妖魔使い・月光花 リメイク   作:赤月暁人

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第14話 最後の合宿

 東京合宿の2日目を迎え、次に向かう居場所は両国国技館という場所だ。

 

 花柳(はなやぎ)はかつて力士を目指していたが、体質的に太れないので相撲を断念した過去があり、その影響か今も相撲をよく見ている。

 

 しかしただの相撲好きなだけではないことを、月光花のみんなは今日思い知ることになる。

 

 午前中はレコーディングを想像以上に早く終わったことで自由に行動し、秋葉原や皇居(こうきょ)などを回った。

 

 昼には全員両国国技館に集合し、9人分のチケットを使って入った。

 

「ここが両国国技館……」

 

「やっぱり大きいなあ」

 

「日本の伝統である相撲がここで見れるのでございますね」

 

「はなは実家の神社の仕事でよく大相撲に関わってたよね」

 

「うん、大阪場所でよく儀式の手伝いをしていたんだ。お寿司屋さんの河城さんもお相撲が好きなんだ」

 

「確かに河童は昔から相撲が好きと聞いたことがあるわ」

 

「そうだね。大相撲は興行だけでなく、神事でもあるからね」

 

「妖魔界でも人間界の相撲が好きでよく来ることもあると聞いたことがある。私も一度は見てみたかったんだ。花柳さん、ありがとうございます」

 

「よい、実は大相撲の親方や行司に友人がいてな、彼らに月光花について挨拶に行こうと思っていたところだ。この9人分のチケットはその友人にもらった関係者席なのだ」

 

 花柳は友人として、そして日本の伝統文化の評論家として評価され、大相撲界にも顔が広がっていることにはなたちは驚いた。

 

 国技館の中に入り、土俵が近くに見える席に着くと、そこには数多くのセレブや芸能人などが座っていた。

 

 その光景にひまわりは興奮し、実家が名家のもみじとるりは何人か顔見知りがいたので会釈して席に着く。

 

 はなは何度か大相撲を生で見たことがあるため迫力を知っているが、他はみんな初めてなので緊張していた。

 

「そういえばみなさん、どうして土俵に女性が入れないのか知ってますか?」

 

「そういえば女性は土俵に入れないと聞いたことはある。だが何故だと言われるとわからないな」

 

「聞いたことはあるけど、いざ理由を聞かれると困ったわね」

 

「ひまわりちゃんは言っちゃダメだよ?」

 

「わかってるよ」

 

「ひまわりは知っているのかい?」

 

「これでもはなの神社の手伝いを何度もやってたもん」

 

 はなは相撲の土俵についての豆知識を仕事柄知っていて、ひまわりもそのことを知っている様子だった。

 

 月光花のみんなは何で土俵に女性が入れないのかを考え、今も答えに悩んでいた。

 

 するとひめぎくがすぐに答えを出した。

 

「確か稲田姫という神さまが女性の美しさに嫉妬してさらうとパパから聞いたことがある」

 

「え、そうなのでございますか?」

 

「正解だよひめぎく。やっぱり元春日家の血を引いてるから知ってるか」

 

「ただし今の時代では緊急時は稲田姫も認めてるみたいで、よほどの緊急でもない限りは女性が入るのは難しいのは変わらないんだ」

 

「なるほど」

 

「さすが春日殿だ。そう、この土俵はかつては豊作を願って相撲を取っていた神の儀式でもあった。だからどうしても伝統へのこだわりが強く、保守的なところがある。しかし緊急時は命に関わることで、稲田姫もそれを望んでいないというお言葉からある程度は改善されたのだ」

 

「なるほど、勉強になります」

 

 相撲の豆知識を知った上で観戦すると、違った魅力で相撲を楽しむことができた月光花だった。

 

 ひめぎくも人間界の相撲に強い関心を抱き、花柳も嬉しそうに相撲の今の事情を話していた。

 

 全ての取り組みが終わり、呼び出しの人が花柳に近づいて声をかける。

 

「花柳さま、相撲協会の会長がお呼びです。そちらの女の子たちを連れて来てください」

 

「承知した。皆の衆、相撲協会会長がお呼びだ。行くぞ」

 

「「「はい!」」」

 

 突然相撲協会の会長から呼び出された月光花は、疑問に思いながら花柳について行く。

 

 呼び出しの人も急なことなので戸惑いはあったが、花柳が来たともなれば用事があってもおかしくはない。

 

 協会会長室へ着き、花柳は軽くノックをする。

 

「はい」

 

「花柳小次郎でございます。お呼びの通り、月光花を連れてまいりました」

 

「お入りください」

 

「「「失礼します」」」

 

 花柳は堂々と会長室に入り、月光花のみんなは緊張しながら震えて入る。

 

 すると相撲協会の会長は嬉しそうに花柳に握手を交わし、花柳も光栄に思いながら握手し返した。

 

 挨拶を終えて本題に入ると、真剣な顔つきになって話を進める。

 

「さて、花柳先生をここに呼びだした理由は、まずそちらの春日はなさんの実家の件だ。我々相撲協会は春日さんの人妖(じんよう)神社もスポンサーの一つでね。罪魔(ざいま)一族に乗っ取られたと聞いて、我々相撲協会も悔しい思いだった。そこで我々相撲協会だけでなく、武道協会、歌舞伎協会、舞踊協会、全国神社協会と共に新たな和物アイドルユニット月光花のスポンサーにさせてほしい。日本の伝統文化に精通している花柳先生が育てたユニットとあれば、我々もサポートを惜しまない。月光花の皆さん、我々にも妖魔使いとして、人間代表として協力させてほしい」

 

 相撲協会会長は月光花に全面協力をすることを申請し、はなたちは恐れ多そうに黙り込んだ。

 

 とくにはなは実家の神社のことを悔しがってたのは同じなんだと感じ、協力に感謝を伝えようと深呼吸をする。

 

 するとリーダーのわかばが前に出て会長と対話をする。

 

「ご協力ありがとうございます。実は罪魔一族にはある共通点があり、おそらく人間の心の最大の弱点ともいえる七つの大罪が関係していると我々は見ています。今は京都市だけで済んでいるのが幸いですが、今後全国を巻き込んだ事件になりかねませんので、皆様のご協力があると非常に助かる所存です」

 

「うむ、さすが全国模試ベスト8の常盤わかばさんだ。礼儀もしっかりしている。よし、ならば万が一の接近戦に備えて、相撲の技を特訓で伝授しよう。日本の武道は平安館の授業でやっているが、それをもっと強化し、普通の人でもある程度戦えるようにしておこう」

 

「感謝いたします」

 

「そこの君は妖魔大王の娘さんだったね」

 

「はい」

 

「花柳先生の弟子になったと聞いたよ。君のような若い人材は貴重だ。妖怪代表として、月光花を頼んだよ」

 

「ありがとうございます」

 

 はなたちは花柳の顔の広さと、はなの実家が日本で影響力が大きいことを実感した。

 

 月光花にたくさんのスポンサーがついたことで活動しやすくなり、はなたちにとって最大の励みとなった。

 

 実はこの相撲協会の会長は大相撲力士として歴代最強の横綱として名を馳せていて、平安館の卒業生でもあった。

 

 花柳とは学友であり、高校時代には武士道精神を磨き合ったライバル的な存在でもあった。

 

 花柳が体質の問題で相撲を諦めたことを今も残念がっていたが、剣道で覚醒したことを誰よりも嬉しく思った優しい人である。

 

 そんな心強いスポンサーがついたことで、またある提案をされる。

 

「そこでデビューライブを夏に行い、この両国国技館で行わないか?」

 

「ほう、月光花のライブデビューですか?」

 

「日本だけでなく、世界中に武士道精神を思い出させ、そして罪魔に負けない強い魂を持つようにしてほしいんだ。力士の中には月光花のファンになった力士もいる。だからこそこれはチャンスだと思うんだ。どうかな?」

 

「よいのですか? この様な大なる舞台で。デビューして間もない彼女たちはまだ集客が困難ですぞ」

 

「花柳先生、先手は打ってあります。妖魔界にも既に月光花のライブに来るように伝えてあります。春日さんのお父さんを通じてね」

 

「お父さんから……!?」

 

「それに花柳先生には豊富な実績がある。歌舞伎俳優や武道家、囲碁や将棋のプロ、数々の日本文化の家元や門下生も集まっている。悪い話ではあるまい」

 

「ならばその話、引き受けました」

 

 月光花にとって大きなスポンサーだけでなく、まさかのファーストライブが開催されることに驚く。

 

 あまりにも大きなチャンスに恵まれ、こんなにも応援されているんだとはなたちは実感した。

 

 対話を終えて合宿所に戻り、今度は夕食を自分たちで作ることとなった。

 

 すると料理担当のわかばとつばきは二人でこんな会話をする。

 

「えっと、カレーの分量は……どうだったかしら……? ハチミツを入れると甘くなるんだったわね。えっと……」

 

「わかば落ち着け。それはメープルシロップだ」

 

「え……? あ、本当ね……。どこで間違えたのかしら……」

 

「わかばは食材の買い物も料理も苦手だったな」

 

「うう……何でも完璧にって思ったけど、完璧になることって無理なのかしら……?」

 

「わかばは少々完璧主義すぎるが故に、余計な力が入って小さなミスを起こしてしまうからな。ハチミツがなくても私に任せてくれ。料理はこう見えて得意なんだ」

 

「ありがとう、つばきが同じ料理担当で助かったわ」

 

 わかばは運動だけでなく、食材に関わることである買い出しや料理が苦手で、具材自体は扱えるのだが、調味料系を扱うのが大の苦手だった。

 

 そのため野菜を切ることについては問題なかったが、カレーの調味料を間違えてしまい、味がおかしくなることを危惧したつばきは冷静に自分も料理担当にしてほしいと申し出たのだ。

 

 わかばが調理実習で毎回失敗しているのをつばきは見ていたので、料理が得意でプロの料理人も一目置いているつばきが手伝うことでわかばは初めて料理が成功した。

 

 つばきとわかばの二人で作ったカレーはとてもおいしく、合宿での励みとなった。

 

 3日目には京都へ戻り、アイドルとしてだけでなく、妖魔使いとしての特訓をするのであった。

 

 つづく!

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