ひまわりはニノジョウという男によって暴食の間で試練を受ける。
ニノジョウは豪快な性格でおおらかな見た目をしていて、ひまわりにとっては親しみやすい人となる。
「お前さん、日向ひまわりといったな?」
「はい、日向ひまわりです」
「やはり妖魔界や人間界を救っただけあって凛としているのお。さてと、お前さんが受けるのは暴食の試練じゃが、お前さんにとっての暴食とは何か教えてもらおうかの」
「暴食か……あまり深く考えたことなかったな」
「まあ今の日本はご飯が食べれて当たり前じゃけえな。それじゃあそれ故に暴食について考えることもなかろうな。じゃが……世界で見たら西暦時代よりも克服しているとはいえ、まだまだ食について課題が残っておる。ひまわり、お前さんの今の考えをよーく思い出してみい?」
小柄ながらも力士のような風格をしたニノジョウだが、食について深く考えていた人物で、ひまわりは恐れ多くしながら考える。
実際ひまわりは比較的裕福で食事に困ることがなかったので深く考える機会はそこまでなかった。
ひまわりは自分なりの暴食について考え、そしてついに自分なりの答えを出す。
「えっと……ほとんどの人は飢えてる人がいながらも気持ちを考えず食欲に負けて食べつくし、体が壊れても食べ続けることかな……?」
「なるほど、まさしく伝統的な暴食の罪じゃな。確かに暴飲暴食は体を壊すものとわかっていながら人は飢えたりするとついやってしまうものじゃ。物欲にも金欲にもよく似ておる」
「じゃあ強欲にもなるって事?」
「そもそも七つの大罪は単体のみならそこまで大きな罪にはならん。問題は複数の罪が膨大化し積み重なると悪しき欲望へと変わってしまう。正しき欲と悪しき欲は紙一重なんじゃ」
「なるほど……」
「じゃが真の暴食の意味を知るにはあそこに行くのがいいかの」
「あそこって……?」
「この暴食の間は下等六道の一つである餓鬼界に繋がっておる。そこに行って暴食とは何たるかを学ぶとよいぞ」
「わかりました、ついて来ます!」
この暴食の間は餓鬼界へとつながっており、ニノジョウはひまわりをそこへ案内する。
ひまわりは言われるがまま付いていくと、そこには飢えたたくさんの罪魔に近い姿をした人々が苦しんで倒れていた。
それも食べ物を見つけ次第すぐに奪い合いが始まり、飢えをしのごうと必死な姿にひまわりは吐き気を覚える。
気持ち悪そうにしたひまわりを見たニノジョウは心配そうにひまわりを気にして様子を見る。
落ち着いたひまわりは周りを見渡してニノジョウへついていく。
奥へ進むとニノジョウは立ち止まり、ひまわりを突然押し出す。
「うわっ!? 何するのさ!?」
「この餓鬼界がお前さんの試練じゃ。この餓鬼界を脱出するのじゃが、ただ脱出するだけでなく、ワシを見つけて本当の暴食の罪とは何かを答えてみい!」
「ちょっと! ニノジョウさん! ああ、行っちゃった……」
ひまわりはニノジョウに押し出され、餓鬼界に置いていかれて立ち尽くす。
ひまわりは試練を受ける前に食事を済ませていてたまたま満腹だったが、その様子を見て餓鬼たちはひまわりに襲いかかる。
「メシ……メシィーーーッ!」
「オマエヲ……タベタイ!」
「ちょっと! 私は食べ物じゃないってば!」
餓鬼たちに襲われたひまわりは全力で走って逃げ回る。
餓鬼たちは空腹のために力が出ず、すぐに力尽きて倒れ込んでいった。
走り回ったひまわりは次第に空腹になっていき、周りを見渡しても食べ物が全くなく落ち込んだ。
「お腹が空いたなあ……何か食べ物が欲しいけど、この辺にそんなものはないしなあ……」
餓鬼界の食べ物のなさにひまわりは絶望を感じ、いつしか力が出なくなって座り込む。
そして徐々に弱っていき心もだんだん弱気になっていった。
空腹で動くこともできず、ただただ寝込んだまま動けずに時間だけが過ぎていく。
「はな……私、怖いよ……。このまま何も食べれずに飢え死にするのかな……? そっか……これが恵まれない人の飢えなんだ……。食べたい……お腹が空いた……。もう力が出ないの嫌だ……。お母さんの食事が恋しいよお……」
ひまわりは心身ともに弱り果ててしまい、ついにホームシックになって泣きだしてしまう。
そしてだんだん意識が薄れていき、その辺の雑草すらも生えてないので何もかも諦めかけた。
他の餓鬼を見つけると肉を食べたいと思うようになり、餓鬼たちを襲おうとした時に走馬灯が浮かび始める。
『それじゃあ皆さん、全ての命に感謝! いただきます!』
『『『いただきます!』』』
ひまわりが浮かんだ走馬灯に学校の昼食の光景が浮かび、懐かしさのあまりに涙を流した。
そこでははなと楽しそうに会話する自分の姿が浮かび、思い出が美化されて映る。
『はな、留学生の子たちから聞いたんだけどさ。日本人のいただきますとごちそうさまはどこの国にもそんな風習ないんだって』
『そうなんだ』
『日本人の私もよく考えたら不思議に思ってたんだ。どうして日本人は食べる前後に号令をかけるんだろうね』
『うーん、亡くなったおばあちゃんから聞いた話だけど、作ってくれた人へのお礼もあるけど日本は古来から全てのものに神がやっててね、食べられるために犠牲になった命に感謝するのと、幸せに食べられることの感謝の気持ちを表すために食べる前後に感謝を示すんだ。でも現在では食べるのが当たり前で、最近はその号令すらしない家庭もあるらしいよ』
『へえー、そうなんだー』
『それに食べられない人って世界には大勢いるし、今食べられてる日常は当たり前なんかじゃないって私は思うな。だっていつ戦争や災害で食べられなくなるかわからないもん。だから今食事ができることに感謝すれば自分は恵まれてるって感じると思うよ』
『なるほどね、私も食べる前後に感謝するよ!』
ひまわりの走馬灯には幼なじみのはなとのさりげない会話が浮かび、何も食べれなかったが故にこの会話を思い出した。
そしてひまわりはニノジョウの試練の答えを考えるようになる。
(そっか……私もすっかり忘れてた……。食事できることは当たり前なんかじゃない……。だからこそ食べられることに感謝をしているんだった……。楽に安全に毎日食事ができるからって感謝を忘れるなんて私はまだまだ甘いなあ……。ああそうか……食事ができる日常と失った命への感謝を忘れることが……それならっ!)
ひまわりはついに暴食の罪についての答えを見つけ、空腹だったことを忘れてニノジョウのところへ向かう。
すると胸から白い魂が浮かび、光が一直線となる。
そこに向かうとニノジョウが堂々と待ち構えていた。
「おお! お前さんなら戻ってくると信じていたぞ! さすが現代のヤマタノオロチじゃな!」
「ニノジョウさん! お腹が空いたので食事をください!」
「まあまあそう焦るでないわ! 食事ならここにあるけえ、どんどん食え!」
ひまわりはニノジョウのいるゴールへたどり着き、空腹であることを全力でアピールする。
そんなニノジョウはひまわりが飢えているとわかってて食事を振る舞う。
ひまわりは食事に真っ先に向かうだろうとニノジョウは考えていたが、ひまわりの取った行動にニノジョウは驚く。
「ん、どうした? はよ食わんかい! それとも食事を粗末にするんか?」
「ニノジョウさん、私は考えました。私は恵まれすぎて食べられる日常への感謝を忘れていたんだって。作ってくれた人へのお礼だけではなく、それによって失われた命もあるんだって。だからこんな号令があるってようやくわかった。ニノジョウさん、これが私の答えです、聞いてください」
ひまわりの覚悟を決めた答えにニノジョウは唾を飲み込み、ひまわりを心配そうに見つめる。
しかしひまわりは空腹のはずなのに食事に手を付ける前に手を合わせて合掌をする。
「全ての命に、食事ができる幸福に感謝して……いただきます!」
ひまわりがごく普通の号令をかけると、ニノジョウは衝撃を受けてひまわりを見つめる。
普通の人が空腹なら我慢できずにがっついて食べるのだが、感謝の気持ちでいっぱいのひまわりはゆっくり味わうように幸せそうな顔で食事を食べる。
「ふう、ニノジョウさん……おいしいご馳走をありがとう! ごちそうさまでした!」
「なるほど……当たり前の小さなことに最高の感謝を忘れて感情的に食べてしまうことがお前さんなりの暴食ということか」
「はい、伝統的なむさぼり食べるだけではなく、命や日常への感謝を忘れ、なんとなく食べたり捨てたり残したりして粗末にしたらダメだってわかりました。これはおそらく傲慢や強欲にも通ずるものかと思います」
ひまわりのベストな答えにニノジョウはさらに感銘を受け、そして額に手を置いて急に笑い出す。
「かーっかっか! お前さんの新たな価値観、ワシは気に入った! よし、お前さんは暴食の罪を克服したんじゃ! よってお前さんを合格とする!」
「ニノジョウさん、改めて日常への感謝を思い出させてくれてありがとうございます!」
「餓鬼界に置いていったワシを許すとは……試練とはいえすまんかったな。さあこの扉を開けてくぐるといい。お前さんの仲間たちも待っておろう」
「はい! ニノジョウさんお元気で!」
暴食の罪を克服したひまわりは扉をくぐり、ニノジョウと別れる。
そしてひまわりは餓鬼の気持ちを知った上で今後は食事に対して今後は強い感謝を込められるだろう。
つづく!