色欲の間ににてイザナミという女性から試練を課せられ、るりは色欲について考えることになる。
しかし色欲といっても動物どころか植物にも子孫を残すという役目がある以上仕方のない感情で、どうして色欲が罪になるのか普通の人にはわかりづらいだろう。
それでもるりに色欲の罪をイザナミは試しているのだ。
「るりさん、色欲の罪をご存じでしょうか?」
「存じ上げているでございます。ですが人によっては答えが変わるものだと思うのでございます。ほとんどの人が性欲は悪しきものだと説くでございますが、わたくしには性欲が悪いものとは思えないのでございます」
「なるほど、それは何故でしょうか」
「そもそも色欲と性欲は別物で、性欲は子孫を残したい、子孫を繫栄させたいという感情で、生物なら自然な感情なのでございます。しかしそれはお互いの愛があってこそで動物たちもそれは同じでございます。逆に歪んだ愛や快楽だけの性欲に溺れ、異性同性問わず己の快楽だけで相手を不幸にするほどの不純行為は色欲に値するものでございます。いわば暴行や監禁、望まぬ妊娠も含めるのでございます」
「なるほど、性欲の使い方を誤れば色欲に値するということですね。並の人間ならそこまでの答えを出すのは難しいでしょう。でもあなたにはまだ答えがありますね?」
「はい、例えば自分の快楽を利用して異性と不純行為をしておきながら嘘をついてまでやらされたと相手を不幸に陥れ、金銭を奪い取ったり名誉を棄損させる行為も色欲の罪でございます。ですがそれは強欲や傲慢、怠惰なども重なればより重くなると存じているのでございます」
「確かにこの現代では殿方だけでなく婦人でさえも自分の欲のために他人を不幸に陥れているのは事実です。あなたの指摘通り、今や性差別も激しくもはや平等どころか対等になろうともしないのも現代の色欲とも言えるでしょう」
「さらに現代で言えば最近は愛を知らずに育ってしまい、人の愛情に飢え愛されたい、認めてほしいがために過激な言動をするのもインターネットで増加しているのでございます。これは承認欲求というものでございますか?」
「そこまで考えられる人間は初めてです。確かに承認欲求は普通なら色欲とは別物だと思う者も多いでしょう。ですが色欲はそもそも他人がいなければ成立しない罪で、誰かに愛されたい、みんなに認めてほしい、そのためなら悪いことをしてでも目立ちたい。そんな人との悪いつながりを求めるのも現代の色欲ともいえるでしょう。あなたの考えていることは正しい。きっと学校に恵まれているのでしょうね」
イザナミはるりの教育環境や恩師に恵まれていると褒め称え、るりは照れくさそうに視線を下に向ける。
しかしイザナミは急に厳しい顔つきになり、るりの胸に手を当てる。
「しかしあなたはそうだとわかっておきながら心の中では強く認めてほしい気持ちが強いようですね。仲間の気持ちを無視してまでこのような気持ちに陥るとは色欲の罪に吞まれている証拠です。まずは自分の胸に聞いてみるのがいいでしょう」
「自分の胸に……そういえばわたくしが最年長でございましたね。ですが皆さん、わかばさんやつばきさんに頼っていましたがわたくしは……? 皆さんにお声をかけているのに皆さんどこか遠慮がちで誰も相談に乗ってくださらないのでございますね……。わたくしって最年長でしっかりしなければならないのに……」
るりは今までの自分の行動を見直し、リーダーのわかばやサブリーダーのつばきに頼りきりで、自分自身を頼ることがないことを痛感する。
そして今までお姉さんとしてまとめ役をしていたのだが母性に溢れているが厳しさに欠けているせいか空回りしていて、どこかみんな遠慮しがちで避けられていると感じていたようだ。
るりは途端に寂しくなってしまい、大粒の涙をこぼしてシクシクと泣いてしまう。
イザナミはるりを突き放すことなく後ろから抱きしめて励ますも、るりの魂は次第に黒くなり罪魔の姿に近づいていく。
「思い出しなさい、あなたが仲間になにをしてあげられたか。そして仲間たちの本当の気持ちに寄り添えていたかを」
「仲間の気持ち……はっ……!?」
イザナミの励ましにるりは思い出し、走馬灯のように思い出を蘇らせる。
ここはオーディション直後、月光花が最初に全員集まって花柳を待っている時のことだ。
真面目なわかば、礼儀正しいもみじ、緊張しやすいはなが硬くなっているところにるりが声をかける。
『皆さま、花柳さまは皆さまの実力を認め選ばれたのでございます。だから皆さまは自信を持って学校で習った礼節の本番に挑むだけと考えるのでございます。大丈夫でございます、皆さまは立派な武士道精神を持ちでございますから自分を信じましょう』
こうして固くなったメンバーを励まし、緊張はほぐれて笑顔が戻ったのだ。
次にひまわりが珍しくつばきに叱られ、すみれがどう対応していいか困っていたところだった。
それは余計なアドリブでスタジオを困らせてしまい、生放送じゃないことが救いだったとつばきからお りがありひまわりは沈むくらい反省をした時だ。
そんな時にるりが間に入り三人をなだめる。
『ひまわりさんは確かに空気を読むことに失敗をしましたが、失敗は成功のきっかけにもなるのでございます。つばきさんはきっとそれをわかっているのでございますから、きちんと反省をして次につなげるのでございますよ?』
『すみませんでした……』
『すみませんるりさん、あまり厳しすぎないように叱ったつもりですが私の口調では怖がらせてしまうみたいで……』
『先輩として当然のことをなさったまででございます。ですが後でひまわりさんには励ましの言葉を与えるのでございますよ?』
『はい、そうします』
『すごい……るりさんは大人びていて私には見守ることしかできなかった……。同級生として何もできなかった自分が恥ずかしいよ』
『そんなことはございません。すみれさんは気遣い上手であることは承知しているのでございます。ですが時には厳しくするのも親友というものでございますよ』
『確かに優しくひまわりくんに反省を促するりさんはすごいと思いました。私も優しくするだけではないことを学びました、ありがとうございます』
るりは何度も仲間のトラブルを優しく、時には言い方こそ優しいが厳しさも兼ね備えた言葉がけで仲間たちを励まし、時には喝を入れるなどわかばやつばきとは違ったリーダー像をしていた。
完璧主義できちんとするわかば、柔軟ながらも礼節を大事にするつばき、そして優しく受け止め重要なことに気付かせてくれるるりとバランスのいい先輩たちとなっていた。
そんな時、つばきとわかば、そしてはなのある会話が聞こえる。
『あのっ! るり先輩って優しくてすごいですね……。私みたいな自信のない人にまで優しくて……すごく嬉しかったんです。どうしてるり先輩はそんなに優しいのですか?』
『私はどうしてもしっかりしない時が済まない融通が利かない人だから、るり先輩の優しく柔軟で受け入れる母性が羨ましいの。つばきも口調と雰囲気のせいで誤解されやすくてるり先輩に相談したこともあったのよ』
『そうなんですか?』
『ああ、るり先輩はまるで月光花の姉上、いや母上のように優しく見守り、時に厳しく導いてくださる先輩だ。私のように注意する時に優しくしようとも口調や雰囲気で怖がられ話が入らないって言われたことにショックを受けたと話したこともあるんだ。だがるり先輩は私の個性を受け入れてくれる器の大きい方だよ』
『そうでしたか……私、るり先輩が最年長でよかったと思います』
『きっとみんなもそうだと思うぞ。これからも頼りにさせてもらおうかな』
『ええ、るり先輩は頼れるお姉さんだわ。るり先輩がいなければ私たちは早期解散だったわ。るり先輩に感謝ね。でもあまり困らせないよう自分たちで解決することも大事だからいざという時だけにしましょう。るり先輩一人に背負わせるといつかは壊れてしまうもの、みんなで支え合い頼り合いましょう』
『皆さま……』
るりは仲間たちとの絆を確かに感じ、るり一人に背負わせて壊れることを防ぐために自分でできることは自分でする、そしていざという時に助け合い支え合うことで心の繋がりにるりは気付いた。
するとるりは心が温かくなり、ちゃんとみんな自分を頼ってくれて認めてくれている、仲間たちの気持ちに気付いたことで承認欲求は小さくなる。
「そうでございました……。愛というのは自分から与え、そして真正面から受け取ればちゃんと認めてもらうのでございますね……。自分の価値は自分で決め、そして他人に全てを委ねず向き合えば……色欲も怖くないのでございますね! わたくしは一人なんかじゃない! 皆さまとの心の繋がりこそが愛なのでございます!」
「わっ!? ここまで色欲を乗り越えられるだなんて!?」
るりの胸から流水が流れ、イザナミをも飲み込むほど激しく溢れていった。
しかし溺れることも流されることもなく、心地よくずっとここにいたいと思わせるほど温かく、そして抱きしめられるような感覚になる。
るりは完全復活し、イザナミは顔を上げて励ます。
「そう、歪んだ愛情や承認欲求ではなく、人とのつながりに感謝し、他人に全てを委ねず自武運の価値は自分で決める強さと優しさこそが色欲の克服法だよ。性的に溺れる理由のほとんどが寂しさによる承認欲求の暴走であること。そのことを忘れないでください」
「かしこまりました、寂しさに支配されず心のつながりを大切にするでございます」
「色欲の間はこれで合格です。この扉をくぐって八咫山に戻り、仲間たちと合流してください。どうかザイマノミコを討伐してください」
「はい! ありがとうございました!」
るりは色欲の試練を突破し満面の笑みで扉をくぐる。
最高鵜の仲間たちが待つ八咫山へ全力で走り、感謝を込めて去っていった。
つづく!