それは夢のように儚くて   作:小さい鯨

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ここから流血描写がちょいちょい出てきます。


アビドスVSミレニアムその2

 音を殺し、黒いドレスを靡かせ、クロコはミレニアムの廊下を歩いていた。彼女は現在、単独で行動をしている。彼女の目的は、ホシノ達が陽動をしている間に潜入し、ミレニアムに置かれている方舟の残骸を手に入れることだった。

 クロコの存在は特異だ。彼女は別世界からの人間であるため、この世界に籍はない。彼女はアビドス生でありながら、アビドス生ではないのだ。

 戦争前の工作活動はタブーではあるが、アビドス生ではない彼女の独断行動という、グレーな方法を使うことがホシノ達の作戦であった。

 

「おや、見ない顔だね」

 

 クロコは即座に、声の方へ銃口を向ける。

 

「誰」

 

 銃口を向けられた少女は、のんびりと両手をあげる。空のマグカップをひらひらと揺らしていた。

 

「丸腰だよ、探し物かな」

 

「質問は私が先にした」

 

「おっと、失礼した」

 

 クロコは彼女の腰に携帯されている工具類を確認すると、銃を下ろした。どうやらメカニックのようだ。

 

「私は白石ウタハ、エンジニア部所属だ。マイスターとも呼ばれている」

 

 ■

 

「いっくよー!!」

 

 アスナが駆け出した。馬鹿のように一直線にホシノへ向かう。ホシノは愛銃Eye of Horusを構え、引き金を引く。だが、その弾丸がアスナに届くことはなかった。

 

「嘘!?」

 

 シェルが装填されず、ジャムってしまった。常に整備を心がけているホシノの銃が、不良を起こしたのは初めてのことだった。

 

「おせーよ」

 

 後ろから声がする。振り向けば、C&Cのリーダー、美甘ネルが立っていた。アスナとネルが同時に銃を構える。

 ネルの武器はSMG、アスナはAR、銃だけで見ればアスナの武器の方が火力は上だが、ホシノは迷うことなくネルの方へ盾を向けた。

 挟み撃ちの同時攻撃が、ホシノを襲う。

 

「ぐっ、があああああ!!!」

 

 ホシノの悲鳴が響き渡る。盾が向けられていないアスナの攻撃は、ホシノの体を射抜いていく。だが、ホシノの悲鳴はそちらから出たものでなかった。対物ライフルをなんなく防いだ盾が押されていき、ゆっくりとホシノの体は、アスナ達の方へ近づいていく。9mm弾とは思えないパワー、連射されるその一撃一撃が、必殺の威力が込められていた。

 

「はははっ!! お前おもしれーな!!」

 

 ネルの口が大きく釣り上がる。今までの比にならない程の強敵に、彼女の心は躍っていた。

 

「対一でやりたかったぜ!!」

 

「おじさんも、そうしたいけどね!!」

 

 ホシノは身を翻し、アスナへと回し蹴りを放つ、だが、それは空振りした。アスナの体が歪み消えていく。

 

「なっ!?」

 

「ホログラムです」

 

「アスナ先輩、先行しすぎです」

 

「ごめんごめん!」

 

 アスナがトキ達の元へ戻り、3人の一斉射が正面を向けているホシノへ襲いかかる。フルオートの攻撃だというのに、ホシノの急所を的確に撃ち抜いていった。

 

「いたたた!!」

 

 彼女達の銃撃が、ホシノを盾へ押し付けた。だが、盾をそちらへ向けることはできない。盾を動かせば、即座にネルの攻撃を受けてしまう。この心許ない薄さの盾が、ホシノを救っていた。

 

「痛いんだけど!!」

 

 ホシノは壁を蹴破った。開いた穴から中へ飛び込む。

 飛び込んだ際に、腕をネルの弾丸が掠め血を流すが、必要経費だとその痛みを無視した。

 

「おい、部屋の中は危険だぜ」

 

 ホシノが飛び込んで数秒後、爆炎と爆音が、ホシノが飛び込んだ穴から勢いよく吹き出す。あまりのエネルギー量に、床が震えた。

 

「少しやりすぎたでしょうか」

 

 アカネが揺れて動いた眼鏡を正した。

 

「おい、生きてるか」

 

 ネル達は壁穴を覗き込む、床や壁は焦げて黒色になっており、家具は炭化していた。ホシノの姿は見当たらない。

 

『リーダー』

 

 ネルの装備したインカムに、無線が入る。遠方から支援及び狙撃態勢をとっているカリンからだった。

 

『目標は部屋から逃走、盾で防いだみたいだ』

 

『はー、やるねぇ』

 

 ネルは口角を上げながら、リロードを行う。

 

「お前ら、加減するなよ。セミナーから好きにしていいなんて許可、今後降りねえだろうからな。それと油断もするな、あれは手負のあたしだと思え」

 

「その状態の部長なんて、戦いたくありませんが…」

 

「了解しました、ウサギ狩りと行きましょう」

 

「ぴょんぴょん!」

 

 彼女達は使い切ったマガジンを交換し、敵を追いかける。

 

 ■

 

  火薬の爆ぜる音、薬莢が跳ねる音、弾丸が弾かれる音。

 ミレニアムタワー1階ロビーは激戦区であった。

 

「ふざけた顔して、なんであんなに強いのよ!!」

 

 セリカの怒号のような悲鳴が、響く。

 ふざけた顔と呼ばれた機械人形が、ガトリングガンを薙ぎ払うように放つ。全速力で駆け、遮蔽物へ隠れるシロコとセリカ。物量攻撃により、隠れている瓦礫が削られていく。

 ノノミはアバンギャルド君の後方に忍び寄り、リトルマシンガンVを構えるが、それを察知していたかのように、腕の一つがノノミへ向けられた。

 

「まずっ…!!」

 

 ノノミが飛び込むと同時に、先ほどまでいた場所へ、ロケットが飛来、爆発、爆風によりノノミは吹き飛ばされてしまった。

 

「アバンギャルド君の索敵範囲は360°! 4つの腕を用いて、あらゆる状況に対応できます! 全身を覆う装甲をより強化し、盾の代わりに多弾頭ミサイルランチャーを装備しました!!」

 

「索敵能力は赤外線から紫外線までの感知に加え、微かな空気振動をAIが処理して敵の位置を把握するよ」

 

「馬鹿じゃないの!? 馬鹿でしょあんた達!!!」

 

 アバンギャルド君はミサイルを構え、放つ。ミレニアムの天井はある高さまで吹き抜けになっており、空いている上空へと飛び立ったそれは、シロコとセリカの真上で拡散、数百の爆弾となり落下する。

 

「セリカ!!」

 

「わかってる!!」

 

 シロコとセリカは銃を天に構えた。

 

「あああああ!!!」

 

「落ちろぉおおお!!!」

 

「す、すごい…!」

 

 コトリが驚嘆の声をあげる。シロコとセリカは、たった2人で数百近いクラスターと応戦する。爆風により、ほとんどが見えなくなる状態で勘と微かな煙の動きで、一つの漏れもなく撃ち落としていった。

 

「だけど、そろそろ盾もなくなる」

 

 ヒビキが戦闘データをメモしながら、呟いた。

 シロコとセリカを守る瓦礫が薄くなっていき、弾丸が貫通し始めた。その銃弾が、シロコとセリカを掠めていく。

 

「あぐ…!!」

 

「セリカ!!」

 

 セリカの腕と腹に命中し、体勢を崩してしまった。シロコは横目に見るが手を差し伸べない、いやできないのだ。セリカの攻撃が止まってしまった以上、シロコだけで倍の動きをしなくてはいけない。だが、それは──

 

「これで詰みかな」

 

「シロコちゃん!!」

 

 起き上がったノノミが、銃を構える。下から上への制圧攻撃により、全てのクラスターを撃ち落とした。

 シロコはノノミの声を聞いて、即座にセリカを抱え銃弾の雨から避難する。

 アヤネが隠れている遮蔽物に走り込み、セリカを寝かせた。

 

「アヤネ、治療を!」

 

「は、はい!」

 

「し、シロコ先輩、これ!」

 

 シロコはセリカの残りの弾薬を受け取る。セリカが装填していたマガジンだった。残りの弾数は半分もない。

 近くに隠れているノノミを見つけたシロコは、彼女に声をかける。

 

「ノノミ、そっちは弾薬どのぐらい残ってる?!」

 

「ごめんなさい! さっきので全部使い切りました……!」

 

 シロコの残りの弾薬は、セリカから貰ったものだけであった。アバンギャルド君はゆっくりと、シロコ達へ向き直る。

 そして、世界は闇に包まれた。

 

 ■

 

 息をするのも辛い。体は燃えたぎるように熱く、身体中のあちこちから激痛が走る。片目を擦ればその手は真っ赤に染まり、今すぐベッドの中に入りたいほど疲れていた。今日は快眠できそうだと自嘲し、背中を壁に預ける。

 

「おじさんをここまで働かせるなんて、罪な人だよ。まったく……」

 

 ホシノは追い詰められていた。爆発からなんとか逃げ延びた後も、恐ろしく強いメイド達の襲撃を受け、逃走を続けていた。階下へ降りる階段は塞がれており、逃げ場はない。

 弾薬を確認するが、残りのシェルは装填済みのを入れてもあと5つ。何度確認しても数は増えない。装填不良はなんとか直すことはできたが、絶体絶命だった。

 ホシノは息を深く吸って、吐いた。現状を確認する。撤退はできない。満身創痍の体。増援も期待できない。装備は弾数の少ない愛用の銃、先輩が使っていた盾、後輩からの期待、先生への想い。

 

「よし、楽勝だ。行こう」

 

 銃と盾を握り締め、ホシノは敵に向かって走り出した。

 

「兎ちゃん発見!!」

 

 1番近くにいたアスナが反応し、自身へと接近する敵目標へ銃を向ける。ホシノはそのアスナへ、

 

「パ〜ス」

 

 自身の愛銃を投げ渡した。

 

「へ? ありがとう!」

 

 アスナはそれを受け取った後、ホシノの蹴りを顎にもろにくらい、意識を手放した。

 

「そこにいたか!」

 

 ホシノへ駆け寄るネル。トキと、2人の後ろにいるアカネは銃を構える。ホシノは手放された愛銃を受け止め、2発続け様に放つ。

 見え見えの攻撃、トキとネルはそれを難なく避ける。だが、後ろから悲鳴が上がり、トキは驚いて後ろを見た。

 アカネが倒れていた。

 

「まさか、私達を死角にして狙撃を…!?」

 

「新人! よそ見すんな!!」

 

 接近戦に持ち込んだネルが膝蹴りを放つ。ホシノは銃床でそれを受け止め、流れるように銃身でネルの肩を叩き倒した。

 ネルが小さな悲鳴をあげ、床に転がる。そのままホシノは銃口を下に向け、トリガーを引く。倒れたままのネルの体が跳ねた。

 

「ネル先輩!」

 

 トキは後ろへ下がりながら射撃を行う。一瞬で3人が倒された、少なからず動揺をしながらも、その攻撃は正確にホシノへ向かう。

 ホシノは盾を向け、攻撃を防ぎ、足に力を込め、解き放った。

 目の前に壁があった。トキは目を疑った。一瞬、瞬きをした刹那の瞬間、ホシノは瞬間移動でもしたかのように目の前に迫り、彼女の持つ盾が分厚い鉄の壁かと思ってしまう威圧感を放ちながら、トキを潰そうとしていた。

 だが、その壁は寸前でトキへと届かなかった。

 

「させっかよ!!」

 

 ホシノは思い切り後ろへと引っ張られる。

 

「なっ!?」

 

 ホシノは右腕を見る。いつのまにか鎖が巻き付けられていた。愛銃につけていた鎖を引き、ホシノを後輩から引き離した後、ネルは全力の右ストレートをホシノの顔に叩き込んだ。

 

「がっ!?」

 

 ホシノの血反吐が廊下に飛ぶ。

 意識が一瞬飛びかけたが、足に力を込め、なんとか倒れることを防ぐ。

 

「げほっ、あれで起き上がるなんて、……もしかして化け物だったりする?」

 

「お前に言われたくはねーよ」

 

 ネルは手にしている片方の銃をホシノへ向けた。

 

「これで念願のタイマンだな! さぁ、第二ラウンドと行こうか!」

 

 ほぼ同時に、2人は跳んだ。リノリウムの床が抉れる。ホシノは後ろへ、ネルは前方へ。

 

「逃げんなよ!! 一緒にダンスしようぜ!」

 

「ああもう! そんな気分じゃないの!」

 

 ネルは鎖を引き、ホシノを自分の得意な領域へ連れ込んだ。

 ネルの拳が再び迫る。ホシノは盾を放し、自由にした腕で、それをいなした。そのまま流れるように肘を相手の腹へぶちかまそうとする。だが鎖が引かれ、ホシノの体勢が崩れた。ネルは銃口をホシノの額へ当てトリガーを引く。ホシノは、わざと倒れ込みその攻撃を避け、ネルの腹へ蹴りを放つ。

 たった数秒の間に、何十もの駆け引きが行われる。彼女達の血が周りに飛び散り、床は爆ぜ、壁は砕かれ、風が吹き荒ぶ。2人の戦いの余波だけで、重機が通り過ぎたかのような、破壊が行われていった。

 

「新人! 何ぼーっとしてんだ!」

 

「は、はい」

 

「アカネとアスナ連れて下がっとけ! あと、あれ用意しとけ!」

 

「あれとは?」

 

「漫才してる余裕ないんだよ! アビなんとかだ、アビなんとか!!」

 

「わかりました」

 

「まだ隠し球あるの? おじさんきついなぁ〜」

 

 足を止めたホシノとネルが睨み合う。後ろの方で、トキがアスナとアカネを抱え、走り去っていく。

 

「タイマンはしてーが、こっちも仕事なんでな」

 

 先程までの嵐のような激戦が嘘のように、2人は立ち止まる。相手の一挙手一投足を観察し、隙を伺う。

 だが、その膠着は解かれた。突然、辺りが闇に包まれたからだ。

 

「えっ」

 

「は?」

 

 2人は辺りを見回す。廊下を照らしていた明かりが消えている。相手がやったものかと互いに思ったが、反応からして予想外のことのようだった。

 

「停電ですか?」

 

 トキは2人を抱えたまま、辺りを見回していた。壁一面が大窓になっている廊下のため、あまり暗くはないが、頭上の照明達が消えている。

 

「アビドスの方々の工作でしょうか」

 

 呻きながらアカネが喋る。アカネとアスナは意識を取り戻してはいたが、未だ動けないようだった。

 

『侵入者だ』

 

 インカム越しに、カリンからの無線が入った。発砲音が聞こえだす。戦闘をしているようだった。

 

『敵はラペリングで降下している』

 

『敵? アビドス生ですか?』

 

『いや、違う。明らかに訓練されている動きだ!!』

 

 タン、タン、タン。叩く音と、ガラスの割れる音がした。

 トキはそちらを見る、窓に数カ所穴が空いていた。

 トキは近くの遮蔽物へ、即座に隠れた。

 直後、ガラスが粉々に砕け散り、一つの影が飛び込む。

 影は少女だった。青と白の制服を身に纏い、ウサギのようなインカムをつけ、真っ白い長髪を靡かせる。その生徒は短機関銃を構えた。

 

「RABBIT1、作戦区域に突入しました」

 

 ■

 

 ロビーは闇に包まれていた。停電のようだ。シロコ達は戸惑っていたが、明かりはすぐについた。

 敵の作戦か? シロコはそう考えたが、2人のミレニアム生もよく分かっていないようだった。訝しみながらも、シロコはアバンギャルド君に意識を向け直す。

 その馬鹿みたいな兵器は、こちらへガトリングガンとライフルを構えていた。遮蔽物をまた削り取るつもりなのだろう。

 

「ノノミ、私が囮になる」

 

「シロコちゃん、でも私達にはどうしようも…」

 

「アヤネ、爆薬はまだある?」

 

「ありますが、ドローンはもう全部…」

 

「構わない、渡して」

 

「シロコちゃんまさか…」

 

「接近して、直接つけてくる」

 

「それは危険すぎます!!」

 

「もうそれしかない。ノノミはここに残って──」

 

 シロコの言葉は、空気を揺るがす振動によって遮られた。

 

「え……」

 

 その後、地面が揺れる。何かが落ちたようだ。シロコは音の方を見た。大きな白い手が落ちていた。見上げれば巨大ロボの腕の一つ、その手首から先がなくなっていた。

 

「なに…?」

 

「Vanitas vanitatum et omnia vanitas.」

 

 呪文のような呟きが響く。世界を呪うようなその低い言葉は、その場にいる全員に聞こえた。

 

「全てが虚しい。この戦いも、ここにいる私達も、全てが無駄なことなのに」

 

「そんなことないよ、サッちゃん。ここに来なかったら、私達は絶対後悔するから」

 

「そうだといいんだけどね……」

 

 3つの影があった。その影は少女達だった。彼女達は正面入り口から堂々と入り、佇んでいた。

 薄汚れた白いコートと、髑髏の意匠が特徴的な少女達だった。

 

「貴女達は…?」

 

 シロコが呟いた。その声に反応したのかわからないが、帽子を被った長身の少女が口を開いた。

 

「アリウススクワッド、アビドス対策委員会に加勢する」

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