わかばはヤマトタケルという男性と出会い、嫉妬の試練を受けることとなる。
嫉妬というのは誰もが味わう感情で、誰かが自分より上だと負けたくないと思い頑張ることがよいこととされているが実際にはそうはいかないのが嫉妬の難しさだ。
文学を嗜んできたわかばにとって嫉妬というのは複雑ながらもシンプルであると考えていて、試練を試すには丁度いいタイミングだった。
「ここは嫉妬の間だが、嫉妬など誰もが感じる自然な感情であり、誰もが乗り越えなければならない難しいものだよ。それは文学を嗜む君にならわかるはずだよ」
「はい、誰だって自分より上の実力を持つ者に対して負けたくない、あの人よりは上でなければと向上心を高められるならいい嫉妬となるでしょう。ですが負けを認めたくないからと他人を蹴落としたり名誉を傷つけたりすることが最近増えている気がします。陰口やネットの誹謗中傷、名誉棄損も原因はおそらくほとんどが嫉妬でしょう」
「君は鋭いね、ここまで大罪を理論的に説明できるのは君が初めてだよ。他にも他人の生き方ややり方に干渉するのも嫉妬の一つでね、嫉妬単体なら弱いが他の大罪が重なることで過干渉になり相手を縛って人生を狂わせてしまうんだ。さらにそれを嫉妬と指摘すれば図星を突かれたことで怒り狂い、嫉妬することを認めなければより嫉妬の罪を重くするんだよ」
「確かに幸せな人に悪口を言っている人たちって嫉妬が多いですね。自分が不幸なのはあいつのせいだ、自分が恵まれないのにあいつは恵まれてムカつく、そういった嫉妬って結構身近に感じます」
「君の場合はそうだろうね。とくに仲間に対して嫉妬する君はね」
「私が嫉妬……? そうかもしれません……。私がリーダーとして完璧にならなければならないのに、どうして私はこうも上手くいかないのか……。他のみんなはそれぞれ上手くいっているのに私だけ……」
わかばは完璧主義なところがあり、自分はリーダーとして完璧に仕事をこなさなければと重圧を感じていた。
それと同時に上手くいかないことに苛立ち、個性豊かな仲間たちが自分よりも上手くいっていることに無意識に嫉妬をしていたのだ。
するとわかばの足元に大きな穴が開き、わかばは下へと落ちていった。
「きゃあぁーーーーっ!」
「嫉妬の地獄に落ちたか……。ここからどう這い上がるか試させてもらおう」
ヤマトタケルはわかばが穴に落ちたのをあえて何もせず見る。
わかばはまるで底なしの地獄に落ちている感覚に陥り、自分はこのままダメになるんじゃないかという恐怖から考えるのをやめ始める。
しかし考えるのをやめようとするほど自分の惨めさに嫌気がさすようになり、徐々にわかばの血相は変わっていき、次第に憤怒の感情まで湧き上がってしまった。
「どうして私だけそんなに不器用なの……! みんなは上手くいってるのに私は……!」
嫉妬のあまりに仲間に対して怒りを感じ、同時に自分自身が嫌いになっていく。
それでもまだ落下を続け、底なしなので永遠に落ちるんじゃないかと思われた。
そんな時にわかばの頭に走馬灯が浮かんでくる。
それはアイドルサマーライブのリハーサルの時の事だった。
わかばは仲間たちの急成長に焦りを感じていた時、つばきに相談しながら楽屋を移動していた時の会話を聞いていた。
はな、ひまわり、すみれの同級生たちのさりげない会話が楽屋から聞こえてきて、わかばとつばきはそれを聞く。
『ねえ二人とも、つばきとわかばってどう思う?』
『急だね、どうしたんだい?』
『るりは最年長ながらすごく優しそうだけど、つばきとわかばって最初に会った時に二人揃って少しだけ怖い雰囲気あるじゃん。だからどんなイメージを持っているかなって知りたくなっちゃった』
(ひまわり、後で覚えてなさい……!)
(やはり私は怖い印象を最初は抱かれていたのだな)
ひまわりはさらっとわかばとつばきが第一印象を怖い印象を抱いていたことを知り、わかばは少しだけ鬼のような顔をしてひまわりを睨む。
つばきは自覚があったのか残念そうにため息を吐く。
するとはなとすみれから発した言葉に二人は励まされる。
『私は……確かに最初はちょっと怖いなって思ったけど、つばきさんはすごく柔軟で優しいし、わかばさんは厳しいけどちゃんと不愉快にならないように気を使えるし、リーダーとして誰もやりたがらないことを率先してやれるのすごいって思う。私は怖いからって責任から逃げちゃうし、わかばさんは責任感も強くリーダーシップもあってすごいって思うな。私はわかばさんがリーダーでよかったって思う』
『私もはな君と同じだよ。つばきは気遣い上手で優しいし、クイズ番組ではおいしいところを持っていこうとしてわざと間違えるお茶目さもあるからね。一方のわかばは完璧主義的で頑固なところもあるけど、よく言えばそれだけ計画性があって信念が強いってことだと思う。それにリーダーっていうのはよく嫌われる勇気がないと務まらないと言うだろう? そんな役を自ら買って出る勇気は私にもなかったんだ。だから私はわかばのこと大好きだよ』
『ひまわりちゃんはどう思う?』
『私はね、最初は二人のことを怖くて大丈夫かなって思ってた。でも実際話してみたら全然違ってた。つばきはサブリーダーに向いているし、わかばもリーダーというすごい役割を果たしていて尊敬する。注意が厳しいのは今もちょっと怖いけど、それほど私に関心があるってことだから嫌じゃないなあ。完全に無視されちゃったらいじめどころか無関心って事だし嫌われるより怖いもん。だから私はつばきもわかばも大好きだよ』
(みんな……)
『わかば、君は自分を完璧主義で頑固者だから嫌われてると前に相談してきたが、君はそれでも弱音を吐かずに自分を曲げずリーダーを全うしてくれたじゃないか。私でさえできなかったことだし、私からすればわかばのように責任感が強く真面目で計画を立てられ、みんなのことを理解しようと努力する君が羨ましいよ。私もそんなわかばが大好きだ、これからも親友としてよろしく頼む。それと……るりが最年長でありながらわかばを頼りにしていると言っていた。ひめぎくもプロデューサーとしてわかばと話しやすいし、真面目同士気が合うと話していた。君は私たちを羨ましがっていたが、私たちもまたわかばを羨ましいって思うんだ。それぞれ弱点は絶対にあるし、克服しようとしてないものねだりを人間はするものだが、今あるもので一生勝負するのが人間の生き方じゃないかな?』
『そうね……ありがとうつばき。それに……ひまわりたちもありがとう。ないものねだりでみんなに嫉妬した自分が恥ずかしいわ』
『嫉妬は誰にでもある感情だから無理して消す必要はない。大事なのは弱い過去の自分にだけは負けたくない、誰に負けても自分には自分の武器があるってことを知ることが嫉妬の克服法だと思うぞ』
(そっか……私はみんなのいいところを見て自分は惨めで頑固でダメだと思い込んでいたのね……。嫉妬はないものねだりによって起きるって本当だったんだわ。今の私はこんなに素晴らしい仲間に恵まれ、私を慕ってくれる仲間たちもいる。そんな大事なことに気付けて良かったわ。だから私は……自分だけの武器で自分を成長させてみせる!)
わかばはつばきの励ましの言葉を思い出し、自分にないものにすがって怒りを他人に向けることの愚かさ、そして自分の今持っている武器で一生勝負を挑み続けることの大切さを思い出す。
その瞬間にわかばから黒いカラスの翼が生え、奈落の底から這い上がるように飛んでいった。
猛スピードで這い上がり、気が付けば穴から脱出していた。
「えっ!? あの奈落の底から這い上がれた者が現れた!?」
ヤマトタケルもわかばの急上昇に驚き、上を見上げて腰を下ろす。
わかばは上昇しきったところでヤマトタケルの目の前にゆっくり着地する。
「その顔は嫉妬の感情を乗り越えたんだね?」
「はい。確かに私は融通が利かない頑固者で完璧主義的なところがあります。だからこそ完璧にならなきゃと勝手に焦り、成長していく仲間たちから置いてけぼりにされる不安から仲間たちに嫉妬していました。でも違う……仲間たちは私のことを慕ってくれて私にしかないものを羨ましがってくれました。だからこそ私は私にしか出来ない事をこなすだけと気付きました。本当に仲間って最高ですね」
「その通りだよ。嫉妬というのはいい方向に使えば自分を高めるための向上心にもなるし、自己鍛錬のきっかけにもなり怠惰の罪をも跳ね返せる。大事なのは嫉妬の使い方を間違わなければいいんだよ。その事に気付けた人間はそうそういないんだ。常盤わかば、君を嫉妬の試練を合格したことを認めます。どうかザイマノミコとの因縁を断ち切り、洗脳を乗り越えてほしい」
「はい、ヤマトタケルさんの御教えを守ります」
「ではこの扉をくぐり、八咫山に戻りなさい。君の大切な仲間たちが君の帰りを待っているよ。そして仲間たちと切磋琢磨し、自分だけの武器で自分の魅力を上げてください」
「はい、ありがとうございました!」
わかばはスッキリした顔で扉をくぐり、嫉妬の間を後にする。
ヤマトタケルはわかばを見送った後に黒い煙と共に消え去り、わかばは振り向くことなく去っていった。
残るは色欲の間にいるるりと、謎の間にいるひめぎくのみだ
つづく!