アイドルオリンピック予選を終え、帰りに花柳に報告しようと事務所に戻ると誰も姿を見せなかった。
とくに社長室の花柳の机は慌てた様子だったのか資料がバラバラになっている。
ひめぎくは資料を整理し、誰もいない事務所をはなたちは探し回る。
しかし誰一人もいなかったので、わかばは花柳に電話をかけるも留守番電話となっていた。
「どういうことだろう? 花柳先生どころか事務所の人までいないなんて」
「わかりません……先生に何かあったのでしょうか?」
「お千代先生のことも心配でございますしね」
「いくら審査員に選ばれたといっても、全員事務所を留守にするなんて普通は考えられないね」
「ええ、そうね。あら、机に携帯が起きっぱなしね」
「ちょっと覗いてみようよ」
「ダメだよひまわりちゃん、プライバシーだよ?」
「何か原因があるかもしれないし、やむを得ないだろう。では――」
わかばが花柳の携帯を見つけ、ひまわりが覗くのを提案し、つばきがやむを得ないと判断し携帯を覗く。
そこには通話履歴が並んでおり、見慣れない電話番号があった。
わかばとひめぎくは電話番号先を調べつくし、ついに答えを導く。
「わかった、この電話番号は平安館大学病院だよ。でも先生自体が搬送されたならもっと乱雑しているはず」
「じゃあ何で事務所に誰もいないんだろうね?」
「待って、お千代先生って妊婦じゃなかった? それで病院から連絡があって慌てて向かったんじゃないかな?」
「それがどうした……まさか!」
「お千代先生が陣痛を起こした可能性があるかも! 急いで私たちも病院へ行こう!」
「そうね! 急ぎましょう!」
ひまわりの推理でお千代が陣痛を起こしたと判断し、花柳はおそらく病院からの連絡で慌てて準備し、病院へ向かっていき社員の人たちも臨時休業しているのだろうと考える。
そうとわかったはなたちは平安館大学病院へと向かう。
産科病棟に着くと既に先客がいて、そこには先ほど決勝ライブを争った月ノ姫のメンバーが揃っていた。
「あら、皆さまごきげんよう」
「ごきげんよう、美月先輩。花柳先生は?」
「分娩室でお千代先生と立ち会っていますわ」
「そうでしたか……」
「今のご様子はどうでしたか?」
「それが非常に難産となっていますが、何とかお千代先生は堪えているようです」
「お千代先生……」
分娩室には今頃花柳がお千代に立ち会っていて、はなたち月光花や輝夜たち月ノ姫は出産の無事を祈る。
一方分娩室では花柳は今まで以上に感情をあらわにし、お千代の手を強く握り返し母子ともに無事であることを祈っていた。
「はあ……はあ……!」
「お千代、某は無力だ……! こんなに苦しむのなら代わってあげたいぞ……!」
「旦那さま……弱音を吐くだなんて、旦那さまらしくありませんよ……? 私なら大丈夫です……必ず、無事に産みますから……!」
「お千代っ!」
お千代の悲鳴は外にも聞こえ、はなたちは何もできない自分たちの無力さを悲しむ。
花柳は隣でただ励ますことしかできないことに自分を恨み、赤ちゃんの様子をうかがったりといつもと違い落ち着きがなくなっていた。
「花柳さん! もうすぐです! 頑張ってください!」
産科の先生が様子を見ると赤ちゃんはもう頭が出始めていて、お千代は最後の粘りを見せる。
あまりの激痛に今まで以上の悲鳴を上げ、はなたちの胸を締め付けていった。
そして――新たな命が誕生した。
「花柳さん、おめでとうございます! 立派な男の子ですよ!」
「はあ……はあ……。男の子……旦那さまにそっくりです……」
「お千代……本当によくやった……! 礼を言うぞ……!」
「お礼を言うのはこちらの方ですよ……。お忙しい中、私のために立ち合い出産をしてくださってありがとう……ございます……」
「お千代っ!」
「安心してください、呼吸を聞けばわかりますが疲れて眠ってるだけですよ」
「そうだったな、ずっと頑張ってきたのだからな……。お千代、出会ってくれてありがとう……!」
お千代は無事に男の子を出産し、花柳はありったけの言葉で感謝を伝える。
お千代は出産の疲れで眠りにつき、そのまま病室へと運ばれた。
その様子を見たはなたちはお千代が亡くなったと思って泣きそうになったが、月ノ姫のメンバーで医師免許を持つ徳川ひめなが安否を確認する。
「安心して。少し疲れて眠ってるだけ」
「よかった……!」
「ということは……!?」
「この通り、無事に出産を終えた」
「花柳先生! おめでとうございます!」
「うむ、感謝する。それよりもアイドルオリンピックの結果をテレビで見たぞ。月光花が決勝ライブ進出を決めたそうだな」
「はい、師匠の意志を受け継いで世界の強豪に勝利しました」
「そなたたちのきらめきは天晴だ。美月殿、月ノ姫を再結成したのは真か?」
「はい、勝手な行動をしてすみませんでした。どうしても花柳先生の最期の愛弟子たちと真っ向勝負をしたくてメンバー全員を集め再結成しました。それにこんなに多くのファンを待たせてしまったことを今でも後悔しています。だから――」
「よい、大和寧々の死を引きずっていたのは某も同じことだ。だが皆の衆は乗り越え再結成しもう一度やり直すと決めた。もう某なしでも充分やっていけるだろう。これで月光花はもう一流のアイドルグループだ。美月殿を教育係から離任し、新生月ノ姫として活動に励むのだ」
「はい、ありがとうございます……!」
輝夜は月光花の教育係から離任し、今後は新たな月ノ姫のセンターとして再スタートをする。
しばらくしてお千代が目を覚まし、男の子の名前が「大和」と名付けられる。
大和組のように大和魂を持った日本男児として育つよう願いを込めて命名され、大和は微笑みながらスヤスヤと眠った。
つづく!