ガールズ&パンツァー 転生した独裁者の陸戦道戦記 作:くろがね四駆
――ひとみが大洗の学園艦にやってきた翌日。
自室のベッドでぐっすりと睡眠を取っている最中、目覚まし時計が大きな音で鳴り始めた。
ひょいっと手を伸ばして、ひとみは目覚まし時計のスイッチを押す。
「んん……、もう朝なのか」
やはり元々ドイツ人だけあって、遅延もなく体を起こしてテキパキと着替えだす。
時刻は六時半、小鳥が鳴いている静かな時間の中で、順調に前もって用意していた道具で支度をする。
支度を終えるとひとみは、ふと今いる部屋を見渡した。
「――――」
流石のひとみも、何時もと違う朝の光景で違和感を感じる。
朝起きたら必ず弁当を作ってくれていた母。
何時も玄関を出ると、同じ通学路という理由で姉を待つ妹。
「……ははっ、慣れないとな」
母も妹も居ないという多少寂しい気持ちもありながら、朝食の準備を始める。
冷蔵庫から卵や野菜などを取り出して、袋から食パンを一枚だけ出した。
「よし、朝は目玉焼きをのせたトーストだな」
フライパンに生卵を入れて調理を始める。
「ソーセージは……、入れておくか」
実は転生後も未だにベジタリアンであるひとみは、前よりかは肉も食すのだがほんの少量なのだ。
不健康になるのを一番嫌がっているので、なるべく肉料理も取り入れる努力をしている。
調理後、朝食が完成してテーブルに皿を持っていく。
そして手を合わせて食事を始めた。
――食事を始めて間もなく、隣の部屋からドタバタと音が聞こえる。
隣の学生が寝坊でもしたのだろうかと、考えながらトーストをかじる。
「……ごちそうさまでした」
朝食を終えた時刻は七時十分、登校するには丁度いいタイミングであった。
片手に鞄を持って、玄関で靴を履く。
新たな学園生活をどう過ごそうかを考えて、扉を開ける。
しかし、ひとみにとって予想外の事態が発生した――。
「――みほ?」
「――ひとみさん?」
そう、西住みほと独逸ひとみの部屋は隣同士だったのだ……。
――まさかの隣同士だった事に驚愕した二人であったが、その後は仲良く会話をして通学路を歩いていた。
みほの心情を理解しつつも、ひとみはこれまでの経緯を話していた。
「……そっか、皆は私の事を心配してくれていたんだ」
「ああ、そこでお前の母であるしほさんに頼まれた形で私がこっちに来たんだ」
「お母さん……」
ひとみが経緯を話してくれたおかげか、みほはホッと安心した表情を見せる。
未だに怒っているのかと思っていたみほにとって、ひとみとの再会や向こうの事情を知れたのは嬉しかったのだろう。
「みほは大洗に転校して少し経つんだったな、今は何をしてるんだ?」
「えーっと、それがね……実は私、また戦車道を始めたんだ」
まさかの返答にひとみは驚く。
経緯が経緯だけあって、戦車道は続けないと思っていたからだ。
「そうなのか、多少の抵抗があると思ってたんだが……」
「あはは、ちょっと色々あってね……」
色々という単語が気にはなったが、ひとみは一旦話題を変えて、もう一つ気になっていた事を聞いた。
「ところでみほ、此処では友達は出来たのか?」
「うん、4人も友達が出来たんだ。近いうちに紹介するね」
話題を切り替えたひとみだったが、あまりにも気になってしまい思わず口に出した。
「・・・・・・大洗の戦車道はとっくに廃部していた筈だが、復活したのか」
「私が転校してくる丁度辺りで復活したんだって、それで運悪くこのタイミングで転校してきた私を生徒会長が目をつけちゃって・・・・・・」
苦笑いしているみほを見て、ひとみも苦笑いで返す。
「あー・・・・・・そういうことか。 しかしお前、意外と運がないのかもな」
「そうかな、そうかも・・・・・・」
その時、みほは何かを思い出してひとみに一つ質問をする。
「そういえば、ひとみさんは部活って何処に入るの?」
「戦車道だが?。」
「そ、即答・・・・・・」
どうして戦車道に入るのか理由はわかっているが、あまりの即答に流石のみほも顔がひきつる。
するとひとみは、ニヤリと笑った顔で言った。
「正直、みほとやる戦車道は楽しそうだからな」
「え、私とやる戦車道が?。」
「かつて最悪の独裁者と呼ばれていた私を改心させたのは誰だ? お前とまほだろう、そんな凄い奴と戦車道が出来るんだぞ」
「・・・・・・・そっか、そう言われると結構嬉しいかも」
そう言いながら照れているみほを見て、ひとみはニコリと微笑んでいる。
こうして通学路を歩いていると、いつの間にか校門の前まで到着していた。
「おはよう西住さん、それと・・・・・・・もしかして貴方が独逸ひとみさん?」
校門の前で挨拶してきたのは、風紀委員の園みどり子であった。
比較的小柄だがキビキビしたその姿を見て、ひとみは好印象を持った。
「はじめまして、私が本日から転校してきた独逸ひとみです。 どうぞよろしくお願いします」
ひとみはみどり子に対し綺麗なお辞儀、その次に握手のために右手を差し出す。
予想以上の礼儀の正しさにみどり子はきょとんとした顔をしている。
しかしすぐに我に帰り、ひとみの握手に応じる。
「こちらこそよろしくね、私は風紀委員の園みどり子よ。 何か困ったことがあったら言ってね?」
「それはそうと、独逸さんってもしかして西住さんの知り合い?」
みどり子が疑問に思っていたことをみほに聞くと、みほは忘れてたと言っているような顔で言葉を返す。
「はいっ、ひとみさんとは幼馴染なんです」
「そうだったのね、なら学校案内は西住さんにお願いしてもいい?」
「わかりました」
そう言ってみどり子と別れた二人は、まさかの教室も一緒だったからか学校案内もスムーズに進んで行った。
「ひとみさん、紹介するね。 こちら友達の武部沙織さん、五十鈴華さん、秋山優花里さん、冷泉麻子さん」
「君達がみほの友達か、私は独逸ひとみだ。 これからよろしく頼むよ」
「独逸って・・・・・・・あの独逸流のですか!?」
優花里が独逸の苗字に過敏に反応する。
戦車マニアなだけあって戦車道三代流派の名前は無視できなかったようだ。
「秋山さんだったかな、君はもしや戦車が好きなのか?」
「はいっ! それはもう!」
「そうかそうか、なら今度私の家にある戦車を見せてあげよう。Ⅱ号戦車F型だぞ?」
ひとみが言うと優花里が目をキラキラと輝かせる。
そしてひとみは挨拶をしていない三人の方へと向く。
「初めまして、みほと仲良くしてくれて嬉しいよ」
「いえ、こちらこそ!」
「こっちも、みほさんに助けてもらってばかりです」
「よろしく……」
沙織、華、麻子の順番にあいさつして、ひとみはみほ達の場所を後にする。
「あの人がみぽりんの友達かー……すっごいイケメン女子って感じ!」
「カリスマがありそうな方でしたね」
「眠い……」
「…………」
盛り上がっている中、優花里だけは不思議と黙り考え込んでいた。
それに気づいたみほが優花里に声をかける。
「優花里さん? どうかしたの?」
「……西住殿、少しお耳をお借りしても?」
「えっと、なになに?」
みほは言われたとおりに耳を貸し、優花里が静かに顔をみほの耳に近づける。
「――独逸殿があのアドルフ・ヒトラーの生まれ変わりっていう噂、本当なんですかね?」
「………へっ?」
――この大洗の学園間で、予想外な事態が起きようとしていた。