それは夢のように儚くて   作:小さい鯨

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アビドスVSミレニアム

 5人はモノレールから降りた。乗客を下ろした乗り物はドアを閉め、次の乗り場へと走っていく。

 

「全員いるよね〜?」

 

「5人ちゃんといます☆」

 

 ノノミがホシノに元気よく返事をした。アビドス対策委員会は装備のチェックをし、全員が問題ないことを確認後、出発をする。

 彼女達は天まで届きそうなビル街を歩いていく。頭上のガラス達は太陽を反射し、キラキラと輝いていた。アビドスよりも栄えている街並みに、感嘆の声を誰かが漏らした。

 進行方向から生徒が複数人歩いてきた。彼女達は武装をしており、それを認識したセリカは、銃を握る手が強くなった。彼女達は、ホシノ達を発見し、

 

「あ、アビドス生だ。頑張ってね」

 

 と、手を振った。

 

「ん! 頑張る!」

 

 シロコがサムズアップをし、そのまま何事もなく通り過ぎていった。

 

「いい人たち!」

 

「舐められてるんですよ! シロコ先輩!!」

 

 アビドス対策委員会は、ミレニアムの街を堂々と歩き、ミレニアムタワーへと向かっていく。

 

 ■

 

 話は数日前に遡る。アビドスがミレニアムに宣戦布告をした後、セミナーのユウカとノアはアビドスに訪れていた。彼女達は、アビドス対策委員会の部室に案内され、ホシノと対談を行った。その内容はもちろん、戦争回避だ。

 ユウカは差し出されたお茶を一気に飲みほし、ホシノを見る。

 

「勝手ながら、アビドスについて調べさせてもらいました」

 

「この短時間で調べるとは、流石だねぇ」

 

「そちらの財政状況、カイザーとの関係、生徒会の現状、全て把握できたとは言いませんが、概ね理解はしたつもりです。目的は金銭ですか? それでしたら、こちらからカイザーコーポレーションよりも低い金利で、融資しても構いません」

 

「お金の問題じゃないんだよね」

 

「でしたら何故ですか? 確かにあなた達はとても、その破天荒な生き方をされておりますが、意味もなく争いを起こすような方々ではないと私は思いました。何故このような不可解なことを?」

 

「ミレニアムとアビドスが戦えば、100%ミレニアムが勝利します。そのことは分かっていますよね?」

 

 ユウカとノアがホシノを見る。その真剣な表情に、ホシノは目を逸らしそうになってしまった。敵である自分達のことを心配してくれているこの子達は、とても優しい子達なんだなと、自嘲気味に笑ってしまう。

 

「…2人は先生について知ってる?」

 

「先生…、手紙に記載されていた人物ですか?」

 

 ユウカは手紙に書かれていた追記の文を思い出していた。先生、アビドス生はその先生を探している。そのため、ミレニアムは先生という人物も探してはいたが、全く判明はしなかった。

 

「うん」

 

「その方は何者なんですか?」

 

「頼りない大人だよ」

 

「…えっ?」

 

「頼りにならない大人、でもどんな時でも支えてくれる人。だから、私はあの人にまた会いたい。私はもう間違えたくない。……あーあ、2人が嫌な人たちだったら良かったのにな」

 

 ホシノは立ち上がる。

 

「ミレニアムの人たちに迷惑をかけたのは悪いと思ってる。でも、戦争はやめない。これが私達アビドス高等学校の選択だよ」

 

「……」

 

「……」

 

 互いの視線が交差し、静寂だけが過ぎる。目の前の代表の意思が固いことを把握したユウカは目を瞑り、思考する。

 ゆっくりと、目が開かれた。青い澄んだ瞳がホシノに向けられる。

 

「分かりました、あなた方の宣戦布告を受けます。ただ、こちらの条件を聞いてください」

 

 ■

 

 妨害もなくミレニアムタワー前まで辿り着いた5人。眼前には敷地内へ入るためのゲートがあり、ゲートとタワーの間には、芝生やランニングコースがあった。また、少し離れたところでは野次馬が来ており、ホシノ達の上空を無数のドローンが飛行している。ミレニアムの索敵用のものから、クロノススクールの撮影用ドローンまであった。

 

「誰も来ませんでしたね」

 

 アヤネが呟く。その発言は敵のことではなく、先生を思いだした味方になり得る存在のことだった。

 

「仕方ないよ、アヤネちゃん。私達はやれることをやろう。じゃあみんな、改めてセミナーの子が提示した条件を言うよ」

 

 ホシノが前に立ち、後輩達を見る。

 

「ひとつ、戦闘を行う場所はミレニアムタワーの敷地内のみ。タワー内じゃなくて敷地内だから、後ろのゲートをくぐったら即戦闘が始まるからね」

 

 シロコが敷地内を眺める。タワーに辿り着くまで見晴らしがよく、狙撃を行うのに最適な建物もいくつかあった。

 

「ふたつ、非戦闘員への攻撃は禁止。といっても、ミレニアムの敵勢力はほとんどがAI管理のロボだから、私達への配慮だね」

 

「投降したければ銃を捨てろってことね」

 

「その通り、セリカちゃん」

 

「みっつ、こっちの勝利条件はセミナーの代表代理である早瀬ユウカちゃんの無力化。敗北条件は私の無力化。ユウカちゃんはタワーのてっぺんにいる」

 

「ここまで明確にされると、戦争というより、模擬戦闘ですね」

 

 ノノミが苦笑した。

 

「まあ正直言うと、私達の目的としては市街地戦の方が良かったんだけどね」

 

 ホシノ達の目的の一つは、注目を浴びることだ。それならば、目立ちやすい市街地戦の方が何かと好都合であった。だが、戦争という名目上ここまでお膳立てされて断っては、もう一つの作戦をセミナーに勘付かれてしまう。勝つことは最優先目標ではないが、勝とうとしているところは見せないといけない。

 

「いい、みんな作戦通りやるよ。……もしも失敗した時は」

 

「ホシノ先輩、私達は勝つ」

 

 シロコの凛とした言葉に、ホシノは呆気にとられ、うへぇと笑った。

 

「そうだね、うん。みんな、勝って帰ろう!」

 

「「「「おー!」」」」

 

 ドローンが先行し、進行方向へスモークをたく。タワーまでの道はスモークによって、真っ白に覆われていく。アビドス対策委員会はゲートを越え、スモークの中を全速力で突き進んだ。

 

「っ!!」

 

 セリカは頭を勢いよく下げた。数コンマ後、銃弾が通過する。音からして対物ライフル、殺気を感じたセリカが頭を下げなければ、意識を失っていたことだろう。

 

「うっそでしょ!! この視界で狙撃してきたの!?」

 

「セリカちゃん走って! こっちが見えてるわけじゃない! ゲートを通過したのを見て、そこから直感で撃ってきてるだけだよ!」

 

 その証拠に2発目は5人ではなく、先行しているドローンに放たれた。目標となったドローンは粉々に砕け散る。

 デバイスで破壊されたことが分かったアヤネは、即座に2機目のドローンを放つ。だが、タワーまでまだ4分の3も残っている。このままでは、スモークがもたない。

 

「おじさんが先に行く!!」

 

 ホシノは踏み込み、加速した。その脚力により地面が抉れ足跡の穴を開ける。

 桃色の流星が、スモークを突き抜けその姿を現した。

 

「囮か?」

 

 スモーク内のセリカを狙撃したのはC&C所属の角楯カリンだった。彼女はミレニアムタワーの敷地内に建造されているビルで、狙撃態勢をとっている。

 突出したホシノへ、その銃口を向けた。目標は盾を持っていたが、カリンの愛銃ホークアイは対物ライフルだ。戦車の装甲すらも撃ち抜く。しかも囮となったのは、今回の勝利条件の相手でもあり、引き金を引かない理由がない。カリンは目標を撃ち抜かんと、指を動かした。

 だが、カリンの銃弾は、盾によって防がれた。

 

「なっ!?」

 

 2発目を即座に放つ。だが、防がれる。それも、走りながらでだ。

 

「流石にショットガンで狙撃カウンターは無理だよねぇ!」

 

 ホシノは2発目を防いだのち、ミレニアムタワーの入り口を愛銃で粉砕し、中へ飛び込む。遅れてシロコ達も乗り込んだ。

 

「シロコちゃん達、無事!?」

 

「ん、問題ない」

 

 戦闘用ロボット達が、ロビーへ乗り込んできた。ノノミがマシンガンを向け、掃射、大量の薬莢が吐き出されていく。

 

「ホシノ先輩! 作戦通りに!」

 

「みんな!ここは任せたよ!」

 

 道が開かれ、ホシノがまた走り出す。通路から出てくるロボットを、セリカが狙撃し粉砕していく。

 

「あんた達の相手は私達よ!」

 

「アヤネ、隠れてて」

 

「は、はい!」

 

 ミレニアムオペレーションルーム。その部屋にユウカとノア、そして数人の生徒達がいた。彼女達が今回の戦闘の指揮及び管理を行なっている。

 

「アビドス生、タワー内に侵入しました!」

 

「早いですね」

 

「大口叩くだけはあるってことね」

 

「目標の小鳥遊ホシノは、敵チームから離脱。近場の階段を無視し、1階を進んでいます」

 

「どこにいくんでしょう?」

 

「罠を警戒して遠い階段を目指しているか、もしくは地下に潜って武器庫とか?」

 

「目標…、エレベーターに乗り込みました!」

 

「はぁ!?」

 

「あら…、疲れたのでしょうか?」

 

「馬鹿じゃないの!? エレベーターを使用不可に、ドアを閉めて!」

 

「は、はい!」

 

「付近の戦闘用ロボを集結させて、ドアを開けた直後包囲攻撃」

 

「分かりました!!」

 

「集結完了、5秒後に攻撃します」

 

「5、4、3、2、1…」

 

 ユウカとノアは大型ディスプレイを見る。ロボットに搭載されているカメラが、撮影している映像をその画面に映し出していた。

 ドアが開かれ、金属音と硝煙が映像を乱す。硝煙がはれるが、映像には穴だらけの部屋のみ、ホシノの姿はどこにもない。

 

「なっ、どうして…」

 

 モニターを見た生徒達が困惑する。ユウカは画面を穴が開くほど見つめ、痕跡を探す。その目が見開かれ、驚愕した。

 

「……ま、まさか!! エレベーター上階のドアを全て閉鎖!! 完全に閉じ込めて!!」

 

「えっ!!?」

 

 ユウカの怒声とも言える声に、混乱する生徒達。早くして! という言葉で行動を始めたが──

 

「さ、最上階フロアのエレベータードア、突破されました!!」

 

「やられた…!」

 

「ユウカちゃん、どういうことですか」

 

「ロボを操作して、エレベーター内の天井を映して」

 

 映像の視界が移動していき、エレベーター内を見上げる。天井には、人1人が入れそうな穴が空いていた。

 

「シャフト内に侵入を?」

 

「シャフト内を登ったのよ!! あの人!」

 

「そ、そんなバカな! 何階あると思っているんですか!!」

 

「実際やったのよ…、C&Cに報告して、全員で彼女に当たらせて」

 

 ドアを粉砕し、ホシノは最上階へと出た。監視カメラはあるが、敵影はない。

 

「よし、とりあえずここまではOK」

 

 ホシノはそのまま、ユウカのいるオペレーションルームを探そうとするが、シャッターが降下、閉じ込められてしまう。

 だが、ホシノは焦ることなくバッグからガスマスクを取り出し、それを装着した。

 

「さて、あとは運任せだ…」

 

 ホシノは壁に寄りかかり、その時を待った。

 

 ■

 

「次!!」

 

 セリカ、ノノミ、シロコは次々とくる警備用ロボットを破壊していく。足元は薬莢とロボットの残骸だらけとなっており、上から見下ろせば、床は金と白の色でくっきりと分かれていた。

 

「アヤネちゃん、代えの弾薬を!」

 

「こちらです!」

 

 敵の増援が止まり、弾薬の補給を行う。そうしていると、2人の生徒が姿を現した。

 

「はじめまして! アビドス高等学校の皆さん!」

 

「誰?」

 

 シロコがロビーにやってきた2人に、銃口を向ける。

 

「あ、撃たないで! 丸腰です!」

 

 金髪の黒眼鏡をかけた小柄な少女と、黒髪のダウナー気味な少女が手を上げる。ミレニアムエンジニア部所属、豊見コトリと猫塚ヒビキだ。

 

「非戦闘員? なんでこんなとこいるのよ」

 

「戦闘テストがしたいだけ、私達を倒しても意味はないから」

 

「戦闘テストですか?」

 

「なんの…?」

 

 ノノミは首を傾げ、セリカは嫌な予感がした。

 

「さあ発進です! アバンギャルド君mark4!」

 

 壁を粉砕し、それはやってきた。キャタピラの脚、四つの腕には多種多様な装備、純白の装甲にはミレニアムの紋章、そしてその独創的な顔がシロコ達を見た。

 

「だっさい!!!」

 

 セリカの声が響き渡る。

 

 ■

 

 場所は変わり最上階フロア、ホシノを囲んでいたシャッターが開放される。毒ガスが放たれると思っていたホシノは、何もされなかったことに拍子抜けしていた。

 

「マスク取りな、ガスなんてしねぇよ」

 

 シャッターが開かれた先に、4人の少女が立っていた。彼女達はみな、メイド服を着用している。

 

「あれ? メイドさんの接待? おじさん感激しちゃうなぁ」

 

 ホシノはマスクを脱ぎ捨てた。

 

「ふふ、このような状況でなければ、サービスしても構いませんでしたが」

 

「わー! リーダーと同じぐらいの身長じゃない?」

 

「うっせぇ! ああ見えて、なかなかやるみてぇだ。あたしが敵だと思ってかかれよ、お前ら」

 

「ネル先輩が2人…、地獄ですね」

 

「どういう意味だお前…」

 

「みんな仲良いねぇ、でもさ、ガス攻撃しないなんて、舐めてない? おじさんがっかりだなぁ」

 

「はん、舐めプじゃねえよ。お前1人にあたしら5人が総出でかかるって話だ。光栄なことだぜ?」

 

「へぇ、4人しかいないけど。もう1人は狙撃してた子かな?」

 

「ああ、そうだ、5対1だ。こっちも仕事なんでな。手加減とかはしねえ」

 

 C&C、ミレニアムの最強エージェント達がホシノの前に立ち塞がった。

 

 ■

 

 ゲーム開発部部室。今日もゲーム開発部はゲームの研究を行っている。

 

「アリス! そのコンボは反則だって!」

 

「モモイ、戦いはいつだって非情なんです!」

 

 アリスが本日三回目の勝利を重ねていた。モモイがコントローラーを投げ、くやじー!! と文句を言う。ユズはそんな2人を後ろから眺め、ミドリはイラストの製作を行なっていた。

 

「もう一回! もう一回!」

 

「どうやらアリスは強くなりすぎてしまったようです……、モモイが小さく見えてしまう」

 

「お姉ちゃんが弱いのは元からだけどね」

 

 モモイのリベンジを受け再戦する2人。遠くの方から、銃撃音と爆発音が聞こえてくる。

 

「……なんか騒がしい?」

 

 ミドリが手を止め、音の方を見る。ユズもそちらを見て、口を開いた。

 

「アビドスの人達が来てるみたい」

 

「あー、なんだっけ、戦争だっけ」

 

 モモイが指を動かしながら、ユズに話し返す。ユズは頷き、セミナーから貰ったプリントを確認する。

 

「指示が来るまでは、ロビーの方には行かないでって、帰る時は裏口を使わないと」

 

「めんどくさいなぁ」

 

 この! この! えい! えい! と画面の中のキャラ達が殴り合う。戦況はアリスが優勢であった。これはまたアリスちゃんの勝利かなと、ユズは予想した。

 

「よそでやって欲しいよね、アリスそれはやめてって!!」

 

「なんだっけ、先生って人を探してるんだっけ」

 

「先生?」

 

 ミドリがおでこにペンを当て、小耳に挟んだ噂話をを思い出していく。ユズはミドリの方を見た。

 

「私も詳しくは知らないけど、先生って人を探すために戦争してるみたいだよ」

 

「見つかるといいね」

 

「やった!! 勝ったぁ!!」

 

 ユズが画面から目を逸らしてるうちに、モモイが勝利したようだ。アリスは負けたことが信じれないのか固まっている。

 

「アリスちゃん、コマンド間違えた?」

 

 ユズがアリスに話しかけるが、彼女は動かない。

 

「アリス?」

 

 モモイもまた、隣に座るアリスに話しかける。ミドリも何かあったのかと、アリスへ視線を向けた。

 

「せ、せんせい……!!」

 

 アリスは勢いよく立ち上がる。3人は驚き、彼女達はアリスの名前を呼んでいく。だが、それに反応せずアリスは立てかけてある自分の愛銃「光の剣スーパーノヴァ」を手に取り、背負った。

 

「ちょ、ちょっとアリスどこに行くの!!」

 

「アビドスの人達に加勢しにいきます!」

 

「ええ!? なに!? なんで!?」

 

 双子達はアリスの行動についていけず、ユズは困惑し何もできないでいた。

 

「先生のためです! アリスは全て思い出しました!!」

 

「あ、アリス! 本当にどうしたの? 先生ってアビドスの人達みたいなこと言って…!」

 

 モモイのその発言に、アリスは出ていくのをやめ、3人を見た。

 

「みんなも思い出してください! たくさん、たくさん先生と一緒に、クエストをこなしてきたじゃないですか!! 先生は私達の大切な仲間です!」

 

「アリス…?」

 

「とりあえず行くのはよそうよ、危ないって」

 

「そ、そうだよ。セミナーに任せよ?」

 

「止めないでください! ユウカ達もこんなの間違ってます!! 多分、アビドスの人達もアリスと同じように思い出したはずです、アリスもいかないと…!」

 

 人が変わったような言動をとるアリスに、他の3人はついていけず混乱する。それでも、戦場に友達を送り出すこともできないので、3人はアリスを取り押さえようとした。そんな惨状を知らず、ドアが勢いよく開かれる。

 

「モモー! アビドス来てるから、ヤジ飛ばしにいこー!」

 

 マキが顔を出した。

 

「……え、何この状況」

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