はなは支社とはいえ実家の神社の仕事を巫女としてこなす。
そしてはなの幼なじみのひまわりも巫女としてお手伝いをしていた。
境内で清掃をしていると、テレビの収録がやってくる。
それは教育係を務めている美月輝夜のレギュラー番組で、日本全国の神社巡りの旅をするものだ。
はなは事前に知らされていたが、ひまわりは知らなかったので作業を中断してはなに声をかける。
「はな、どうして美月先輩がここにいるの?」
「実はうちの神社が美月先輩の神社巡りのロケ番組に選ばれて、支社とはいえ取材させてほしいってオファーが来たんだ」
「じゃあ私はお邪魔かな? 正式な春日家の神職じゃないし」
「一緒にいてほしいな……私一人だと不安だもん」
「シャイなはならしいな。わかった、私も一緒にいるから安心して!」
「よかった……」
はなとひまわりがそんな会話をする仲でもロケが続き、美月は神社の紹介を続ける。
「こちらの人妖神社では、かつて初代春日が禁術を使い、妖怪と共に罪魔となった人間を地獄界に封印し、命を落とす代わりに妖怪として転生した初代春日を祀るための神社で、今も京都に住む妖怪たちはこの神社を通じて人間界に行き来をしています。今は本社の方が罪魔一族に乗っ取られてしまってますが、幸いにもこちらの支社は無事でした。今も妖怪たちは人間との絆を確かなものにすべく、この神社でお祈りをささげているのですよ」
美月は人妖神社の詳しいことを全て話し、はなも嬉しそうに見守っていた。
すると美月ははなに気付き、軽くうなずくと突然台本にはないアドリブをし始める。
「実はここの神社の娘さんが、私がお世話してるアイドルグループに所属していて、私の後輩でもあるんです。名前だけでも呼んでみましょう。春日はなさーん!」
「ええっ!?」
「ほらはな、先輩が呼んでるから行くよ!」
「そ、そんな急に言われても……」
はなは急に美月に呼ばれて困惑し、ひまわりは呼ばれたことを茶化しながら向かわせた。
しかしはなは引っ込み思案な性格なので向かおうとせず、仕事を休むわけにはいかないので集中しようとした。
するとはなの背後から美月の気配がし、ひまわりはニコニコしながらはなを見守る。
「やっぱり仕事を真面目にやってたのですわね」
「きゃっ!? 美月先輩、いつの間に!?」
「この神社にいるのに呼んでもなかなか来ないと思ったら、家の仕事に集中したかったのですわね。こんな時にお呼びして申し訳ありませんでしたわ」
「いえ、呼ばれたのに意気地がない私が悪いですから……」
「そうだよはな。先輩が呼んだんならちゃんと行かなきゃ」
「うう……」
「日向さんもいらしたのですわね。そうだ、せっかくなのでお二人にインタビューをしようと思います。少しお時間いただけますか?」
「はい! 喜んで!」
「私たちでよければ……」
「ありがとうございます。では先にお祓いを受けて幸を呼びましょう」
美月の計らいではなとひまわりが番組に出演することになり、美月ははなによって災厄を祓うお祓いをすることになった。
人妖神社のお祓いは自分自身の今まで重ねた罪を反省し、武士道精神を磨くために精神統一をして神の心を受ける形式だ。
はなは巫女服から宮司服に着替え、お祓いを進めた。
お祓いを終えてすぐに事務室へ移動し、はなとひまわりに美月は取材をする。
「こうしてゆっくりお話しするのってはじめてですわね。いつもは説明とか指導ばかりでお時間が取れませんでしたから」
「確かにそうですね。先輩とお話ができて嬉しいです」
「えっと、その……」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。私は怖い先輩ではありませんから」
「は、はい……」
はなは慣れない不在で緊張し、美月がそれに気づいて緊張を解かせる。
ひまわりは元・月ノ姫のセンターとゆっくり話が出来ることに興奮していて、どんな取材を受けるのか楽しみだった。
美月ははなとひまわりと話すのが楽しみで、たくさん取材をする。
「では早速ですがお話をします。まず春日家は私たちが通う平安館大学の系列校にいますね。そして創始者は初代春日の弟で、この神社を設立なさったと聞きましたわ。はなさんは今も平安館の経営権をお持ちなのですか?」
「いえ、春日家は平安館を設立しただけで、経営権は春日家ではありません。正確には日本神社協会が母体で、春日家は神社協会の会員なので株主に近いものだと思います」
「なるほど、神道そのものが平安館大学の母体ということですわね。日本古来の宗教となれば武士道精神も受け継がれるのも納得ですわ。では日向さんのおじいさまは囲碁と将棋のプロとお聞きしました。お二人の実力はどのようなものですか?」
「そうですね、父方の祖父が囲碁のプロで、世界を旅しながら囲碁を世界中に布教しています。母方の祖父は将棋のプロで、チェスにはない魅力を世界中に伝えてあります。そして二人の祖父に囲碁と将棋を教わり、私はどっちもできるようになりました」
「日向さんの頭のよさは囲碁と将棋で培われたものなのですわね。素晴らしいですわ。ではお二人にどうしてもお聞きしたいことがございます。お二人は平安館幼稚園の頃からの幼なじみと聞きましたわ。お二人の出会いはどんな物語なのですか?」
美月ははなとひまわりの出会いが気になったので、幼稚園の頃からの出会いを取材する。
はなとひまわりは笑顔になりながらお互いを見つめ合い、はなが真っ先に話す。
「幼稚園の年中の頃にね、私が遠足で他の幼稚園の男子にいじめられた時に、ひまわりちゃんが見過ごさずに私を助けてくれたのがきっかけです。あの頃は今よりも引っ込み思案で、すぐに泣く泣き虫でした」
「同じクラスのはながいじめられてるのを見て放っておけなかったんです。それにいじめられてるのを見過ごしたら一生後悔するって思って、体が勝手に動いてはなを守りました。そしていつまでもはなは泣き止まないから、『私が友だちになってあげる。あなたが困ってたら助けてあげるから、私が困ったら助けてね!』って励ましたんですよ。そしたら指切りして約束をしたんです」
「ひまわりちゃんは勉強で困ることが多く、私がよく勉強を手伝ったりしました。でもひまわりちゃんは呑み込みが早いからすぐ覚えてくれるんです」
「はなって見た目は運動が苦手そうですが、この神社には年末年始に行う流鏑馬があるんですけど、その流鏑馬に選ばれるほど実は運動神経がいいんですよ。弓道部にスカウトが来るほどでしたから」
「あの時に私を助けてくれたひまわりちゃんは、私にとってはヒーローでした。でも今はお互いを助け合うパートナーになったようにも感じています」
「はな……」
はなはひまわりのトラブルメーカーブリには呆れながらも、かつて自分を助けてくれたヒーローだと思い、そしてお互いに困ったときは助け合う関係になり、今は対等なパートナーとして、親友として接している。
ひまわりはなはにパートナーとして認められて照れ、はなも恥ずかしくなったのか下を向いた。
美月は笑顔ではなたちのやり取りを見ていて、こんな独り言を言う。
「幼なじみかあ、羨ましいですわ。私もそんな関係の人が欲しかったですわ」
「そっか、美月先輩は幼稚園の頃から子役をやってて友達と遊べなくて、中学時代にアイドルになったから学生時代の思い出はそこまでないんでしたっけ」
「ええ。だからこそ今の大学生活は楽しいのですわ。皆さん親切な方ばかりですし、平安館女学校からのエスカレーター進学が多くいますので私のことを覚えてくださる方々ばかりで嬉しかったですわ。長く遊んだわけではありませんから幼なじみではございませんが」
「じゃあそのお友だちを大切にしましょう! 美月先輩は人柄がいいですからきっとみんなといい関係になれますよ!」
「日向さんが言うとそんな気がしますわ。春日さんと仲良しでいられたのですから」
「最初はひまわりちゃんに連れられてアイドルになったのですが、今はとても楽しいです。この人妖神社の家系として恥じないように、アイドルも学業も、そして神職としての仕事も頑張ります」
はなの珍しい強気な宣言にひまわりは嬉しそうにしてはなに拍手をする。
美月は引っ込み思案だったはなが成長した姿を見て感動で泣きそうになった。
取材を終えて休憩に入り、片づけを済ませて美月は人妖神社を後にした。
美月が去ってからまたはなとひまわりは巫女服に着替え、境内の清掃作業に戻った。
美月の移動中にスタッフから声をかけられる。
「あの二人、とても仲良しだね」
「お互いを信頼し合う関係、これこそが揺るぐことのない友情という事ですわ。真の友に忠誠を誓い合うことが現代の忠義ということですわね」
「そうですね」
「今は誰かの下について忠誠を誓い、誰かに仕えるなんてことは致しませんが、家族や親友、恋人と共に尽くし合うことこそが現代の忠義ですわ。それをあの子たちは実践している。私も見習わなければなりませんわ」
「向上心があるんだね、美月さんは。だから月ノ姫でも永遠のセンターを獲れたのでしょう」
「それは過去の栄光ですわ。今はただの女子大生で女優ですから。そしてあの子たちの手本となる……先輩ですから。もっと成長しなくてはなりませんわよ」
取材をし終えた美月はどこか嬉しそうで、そしてはなとひまわりの関係性に忠義というものを感じていた。
江戸時代当時の忠義と新暦時代の忠義は価値観は違えど、根本的なものは今も同じだという事を知った美月は、自分も家族や大学の友達を大切にして尽くし合おうと決めた。
つづく!