ガールズ&パンツァー 転生した独裁者の陸戦道戦記 作:くろがね四駆
大洗での訓練が順調に行われていたある日、各車長は杏から呼び出されていた。
場所は生徒会室、皆進んでソファーに座って杏の口が開くのを待っていた。
お茶を飲んで一息つく、そして杏は遂に口を開いた。
「三日後、遂に陸戦道の訓練が始まる」
息を呑む。 前々から行うと予定されていた陸戦道の訓練の告知であった。
「さらに水戸学園艦と連絡をとった結果、あの強豪校である聖グロリアーナ女学院との練習試合も決定した」
「ええ、聖グロリアーナ女学院ですか!?」
「初っ端から強豪校とは、大丈夫なのか?」
みほは驚き声を出す、ひとみも困惑した様子で杏に聞く、しかし杏はニヤリと笑いながら言った。
「大会に出るならまずは強豪校の強さを知るのも大事ってわけ」
「それに、あくまでこれは練習試合だ。 大会に支障は無い、むしろ私達の練度がどれほどのものか確かめる良い機会なんだ」
杏に続いて河嶋が言う。
「しかしなぁ……」
流石に初戦で強豪校となると、ひとみも難しい顔をする。
反対の意見よりも、心配の声の方が大きい。
「言いたいことは理解できるけどさ、相手の聖グロだって陸戦道はやったことがないんだし、お互い今後の試合のやり方を覚えられるわけだしね」
「……はぁ、わかりました。 そこまでおっしゃるのでしたら反対は致しません」
仕方がない、そうひとみは承諾する。
実際に両学校に利害は一致しているのだから、何とも反対する理由もない。
「じゃあ作戦はどうするんですか?」
磯辺が手を挙げて気になっていた事を聞く。
すると副会長の柚子が聖グロの戦車や戦術などの詳細が書かれた紙を広げて、ホワイトボードに張り付けていく。
正直ひとみにとって、イギリスの戦車は苦い記憶しかないのだが、前世の事なので一旦片隅に置いていくのであった。
「グロリアーナは歩兵戦車チャーチルMk.Ⅶ、歩兵戦車マチルダⅡという重装甲の戦車が多く、浸透戦術を巧みに利用している。 恐らく陸戦道に変わってもなお歩兵部隊と共に浸透戦術を仕掛けてくる可能性が高い」
ここで河嶋は一旦話を止める、そして視線をみほに移した。
「我々には試合の経験が無い。 そこで西住、お前に隊長を頼みたい」
「ええ、私がですか!?」
「仕方がないだろう。 独逸が隊長も考えたが、経験豊富なのはお前だけなんだからな」
頼んだぞと河嶋に言われる。
ついでにひとみは副隊長に任命された。
みほは突然の事で困惑しているが、話は続いた。
「陸戦道の訓練の前に明日、水戸学園艦の水戸男子高等学校、歩兵道の生徒達との交流会を行う予定だ」
「てなわけで明日は水戸の生徒達と仲良くねー、じゃあ解散ー」
――そういう事があった翌日。
大洗の生徒達は久しぶりの陸地に足を踏んだ。
「久しぶりの陸地だぁ!」
「まだ水戸は来ないんでしょ? だったらコンビニ行かない?」
「いいねぇ、行こう行こう!」
嬉しそうにはしゃぐ戦車道の一年生メンバー、そんな光景を見たひとみは独り言を呟く。
「聖グロとの試合を終えるまでの二週間は陸地に滞在するらしいし、母さんに会いに行くかなぁ」
「……おお、此処にいらっしゃいましたか」
声がしたので後ろを振り向く、そこには独逸家の従者兼元ドイツ連邦軍軍人のフリッツ中将がいた。
どうやら少々困っている様子である。
「フリッツ中将、どうしたんだ?」
「それがですな……戦車道のメンバー四人に我らの正体がバレてしまったのです」
ひとみは大分まずそうな顔でフリッツ中将を見る。
しかしバレたからにはもう遅い、冷静に口を開く。
「誰にバレたんだ?」
「エルヴィン殿とその歴女達です……」
「よりにもよって歴史に詳しいメンバーかぁ、どうするんだ?」
「――それについては心配はいらない」
いつの間にかエルヴィンが隣まで近づいてきていた。
二人はわー!と驚き声を上げる。
「そこまで驚かなくても良いだろ……?」
「す、すまない」
エルヴィンは苦笑いしつつも話を戻す。
「話を戻すぞ。 私はドイツ軍に詳しい、もちろん独逸お前もだ」
「じゃあ、どうして心配いらないんだ?」
「二度目の人生に口を出すほど、私も愚かじゃない。 ……それよりもだ」
くるりとフリッツ中将を見る、そして目を輝かせ始めた。
「まさか本物のマンシュタイン将軍にお会いできるとは……!!」
「……あーなるほど、私の事情よりもフリッツ中将の方が驚愕だったのか」
「あ、いやすまん。 そういうつもりじゃなかったのだが……ドイツ軍好きとしてはな、さすがに著名の軍人に会ったらそうなるだろ?」
確かにそうだなと、ひとみは納得する。
「私の仲間達も同じ気持ちだ。 世界中の歴史でどれだけ多くの独裁者が台頭していると思っている? スターリン、ポルポト、毛沢東……、お前よりも恐ろしい独裁者なんて少なくはない」
「しかし……」
「今のお前は独裁者ではない、いたって平凡な一人の人間だ」
エルヴィンの言葉は、ひとみに対しての励ましの表現であった。
ひとみが毎日、過去に責任を感じていることを察したのだ。
「……そうだな、ありがとうエルヴィン」
「私からもお礼を言わせていただきます。 今後ともお嬢様の事情は内密にお願いいたします」
「はい。 ……そうだ、私と連絡先を交換してくれないか?」
「全然かまわないよ、なんなら今度知っている転生者を紹介してやる」
ひとみの言葉で、エルヴィンの目はさらに輝く。
「本当か・・・・・・! 一体どんな方を紹介してくれるんだ?」
「かのマッケンゼン元帥さ、転生してから長く既に老人だがバリバリに元気だよ」
「マッケンゼン元帥だと!? 本当に良いのか・・・・・・!?」
「秘密にしてくれる礼だよ」
──エルヴィンは後に、こんな嬉しい経験は人生の中で類を見ないだろうと語っている。
しばらく経って、二つ目の学園艦が港に停泊する。
水戸学園艦が遂に合流したのだ。
見物の為か、または長年のファンか、そんな現地の人々が集まってきていた。
カメラを構えて待つ人も少なくはない。
無理もないだろう。 新たに発足された陸戦道を、地元に関する二隻の学園艦が行うのだから。
「それにしても、水戸の生徒ってどんな人達なんだろう?」
「会長からの話だと士気と練度が高いが、基本的に戦術負けしているそうだ」
「あ、来ましたよ!」
──最初に聞こえるのは喇叭の音、同時に片足揃えた軍靴の音が響きわたる。
水戸学園艦の誇り高き旗が翻る、旗には水戸徳川家の家紋が描かれている。
この事に歴女チーム達が目を見開く。
「徳川の家紋か!?」
「江戸幕府ぜよ……!?」
「これは予想外だな……」
「…………」
『連隊、止まれ!』
ものの見事に歩兵は一斉に足踏みを止める、まさに日頃の訓練の成果だろう。
そして連隊の中央には一人、気高くも優しそうな男が杏の元へやってくる。
目の前に来て敬礼、口を開いた。
「私が水戸歩兵道で指揮官をしている、徳川慶喜と申します」
「大洗女子学園の生徒会長、角谷杏です」
二人は握手をする。
しかしその周りにいる大洗の生徒達は慶喜の名を聞いて動揺している。
慶喜はそれを察したようだ。
「驚かれるのも無理はないでしょう、私は水戸徳川家の生まれです。 その際に江戸幕府最後の将軍である徳川慶喜と同じ名前を与えられたのです」
「そういえば皆にはまだ言ってなかったねーごめんごめん」
周囲が驚いている中、ひとみと栗子、そしてフリッツは静かに慶喜を見つめていた。
「(いや、名前が同じわけではない……一瞬だが私達を見た時、雰囲気が変わった。 まさかとは思うが……)」
──それから十数分後、交流会は始まった。
楽しく飲み食いして、楽しく会話する大洗と水戸の生徒達。
ひとみは一人でジュースを飲んでいた。
一人になりたいからというわけではなく、単に飲みたいジュースがあるテーブル近くに誰もいなかったからである。
すると慶喜がテーブルに近づいてくる。
「隣よろしいですか?」
「全然構わんさ。私は大洗戦車道の副隊長、独逸ひとみだ。 これからよろしく頼む」
「やはり貴方が独逸流の……」
「それよりも、本題に入ろうか?」
ひとみの言葉は、一気にその場の雰囲気が変わらせた。
慶喜はニヤリと笑った。
「フッ、こんなにも早く気づかれるとは……ドイツ人は鋭いですな」
「お褒めに預かり光栄だよ、最後の将軍さん」
「意外でしたかな? 私が歩兵道の指揮官である事」
「いや、むしろ私の正体がバレてる事に驚いたよ」
ひとみはグラスを慶喜に差し渡す。
そして慶喜のグラスにジュースを注ぐ。
「どうせなら新たな人生を楽しもう、お前はそれが目的だろう?」
「……ああ、その通りだ。 もう将軍なんか嫌な役職はごめんだよ」
──乾杯。 二人は楽しく飲み始める。
こうして大洗と水戸、両校の交流会は大成功を収めたのである。