傲慢の間にいるすみれはシロウという男から傲慢の試練を受けることになり、すみれは唾をゴクリと飲む。
見た目は田舎っぽさがあるがどこか現代的で、坊主頭で無精ヒゲを生やしながらも親しみやすさが残る見た目ですみれを安心させていた。
それでも圧がすごいと感じたすみれは緊張のあまりに身構え、シロウはため息を吐きながら肩をポンと叩く。
「お前さん、随分緊張してるだな。無理もねえ、八咫山にいたはずなのに急にこげなとこにいたんだもの」
「えっと、私はこれから何をすればいいのでしょうか……?」
「そう慌てるでねえ、お前さんの今までの人生を少しだけ聞かせてくんろ」
「私のですか……? そうですね、私は時代劇俳優の娘で昔から時代劇や歌舞伎など演劇に携わってきました。そして小さい頃に父に連れてってもらったサッカースタジアムでサッカーにハマり、女子サッカー部に入りました」
「ふむふむ、それでお前さんは男子にはモテたんか?」
「いいえ、男性にはモテるどころか私が男性に間違われたことがよくあります」
「そうだったかあ、確かにお前さんは男前って感じだよ」
「ですがファンクラブの後輩の女の子たちにはすごく慕われています。女子には告白されるのですが、私としては恋愛はよくわからなくて断っているんです」
「ありゃまあ恋愛がわからないの。年頃にしては珍しいだよ」
「今は月光花という最高の仲間に恵まれ、仲間と共に過ごす日々が楽しくて仕方がないんです。こうして私がここにいるのも仲間たちのおかげです。私が応援されるのもみんながいたからだと思ってます」
すみれは今までの自分の人生を振り返り、支えてくれた仲間たちの尊さを知っているとシロウに語る。
シロウは腕を組みながら頷き、すみれの人生の話を真剣に聞く。
するとシロウは突然腕をほどき、すみれの周りをウロウロし始める。
「月光花の仲間って言っただな?」
「はい、私にとっては最高の仲間です」
「どうやら仲間たちや恩師にはちゃんと感謝を示しているようだな。傲慢とは感謝を忘れ自分は偉いと思い込み、何でも好き放題してしまう恐ろしい罪だよ。人は権力を持つと急に性格が変わり、自分を大きく見せようとして偉そうになったり弱者を見捨てて自分だけ助かろうとする。現代で言えばパワハラやイジメだっただか? そういうことをするのも自分より弱いと決めつけ自分を強く見せようとする傲慢さが生む罪だよ」
「知ってます。自分が優れているって思い込んで他人を見下したり、弱いと思い込んで舐めてかかるのも傲慢だと授業でも習いました」
「お前さんの学び舎は武士道精神にも精通してて安心しただよ。だがな……お前さんはファンクラブを持ってると言っただな?」
「はい、ファンクラブは私が作ったわけではありませんが……何かありましたか?」
「自分が作ったわけではないか……じゃあ何か、お前さんではない何者かが勝手に作った組織ということだか?」
「そ、その言い方はあまり……」
「違うだか? お前さんは本当は勝手に作られて迷惑してるんでねえか? そして作ってもらったことでどこかで自分は特別だと思い込んだりしてねえか?」
「それは――」
シロウは徐々にすみれを問い詰めるように責め続け、すみれは最初こそ自信ありげに答えていたが徐々に自信を失って言葉に詰まるようになる。
さらにすみれは仲間たちに感謝を示しつつも、どこかで仲間たちを見下していたのではないかと思い込むようになり、だんだんと自己嫌悪に陥ってしまった。
シロウの問い詰めによってすみれはついに無言でうつむき、全身を震わせて悔しそうに固まってしまう。
「そういえば私は小さいころから女子にモテていて、時代劇俳優の子としてアイドルデビューしたときから注目を浴びていたっけ……。ファンクラブの子たちからも持ち上げられ、最初からマスコミにチヤホヤされていたことで自分は特別なんだと思い込んでいたのかもしれないね……。私は実は小心者なのかな……?」
すみれの魂は徐々に罪魔に侵され、激しい頭痛が襲いかかってうずくまってしまう。
人は人気者になったり権力を持ったりすると自分は特別なんだと錯覚を起こし、報われなかった人をどこかで見下して努力不足と切り捨てたり、支えてくれた人に感謝どころか仇で返し恩を忘れたりとしてしまうくらい心が弱い。
すみれもまた完璧ではなく心の弱さがシロウによって明かされたのだ。
「私って実はいない方がよかったのかな……」
いつも冷静で大人の雰囲気があるすみれも弱気になったあまりに小さくなり、自分の存在をなかったことにしたいとまで思うようになる。
そしてだんだん死にたくなってきたが、すみれは先輩である美月輝夜との会話をふと思い出す。
ここはすみれが舞台にデビューした時のことで、輝夜が先輩として共演し後悔稽古をしていた。
『輝夜先輩、お疲れさまでした』
『ええ、お疲れ様ですわ』
『輝夜先輩はすごいですね。これだけ応援されてもなお堂々としつつも謙虚でいられるなんて。かつて和物アイドルのレジェンドと呼ばれても初心を忘れないなんて……。私も学校にファンクラブがいるのですが、まだまだですね』
『ふふっ、ありがたきお言葉ですわ。すみれさんは学校で女学生たちにモテモテでしたわね』
『はい、代わりに男子学生にはあまり行為を抱かれませんが』
『なるほど、それですみれさんはファンクラブの子たちをどう思っているんですの?』
『私にとってのファンクラブの子ですか? そうですね……私のことを応援してくれるのは素直に嬉しいです。好きでいてくれることもとても励みになります。ですが……私は何もしていないのでいつかは飽きられるのではないかと思うと怖くもあります』
すみれはファンクラブの女の子たちにモテモテではあるが、自分は何も返せていないからいつかは飽きられるのではないかという恐怖を感じていた。
応援されることの喜びを感じていたが、同時に離れられてしまう不安もありどうすればいいのかわからなかった。
すると輝夜はすみれの肩に寄り添い、励ましの言葉を交わす。
『すみれさん、応援されることはアイドルとしては確かに当たり前のことかもしれませんわ。ファンクラブの子たちがいるのだから応援されて当然かもしれません。ですが普通の人はどんなに頑張っても応援してくださる人はほんの数人のみです。支援してくださる方もそういないでしょう。自分自身がどんなに格が高くなったとしても応援されること、支援されることは実は当たり前なんかではなく、とても特別な事なのですわ』
『応援されることが特別な事……?』
『ええ、人が何かをする時に必ず一人は応援してくださるでしょう? そしてそれが励みになり人は努力をする。私もレジェンドと呼ばれて長くなりますが、ファンの皆様は宝物と思っていて、今でもお返事を忘れたことはありませんわ。チヤホヤされたくらいで自分は特別と思っていてはその程度の器。応援される事、助けられる事、支えてくださる事は本当にその人のことを想っているからこそ成せることですの。ですからチヤホヤされてる時こそ特別なことだと感じて感謝を示し、謙虚な態度で自信を持つことですわ』
輝夜との会話が頭に浮かび、すみれは罪魔一族を倒してからよりファンクラブに応援されるようになったことで応援されることへの感謝を忘れてしまっていたことを深く反省し涙を流す。
そして自分だけが特別ではなく、誰でも特別な存在であることを知ったすみれは吹っ切れたのか涙を引っ込めて立ち上がる。
「そうだ……私だけでなく誰だって誰かにとって特別な存在なんだ……。応援されることは当たり前ではなく、実は特別なことで本気で想ってくれるからこそ応援されるんだね……。そんなことを忘れていた自分が恥ずかしいや……。シロウさん、私……ようやく気付きました。自信を持ちつつも謙虚な心で周りに感謝をすることが傲慢を乗り越えるのですね」
「ほう……?」
「そして私は仲間たちと共にザイマノミコを討伐し、ファンクラブの子たちに本当の感謝を伝えます。最高の仲間たちと共にね」
すみれの心は自身に溢れつつも謙虚な姿勢を保っていて、シロウを大きく驚かせる。
するとすみれは後ろを振り向き、目を瞑って何かを伝えようとしている。
(ファンクラブのみんな、今はザイマノミコが学校に現れて不安だと思う。でも大丈夫、私や月光花の仲間たちと共にザイマノミコを討伐し、本当の平和を取り戻してみせる。それまで私のことを信じ、見守ってほしい。君たちが全員無事でいてくれることを私は信じているよ。だから君たちに……ありがとう、これからもよろしくねと伝えるよ。幸運を――)
「うおっ!?」
すみれは心でファンクラブの子たちに感謝を示すと胸から黒い稲妻が発生し、藤色の霧がすみれの体を包み込んだ。
するとすみれから無限のパワーがみなぎり、シロウはすみれの急成長を喜んだ。
「大した成長力だな。自信と謙虚の両立、支えてくれる人への感謝。その心がお前さんの魂を強くしただよ」
「はい、シロウさんの試練のおかげで私はまた成長しました。ご指導ありがとうございました」
「うむ、ではお前さんを傲慢の試練から合格とするだよ。この扉を開けて元の場所へ戻るといいだよ」
「はい、ありがとうございました」
すみれは傲慢の試練を突破し、扉を開けて潜り抜ける。
どんなに成長し大きくなっても謙虚な心を忘れず、今までもこれからも支えてくれる人へ感謝をすることで傲慢さが克服され、大きな自信を持つことが出来た。
同時に自分も他の誰かも特別な存在だと認識し、これからはもっと対等に人と接しようと決めたのだった。
つづく!