死滅回游泳者 南雲ハジメ 作:ありふれの呪霊
浅瀬の稚魚
「答えはいつだって、混沌の中で黒く輝いてるものだ。分かるかい? 私が創るべきは私の手から離れた混沌だったんだ。既に、術式の抽出は済ませてある」
「——————無為転変」
「術式の遠隔発動!?」
「礼を言うよ虎杖悠仁」
「君との戦いで真人は成長した。本当は漏瑚も欲しかったけど、まぁ仕方ないね」
「——————何をした?」
「マーキング済みの2種類の非術師に、遠隔で『無為転変』を施した。虎杖悠仁のように呪物を取り込ませた者、吉野順平のように術式を所持しているが脳の
「それぞれの脳を術師の形に整えたんだ。前者は器としての強度を、後者は術式を発揮する仕様を手に入れた。そして……今、その呪物達の封印を解いた」
「マーキングの際、私の呪力にあてられて寝たきりになった者もいたが、じきに目を覚ますだろう」
「彼らにはこれから、呪力への理解を深めるための殺し合いをしてもらう。私が厳選した子や呪物達だ。千人の虎杖悠仁が悪意を持って放たれたとでも思ってくれ」
「私が配った呪物は千年前からコツコツ契約した術師達の成れの果てだ。だが私と契約を交わしたのは術師だけじゃない。まぁそっちの契約は、この肉体を手にした時に破棄したけどね」
「——————まさか」
「これが、これからの世界だよ」
「じゃあね、虎杖悠仁。君には期待しているよ」
「——————五条先生!」
「——————聞いているかい? 宿儺。始まるよ——————再び、呪術全盛平安の世が……!」
◇
10月31日の深夜。
とある家。表札には『南雲』と書いてあった。
家のとある一部屋で、ベッドで寝ている青年がいる。
その額には、何かの紋様が刻まれていて、それが怪しく光り輝いた。
◇
これまで日本に起きたことを簡潔に記そう。
渋谷にて、とある呪詛師と呪霊達による事件『渋谷事変』が発生。
"森の呪霊"花御、"特級呪術師"五条悟によって討伐。
"海の呪霊"陀艮、"天与の暴君"伏黒甚爾によって討伐。
"大地の呪霊"漏瑚、"呪いの王"両面宿儺によって討伐。
"人の呪霊"真人、"1級呪術師"東堂葵と虎杖悠仁に瀕死にまで追い込まれた後、とある呪詛師によって取り込まれる。
多くの犠牲者が出たものの、呪霊達は全員祓われた。
しかし前述したとある呪詛師によって1000人の日本人が呪術師に覚醒。
無数の呪霊も東京に解き放たれ、壊滅状態に。
後に日本の各所に黒い柱状の結界が張られ、殺し合いのゲーム『死滅回游』が開幕。
日本は完全に混乱状態に陥ったのである。
そんな中、とある一人の青年も呪術師として覚醒していた。
◇
「南雲ハジメ様、貴方は
朝、目が覚めると羽の生えた骸骨が目の前にいた。
「
骸骨の身体にウィンドウのようなものが開き、文字が浮かび上がる。
◇◇◇◇
〈
1
2 前項に違反した
3
4
5
6
7
8 参加または
◇◇◇◇
読んだのち、己の体に力が漲るような感覚を覚える。そして自分がどういう力を使えるのか、自ずと理解できた。
言い表せない高揚感に包まれる。今、漫画のような出来事が現実に起こっている。
試しに近くにあった机に触れてみた。机の表面に電気が走り、その形を変形させる。それは尖った棘のようになった。
「…………ふふ」
青年は不敵に笑う。彼の中で黒い思考が巡る。見下してきたアイツらに誅を下そうと、そんな考えが浮かぶ。
こうしてはいられない。青年は着替え、ある場所に行く準備を始めた。
◇
南雲ハジメ。
彼はとある高校に通っている高校二年生だった。
通ってはいるものの、普段は夜更かししてまでゲームをし、そのせいで遅刻ギリギリになり、授業中はずっと寝ている。そして本人はそれをだらしないともなんとも思っていない。
が、これだけなら日本中を探せばそこそこの数でこのような学生はいるだろう。
しかし、そんな彼はクラスメイトからはよく思われていない存在だった。
何せ彼は授業でグループで協力するようなことがあった時は他のメンバーと協力をしようとせず、サボる始末。
それでメンバーに「ちゃんとやってくれ」と言われた時は露骨に嫌そうな顔をしたり、舌打ちしたり、溜息を吐いたり、教室を出ていったりするのだ。そう言う場合、相手は男子、もしくは気の強い女子である。
それと彼はクラスのマドンナ的女子に世話を焼かれており、その上で前述の態度を改めたりはしないのだから、よく思われないことに拍車がかかっている。
その上、そのマドンナや他の一部の人間には笑って流し、やり過ごそうとする対応を見せている。舐めてる人間には悪態を、そうでない相手には笑うなどと、周りからは相手によって対応を変えているようにしか見えず、更なる反感を買っていた。
おかげさまで好かれることに失敗し、嫌われることに大成功したのである。ちなみに、そんな彼と関わった生徒はこれまで寝ていた授業を起きるようにした。寝ていたら、彼と同類になると思ったからだ。
クラスメイトから腫れ物として扱われ、とある男子からダル絡みをされ、ハジメの心には苛立ちだけが重なる。そんな鬱屈とした感情を抱えて日常を過ごす中で、彼の術式が覚醒。
彼は、虐殺を行った。
◇
前日、某高校。
女子高生、白崎香織は幼馴染達と登校していた。
「今、東京すごいことになってるらしいわね……」
「うん……怖いね」
香織は自身の親友でもある雫に対して返事をした。
現在、東京は壊滅的被害を受けており、渋谷に至っては更地状態にまでなっていた。
————彼女達が知る由はないが、渋谷に関しては鬼神とも呼ばれた男と、とある式神との激闘の結果である。
「呪霊とか、あの変な黒い柱とか……何というか、現実に起こってるなんて思えないなぁ」
東京が壊滅的被害に陥った為なのか、呪霊と呼ばれる存在が世間に公表された。東京にしか出ないという話だが、それでもいつこちらに被害がくるかわからない。
その上突如として現れた謎の黒い柱。現在、それもなんなのか調査中らしい。
「怖い世の中になったわね……」
「うん……」
「大丈夫だよ、雫、香織。何かあっても、俺と龍太郎で2人のことを守る! な、龍太郎?」
「おうよ。光輝と2人でなら何が来ても大丈夫だ」
「はいはい、気持ちは嬉しいけど、私は守られるほど弱くはないわよ」
「ああ……確かにそうだな!」
香織と雫に談笑するのは天之河光輝と坂上龍太郎。香織の幼馴染だ。
それから雑談をしながら歩き続け、4人は学校へ辿り着いた。階段を登り教室へと入ってゆく。そこにはクラスメイト達がいるいつも通りの光景が。
席に荷物を置いた後、雫達と再び談笑する。
それから数分経って、とある人物が教室に入ってきた。
学校の制服を黒髪に黒目、真っ直ぐに下ろした髪型……何処にでもいそうな見た目で、街中で見ても人混みに紛れてすぐに忘れてしまいそうなほど平凡な見た目の青年。南雲ハジメだ。
ちなみに彼が入った時には既にホームルーム5分前くらい。遅刻ギリである。
彼はさっさと自分の席に着いた後、座ってそのまま机に突っ伏して寝た。そんな彼に近づく者が。彼はハジメの机を膝で蹴る。
「んぐ」
「よおキモオタ! 学校に来たら早速居眠りかあ、この野郎。深夜までネットでエロ画像でも漁ってたのかぁ?」
机の振動によって起きたハジメに言い放つのは檜山大介という青年。周りには彼の友人が3人ほどいる。
「良い御身分だな、ええ? なんか言ってみろよ」
「ちょっと、檜山くん……」
その光景を見て、香織は檜山に注意しようとする。
「……誰に向かってそんな口聞いてるわけ?」
「ああん?」
だがその前に、ハジメが檜山に向かってそう言い放った。檜山は言い返されたことに少し驚きながらも、ハジメを睨む。
「聞こえなかったの? ……誰に向かって、そんな口聞いてるのかって言ってんの」
「そりゃこっちのセリフだ。テメェこそ誰に向かってんな生意気な口きいてんだ?」
「君に決まってるでしょ。そんなことも分かんない? 見た目と比例してバカなんだね」
「てっめぇ……あんま調子に乗ってんじゃねえぞ!」
ハジメが煽り、その煽りに乗った檜山が怒鳴る。ハジメがこんなに煽ることに内心驚きながらも、このままでは喧嘩になると判断した香織は止めようと動き出すが、
「へぇ……僕に逆らっていいの?」
「ああ? んだと?」
「今謝ってくれるなら、君のことを許してあげないこともないけど?」
「誰がテメェに謝るか! 何様のつもりだ! いい加減に————ぐふうっ!?」
その時、檜山が横に吹っ飛んだ。途中机にぶつかりながらも、地面に転がる。
「え……?」
香織は一瞬、何が起こったのかわからなかった。
何せ、教室の壁が突如として出っ張り、勢いよく檜山にぶつかったからだ。
「あ、う……あがっ……」
「檜山! おいコラ南雲! テメェ何————がはあっ!?」
「うぐ!?」「ぐあ!?」
痛みに悶える檜山を見てハジメに詰めようとした檜山の友人三人も吹き飛んだ。今度は地面から出っ張りが現れた。
「ふっ……これで分かった? バカども。これが僕の力だ。で、謝る気になってくれた?」
「誰が……テメェに……!」
「ふーん……そこまで謝りたくないんだ……なら」
ハジメは机に手を触れる。机に電気が走り、その形を変形させる。机はあっという間に剣になった。その剣を持ちハジメは檜山に近づく。
「こうして……あげる、よっ!」
「ぎゃあああああああ!?」
ハジメは剣で檜山の足を切り付けた。血が飛び、周りから女子生徒達の悲鳴が上がる。香織も口を手で覆いその光景を見て絶句した。
「あっはっはっはっはっ! 良い声で鳴くじゃん! おら、もっと鳴けよ!」
「あああああああああああっ!?」
今度はさっき切った方とは別のもう片方の足を切る。檜山はまたもや悲鳴を上げる。
「な、南雲を取り押さえろぉ!」
「お、おう!」
男子生徒の1人がそう言い、男子生徒達がハジメを取り押さえようと動き始める。
だが、その前にハジメはしゃがみ込み地面に手をつけた。
「がはっ!?」「ぐあっ!?」「ううっ!?」
地面から棘が生え、男子生徒達の足を突き刺していく。
「今いいところなんだからさあ、邪魔しないでくれない?」
うんざりとしたような顔で男子生徒達を見るハジメ。
「龍太郎!」
「応!」
今度は光輝と龍太郎がハジメを取り押さえようと動き始める。
「あーもう……どいつこいつもうっざい、なあっ!」
ハジメは振り返り、光輝と龍太郎に剣を振るう。2人は咄嗟にそれを避けた。
「南雲! こんなことをするのはやめるんだ! 今すぐ武器を離せ!」
「誰が君の言うことを聞くかってんだよ!」
側の机に触れてチャクラムを作り出し、光輝と龍太郎に向けて投げつける。
「あぶねえ! ————うぐ!?」
「龍太郎! あがっ!?」
足に衝撃。棘が突き刺さり、血が飛ぶ。2人は倒れる。
「さて、と……」
「ひいっ!?」
檜山に向き直るハジメ。その目は檜山を品定めしているようにも見えた。
「今謝ってくれるなら……これ以上やらないのも考えてあげてもいいけど?」
「ッ! わ、悪かった! もう二度と悪口は言わないから許してくれ! 頼む!」
これ以上痛みを味わいたくなかった檜山は必死に謝る。その顔は恐怖に歪み、涙を浮かべている。
「ふ〜ん……そっかそっか。分かった」
「!」
「殺す」
檜山が安堵した瞬間、ハジメは彼の胸に剣を突き刺した。
「ああああああああっ!?」
今までで1番の悲鳴が上がった。ハジメが突き刺した剣を更に捻ると、悲鳴は更に大きくなる。
————やがて、その悲鳴が小さくなり————完全に、聞こえなくなった。
「………………ふふっ、あははははははは! はっはっはっはっはっはっ! 死んだ! 死んだよ! しかも小便まで漏らしてんじゃん! きったな! ははっ! ザーマーアァァァァァァァァァア!」
高笑いをあげて檜山の死を喜ぶ南雲ハジメ。
「あっはははははは……あー……気持ちいいもんだね……人を殺すのって」
今まで生きてきた中で1番の快楽と言っても過言ではないほどに人を殺すのは気持ちが良かった。人はこんなにも気持ちいいことを法律やら倫理観とやらのつまらない理由を並べ立ててするなと言ってくるが、そんなのクソ喰らえだ。
「んじゃ……そこで倒れてる男子生徒の皆さんも、死んでもらおうかなー!」
ハジメはまた地面に手をつける。すると倒れてる男子生徒達の身体から棘が生える。
「な、ぐも……! てめぇ……!」
「君達は僕の手で殺してあげるよ。有り難く思いなよ?」
龍太郎がハジメを睨みつけていると、剣が迫り来る。そのまま龍太郎の背中に突き刺さった。
「ぐあああああああああああっ!」
「龍太郎ッ!」
光輝が龍太郎に手を伸ばす。しかし、その間に龍太郎の身体は事切れたように動かなくなった。
「あ……あ……………………な、ぐもぉぉぉぉぉぉぉ!」
「そんなデカい声出さなくても聞こえてるから。死ね」
ハジメは光輝の首を切った。悲鳴は上がらず、即死だった。
「ふぅ」
息を漏らすハジメ。それから周囲を見ると、その視線は香織に。
「ひっ」
思わず声を漏らし、後ずさる香織。その間に、ハジメは彼女に近づく。
「白崎さーん……君が僕の女になってくれるなら、見逃してあげても……」
「ッ、いやあっ!」
ハジメが香織の頬に手を伸ばそうとする。だが、その前に香織がハジメの頬を叩いた。教室に、乾いた音が響く。
「——————」
「え、あ……ご、ごめんなさ……」
「……よくもやったなあああああああ!」
謝ろうとした香織に、激昂したハジメが剣を振るった。彼女の胴体が裂かれ、ハジメに返り血が飛んだ。
香織が、床に倒れ込む。
「………………香織!? 香織!?」
これまでの出来事に呆然としていた雫は、ようやく我を取り戻し倒れた香織の身体を抱える。
「…………ぅ、ぁ…………しずく、ちゃ…………」
その一言を漏らした後、香織の腕がだらんと落ち、目を開きながら脱力したように頭が傾いた。
「香織…………そんな…………嘘、でしょ? 香織! しっかりしてよ! 香織!」
「うるさいなあ。もう死んでるよ。分かんないの?」
泣きながら香織の身体を揺らし、名を叫ぶ雫。だがそれに水を差すように、ハジメがイライラとしたように言った。
「………………人、殺し。この…………人殺し!」
「お前もうるさい。死ね」
そのまま雫の首を斬った。そのまま、香織の遺体とともに地面へ倒れた。
「き、君! 何をやってるんだ!?」
「ん?」
教室の外から声が聞こえた。そこには教師が。
「い、今すぐその武器を!」
「黙れ、よっ!」
ハジメは剣を投げつける。反応できなかった教師はそのまま身体に剣が刺さった。
教師が苦しんでる間に、ハジメは前と後ろの扉を閉じる。ついでに窓もだ。
「さーてと……次は……誰から死にたいかなー?」
ニンマリとした笑みを浮かべ、残りのクラスメイト達を見渡す。
——————数分後、教室から悲鳴が聞こえて。床一面には、血の海が広がることになった。
◇
「さて、と」
ハジメは高校から出て、とある場所で一息吐く。
「確か、期限内に結界に入らなきゃなんだっけ?」
今朝に確認した総則の内容を思い出した。 『
「コガネ、
「おう、見れるぜ!」
ハジメに呼び出されてコガネが現れると、身体にウィンドウが展開されて日本地図が映し出される。黒いマークが何個かあるが、そこに
「へー……近いとこだと東京の2つのと仙台のとこかな。何処にしたもんかなー……」
顎に手を添えて、しばらく考えるハジメ。
「…………うん、よし。ここにするかな」
南雲ハジメが行くと決めたのは————。
過去の呪術師と才能の原石がいる東京第一
雷神の狩場たる東京第二
4人の強者が集う仙台
彼の行き先は死に場所となるのか、それとも————。
呪いが廻る死の海。その浅瀬で、稚魚は揺蕩う。
つーわけで言ってた死亡シーン集の各ルートに繋がる分岐点みたいなお話です。第二結界に行くと第一話の死滅回游泳者"南雲ハジメ"に繋がるよ
才能の原石こと日車さんのこと示唆したけど、日車さんは出ない