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
罪魔は水の中で浄化され、街も元通りになっていく。
一息つくとそこには若い女性が倒れ込んでいて、るりは女性を介抱する。
「ここは……?」
「気が付いたのでございますか?」
「あなたは……?」
「通りすがりの者でございます。先ほどは罪魔によって町を荒されていましたがもう大丈夫でございます」
「ありがとうございます! そういえばこの周辺で最近売春が流行っていて、女性たちがよく男性を道具のようにしておきながら嘘の被害報告をしてお金をむしり取るというのが増えているんです! もしかしたらさっきの悪魔はその色欲によって反応して現れたのかも……。私もそれを取り締まっていた時に襲われて……」
「そうでございましたか……。ですがわたくしはそのような卑劣な真似は致しませんのでございます。だからこれからも取り締まりを頑張ってくださいませ」
「ええ、ありがとう」
(色欲は子孫を残す上で重要でございますが、このように悪用するとは……現代の女性に撫子精神はあるのでございましょうか……?)
倒れていた女性は警官で、違法売春を取り締まっていたところに罪魔に遭遇し、誘惑のニオイによって倒れていたのだ。
るりは色欲について考え込み、平安館の教育は人として正しく導けていることに感謝する。
そして月光花はるりの妖魔使いとして選ばれたことでムードが盛り上がり、家元のところへ戻って稽古を始めた。
すると今までのるりでは考えられなかった舞を見せ、紺野流の門下生たちは拍手をした。
「すごいですよ紺野先輩!」
「そうだね、るりさんのあの舞は緩急自在だったよ」
「はい、ただ激しくする、ただ緩くするだけでは自然的とは言えないのでございます。お寿司屋さんの河城さんの言葉がヒントになられたのでございます。川は緩やかさと激しさの二面性を持つものだと学ばせてもらったのでございます」
「確かに川は人間の農業に役立つだけでなく、天候次第で災害を呼ぶものね」
「確かにそうだ。川はいつだって人類と共に歩んできたのだからな」
「さすが紺野先輩です。私も
るりの舞は動画サイトのセルフチューブでも話題になり、紺野流舞踊がまた改革を起こしたとマスコミの記事にもなった。
もみじの体操とすみれの時代劇、るりの舞踊によって月光花は京都でも徐々に有名になり、京都中から応援されるようになった。
軌道に乗ってきた中で花柳が事務所にて報告をする。
「皆の衆、五月になった今、そろそろ皆の衆にも休息の時が必要になった。
「ついに東京……」
「うう……緊張してきた……!」
「大丈夫さ。私たちも京都で頑張ってきたのだから」
「うむ、皆の衆本当によく頑張った。そこで、こちらのひめぎく殿は某に弟子入りをし、プロデューサー見習いとしてご同行することになった」
「えっ? ひめぎくちゃんが?」
「はい、月光花の皆さん、よろしくお願いします。でも私は妖魔界という妖怪の世界から来たばかりだから、人間としての名前がまだないんです。なのでその……苗字をお願いします」
ひめぎくはまだ人間界に来たばかりで、今もまだ苗字がない状態だ。
春日と名乗るには血縁が遠く、妖怪となった以上は春日の姓を名乗れないのだ。
そこでひまわりはある提案をする。
「妖魔大王ってさ、
「似てるけどちょっと違うかな。妖魔大王は妖魔界を含む天界を束ねる大王ってだけで、転生先を知らせる閻魔とは別かな」
「そっかぁ、じゃあ同じ大王のよしみで、
「焔間か……ありがとう、気に入ったよ。これから私は焔間ひめぎくと名乗るね」
「これからもよろしくね」
「それから私が人間界に慣れるために旅に出たんだけど、東京にいい温泉宿があるんだ。温泉巡りが趣味でね、みんなにも日頃の疲れを癒してほしいと思って探したんだ。どうかな?」
「焔間さんのお気遣い、感謝でございます」
「本当に助かるわ。ありがとう」
月光花は東京で合宿することが決まり、全員テンションが上がった。
ひめぎくも苗字が決まり、晴れて月光花の仲間入りしたことに喜ぶ。
そしてついに月光花の東京合宿が始まった。
つづく!