花柳とひめぎくは罪魔信者たちの妨害が想像以上に激しく、そして人数も日本各地から集まっていて大人数で立ちはだかる。
それも人間の姿なので花柳も刀で斬りづらく、ひめぎくも武道の心得はあるが殺生をすることをためらった。
「ここまで罪魔信者がいるとは想定外だった……。すまない焔間殿、某の思考が甘かった」
「謝ることはないですよ。むしろ援護があって助かりました。それにここまで信者を集められるってことは、おそらく人間に対して恨みがあった人々が多かったって事でしょう。罪魔一族は人類絶滅による世界平和を目指していますから」
「うむ、確かに人間がいる以上は環境問題や絶えぬ戦争など問題は山積みだ。人類が引き起こした問題を今も抱えてる句にも多数ある。しかしそのやり方で平和など訪れるとは思えぬ。だからこそ罪魔一族の信念は理解できるが、やっていることがその罪深き人類以上に問題があるのだから信用ならぬのだ」
「同感です。私も平和を愛する割に暴力で粛清しているようにしか思えません。それに大罪といっても使い方次第では世界をよりよくすることもあります。だからこそ私は妖怪を代表して人間のことをもっと知り、もっと交流を深めてよりよい世界を作りたいのです」
「そうか、そなたのことをますます気に入った。今後も某について来てくれるか?」
「もちろんですよ、師匠」
花柳とひめぎくは追い詰められて背中合わせになり、それでも諦めずに罪魔一族のやっていることに疑問を覚え、罪魔一族の野望を止めようと月光花をサポートしてきた。
信者たちが一斉に襲いかかり、ついにひめぎくたちはピンチとなる。
「万事休すか……!」
「まだだ……まだ私は諦めない! みんなが私たちよりも過酷な戦いをしている中で諦めてたら……未来を切り開くことなんてできない! それに何もかも諦めて失うものをなくしたら……人は理性をなくし何も恐れなくなって全ての大罪を背負いかねないことになるかもしれない! 彼らはきっと失うものがなく、何も恐れずに自暴自棄になっているだけなら……私が目を覚まさせて見せるっ!」
「うっ……!」
ひめぎくが自暴自棄の危険さと罪魔信者たちの心の浄化を強く願うと、ひめぎくの体から黒い霧が立ち、そして菊の花びらが舞った。
ひめぎくの胸から笛が現れて驚くも、この状況を突破するためにひめぎくはすぐに笛を手に取る。
「これならみんなと一緒に戦える! みんなの罪を裁きつつも浄化してみせる! 妖魔変化!」
ひめぎくが笛を吹くと足元から炎が燃え盛り、岩山がそびえ立つと急に崩れ去り岩山が燃えて金属類が出来上がる。
金属に包まれたひめぎくは利き手である左手で破壊し、破壊された金属から金棒が完成される。
黒い霧が全身を包み込むと漆黒の衣冠と指貫袴といった神社の宮司風の服装となり、頭から黄金の二本ツノが生えてくる。
この二本のツノは人と鬼のハーフなので、ひめぎくの本来の姿として妖魔使いとして選ばれたのだ。
「地の妖魔使い! 焔間ひめぎく!」
「焔間殿がまさか……!?」
「二本のツノ……? 貴様、さては人間じゃないな! ちょうどいい、人間じゃないなら話が早い。我々罪魔一族の味方をして共に人類を滅ぼさないか? そして罪魔を進行している我々はアクドー様によって生き残らせてもらい、そして平和を保つ活動をしようではないか」
信者の教祖らしき男性がひめぎくを勧誘し、罪魔一族のおいしい話に乗せようとする。
花柳は説得をせずともひめぎくのことをわかっていて、あえて黙って見守ることにした。
ひめぎくはため息をついて信者の誘いに答える。
「残念だけどあなたたちがたとえ罪魔一族のために行動したとしても、彼らがあなたたちを助けてくれるとは思えない。あなたたちは自分たちが恵まれないからと世界に絶望し、そして失うものは何もなくなった。だからこそ何かを得ようと人は努力し、ルールを守った上で自分を高めようと努め、無限の可能性が目覚めて心も成長する。だけどあなたたちはそれを放棄して思考が停止し、そして罪魔一族の甘い誘いに乗って人類を滅ぼそうとした。それって七つの大罪よりも罪が思い自棄なんじゃないかな」
ひめぎくは七つの大罪の先にもう一つ人類が陥ってはならない罪を知っていて、自棄という理性を失い秩序を壊すどころじゃない大罪を説く。
花柳はひめぎくの言葉を聞いて微笑み、扇子をまた仰ぎ始める。
「なるほど、焔間殿は七つの大罪よりも深い自棄の罪を知っていたとは。某でさえも気づかなかった……。今まで御父上の転生者を裁いてきた仕事を見てきただけはある。というわけだ、残念だが汝らの誘いに焔間殿は乗らぬ。悪く思わぬように」
「そうか、いい話だけど残念だ……。ならば人間と共に滅びるがいい!」
信者の教祖の男性は罪魔力を限界まで高め、そして人間の姿を捨てて罪魔となる。
他の信者たちも落ち武者のような姿へと変え、全員人間としての姿を捨て始める。
ひめぎくはあまりにも高い罪魔力に悲しみ、金棒をギュッと握りしめて何かを取り出す。
「私には信頼できる側近がいる。京都の隣に隠居してるけど、助けてほしい! 妖怪メダル! ダイダラボッチ!」
ひめぎくが妖怪メダルを取り出すと体が巨大化し、罪魔となった信者たちは見上げることしかできなくなる。
花柳でさえも見上げ、ひめぎくの大きさにただ圧巻するだけだった。
ひめぎくは左手に持つ金棒を叩きつける。
「ちょっと広範囲すぎてみんなに迷惑かけるかもだけど……一気に罪魔を浄化するにはこれしかない! みんな、ごめんねっ!」
ひめぎくが金棒を振り下ろして地面に叩きつけると大きく揺れる。
花柳も思わず体を伏せて避難し、地震の大きさがうかがえる。
罪魔たちはバランスを崩して倒れ込み、ひめぎくの人間離れしたパワーに何もできなかった。
「これで罪魔たちの動きは止まった! 一気に決める! 妖怪メダル! 鬼!」
鬼の妖怪メダルを使うと今度は体が元に戻り、ひめぎくの体からパワーがさらにみなぎってくる。
金棒は非常に重たい武器だがそれでも軽々扱い、信者たちを立ち上がらせないようにしていった。
そしてひめぎくは左腕に妖魔力、心に武士道精神をありったけ放出する。
「ちょっとだけ手荒だけどごめんね……。ここまで自暴自棄になってるみんなだとそれくらいしないと目が覚めないから。鋼ノ鉄槌!」
「「「ぐわぁーーーーーーーっ!!」」」
信者の罪魔たちはひめぎくの大きくなった金棒に叩きつけられ、罪魔力が浄化していった。
物理的には潰されたように見えるが、体は無事で傷一つついていなかった。
しかし黒く燃えていた魂は白くなり、罪魔たちは元の人の姿に戻る。
花柳が意識を確認するために瞑想をする。
「ふむ、焔間殿が叩き潰した時は冷や冷やしたが全員命に別状はない。妖魔力と武士道精神は穢れし心と魂に影響を与え、体には何一つも影響はないようだ」
「そうですね……。でもさすがにここまでの大人数を相手にするのは疲れました……」
「うむ、汝の働きは見事だった。もしや某の因縁を……――」
「何か言いましたか師匠……?」
「何もない。それよりも動けるか?」
「少し休めばなんとか……」
「そうか、ならば某の妻が作ったおむすびを食べるといい。某の分はきにするでないぞ」
「すみませんがありがたくいただきます……」
ひめぎくはあまりの人数を相手にしてきた疲れで倒れ込み、花柳に抱えられて休む。
花柳に何か罪魔一族に因縁があるとつぶやいたが、ひめぎくにはギリギリ聞こえず花柳はまた何か隠す。
疲れ果てたひめぎくを気遣った花柳はおむすびをひめぎくに与え、少しでも体力が回復するようにした。
おむすびを二つ食べ終えて休憩を終えてはなたちの元へ行こうとする。
「さて、そろそろ車で人妖神社に向かいたいところだが……」
「車がない……!? まさか罪魔の信者の残党に盗まれた……!?」
「否、心配はいらぬな。もうすぐ戻ってくるはずだ」
「え……?」
ひめぎくは罪魔信者の残党にワゴンカーが盗まれたと疑ったが、花柳はむしろ安心した表情で遠くを見つめる。
ひめぎくには何のことかわからなかったが、なくなったワゴンカーが花柳たちの方へゆっくり向かって来た。
ひめぎくの目の前にゆっくり止まり、運転席から輝夜の姿が見えた。
「花柳先生!」
「うむ、美月殿か。このような事に巻き込んですまぬ」
「構いませんわ。それよりも焔間さん、ついに妖魔使いとして目覚めたのですわね」
「はい。美月先輩もよくご無事で」
「再会を喜ぶのは後ですわ。今は春日さんたちのところへ参りましょう」
「かたじけない、行くぞ焔間殿」
「はいっ!」
「ついでに罪魔信者たちの悪行を裁いてもらうために……お巡りさん方、逮捕をお願いいたしますわ」
「わかった。危険な宗教団体及びテロリスト集団としてここに意識を失っている信者たち全員を逮捕する」
ワゴンカーから輝夜が連れてきた大勢の警察が応援をあらかじめ呼んでいて、多くのパトカーが駆けつけて意識を失った信者全員を逮捕し、刑務所へ送迎する。
ひめぎくが妖魔使いとして選ばれ、妖怪メダルも手に入れ罪魔信者たちの動きを止めたことで罪魔信者の暴走を止めることができ、警察も感謝を示した。
「では花柳先生、どうか無理はなさらないように」
「心得た。人々の避難はもう済みましたでしょうか?」
「はい、全員隣町へ避難しております」
「それでよい。では某たちは罪魔一族との戦いに決着をつける。すまないが後のことは頼んだぞ」
「わかりました」
警察に信者たちのことを託し、輝夜の運転で人妖神社へ助太刀に向かう。
ひめぎくはおむすびをより多く食べて体力を補充し、そして輝夜の安全かつスピーディな運転に安心して眠りにつく
輝夜は月光花の無事を祈って現場に向かったのだ。
つづく!