妖魔使い・月光花 リメイク   作:赤月暁人

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第58話 八つ目の大罪

 ひめぎくは暗闇の中をさまよい、アマテラスという女性の声に導かれて前に進む。

 

 すると急に目の前が黄金に光りだし、ひめぎくの目をくらませる。

 

 そこにポニーテールの美しい女性が待ち構えていた。

 

「あなたがアマテラスさんですか?」

 

「いかにも私がアマテラスだ。汝に会えて光栄だぞ」

 

「私も初代ヤマタノオロチのリーダーにあえて嬉しいです。それで隠し試練の間と仰いましたがどういうことですか?」

 

「ふむ、やはり現代では七つの大罪のみしか知らされていないか。長き時を経て一部省略されてしまったのだろうな。ならば汝に問おう、七つの大罪とはどういう時に起こると思う?」

 

「人間の欲望が暴走したときに起こると思います。どれも生きていれば必ず起こることで本能的なものですが、七つの大罪は世や人を不幸にするだけでなく己の快楽に溺れた時に初めて大罪となると思います」

 

「ふむ、回答に感謝する。汝の答えは正しいが、まだまだ真理には到達していないようだ。七つの大罪は感情的なもので生きていれば誰にでもあるものだが、それらはコントロールすることが可能だ。だがもしコントロールできないほど窮地に追い込まれ、失うものがなくなったら人間はどうなるか存じているか?」

 

「窮地に追い込まれ失うものがなくなった時……ですか?」

 

 アマテラスの問いにひめぎくは困り果てる。

 

 今まで七つの大罪という七つの感情的な罪しか学校で教わっておらず、隠れた試練というのもあって他に何かあるのかと考え込む。

 

「もしかして無敵の人ってことですか?」

 

「現代で言えばそうだな。つまり失うものがなくなれば人間は判断力が鈍り、武士道を持ってしても無効化されてしまう最悪な大罪だ。それは――自棄だ」

 

「自棄……なるほど、確かにそんな状態になれば大罪を犯すのもためらいはなくなりますね」

 

「今までテロや犯罪、戦争での虐殺も失うものがない人間が犯した罪だ。実際に目を見ればわかるが血迷っているのがわかるだろう」

 

「はい、言われてみれば血迷って判断が出来なくなっていました」

 

「そこで汝にはかつて人間が自棄に支配され、自らを滅ぼしかけた過去を見せよう。非常に残酷だから心して見るがいい」

 

 アマテラスはひめぎくの目の前で手のひらを広げ、ひめぎくに西暦時代に起きた出来事を見せる。

 

 ひめぎくは真剣に過去の様子を見ていて、アマテラスは残酷な過去に自棄にならないか心配しつつも見せ続ける。

 

 そこには世界中を巻き込んだ戦争で、一般人すらも略奪や強姦、腐敗と無法、そして暴力によって支配されていた。

 

 そこには武士道どころか道徳心のかけらもなく、ただ自分が生き残るのに必死で悪事を働いても悪びれることがない人間たちの姿だった。

 

『どけ! これは俺のだ!』

 

『ふざけるな! 俺が権力者だぞ!』

 

『私の縄張りに入らないで! 殺すわよ!』

 

『おらあ! 汚物は消毒だぁー!』

 

「これがかつて人間たちが選んだ未来なの……!? どうして……!?」

 

 西暦時代最後の時代には戦争によって何もかもを失い、核やウイルスなどで食料も底を尽き子どもの声でさえも不愉快になるほど心が荒んでいた。

 

 同時に自分を守るために暴力に徹し、法律も道徳も通用しないほどの無法地帯に人々は錯乱し、そして自暴自棄となって好き勝手に生きていた。

 

 当然力のない女性や子ども、高齢者などに人権がなく、普通の男性でさえも人権が奪われ生きるか死ぬかのサバイバルだった。

 

 リアル阿修羅界のような光景にひめぎくは思わず吐き気を催してしまう。

 

「うっ……!」

 

「これがかつて人間たちが選び歩んできた世界だ。残酷だが七つの大罪には隠された最大の罪、自棄によって支配されると人間はこうも地獄界のようになる。ゆえに妖怪たちもその光景に失望し人間界から去っていった。二人の男が現れるまでは――」

 

 アマテラスはひめぎくに残酷な過去を見せたことに罪悪感を感じつつも、自棄が世界を滅ぼすことを見せられたことで隠された大罪を教えることができた。

 

 しかし純粋なひめぎくには刺激が強すぎてしまい、徐々に人間たちに失望してしまう。

 

 二人の男を見るまでは――

 

『兄者、その姿は一体……!?』

 

『ああ、死んだはずだがどうやら生き返ったらしい。だが一体どういうことか……?』

 

 春日達巳は禁術を使って命を落としたはずだったが三日後に復活した。

 

 しかしその姿は閻魔大王にそっくりで顔は赤く、身長は2メートル弱になり黒いヒゲガ生えてしまっていた。

 

 すると空が急に黄金に光り、春日兄弟に神々しい男性の声が聞こえる。

 

『春日達巳、お前はもう人間ではなく妖怪となって転生した。お前は世界を守るためにあえて禁術を使用し、この戦乱を起こさせた罪魔たちを封印して見せたことに感謝し、お前を妖怪として転生させたのだ。お前の役目は妖魔界に赴き人間たちを監視する妖魔大王になるのだ。妖怪の大王として人間よりも格が高いが、人間と妖怪の絆を結ぶべく武士道精神と妖魔力を人間たちにもう一度思い出させるのだ。春日達希、兄の成し遂げた偉業を神話として残し、兄を神として祀る神社を建てよ。そして人間たちにもう一度武士道精神を思い出させ、世界に発信すべく教育機関を立ち上げるのだ。お前たち兄弟は人間の中でも妖魔力が非常に高い。お前たちには日本から世界へ秩序と精神を後世に残す役目を与えよう』

 

 そう言って男性の声は徐々に聞こえなくなり、春日兄弟は不思議に思いながらも行動に移した。

 

 春日達巳はいわゆるひめぎくの父で、2千年も妖怪として生きていたためひめぎくもある程度のことは聞いていたが、話されていない過去を知ることが出来て父を誇りに思った。

 

 そして後に春日達希は人妖神社を創設し、平安館大学の創始者と初代理事長として武士道精神を世界に発信するために教育をし続けた。

 

 ひめぎくの父への強い想いが立ち直ったところを見られるようになり、ひめぎくは徐々に人間への希望を取り戻した。

 

「パパ……パパのしてきたことは本当に私は誇らしいよ。パパはこんな無法時代にもくじけず武士道を信じて禁術を犯してまで世界を守ったんだね……。人間をやめてまで世界を愛していたことに気付いたよ。私もパパの役目を引き継ぎ、人間たちが二度と自棄に支配されず秩序と武士道精神を引き継がせることが今の私の役目なんだ!」

 

「むっ!? これほどの光を放つとは……!?」

 

 ひめぎくは人間たちが無法の罪魔のようになってもなお希望を捨てず秩序と武士道精神をくじけずに説き続けた春日家を尊敬し、徐々に妖怪たちも人間たちと交流するようになり京都を中心に平和な世の中へと変えていった。

 

 今も平安館大学や付属校には多くの留学生が武士道精神を持ち帰り、母国で尊敬され手本となって恩返しをしているのだ。

 

 2千年以上も続く伝統校の誇りを今も繋がれていて、ひめぎくの胸から黄金の魂が出てくる。

 

 するとアマテラスは突然黄金の光にひざまずく。

 

「我らヤマタノオロチの主、ヤタガラスさま。現代のヤマタノオロチは全員試練を突破し、大罪たちを克服いたしました」

 

「うむ、ご苦労であった。お前たちの働きに礼を言おう。お前たちは引き続きヤマタノオロチたちの化神として彼女たちを守ってやるのだ」

 

「え……化神……? どういうことですか?」

 

「詳しい話はヤタガラスさまにお聞きください。私は汝の魂に戻るとしよう。私の力が必要な時はいつでも召喚するといい、ではさらばだ」

 

 アマテラスはそう言い残してひめぎくの魂の一部となる。

 

 ひめぎくの目の前には三本足で体は黒いはずだが体の周りが黄金に輝いていて神々しいカラスの姿があった。

 

 そのカラスはひめぎくの魂から現れ、ひめぎくは呆然としながらカラスを見つめる。

 

「あなたは一体何者でしょうか……?」

 

「そうだな、突然現れて名乗りもしなかったのはすまなかった。私はヤタガラス、お前たちが私を探していたことも知っているぞ」

 

「あなたがヤタガラスさま……!」

 

 ひめぎくはカラスの招待がヤタガラスと知ると慌ててひざまずく。

 

 ヤタガラスはそれでもひめぎくを見守りながら羽ばたき続ける。

 

「ザイマノミコが地獄界から現れた以上、世界はもう一度無秩序で無法の時代へと移行するだろう。だがお前たちヤマタノオロチが人間としての秩序を守る武士道精神、人間の潜在能力を妖怪並みに開花させる妖魔力、そして神々の力を借りて大きな力を得る化神の三つを扱い、そして人間から罪魔となった罪魔一族を滅ぼした。その功績を称えお前たちに七つの大罪の試練を与えよと初代ヤマタノオロチに命じた。そしてその初代ヤマタノオロチこそが歴代ヤマタノオロチが化神として使っていた。そして今はお前たちが使っているのだ」

 

「では試練を与えたのが初代ヤマタノオロチであり私たちの化神ってことですか……?」

 

「そうだ、そして正体は古代日本の神々と同等の力を得ているためアマテラスなどという神々の名を借りているただの人間だ。厳しい妖魔力の修行の末に神と同等の力を得たが、彼らは決して驕ることなく謙虚に世を動かしたのだ。だからこそ彼らは永遠の命を得て今も見守っているのだ」

 

「そうでしたか……」

 

「焔間ひめぎく、お前の仲間たちを集めるべく私が八咫山の山頂まで送ろう。目を瞑って待っているがよい、お前たちに最後の試練を与えよう」

 

「はい」

 

 ひめぎくは試練を与えた初代ヤマタノオロチが実は自分たちの化神であることに驚きつつも偉大な功績に尊敬を覚える。

 

 そしてひめぎくはヤタガラスに従い目を瞑った。

 

 するとそこにはボロボロの木造の神社があり、はなたちもそこにいた。

 

「ひめぎくちゃん!」

 

「はなさん! みんな!」

 

「どうもおかしいんだ。私たちはそれぞれ七つの大罪の試練を突破し、扉を開けてくぐったのだが元の場所ではなくこのような古びた神社にいたのだ」

 

「不思議ね、何かに導かれているみたいだもの」

 

「ひめぎくさん、何かご存じですか?」

 

「もうすぐヤタガラス様がここを訪れる。そして私たち全員が受ける最後の試練が待っている」

 

「そうなんだね、最後の試練がどんなものなのかな」

 

 ひめぎくたちはヤタガラスを待っていると、突然大きな風が舞う。

 

 すると大きな羽ばたきの音が聞こえ、はなたちは周りを見渡す。

 

 そこにヤタガラスが現れ、はなたちを見つめていた。

 

「私はヤタガラス、人間界と妖魔界を繋ぐ最高神だ。お前たちは七つの大罪を克服し、お前たちなりの答えを導きだした。そして今、お前たちに最後の試練を与える。覚悟して臨むがよい」

 

 ヤタガラスははなたち月光花に最後の試練を与え、はなたちに大きな緊張が走った。

 

 つづく!

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