月光花のローカルアイドルとしての知名度も上がり、ついに東京のテレビ局に何度も出演するほど人気にもなる。
歌番組にも出演するほどで、月ノ姫以来の和物アイドルとして西洋で話題になっていた。
そんな時にひめぎくは花柳と共に会議をしている。
「焔間殿に一つ頼みがある」
「はい、何でしょう?」
「焔間殿は確か衣装作りの勉強をしていたな」
「はい、衣装作りでライブやプロモーションビデオで力になれると思いました」
「なるほど、確かに衣装作りは貴重な役目だ。それにクイズ番組で皆活していると聞く。とあらば女学生らしい衣装で平安館女学校のアピールにも適しているな」
「はい。ですがつばきさんは少々お茶目な一面もあり、場面にもよりますがおいしいところを持っていきたくてわざと間違えたりしています」
「ほう、冬野殿がまさかそのようなことをしていたとは意外だった」
「月光花も平安館女学校もただ堅苦しいだけのものではないことを証明したいと前に話したことがあります」
「確かに武士道を重んじるあまりにユーモアにかけては面白くはないな、よい判断だ。だが某にとって気がかりなのは……」
「はい、もみじから聞きましたが……あのアルコバレーノを追い込んだ高飛車財閥問題ですね」
「念のために高飛車きららとその父である高飛車勝利に注意せよ」
花柳とひめぎくは今後の自分の役目と月光花の方向性を話し、そして今芸能界で起こっている騒動に注意をする。
実際高飛車財閥騒動で芸能界は荒れているのだ。
桃井さくらというアルコバレーノのエースが陥れられ、その事を月光花は既に承知している。
そんな中でもみじは東京での収録前に日課のランニングをしていた。
「先輩方、この紅葉もみじランニングを致します」
「いってらっしゃい」
「ケガだけは気をつけなさいね」
もみじは日課のランニングのためにジャージに着替え、準備運動を始める。
朝の空気と春風が気持ちよく、もみじはゆっくりと空気を味わい、スポーツドリンクを片手にランニングを開始する。
最初はゆっくりと息を整え、体が温まったところで徐々にペースを上げていった。
毎日走り込むことで心肺機能だけでなく、長い距離を走るという無心になる心、そして辛くてしんどいランニングをこなすことで諦めない精神力を磨いていた。
そんな時に小柄ながらも速いペースで走っていく女の子がもみじに並んでいた。
「はあ……はあ……! この方……出来ますね……!」
「ふう……さすがのわたくしでも追い越せそうにないですわね……」
「ふふっ、ありがとうございます」
「あなた、名前は何ていいますの?」
「京都から来ました月光花の紅葉もみじです。あなたは……?」
「わたくしは……名を名乗るほどの者じゃございませんわ。なにせ取り返しのつかないことをしましたから……」
「そうでしたか……何をなさったのですか? 話せないのでしたら無理にとは言いませんが、話せば少しは楽になると思います」
「……。」
フードを被った小柄な少女はもみじと意気投合するが、名前を聞かれて心苦しそうに下を向く。
もみじは少女の悩みを聞こうと親身になってベンチに座り、隣で話をしようとした。
少女は最初こそ黙っていたが、少し間を空けてから話し始める。
「実はわたくし、とても大金持ちの財閥の子でしてね、パパの力でトップにまで近づきましたの。ですが……パパのやり方は他人を蹴落としてでも自分を上げるやり方でして、わたくしもパパに恩があってついてきましたわ。でもそれでトップになっても罪悪感と自責に苛まれていますわ。本当にこのやり方が正しいのか、自分の実力ではなくパパの権力に甘えていたのではないか、他人を陥れてでも自分がトップになって恥ずかしくないのか……毎日そう考えるばかりですわ……」
少女が悩みを全部打ち明け、もみじは少女の話を聞いて悲しそうに少女の頭を撫でる。
少女は震えながら涙ぐみ、取り返しのつかないことをしたと自分を責め続けていた。
もみじは少女の震えが収まると立ち上がり、背中で励まそうと言葉を交わす。
「でしたらあなたのやるべきことはもう見つかっているはずです。ですが一人では到底無理でしょう。なので協力者がおそらく必要かもしれません。私には心当たりがなくお力にはなれませんが……あなたが心を入れ替え、そして御父上に謀反を起こして下克上を果たすお姿を私にお見せください」
「もみじ……あなたはお優しいのですわね。こんなわたくしのために……あっ!」
もみじは少女に精一杯のアドバイスと励ましの言葉を託し、少女は勇気が湧いてきたのかベンチから急に立ち上がる。
すると少女の被っていたフードが脱げ、もみじが振り向いた瞬間に意外な人物が姿を現した。
「あなたは……!?」
「はあ、バレてしまわれましたね。そうですわ、わたくしが全ての元凶の高飛車きららですわ。アルコバレーノの桃井さくらを追い詰めて自分がトップに昇りつめましたの。虫のいい事なのはわかっています……わたくしの悩みを聞いてくださり感謝していますわ。許されないことをしたことは承知の上でお願いがありますわ。桃井さくらと……仲良くしてくださいませ」
「ご心配なく、あなたがしてきたことは決して許されるものではありませんが、御父上と自分の気持ちに挟まれ葛藤していたことは間違いありません。ですのであなたの悩める武士道精神に免じて見逃します。ですが……次はございませんことはお伝えします」
「はい、覚悟していますわ。月光花は噂通り、武士道精神を重んじてますわね。わたくしもけじめをつけなければ……」
「高飛車きららさん、あなたは決して一人ではないはずです。誤解を受けて嫌われると思いますが正直な気持ちを全て吐き、今後は罪を背負って償いください」
「感謝しますわ。このご恩は必ず返しますわ」
きららはもみじにお礼を言い、希望を持ってその場を立ち去った。
もみじは少女の正体がきららだとわかると警戒をしたが、今までのきららでは考えられない態度と妖魔力を使って心を少しだけ読んで本音だとわかり、あえて味方として喝を入れた。
もみじはきららと別れてから戻り、収録場所へと向かったのでした。
そして数日後、京都に戻ってすぐに大きなニュースが伝えられる。
『臨時ニュースです! 高飛車財閥の買収問題や賄賂問題、そして悪質な労働環境に八百長問題などが内部告発により、高飛車勝利会長とその妻が逮捕されました! 賠償金は買収された全ての企業や陥れられた個人に各100兆円をも超える金額となっています!』
「あれ? 高飛車財閥って確か……」
「あの武士道に反する悪徳企業でございますね……?」
「でも何で内部告発できたんだろうね? 相当な権力者じゃないと難しいと思うんだ」
「きららさん……ついに行動を成されたのですね……」
「でも私、高飛車きららのこと嫌いだから少しだけホッとしたかな?」
「……。」
高飛車財閥による様々な悪事が内部告発され、超高額の賠償金が被害者全員に支払われるという大きな騒動に見舞われていた。
もみじは内部告発した人がきららだとすぐにわかり、行動を起こしたことに嬉しく思い微笑む。
しかしひまわりはきららの本当の姿を知らないために少しだけもみじをムッとさせてしまい軽めに睨まれる。
「え……? 私何かまずいこと言った?」
「いいえ……やはり皆様はご存じなかったのですね……」
「どういうことだ?」
「実は――」
もみじはきららの誤解と、内部告発した人がきららだと本当のことをすべて話す。
するとひまわりは申し訳なく思い、もみじに深々と頭を下げて謝る。
こうして芸能界は平和になり、高飛車財閥は失脚し月光花も仕事が通りやすくなった。
それから月光花はさらに躍進し、ついにアイドルサマーライブに出演が決定する。
つづく!