220X年──この年、人類は大きな転換点を迎えていた。
地球外生命体の発見
ニホンの宇宙開発研究機関
そしてNAXAが中心となり地球外生命体とのコンタクトを図るプロジェクト『きずなプロジェクト』が計画された。
『きずなプロジェクト』により、宇宙飛行士であり研究者でもある『
しかし、世界中から託された夢はある日あっけなく砕け散った。
宇宙ステーション『きずな』が原因不明の事故により消息を絶った。
NAXAが総力を挙げてクルーの捜索と原因究明に動いたが何も見つかることはなく、事件から数ヶ月後、ニホン海に『きずな』の破片が落下してきたことを受けて捜索は打ち切られた。
そしてNAXAは『きずなプロジェクト』の永久凍結とクルー全員の殉職を発表し、一連の事件は幕を閉じたのであった。
*
宇宙ステーションきずなの事件から3年後
「はっはっはっ……」
ここはコダマタウン、人口数万人程度のどこにでもある地方都市の住宅街。その街の中を一人の少年が走っていた。
少々癖のある黒髪の短髪、人懐っこいニカッとした笑みとドラゴンの柄が印刷されたスカジャンがトレードマークの少年『万丈リュウセイ』はある家の前でその足を止めた。
「フゥー…よし」
乱れた息をすぐに整え、家の中にまで届く声を出すために大きく息を吸う。
「おーいスバルー!迎えに来たぞー!」
元気のいい大きな声は中にまで届いたようで、玄関の扉が開いた。しかしそこに居たのは待ち人とは違う人物だった。
「おはよう、リュウセイくん。今朝も元気ね。」
「おはようございます、あかねさん!…今日もダメそうですかね?」
玄関から出てきたのは「星河あかね」
事故によって帰らぬ人となった星河大吾の妻であり一児の母である。
「ごめんなさいね、毎朝迎えに来てもらってるのに。」
「好きでやってる事だからいいんですよ。それにいつスバルが学校に行きたくなるか分かりませんから、これからも毎日来ますよ!」
「本当にありがとうね。…あの子ももう少し心を開いてくれるといいんだけど。」
あかねは2階の窓へと目を向ける。その目は今もあの部屋で心を閉ざして引きこもっている最愛の息子を憂いていた。
「スバルにはスバルのペースがあると思いますから。それに、最近は展望台であった時なんか前に比べて喋ってくれるようになってるんです。ほんのちょっとずつでも、あいつは立ち直ろうとしてますよ。」
「そう…本当にありがとう、リュウセイくん。母親として申し訳ないけど、これからもあの子のことお願いね。」
「任せてください!スバルが嫌って言ったって独りになんかさせませんから!」
いってきまーす、と言い残しリュウセイは学校に向かう。あかねはその背を見送りながら、底抜けに明るく、息子の気持ちに寄り添おうとしてくれる友人に、心の底から感謝していた。
*
ところ変わって、リュウセイは自身が通う小学校である「コダマ小学校」にいた。
今日から5年生の新年度、玄関の案内ディスプレイに発表されたクラス発表に一喜一憂する同級生に挨拶を済ませながら教室に向かう。
もとより同学年のガキ大将的存在のリュウセイは、同学年のほとんどの人間と良好な関係を築けているので、クラス発表程度では悲しいイベントにはなり得なかった。
「えーと俺の席はと…」
「おはよう、リュウセイくん」
自分の席を確認していると後ろから声をかけられた。振り返るとそこには、校内でも有名な3人組が立っていた。
「おー!委員長とゴン太とキザマロ!今年はクラス一緒なんだな、よろしく!」
「ええよろしく。」
「よろしくな、リュウセイ。」
「よろしくお願いします、リュウセイくん。」
委員長と呼ばれた2つの縦ロールの髪型が特徴の少女が『白金ルナ』3人組のリーダーでありいいとこのお嬢様である。
小学生とは思えないガタイをした少年は『牛島ゴン太』少し乱暴者なところがあるが、根は優しい男だ。
背が低くてメガネをかけている少年は『最小院キザマロ』運動は苦手だが勉強の方は学年でトップクラスの秀才男子だ。
「ところで今日はあなたに聞きたいことがあるのだけれど。」
「何だ?」
「今年はこのクラスに不登校の生徒がいるらしいじゃない。あなたその子を毎朝迎えに行くぐらい仲がいいんですってね。」
「スバルのことか?それがどうしたんだよ。」
「私がクラス委員長になる以上、不登校なんてみっともない真似は許さないわ!よって、あなたには彼を登校させるために協力してもらうわよ!」
「え、嫌だけど。」
即答である。もはや『なにを当たり前のことを』とでも言いたげな顔でリュウセイはルナの頼みを断った。
「なっ、なんですって!」
「おいリュウセイ!委員長の頼みを断るなんてどういうつもりだ!」
「委員長はクラスのためを思って行動しようとしてるというのに!」
断られるとは微塵も思ってなかったのか、やんやとヤジが飛んでくる。しかし、リュウセイの答えは何一つ変わらなかった。
「考えてるのはクラスのためじゃなくて自分のプライドのためだろ?最初からスバルのことなんて何一つ考えてないじゃねーか。だいたいお前ら、あいつがなんで学校来なくなったか知ってるのか?」
「し、知らないけど。」
「俺たちも知らない…。」
「はい…。」
「あいつは大好きだった父さんが、3年前の宇宙ステーションの事故で帰ってこなかったんだ。それ以来大事な人がまた居なくなるのを怖がってああなってる。」
「えっ…」
「何事もパーフェクトじゃないと気が済まないのかもしれないけど、そんな理由じゃあいつは絶対に学校に来ないよ。」
「……」
スバルを登校させようとしたのが自分本位な理由だったことを突きつけられてルナは何も言い返すことが出来なかった。
「おーい万丈、ちょっといいか」
「先生呼んでるから行くわ、またな3人とも」
教室の外から先生に呼ばれ、リュウセイはルナたちから離れる。その背中を見送るルナの顔は何かを考え込んでいる表情だった。
*
時刻は昼過ぎ、今日は新年度の初日ということもあっていつもより早く学校から解放され、リュウセイは自宅へと帰ってきていた。
「ただいまー父さん。」
「お、何だ早いじゃないか。早退してきたのか?」
リュウセイを迎え入れたのは『
「今日新学期の初日だから早いって言ってたじゃん。」
「あっ、そうだったそうだった。じゃあ昼飯用意しないとな、ちょっと待っててくれ。」
そう言うとカウンター内のキッチンスペースで手早く準備を進めるソウイチ。完成を待とうとカウンター席に座りぼんやりとその様子を眺めていることにした。
「そういや、スバルくんはどうだった?まだ学校には来れそうにないのか?」
「今日もダメだったな。会えば結構話してくれるようにはなって来たんだけど。あ、そうだ、今晩また展望台に行ってくるから。たぶんスバルも来るだろうし。」
「天気も晴れて月も見えないから今日は星がよく見えるだろうしな。なら夜用に弁当用意しといてやるよ。」
「ありがとう、父さん。」
このふたりは血の繋がった親子ではない。リュウセイが生まれて間もない頃、nascitaの前に捨てられていたリュウセイを拾って育てたのがソウイチだ。
リュウセイはこのことを小学生になってから伝えられていたが、男手ひとつで実の息子のように自分を育ててくれたソウイチにを嫌いになるはずもなく、それからも良い親子関係を続けることが出来ていた。
「ほれできたぞ、nascita特製のホットサンドだ。」
「やったホットサンドだ!いただきまーす!」
nascitaのホットサンドは具材こそハムとチーズだけのシンプルなものだが、ソウイチオリジナルのケチャップソースが好評で客からの人気メニューとなっている。
ソースで口を汚しながら美味そうにホットサンドを食べるリュウセイを、ソウイチは微笑ましく見守るのだった。
*
しかしそれはただの流れ星ではなかった。
流星と思われたそれはいつまでも燃え尽きることはなく、明確な意志を持って宇宙を駆け抜けていく。
彼はある願いを託されていた。力こそ全てと育てられた自分に人間の信じ合う心を教えてくれた友人から託された大切な願い。
それを果たすべく彼は自らの故郷の惑星を裏切り、追っ手を振り切りながら友人の故郷である青き星を目指した。
そしてどれほどの時がすぎたか分からなくなってきた時、彼はとうとう辿り着いた。
そして今一度友人に誓う必ず彼の願いを果たし…復讐を遂げることを。
*
夕方になり、リュウセイは家を出て展望台へ向かっていた。ソウイチの作った弁当と水筒が入ったリュックサックを背負い歩いていると、展望台に続く階段の前で彼が会いたがっていた人物を見つけた。
「スーバル!やっぱり今日は来てたなコノヤロウ!」
「わっ!?リュウセイ、ちょっとやめてよ!」
背中に突然飛びつかれて驚く少年の名前は『星河スバル』3年前の事件で消息不明となった星河大吾の一人息子だ。
「まったくもう、いきなり飛びついて来ないでよ。」
「悪かったって。今日は父さんがおやつ持たせてくれたからさ、それで許してくれよ。」
「調子いいなぁもう…」
「ちょっと、そこの二人。」
リュウセイたちがガヤガヤと話していると後ろから聞き覚えのある声がした。振り返るとそこには予想通りの少女がいた。
「えっと…」
「あ、委員長ズじゃん。」
「呼ぶのめんどくさいからってまとめて呼ばないの!」
「俺たちをオマケみたいに言うんじゃねぇ!」
「ヒドイですよリュウセイくん!」
コダマ小学校が誇るズッコケ三人組はセット扱いされたことに文句タラタラであった。
「とにかく!君が星河スバルくんね。私は白金ルナ、こっちのでかいのが牛島ゴン太、小さいのが最小院キザマロよ。」
「…僕になんの用?」
「私は今日からあなたのクラスの委員長になったの。そんな私のクラスに不登校の生徒がいるのはどうしても許せないのよ。」
「…悪いけど僕は学校には」
「おい委員長、学校でも言っただろ。スバルの気持ちも考えずに無理やりなんて─」
「わかってるわよリュウセイくん。話は最後まで聞いてちょうだい。」
ルナからの予想外の言葉にリュウセイとスバルは少し驚いた。完璧主義の委員長の事だ、無理やりスバルを学校に引きずり出すつもりだと思ったのだが…
「いいこと?確かに私は最初はスバルくんを無理にでも学校に行くよう言うつもりだったわ。でもリュウセイくんからあなたのことを聞いて、色々考えたのよ。」
「……」
「けど、いくら考えてもやっぱり学校に来ないのは許せないと思ったわ。だっていつまでもまた傷つくのを怖がって閉じこもってたら、一生何も出来ないままだし、そんなのつまらないじゃない。」
「…君に何がわかるのさ。」
「何も知らないわよ。だから」
ルナはスバルの目の前に近づき指をさして続けた。
「私たちもリュウセイくんみたいに、これから毎朝あなたを迎えに来てあげる。街で見かけたら声をかけるし、展望台にだって行ってみるわ。そしてあなたのことをよく知った上で、あなたが学校に来たくてたまらないようにして、その辛気臭い顔を吹き飛ばしてあげるわ。」
「えぇ!?」
「おうなんだ、モヤシヤロウ!まさか委員長が迷惑ってんじゃないだろうな!」
「そうですよ、僕より少し背が高いからって調子に乗らないでくださいよね!」
「いや、そんなことしないで!僕のことはほっといてよ!」
「嫌よ!あなたが学校に来たくなるその日まで、いくらでもあなたに構い続けてあげるわ!」
「……ぼくは友だちなんか、もう欲しくないんだ!」
そう叫ぶとスバルは階段を駆け上がって行ってしまった。
「あらら、行っちまった。」
「やっぱり一筋縄じゃいかないみたいね。」
「にしても強いよな委員長は。スバルを無理やり連れ出すんじゃなくて、あいつが学校に来たくなるようにするって。」
「…お父さんの話を聞いた時はああなるのも仕方ないって思ったわ。けど、ほっといてくれって言う割にはスバルくんって…」
「なんだよ?」
「…なんでもないわ。それと、もう自分勝手な理由じゃなくなったんだから、今度こそあなたにもスバルくんのこと協力してもらうわよ。…悔しいけどあなたほの方が彼のことをよく知っているでしょうから。」
「……ハハッそりゃいいな!そういうことならいくらでも協力するぜ。」
「ならいいわ。それじゃ今日は挨拶がしたかっただけだから、また明日リュウセイくん。」
「じゃあな、リュウセイ。」
「おやすみなさい、リュウセイくん。」
「おう、また明日。」
3人が帰るのを見送り、スバルを追いかけるべくリュウセイも展望台に向かった。
*
─sideスバル─
父さんは僕にとってのヒーローだった。
父さんがみせてくれる大きな背中が大好きで、尊敬していて、いつか自分もあんなふうになりたいとずっと思っていた。
だから、父さんが仕事で宇宙に行くって言われた時も、しばらく会えなくなるのは悲しかったけど、それ以上に父さんはやっぱりすごい人だっていう喜びの方が大きかったのを覚えている。
大丈夫、どんなに遠くに行ったって、父さんは絶対に帰ってくる。大好きな父さんが、僕のヒーローが約束を破るわけがないって思ってた。
でも3年前のあの日から、父さんは帰ってこなかった。
母さんは大丈夫そうなフリをしてるけど、僕が夜部屋に戻ったあと何度も一人で泣いてるのを知ってる。
僕は学校に行くことを止めた。…あのまま通い続けてたら、いつか大事な友達ができて、また目の前からいなくなるのが怖かったから。
あんな思いをするぐらいなら僕はもう独りぼっちでいい。
なのに
『あなたが学校に来たくてたまらないようにして、その辛気臭い顔を吹き飛ばしてあげるわ。』
どうして
「どうしたんだそんなうずくまって、そんなんじゃ星見えねぇだろ。」
なんで
*
展望台に着くとスバルが膝に顔を埋めてうずくまっていた。リュウセイは理由を何となく察していたが、とりあえず声をかけてみることにした。
「どうしたんだそんなうずくまって、そんなんじゃ星見えねぇだろ。」
「……」
「まぁいきなりあんなこと言われて戸惑うのも分かるけどさ。でも良かったじゃん、これで俺以外にも友だちが増えるかもしれないぜ。」
「……リュウセイはなんでいつもそうなの?」
「どうしていつも僕に構ってくるのさ。何回もほっといてって、独りにしてって言ってるのに。」
「んー、そうだな。」
改めて考えてみる。普通であればここまで頑なに拒まれてまで構う必要はないはずだ。それでもスバルのことを見放すことが出来ないのは──
「たぶん委員長も同じだと思うんだけどさ、お前がずっと寂しそうな顔してるからなんだよ。」
「っ…!」
なんのことはない、本人が誰よりも独りにはなりたくないと思っているのが見え見えだからだ。それが分かるからこいつを独りにはしたくないと思えるのだ。
「たぶん今は大吾さんのこともあって、どうしたらいいのか分からなくなってるだけなんだよ。だからすぐになんて言わない。それに、これからは毎朝、俺とあの3人が迎えに来るからさ、ちょっとでも学校に行きたくなったら玄関から出てきてくれればいい。そしたら、俺たちがまたお前を引っ張り出してやるからよ。」
「どうして僕なんかのために…」
「そんな言い方するな。それに俺はスバルのことかなり尊敬してるんだぜ?」
「え?」
リュウセイは今なんと言った?
いつもクラスの中心にいる人気者が自分のことを尊敬してるなんてと、スバルは耳を疑った。
「大吾さんみたいなりたくて、宇宙のことを勉強してるのも知ってる。機械いじりも得意で簡単な修理とかなら自分でできるのも知ってる。頭が悪くて運動ぐらいしか取り柄のない俺なんかよりお前の方がよっぽどすごいやつだよ。」
「リュウセイ…」
「だからさ、いつかでいいからもう一度昔みたいに学校に来てみようぜ。悲しい思い出が消えるわけじゃないけど、そうすれば楽しい思い出は増やせるはずだ。いや絶対増える、というか増やしてやる!」
そうしてリュウセイはスバルに手を差し伸べる。この男はこんなどうしようもない自分をそれでも助けようとしてくれるのだ。
そしてスバルはその手を取ろうと自分の手を伸ばし─────
ピーピーピー!
「うおっなんだ!?」
「ぼ、僕のトランサーからだ。これは…と、父さんのアクセスシグナル!?」
「はぁ!?どういうことだよ、大吾さん近くにいるのか!?」
「ち、近づいてくる!」
瞬間、宇宙より一筋の光が2人の間に降り注いだ。視界は白く塗りつぶされ衝撃によって体が吹き飛ばされる。
「…ここが地球か。あいつの言っていた通りの星だな。」
「う、うーん」
「いったい…なに…が…」
永き時を経て流星は星に降り立ち、かくして運命は交わった。
この出会いが、これから続く長い戦いの始まりになることを少年たちはまだ知る由もなかった。
委員長の声優さんが植田佳奈さんと知ってセリフが某聖杯戦争のあかいあくまに引っ張られそうになる。というより性格とかキャラの構成要素は凛も委員長もあんまり変わらんような気がしてきた。
さてなるべくテンポよく進めるつもりですが話の都合上リュウセイが電波変換するのは少し先になります。予定ではキグナス戦ぐらいかな。
お楽しみにしていただければ幸いです。
感想評価などもお待ちしております。