平安館女学校にも文化祭シーズンが訪れ、生徒たちは殺伐とした中で文化祭を行う。
はなの家族が学校に強い結界を張り、罪魔が襲ってこないように警備を固めた。
安全が確保されたので文化祭の開催が通常通り行われ、幼稚園から大学まで同時に行う平安祭に向けて準備を進めている。
こちらは書道部の様子。
「春日さん、展示会を全部仕切らせてごめんね」
「大丈夫だよ。私もみんなの作品をいろんな人に見てほしいから頑張っちゃった」
「さすが春日先輩です! 弓道部との掛け持ちで大変なのに全部こなせるなんて!」
「実家の神事もあって忙しいのにありがとうね」
「アイドルもやってるんでしょ? はなには敵わないよ」
「そんな、私なんてみんなと比べたら全然だよ」
「そういう謙虚なところがマジで羨ましい~!」
「だよねー!」
はなは書道部では人気者で、部員たちにもすごく慕われていた。
はなの字はプロも顔負けで、普段のオドオドした性格と違って筆を握ると集中力が増して真剣な性格に変わるのだ。
それも集中できない状況でもイライラすることないが、周りが見えなくなるほど集中しすぎるところがある。
そのためか部員たちも邪魔しないように心がけ、はなが少しでも書道に集中できるようにしてきた。
展示会の飾りつけも残るははなの作品のみとなり、最後の飾りつけに入ろうとした瞬間だった。
一人の後輩部員が脚立から踏み外してしまい、はなの作品ごと落下してしまった。
それもはなの作品は二つに破れてしまったのだった。
「いたた……!」
「だ、大丈夫!?」
「私は大丈夫です……あっ……!」
「どうしたの? あっ……!」
「せっかく春日先輩の作品が……!」
「そんな……! はなの作品は唯一無二の美しい作品なのに……!」
「先輩……すみませんでした……! すみません……でした……!」
「はな、どうする? このままだとはなの作品だけ間に合わないよ?」
「大丈夫だった? ケガはない? 書道は体が資本だから気を付けてね?」
「はい……。でも先輩の作品が……」
「私の作品はもう一回作り直せばいいから大丈夫だよ。それよりもあなたがケガしなくてよかった……。でも強く体を打ったから保健室へ行ってアイシングしてもらってね」
「先輩……うわーん!」
後輩が脚立から踏み外して落下し、はなの作品を破いてしまったことに雰囲気は悪くなったが、はなは後輩がケガしてないかをすごく心配し、自分の作品がどうなっても作り直せばいいとポジティブな捉え方をしていた。
はなの優しさに後輩は、はなの胸に抱きついて大泣きした。
あれから後輩は保健室で診てもらい、はなは制服の裾をまくって和室へ入る。
「じゃあみんな、これから私は作り直すから準備を進めてて」
「わかった! あとは任せて!」
「それから私の作品が台無しになったとしても、絶対にあの子を責めないでほしいな。あの子だって一生懸命やったから何も悪くないからね。もし責めたりぶり返したりしたら武士道に反するからね?」
「は、はい!」
「じゃあいってきます」
「い、いってらっしゃい!」
はなは気を引き締めて和室へ入り、作品をもう一度作り直しにかかった。
破いてしまった後輩を責めたりしたら許さないという気迫をはなは見せ、いつもの引っ込み思案の態度とは違いすぎて部員たちは恐怖で凍り付いた。
それほど後輩の心の傷を憂いているのだ。
部員たちも『はなは優しいから本気で怒らせてはいけない』と改めて認識した。
中に入ったはなは墨を筆に付け、無音の和室で作業に入った。
しかし何度書いても納得のいく作品が作れず、はなは徐々に疲れて眠気に誘われた。
「ダメ……。あの時以上にいい作品を作れる気がしない……。でもあの時以上の作品にしないと、あの子が私のことで一生引きずっちゃうから……絶対にもっと上の作品に……あれ……?」
はなは水分補給も休憩も全くしなかったので、体は既に限界を迎えていたのだ。
そのためにはなは立ちくらみがして倒れそうになった。
するとはなは温かい感触を感じ、意識が戻るとひまわりがいた。
「ひまわり、ちゃん……?」
「話は保健室にいる書道部の後輩から聞いたよ! はな、もう一度展示会用の作品を作り直すんだってね?」
「う、うん……。だから破れてしまった作品よりもクオリティを上げないと、あの子は絶対後悔するから……無理してでもクオリティを上げなきゃ……」
「水臭いわね。一人で抱え込まないの」
「そうだぞ。私たちはアイドルとしてだけでなく、学校でも仲間なのだから」
「はな先輩、私たちが見守っています。限界が来たら私たちが回復させますから」
「みんな……ありがとう!」
はなは月光花の仲間たちが奥羽縁に駆けつけてくれたことに涙を流し、少しだけ心に余裕が生まれる。
はなは普段は集中しすぎるがあまり孤独ながらも高いクオリティで書き続けてきた。
しかしそれではサポートもされずに一人のみで作業するので、疲れもより溜まりやすいのだ。
月光花の仲間たちがサポートしたり水を飲ませたりマッサージしたりすることで、はなの集中力はより高くなった。
和室の外ではこんな会話もされていた。
「いいんですか部長。本当は書道部員以外は入れない和室に入れさせて」
「あの子に必要なのはクオリティだけじゃない。一人ではできないことも仲間と一緒なら乗り越えられるってことを覚えてもらいたかったんだ。あの子は集中しすぎるあまり、ずっと孤独だったから。だからこそ仲間たちのサポートで疲れが溜まらないようにしたかった」
「なるほど、わかりました。春日先輩、頑張ってください」
部員たちの願いで月光花の仲間たちが駆けつけ、ひまわりも和室へ入る時の礼をしながら素早くはなをサポートをしていた。
その手際の良さに、はなの過集中をよく知っていると部員たちも任せることができたのだ。
ひまわりたちのサポートもあって、よりクオリティの高い作品が完成した。
「できた……! これで展示会に間に合う……」
「はなさん!」
「おっと! 大丈夫、少し寝てるだけだよ」
「すう……すう……」
「ふふっ、はなくんの寝顔、可愛いね」
「確かに無垢で可愛いな」
「ずっと頑張ってたでございますからね」
「はな、お疲れさま。展示は私たちに任せて」
はなは疲れ果ててグッスリ眠り、ひまわりによって保健室へ運ばれる。
はなの作品は袴が引っ掛からないように柔道部の男子生徒を呼んで道着に着替え、落下しないように対策をしてきた。
はなの努力もあって展示会には間に合い、書道部は安心して文化祭に臨める。
保健室でははなと後輩による会話があった。
「春日先輩、せっかくの作品を台無しにしてすみませんでした……」
「ううん、大丈夫。もし私が一人で抱え込んだら、あの時よりも高いクオリティで書けなかった。今回の作り直しのおかげでもっといい出来になったんだ。だからもう謝ったり後悔しないでいいんだよ。それよりもケガがなくて本当によかった。あなたが無事ならそれで私は安心するんだ」
「先輩……! ありがとう……ございます……!」
はなは眠気から覚めて泣きだす後輩を抱きしめ、優しく頭を撫でて慰めた。
見舞いに来たひまわりたちの笑顔で後輩は安心し、最高の仲間がこんなにもいたとはなは嬉しくなった。
そしてついに文化祭が始まった。
つづく!