白銀雪子の死はアイドル界でも話題になり、月光花も悼辞を送るなどアルコバレーノの様子を気にかけていた。
とくにもみじは紫吹ゆかりの心を気にかけていて、何度も連絡を取り合うほどだった。
それでも月光花はイギリスのロンドンへと旅立ち、飛行機の中で雪子の冥福を祈りアイドルワールドカップに臨む。
「白銀さん、亡くなったんだよね」
「彼女の分まで世界に羽ばたくしかないね」
「私たちにできることはこのくらいしかないからな」
「紫吹さんの様子はどうだった?」
「ゆかりさんのことは確かに心配ですし、白銀さんの死は私もショックです。ですが前を向いて立ち直ることを信じています。彼女は私のライバルですから」
「紫吹さんのことを信じてるんだね」
「それにゆかりさんと約束をしたんです。白銀さんの代わりに世界に羽ばたき、日本をアピールしてほしいと」
「ライバルとの約束はモチベーションになるでございますね」
「そっか……白銀さん、見ててね」
白銀雪子の死は月光花をより心を一つにまとめ、アイドルワールドカップでの優勝を誓い合う。
とくにもみじは紫吹ゆかりとの約束もあり、アイドルワールドカップでの優勝に燃えていた。
プロデューサー見習いから新人プロデューサーとなったひめぎく、マネージャーとなった花柳の妻の花柳千代、そしてメインプロデューサーの花柳も同伴でロンドンに着き、チェックインを済ませる。
すると大勢のロンドンの人たちが月光花を迎え入れた。
「大和撫子の登場だ!」
「こんにちは! おもてなしをします!」
「サムライガールズ!」
「わっ!? すごい人気!」
「ここまで歓迎されるなんて思わなかったでございます……!」
「これが世界の評価なのだな……!」
「皆さん、歓迎されたからこそ堂々としましょうね」
「お千代さん……はい!」
大勢の人々が月光花を熱烈に歓迎し、月光花をイメージした京紫の月が描かれた小さな旗を振っている。
花柳は月光花がここまで歓迎されていることに扇子を仰いで喜びを表した。
ホテルに到着し、早速稽古に励み選曲を決めたり衣装を作ったりして準備を進めていた。
夕食の時間になりホテルで和食を食べていると、意外な人物が駆けつけてくれる。
「皆さま、ごきげんよう」
「「「ごきげんよう、輝夜先輩!」」」
「美月殿、参ってくれたのか」
「はい、後輩たちが世界を席巻する姿を拝見したいと思いまして駆けつけましたわ。世界に選ばれたことで驕りにならないか心配でしたが、逆に自覚を持って燃えているようですわね」
「はい、実は必ず世界を制してみせるとライバルと約束を果たしましたから」
「紅葉さんのライバル……なるほど。彼女の死が皆さんを大きく変えたのですわね。ならば喝を入れる心配はなさそうですわね」
「うむ、彼女たちの情熱は本物だ。おそらくいいところまで行くだろう」
「ふふっ、期待していますわ。皆様の武士道精神、世界中にお広めなさいましょう。ではごきげんよう」
輝夜が応援に駆けつけ、月光花はさらに闘志に火が着いた。
稽古を重ねリハーサルもこなし、ついにアイドルワールドカップが開幕される。
しかし楽屋に花柳の姿がなく、心配ではあったが開演の時間なので探す暇なくステージへ立つ。
「第12回アイドルワールドカップを開催します! 司会はわたくし、マイケル・ジャックが務めます! さあ選ばれし男子の部、女子の部含めアイドルが8組揃いました! 女子の部でアメリカのシングルアクション! 中国のパンダガールズ! イタリアのカテナチオ! そして日本の月光花となっています! 今回のワールドカップを制するのはどのアイドルなのかー!」
マイケル・ジャックというアメリカでも伝説のアイドルが司会を務め、男子の部と女子の部に分かれて世界のトップアイドルを決める大会となる。
出場者によってはソロだったりグループだったりと人数にルールがなく、メンバー登録していれば何人でもいいというもので、最多人数は百人いることもある。
審査員は合計4人で全員辛口なことで有名な人ばかりだった。
フランスのモデル界のレジェンドでモデルの飢餓問題を根本から解決させたセレナ・ラメール。
オーストリアの名門音楽大学の教授でアイドルにも精通しているハンク・ルドルフ。
オランダで唯一の全曲ミリオンヒットを成し遂げた伝説的アイドルのニック・ハーフナー。
そしてまさかの日本から花柳が審査員となり、花柳自身も急なことで驚いていた。
本来はイギリスからジョン・レオンが出るはずだったが前日に急病で倒れ搬送され、困っていたところでニックが花柳を逆指名して審査員に任命した。
「花柳先生が楽屋に来なかったのは審査員に急遽任命されたからなのだな」
「驚いたでございます……」
「世界にも花柳先生って知られてるんだね」
「さすが花柳師匠……」
花柳は世界でも有名なプロデューサーで、何度も海外で和物系アイドルを男女問わずプロデュースした実績があった。
その実績もあったがニックが花柳の大ファンで厳しい審査をすることも知っていて、休憩中に声をかけて審査員に任命させたのだ。
月光花の順番は最後で、大取を務めることとなった。
最初は男子の部が開催され、優勝は韓国のSOUL SHOUTとなり、ハイレベルのパフォーマンスに観客が圧倒された。
後半は女子の部でマイケル・ジャックが気にかけていたシングルアクションというアメリカのアイドルは電子音を中心としたダンスミュージックで、ユーロビートを主に得意としている。
ハイレベルなダンスは男性顔負けで、様々な人種が入り交ざったことによる得意分野がそれぞれ発揮されていた。
パンダガールズは中国でもトップグループで、全員が体操競技の経験者で集められている。
アクロバットなダンスに観客は興奮し、まるでカンフーを見ているような気分となった。
イタリアのカテナチオは最初は堅実なパフォーマンスだったが、後半になると鍵が開いたようにダイナミックで解放感があり、まるで殻から出てきたような明るい曲調でファンを盛り上げた。
最後に月光花の番になり、いつもの掛け声をしてステージに立つ。
「初の世界のステージ、最高に盛り上げるわよ! 日ノ本に咲き誇る花の色! 真夜中に光る美しき月! 月光花!」
「「「いざ参る!」」」」
曲が始まると最初は切ないメロディで春風に吹かれながらの初恋の歌を歌い、二曲目には鬼と呼ばれたサムライが戦にかける思いを曲にしたもので和物で勝負に出る。
そして最後の曲では月光花の最新曲である和風ユーロビートでいつもと違う雰囲気を出す。
歌詞は笑顔こそが心を癒すというテーマで辛い時こそ笑えではなく、楽しいのなら全力で笑い倒れろというもので、あえて幸せだからこそ空気を読まずに笑うことを歌った。
今まで堅実でラブソングや古典をテーマとした堅苦しい曲が多かったが、今回のラストでいい意味で月光花らしくない盛り上がりを見せた。
審査員も立ち上がって踊りだすほどで、ヨーロッパ中のオンライン配信も大熱狂となった。
そしてついに結果発表となった。
「では結果発表をします! アイドルワールドカップを制したのは――」
ティンパニによる強姦亜ドラムロールが鳴り響き、スポットライトがランダムに左右で動き4組のアイドルグループが下を向いて祈っている。
審査員がその場で話し合い、どのアイドルが一番ヨーロッパを盛り上げたかを決める。
話し合いが終わり、グループ名が書かれた札を見せることで優勝を決めるのだ。
「優勝は――月光花です! おめでとうございます!」
「「「わあぁーーーーーーーーっ!」」」
「え……? 本当に世界を制しちゃった……!?」
「やった……やったーっ!」
「白銀さん、見てますか? 私たち、やりましたよ……!」
「ついに成し遂げたのだな! 世界制覇を!」
「はい! 世界にも認められたのでございますね!」
「本当にここまできたんだね……!」
「こらこらみんな! こういう時だからこそお客さんに礼をしましょう!」
「そうでした……!」
優勝したことでみんなが大喜びする中でわかばは喜びつつも理性を保ちファンに感謝を伝えるべく礼をするよう促す。
理性が戻ったはなたちはファンに一礼をして参加したアイドルたちにも敬意を示す礼をする。
するとシングルアクション、パンダガールズ、そしてカテナチオのアイドルたちが握手を交わそうと月光花に近づく。
「勝ってもなお礼を尽くす武士道精神に感銘を受けたよ! 私たちももっとアメリカで礼を尽くしてトップになるよ!」
「噂の武士道精神を持つアイドルは本当でした。このパンダガールズ、もっと精進します」
「私たちが負けたのは悔しいけど、それでもリスペクトをしてくれることに感謝だよ! また一緒にステージに立とうね! チャオ☆」
「皆さんありがとうございます。今後は競い合うのではなく、一緒にライブで盛り上げましょう」
わかばがリーダーとして他のアイドルたちと交流を深め。世界にも認められるアイドルとなった。
優勝トロフィーをわかばが手にし、ひっそりと喜びを分かち合って上へと掲げる。
つばきとすみれは雪子に届けと言わんばかりに天を仰いだ。
帰りの飛行機に乗る前、もみじに電話が届く。
「はい紅葉もみじです。ゆかりさん、急にどうなさいました? はい――本当ですか!? わかりました、皆さんにお伝えします! 皆さん! 白銀雪子さんが生き返りました!」
「何だって!?」
「本当でございますか!?」
「でもよかった……! 白銀さんが無事で……!」
「ですが念のために入院と検査が必要みたいで、もう少し様子を見ることになるとのことです」
「それでも後輩アイドルを失うことにならなくてよかったな」
「手強いライバルとなりそうだね」
「日本に帰ったら白銀さんのお見舞いに行きましょう。そしておかえりって言いましょう」
雪子が生き返り、月光花のアイドルワールドカップの優勝が奇跡を起こしたのかもしれない。
ゆかりと連絡を取り合っていたもみじはとくに喜び、ゆかりとまた競えると燃えていた。
そして日本に帰国し、雪子の見舞いに参加し、日本中に優勝の凱旋をした。
つづく!