シンデレラロードという新たな刺客にスマイリング娘。のリーダーの吉原かえでは委縮し、かつての王者というプレッシャーに苛まれ震える。
胡桃小春というエースが卒業してから衰退し、その責任からずっと抱え込んできたのだから無理もないのだ。
そんな時に参謀役の川島清美がかえでの肩をポンと叩き、かえでが振り向くとお茶目に人差し指で頬をつつく。
「清美……。」
「私たちはスマイリング娘。よ。ファンの前ではスマイルを絶やさない、それが私たちの王者としての誇りよ。でも……かえではスマイルになってる?」
「え……?」
「あなたがかつての栄光にこだわって復権を目指しているのは私たちも知っているのよ」
「でもそれってウチららしくないじゃん。いつも時代の先取りをして未来を明るくってのがモットーじゃん」
「たとえ強敵が相手でも問題ありません。リーダーは無責任にファンを楽しませて私たちをも巻き込むことだけを考えてください。あなたをリーダーに任命したのは……
「みんな……うん! 弱気になってごめんね! 私たちのスマイルは世界のスマイル! 政権奪還がなんだ! 私たちは私たちらしくいくよ!」
「「「ゴー! ゴー! スマイリング!」」」
メンバーの励ましによって立ち直ったかえでは掛け声とともにステージへ駆け抜ける。
スマイリング娘。はかえでがリーダーになってから暗黒時代とまで言われてきたが、アイドルオリンピックの決勝ライブに出場するくらいにはまだまだ勢いは衰えていない。
実際に笑顔溢れるパフォーマンスは歴代にも負けない、むしろそれ以上の笑顔でファンにも笑顔を与えていった。
かつての王者の笑顔にはなは緊張で震える。
そんな中でついに月光花の出番が訪れるのだ。
「緊張するね……」
「私たちは花柳先生の厳しい稽古にずっと耐えたではないか。自信を持ってもいいのだぞ」
「そうだよ。私たちは京都のみんなの星だからね。私はこの瞬間に興奮しているよ」
「それにアルコバレーノにも、SBY48さんにも挑めるだなんて光栄なことでございます。私たちローカルアイドルがこの大舞台に立てているのでございますから」
「みんな……」
「さぁ時間です先輩。こんな大舞台では一筋縄ではいかないですが、私たちにはこの世界だけではない方々も応援に来ているのですから期待に応えなければなりません」
「そうだね。でも……その事は秘密だよ?」
「ええ、私たち月光花だけの秘密ね。妖魔界のみんなも見守っているわ」
「みんななら出来るって信じてる。私たち月光花はどのアイドルグループにも負けない。私はまだプロデューサーとしては見習いだから偉そうには言えないけど、私はみんなが優勝することを信じてるからね!」
「ひめぎくも一流プロデューサーみたいなこと言うようになったね!」
「ありがとう、ひめぎくちゃん。それじゃあみんな、掛け声しよう!」
「うん! はなが率先して掛け声出すなら私たちも頑張るよ!」
「日ノ本に咲き誇る花の色! 真夜中に光る美しき月! 月光花!」
「「「いざ参る!」」」
月光花の武士道精神は知られているとして、妖魔力や化神に至っては全ての人には秘密で、正々堂々と魔力を使わずに歌い踊りあげる。
いつも通りッをテイストとした曲で、さらに新曲で勝負するというギャンブルに出る。
審査員の花柳は新曲に驚き、作詞作曲はひめぎくが担当したと知ると扇子を仰ぎ満足げに微笑む。
「焔間殿、まさか某を凌ぐほどの曲を短期間で作り上げるとは天晴れ……。もう月光花に某は必要ないのかもしれぬな」
「花柳さん、何か言いました?」
「いえ、何でもございません。ただの独り言です」
「そうですか。花柳さんが育てたアイドルを見ていると、こっちまでシャキッとしちゃいますね。さすが西日本の名門校です」
「黒田殿にそう仰られて嬉しい限りです」
黒田純子、アルコバレーノのプロデューサーで、花柳と同じくようやく第一子が誕生した社長の女性。
そんな黒田純子は月光花のことを気に入り、平安館の育ちの良さに感心していた。
月をイメージした照明と、まるで月光を浴びて咲き誇る花のように会場を魅了していく姿は幻想的で、とくにオンラインでの欧米での反応は最高潮になる。
「さぁみんな、今までの集大成をここで出そう!」
「ええ、もちろんよ!」
「よーし! オレも興奮してきたよ!」
「うん! 頑張ろうね!」
「エマも頑張るデス!」
「ここまで来たのも、最後までやりましょう!」
「今日はあいつのためだけじゃなく、みんなのために歌うよ!」
「おう! ミューズナイツとしてだけでなく、SBY48として48人でやりきってこい!」
「それに私たちには、エールに選ばれたドリームパワーがある。それじゃあリーダー、いきましょう!」
SBY48で最も売れている派生グループのミューズナイツのリーダーである大島結衣が、SBY48のリーダーでエースである秋山加奈子に掛け声を託す。
「センターじゃないみんなも、総選挙で残念だったみんなも、ここにいない選ばれなかったメンバーの分まで、今日は全員がセンターになってファンのみんなを盛り上げよう! SBY!」
「「「「「48!」」」」」
SBY48がステージに立つと空気は一変、王者の登場にファンのボルテージはマックスになる。
永遠のセンターと呼ばれている秋山加奈子はいつも通り引き立て役をしつつセンターを兼任し、48人全員がセンターに立てるように立ち回る。
当時新人だった8人は今やベストナインに選ばれるほどに成長し、もはやSBY48は黄金期を迎えようとしている。
「秋山加奈子さんはやっぱりすごいなあ……」
「さすが天才だね」
「けど何だろう……? 私たちとは違う魔力を感じるような……?」
「わたくしもそんな気がするでございます」
「気のせいではなさそうですが、詮索するのはやめにしましょう」
「そうだな。プライバシーなことかもしれないし」
(本当にあの9人だけ……? もう一人アイドルじゃないのにミューズナイツと同じ力を感じるんだよね……)
はなだけでなく月光花全員がミューズナイツに所属する9人に不思議な力を感じるも、プライバシーにかかわるだろうと思って詮索をやめる。
しかし神社の直系であるはなだけはもう一人ミューズナイツの9人以外の誰かが同じ力を持ってると感じ取る。
その人物とは誰なのかはわからない。
「みんな凄いよ……! ボクたちこんな凄い子たちと競い合うんだね!」
「私は普段は冷静だって言われるけれど……こんなの見せられて燃えないはずがないわ」
「早くファンのみんなの笑顔が見たい! もう勝ち負けなんてどうでもいいよね♪」
「そうだな! 私たちは希望を導く存在である!」
「よっしゃあ! 燃えてきたぜ!」
「さくらさん! いつものあれ、やりましょう!」
「うん! 希望を導く7つの光! 輝け!」
「「「アルコバレーノ!」」」
最後のアルコバレーノでは既存曲を英語と手話で歌い上げ、もはや世界を意識したパフォーマンスを披露する。
月光花もSBY48も、シンデレラロードやスマイリング娘。でさえ意識しなかったことをし、感動のあまりに無音が続いた。
「「「「「アルコバレーノ! アルコバレーノ! アルコバレーノ!」」」」」
「これは……その……。言葉に出来ないですね……! 審査員の皆さん!」
「まさかここまで世界を見据えているとは……! 某は満足以上のものを味わっている……!」
「これが僕たちが追い求めていたアイドル像……! 負けたよ……アルコバレーノ……!」
「音楽は可能性を無限大にするものです……。そう東光学園の教え子に教えたつもりですが……私もまだまだ学ぶ必要がありますね……!」
「あの子たちのプラスエネルギーがここまで大きくなって……! これが世界中に愛を届けられるほどの魔法……!」
「さくら……成長したわね……。あの子も最高のお友達が出来て幸せよね……。お母さんも年甲斐もなく泣いちゃったわ……!」
「みんな! ありがとう!」
アルコバレーノコールが鳴り響き、わかば、るり、つばきはすぐに何かを察したようだ。
結果発表になり、スマイリング娘。が5位になる。
月光花の結果は――
「4位――月光花です!」
月光花は4位に終わり、はな、ひまわり、もみじは泣き崩れる。
すみれは冷静に拍手をし、るり、つばきは抱き合って励まし合う。
わかばは涙ぐむも最後まで背筋を伸ばし、ファンに一礼をする。
3位はシンデレラロード、2位がSBY48、1位がアルコバレーノとなり、初代優勝はアルコバレーノとなった。
「やった……! やったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「おめでとうございます、アルコバレーノさん。私たちSBY48をついに越えましたね。悔しいですが、あなた方がトップアイドルです」
「おめでとうアルコバレーノさん。私たちはまだまだ成長出来るって実感したわ。私たち月光花は続けるけど、ラストライブで伝説になってください」
「完敗ですわアルコバレーノ。わたくしたちももっと高みを目指し、今度こそあなた方を越えてみせますわ」
「さくらちゃん、おめでとうございます。私たちは本当にやりきったので悔いはない。さくらちゃんたちも最後のアイドル活動に悔いを残さないでね」
「みんな……! ありがとうございます!」
わかばの目には涙が浮かび、目の下は赤くなっている。
それでも王者に称賛の言葉を送り、ラストライブのエールを送る。
表彰式を終えて楽屋に戻ると、はなたちは悔しさが溢れ出てしまい、人がいることさえ忘れるほど悔し涙を流す。
「負けちゃった……月光花が負けちゃった……!」
「悔しい……悔しいよ!」
「無念……!」
「みんなでここまで頑張ったのに……!」
「皆さん……わたくしも悔しいでございますが、そろそろお暇致しましょう……。お邪魔になっては武士道に反するでございますから……」
悔しさのあまりに我を忘れかけるも、るりの最期まで武士道を貫く姿勢に泣きながらも楽屋を後にする。
こうして月光花の二度目の世界への挑戦は終わったのだ。
つづく!