妖魔使い・月光花 リメイク   作:赤月暁人

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第51話 イチヒメの試練

 はなはイチヒメによって強欲の罪をどう克服するか試練をする。

 

 イチヒメの視線にはなは少しだけ恐怖を感じ、緊張しながらイチヒメを見る。

 

「これからあなたには強欲の試練を与えます。まずあなたにとって強欲とは何かを答えてもらいます」

 

「私にとっての強欲……?」

 

「はい、人は感情の生き物ですからどうしても欲が出るものです。ですがそれがどんな欲によって罪になるのか、現代の価値観でも構いません、お答えいただければと思います」

 

 イチヒメの質問にはなは困惑し、本来の強欲の答えを出すか自分なりの強欲の罪を答えるかを悩む。

 

 はなは深刻に考えながらどうこたえるのがベストかを考え抜き、ついにはなは口を開く。

 

「えっと……私からは強くは言えませんが、強欲とは自分の欲望によって他人や世の中を壊し、自分の思い通りにさせようとすることかな……?」

 

「例えばどんなことですか?」

 

「それは……お金欲しさに詐欺をしたり、自分の正義を振りかざして他の価値観を悪と決めつけて相手を陥れたりするのも強欲じゃないかなって思います。貧困とか環境が原因になることもありますが、それを乗り越えられずに奪って幸せを得ようとすること、かな……?」

 

「なるほど、回答に感謝します。あなたは今、本来の強欲の罪はどんなものかというのと、自分なりの強欲に対する考え方を混ぜて答えました。普通ならマニュアル通りにしようと伝統的な答えしか言わないものですが、大した思考力です」

 

「そんな、私なんてまだまだ先代たちと比べたら……」

 

「なるほど、あなたは強欲からは程遠い謙虚な性格のようですね。ですがあなたにも必ずあったはずです。利益や見返りを求め、そしてあなた自身が自分だけのために何かを欲したことを」

 

「私が自分だけのために……? あっ……!」

 

 はなは自分が強欲な心を持っていないと最初は思ったが、何かトラブルがあったり人を助けるか迷った時に通報されたり仇を返されたりするのを怖がって行動できなかったことを思い出す。

 

 そう、たとえ自分が不利になってもいい方向に導くことを武士は重んじるのだ。

 

 しかし今は自分の利益のために助けようとした人を陥れたりするなど武士道とは程遠いことを人々がするようになり、はなは気が付けば保身してトラブルから逃げてしまっていたのだ。

 

 はなは自分が悪者になりたくないと考えてしまい、リスクから逃げて自分だけ助かろうとしていたのだ。

 

 いつもトラブルメーカーと言われたひまわりが行動し、人助けを何度も代わりにやってもらったことを思い出し、自分の隠された強欲に気付き涙を流す。

 

「私……自分が不利になるのを嫌がっていつも逃げていたんだ……! 私って強欲な人なのかな……?」

 

「思い出したようですね。そうです、それがあなたの隠された強欲です。強欲とは利益を得ることだけではありません。そしてその事をあなたはもう気付きました。それがどういうことかもうお分かりですね?」

 

「そんな……どうすれば……? うっ……!」

 

 はなは自分の強欲さに自己嫌悪に陥り、胸が苦しくなって魂が罪魔に染まるのを感じた。

 

 イチヒメはため息を吐きながらもはながどう立ち直るかを見守る。

 

 そしてイチヒメはいざとなったらはなを斬ってでも浄化させるつもりだった。

 

 はなは過呼吸状態に陥り、呼吸が整わないまま倒れ込む。

 

「さて、あなたがどうやって強欲を克服するか試させてもらいます。だから顔を上げなさい」

 

「イチヒメさん……私はどうしたら……?」

 

「そうですね……今あそこに女性が苦しそうに倒れています。しかしその人は何度も恩をあだで返しお金を盗んだり悪人扱いする方です。そうと知っていても助けますか?」

 

「やっぱり助けた方がいいのかな……? でも助けたら自分が損をするし……。ひまわりちゃんならどうするかな……?」

 

 はなは悪人とわかっていながらも助けるべきか真剣に考え、そこで損得考えずに助けるひまわりのことを思い出す。

 

 はなは泣きながらも立ち上がり、その場から動かずジッと立ち尽くす。

 

 同時にひまわりとのさりげない会話を思い出す。

 

『もう大丈夫だよ! ほらもうすぐ病院だから頑張って!』

 

『すまないねえ……あんた平安館の子だろう? いつもありがとうねえ……』

 

『へへっ、まあね! おじいちゃんも元気になってね!』

 

 これは中学に入学して間もない頃で、入学式に遅れるとわかっていながらも病気で倒れた高齢の男性を病院に送り出していた時だ。

 

 はなは遅刻するのを怖がっていたが、ひまわりの必死な表情につられて一緒に病院まで送りだす。

 

 そして入学式早々二人で遅刻したことで担任に厳しく られ、はなは反省のあまりに泣きじゃくる。

 

 ひまわりはというと人を助けたのに何で怒られるの? という表情は一切せず後悔していない表情ながら不快にしないよう反省した顔つきで叱られていたのだ。

 

『ひまわりちゃん、どうしてそんなに後悔してない顔をしているの?』

 

『んー、確かに人を助けたのに叱られるのはひどいなあって思うよ。でもそれよよりもあのおじいさんが元気になってくれれば私は後悔しない。それにそこで見捨てたら平安館生として武士道として失格だと思うんだ。それにお天道様はちゃんと見ているって信じてるからね。自分の保身に走るやつが果たして武士道に口出ししていいのかなーって思ったんだ。大丈夫、さっき叱った先生も事情を知れば謝ってくれるよ! それに悪用されて恩を仇で返されたとしてもさ、今はよくても遠い将来に罰が当たることも知ってるからね!』

 

 ひまわりの損得を考えるよりも自分だけでなく他人の幸せを望む考えにはなは感銘を受け、ひまわりのトラブルメーカーぶりに初めてすごいと尊敬した瞬間だった。

 

 それがいつしか日常だと感じるようになってから感動を忘れ、当たり前のようになったことで忘れてしまったのだ。

 

 そして当然、おじいさんが平安館大学の名誉教授で退院後に担任に知らされたことで後に謝罪され成績も感謝状ももらい、ひまわりは武士道を貫いたのだ。

 

 その事を思い出したはなは悪人とわかっていながらも倒れている女性に声をかける。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「はあ……はあ……! 助けて……! でも服を脱がさないで……! その瞬間にアンタは……」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないよ! もしあなたの勝手なワガママで命が失ったら悲しむ人がいるんだよ! 体調悪い時くらいプライドよりも助かることを考えよう、ね?」

 

「……。」

 

「とりあえず救急車を呼んだからもう少し頑張って! そうだ、あなたが触られたとかでトラブルにならないように周りの人たちに証拠として映像を残したからこれであなたが自分のために他人を陥れることはできないよ?」

 

「くっ……! 負けたわ……あなたって人を助けつつも策士なのね。自分のプライドと欲望のために陥れてでも金をむしり取ろうとした自分がバカみたい……。わかったわ、騙そうとした私の負けよ。でもあんた、悪人とわかっていながらもどうして助けようとしたの? 名誉のためかしら?」

 

「それもありますが、もし幼なじみだったらリスクを最小限に抑えつつもちゃんと助けようとしたんじゃないかなって思っただけです。幼なじみは頭の回転が良く、いい意味で自分に正直ですから」

 

「自分に正直を悪用せずか……参った、降参よ! あなたの強欲は消すのではなく、まっすぐに利用して損得よりも自分も周りも幸せにする欲ってわかったわ! 欲を消すのではなく、欲をいい方向に導く。それが今のあなたの克服法、そうでしょ?」

 

「はい、そうです」

 

「イチヒメさま、彼女は強欲を克服しました。これで試練は合格ですか?」

 

「はい、試験管のお勤めご苦労様でした。紹介します、強欲の試練のためにお手伝いしてもらった部下のヒミコです」

 

「そうだったんですね……」

 

 はなはイチヒメの試練にまんまと試され、強欲を消すのではなく強欲さをどうやって活かし、自分のみならず他人も一緒に幸せになるか、リスクがあるなら回避しつつも名誉を重んじて悪人の悪事を止めつつもちゃんと助けるかを学んだ。

 

「強欲とは何も全部が悪いことではありません。助けたい、幸せにしたい、世の中をよくしたいのも強欲の一つです。自分を守りつつ他人も守るのもまた同じ。あなたは強欲を上手くコントロールすることが出来ました。普通の人は悪人とわかっていたら助けるどころか見捨てて逃げ、見殺しにしていたでしょう。それをわかっていながらあなたは助けた。そして悪用されないよう先手も打ち、リスクも同時に回避した。同じ強欲でも誰も不幸にしなかったのが大きいです。春日はなさん、あなたは強欲の試練に合格とします」

 

「ありがとうございます……!」

 

「ではこの扉をお開けなさい。きっと他のヤマタノオロチたちも待っているでしょう」

 

「はい! イチヒメさん! そしてお手伝いさん! ありがとうございました!」

 

 はなは強欲の試練に合格し、お礼を言って扉を開けてくぐる。

 

 そしてはなは吹っ切れた顔をしていて、ひまわりに感謝をする。

 

 ひまわりがお天道様は見ているから悪用しようとした人は必ず天罰が下ることもひまわりは知っていて、いい意味で自分の感情に正直でいたことで強欲をコントロールしていたとはなは実感し、幼なじみは実は頭がいいんじゃないかと思うようになった。

 

 つづく!

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