明かりはすぐにつき、
彼女達は辺りを蹴散らしながら、血と瓦礫と共に舞っていく。壁をいくつもぶち破り、備え付けられてあった爆弾で身を焼きながら、暴れていく。
「うへ〜、ちょっとおたくの子、火薬の量多くない?」
「あんだよ、バテたのか?」
「おじさん歳だからね〜」
「嘘つけ!」
ネルは鎖を引き、ホシノを壁に叩きつける。身を翻し、壁に着地したホシノは、目の前の敵を見上げ、勢いよく跳び体当たりを行った。2人は絡み合いながら、コンクリートの壁をビスケットのように粉砕し、廊下へと転がった。
「ネル先輩?」
2人の目の前に、トキが立っていた。彼女は銃を構え、交戦をしていたようだ。アスナとアカネの姿はない。
ホシノが勢いよくトキを蹴り付けようと、脚を動かす。ネルは脚でそれを防いだ。
「お前! アビなんとかはどうした! 後、他の奴らは!」
「アビ・エシュフです。先輩方は降ろしました。流石に両手が塞がった状態で、あの方と戦うのは…」
金属が跳ねる音、その後何かがこちらに転がってきた。3人がそれに視線を向ける。筒状の物体、スタングレネード。音と光で無力化する非致死性武器だった。
「ばっ!!」
3人は目を隠す。音と光が世界からなくなった。
遠くの方で何かが砕ける音が聞こえる。いや、耳がやられたせいで遠くから聞こえるだけのようだ。
トキは回復してきた目を恐る恐る開ける。
ネルが腹を抑えて倒れていた。ホシノの姿はなく、辺りを見回すと少し離れた場所で倒れていた。彼女はゆっくりと立ちあがろうとしており、腕を縛っていた鎖はなくなっている。
「スタン状態で戦っていたんですか、お二人…」
「あいつが先に殴りかかってきたんだ!」
トキの手を借りて、ネルが起き上がる。
「ちっ、頭がくらくらする…、ああくそ!!」
ネルはトキの前に立ち、降り注ぐ銃撃を身体で受け止めた。トキを後ろ手で押し、下がらせる。
「いったん下がれ!! くそ、誰が来やがった! よく見えねぇ…!!」
「SRTです!」
「はぁ!? あそこは廃校に……、いやそもそもなんでそんな奴らが!」
トキはネルを引き、近くの壁へと隠れた。
ホシノもなんとか起き上がる。吐き気を我慢し、状況を確認しようとした。
「ミレニアムの子達を撃った? 増援…? でもシロコちゃん達が来れるわけが……」
「アビドス生の方」
ホシノは声の方を見た。短機関銃を構えた少女が走ってくる。彼女はホシノの盾を背負っていた。
「……ミレニアムの子?」
「違います。SRT特殊学園所属……、いえ元ですか。月雪ミヤコと言います」
「……私は小鳥遊ホシノ。あ、おじさんの盾…」
「貴女のでしたか、とてもいい盾でしたので、少し使わせてもらいました」
ミヤコはホシノに盾を渡した。うへぇ、とこんな状況なのに、彼女の言葉で頬が緩んでしまう。
「移動しましょう。ここは見晴らしがよすぎます」
「わ、わかった…。でも、なんでSRTの人が?」
ミヤコはホシノを連れ、ネル達がいる方面へ牽制射撃を行いながら、少しずつ移動を始めた。曲がり角に隠れ、トキたちの様子を伺う。
「人伝に先生を探していると聞いて……、すいません、来るのが遅れてしまって。あまりニュースは見れなくて…」
「ううん、助かったよ。でもそっかぁ、おじさん以外にもいたかぁ……」
ホシノは複雑そうな顔をした。それにミヤコが疑問を持つ。
「何か問題が?」
「いや、こっちの話、助かったよ。他に誰か来てるの?」
「来てません」
ミヤコは即答した。
「うへ?」
ホシノはなんだか圧を感じた。彼女が怒っているような、そんな気がした。
「え、えっと、何かあったの?」
「ありません! あんな焼肉弁当と先生、どっちを選ぶかで焼肉弁当を選ぶ人達とは!!」
「ええ……」
どうやら複雑な事情の子のようだ。ホシノはそう考え、それ以上の追及はやめた。ミヤコは首を振り、気持ちを切り替える。
「こちらの勝利条件は?」
「あ、えっとね──」
場所は変わり、ミレニアム敷地内のビルの1つ。その場所に、カリンは潜伏をしていた。彼女は狙撃姿勢を取っていたが、動揺の色が隠せなかった。
SRT所属の謎の人物の出現、そして1階フロアでもアリウススクワッドと名乗る4人組が加勢しにきていた。
アビドス高等学校のことは事前に調べていた。彼女達の学校はたった5人で構成されており、カイザーとの繋がりはあるが彼らとの関係は最悪そのもの、エデン条約に関わったという噂もあったが、今回トリニティもゲヘナも動いている様子はない。
つまり、今回の敵勢力はたった5人だけのはずだった。増援があるとすれば、十六夜ノノミが金で雇った傭兵程度の物のはずだ。
だが、なんだこれは。なぜ、廃校したはずのSRT特殊学園の関係者や、アリウススクワッドが味方をする。
アリウスに至っては、敵対していたはず、味方をする理由は全くなかった。
まさか、先生というのは本当に…
いや、待て…、増援がいるとしたら、この場所はまず
カリンの意識は1発の弾丸により、刈り取られた。
2km先、ミレニアムサイエンススクール敷地外のビルの屋上に3人の少女がいた。
「スナイパーダウン」
狙撃手はボルトを引き、装填をし直す。ため息をつきながら、スコープを覗く。
「他にスナイパーはなし、RABBIT4、ここからRABBIT1の支援はできるか」
観測手がスコープを覗きながら、タワーへと視線を移した。
「難しいかな、角度が悪いよ」
「そうか、引き続き警戒を」
「分かった」
ぎりっと、観測手の握っている手に力がはいる。
「……ミヤコのやつ……!! これで今日の焼肉弁当はなしだ!! くそ!!」
観測手のサキは、ここにはいない同期へ悪態をつく。それを見ながら、モエは笑った。
「くひひっ、まさかミレニアムの戦争に混ざるってのが、本当だとわね〜」
「私達も大丈夫なのかな、これ…。明らかに加担してるし……」
「知るか!! 最悪ミヤコに全部押し付けるぞ!! モエ、そっちはどうだ!」
「はいはい」
モエは自前のノートパソコンを打ち込みながら、答える。
「流石に、オペレーションルームのハッキングは無理だね〜。なかなかめんどくさいセキュリティもあるし、こりゃ負け戦だわ」
「じゃあ私達の仕事はこれで終わりだな」
「じゃあみんなで帰る?」
笑いながら、モエは聞いた。その答えがなんなのか、3人とも分かっていた。
「……はぁ、撤退時の支援ぐらいはしてやるか」
「りょーかい。あ、カメラの映像見れるようにできたよ」
■
アバンギャルド君は、侵入者3人へ多弾頭ロケットランチャーと、ライフルを構えた。
サオリはそれに臆せず、シロコ達へ顎で指し示した。
「ノノミ、セリカを担いで!」
「は、はい!」
シロコ達4人は遮蔽物から出て、走り出す。アバンギャルド君は残った腕、ロケットランチャーを構えシロコを狙うが、轟音、その手首がまた離れていった。
シロコは、走りながら音の方を見る。ゲート近くで、こちらに巨大なライフルを構えている少女がいた。
サオリ達も移動を始める。シロコ達を対角線に置くように走り、ライフル弾を掻い潜っていく。牽制射撃をばら撒いていくが、装甲によって弾かれていった。
「やはり関節部を狙わないと効果は薄いか」
サオリが巨大ロボを見上げながら悪態をついた。ミサキが愛銃セイントプレデターを構え、放つ。直後、アバンギャルド君の多弾頭ミサイルランチャーが放たれた。空中で2つのミサイルが交差し、大爆発を起こす。
「私もあんまり役に立たれそうにないな」
ミサキがため息をついた。
3発目の轟音、ミサイルランチャーが地面に落ちる。
「ヒヨリは大活躍」
「囮になったんだから、それぐらいしてもらわないと困る」
アツコとサオリは遠くの方を見る。遠くで手を振る、緑の小動物に苦笑した。
アバンギャルド君はライフルを手放した。キャタピラをフル回転させ、サオリ達へと迫る。
「砲台のままだと、残りの腕も破壊されると思ったか」
「なかなか賢いね」
観察をするサオリと感心するミサキ。
アバンギャルド君は拳を握り、その腕をサオリ達へと振り下ろした。
3人は横に大きく跳び、転がるように攻撃を回避する。すぐに立ち上がり、また移動をした。
「確かにその巨体で、その機動力は恐ろしいものだ。だが、お前が真価を発揮するのは屋外戦闘。屋内であれば、どうとでもなる」
アバンギャルド君はキャタピラを器用に動かし、走り回るサオリ達を追いかけようとするが、瓦礫といった障害物や低くなる天井にその巨体を遮られ、思うようにいかない。
「上半身を人型にすることで、多彩な装備の換装を行えるようにしたようだが、逆を言えばそれは人の弱点も内包したということだ。関節部分が増えれば、それだけ装甲が弱くなる場所も増える。全てを武器にするのではなく、盾を持たせるべきだったな」
アバンギャルド君の脚部が突然爆発を起こし、履帯が弾け飛ぶ。その近くにシロコがいた。彼女が爆破したようだ。
「これで終わりだ」
アバンギャルド君は腕を伸ばし、サオリ達を掴もうとするが届かない。キャタピラは動くことはなく、近くの武器を取ろうとしても、その全てが遠くにあることを確認した。
『じ…』
『自爆します』
巨大ロボは戦闘不可能と判断し、爆散。大量の瓦礫達を産み、その役目を終えた。
「戦闘終了ー」
アツコは武器を下ろし、アビドス生達の方へ向かう。サオリとミサキはトリガーに指をかけたまま、近寄った。
「ごめんね、遅くなっちゃって」
アツコが仮面を外しながら、シロコ達に声をかける。シロコは銃を下した。
「……あなた達も、先生のことを?」
「うん、私だけだけどね。サッちゃん達は付き添い」
「姫、仮面…」
「いいんだよ、ミサキ」
「さっき、アリウススクワッドって」
セリカがアヤネの手を借りながら、立ち上がる。アリウス、エデン条約でトリニティとゲヘナに弓を引いたテロリスト達。そのことは、セリカたちはよく知っていた。
「そうだ、私達がアリウスだ。どうする、ここで殺し合うか?」
サオリが銃を構える。シロコ以外の3人が、身を固くする。アツコがそんなサオリを咎めた。
「サッちゃん、後で後悔するよ。そんなこと言ってると」
「だから、その後悔の意味がわからないんだが…」
「先生とは、仲が良かったの?」
シロコがアツコに質問をする。アツコはキョトンとした後、口を開いた。
「うん、一緒に花壇を作ったりしてた」
「そう、なら心配ない。セリカ達も、警戒を解いて」
ミサキがシロコの態度に、鼻で笑う。
「私達のこと信用するんだ、ふざけてるね」
「あんた…!」
噛みつこうとするセリカを、シロコは手で制した。
「信用したわけじゃない。ただ、ホシノ先輩……、私の先輩が信じた人が、気を許した人なら大丈夫と判断しただけ」
「あなたも先生のことを?」
アツコが覗き込むように、首をかしげる。
「ううん、私は覚えてない」
「変なやつだな、お前……」
サオリはため息をつき、トリガーから指を離した。ミサキも悪態をついたあと、それに倣う。サオリは遠くにいるヒヨリに合図を送り、こちらに来るよう指示をした。
「それで……、そこの奴らは敵か?」
サオリがエンジニア部を睨む。彼女達は丸腰をアピールしながら、手をあげた。
「その人達は、観客」
「観客って……、ミレニアムって頭がいい人がいる学校じゃないの……」
ミサキは呆れた。
「人それぞれ」
「おや、こっちの勝敗はついたのかな」
声の方へ、サオリとシロコが銃を向ける。向けられた相手は手をあげた。彼女は廊下の方から歩いてきたようだ。
「「ウタハ先輩!」」
「待って、この人は敵じゃない」
同じくやってきたクロコが、ウタハの前に立つ。それを見たシロコが銃を下ろし、サオリも渋々と下ろした。
「クロコちゃん! 無事でしたか!」
「ん、目的の物は手に入れた」
クロコは、白く輝く石を見せる。
「それが残骸ですか?」
アヤネの言葉に、クロコは頷いた。
「うん、エネルギーとコンピュータを兼ねた物って思えばいい、これで先生の居る場所へ飛べる」
「作戦成功ってこと?」
アツコが嬉しそうに微笑む。クロコはウタハの方を見た。
「ウタハが探すのを手伝ってくれた」
「礼にはおよばないよ」
「ウタハ先輩、アビドス生の手伝いをしたの?」
ヒビキが鋭い目つきでウタハを見る。その行為は利敵行為に他ならない。先輩といえども、その行動には疑問を抱かざるを得なかった。
「彼女はアビドス生ではない。それに、ミレニアムの理念は未知への探究だろう? 私が知らない物が何故エンジニア部にあったのか、気になったんだよ」
コトリが首を傾げた。
「知らない物って、それはエンジニア部とヴェリタス、新素材開発部が共同で調べている物では?」
「ああ、そうだ。だが2人に聞くが、これをどこで手に入れたか覚えているかな」
「それは…」
ヒビキとコトリは言葉に詰まった。クロコの持っている石は、未知のテクノロジーであり、ミレニアムの共同研究の一つであった。全く進捗は進んでおらず、頭を悩ませていたものの一つでもある。
だが、これをどこで手に入れたものかといわれれば、疑問が出てきてしまった。
「たしか、連邦生徒会から渡された物で……」
「その詳細については?」
ヒビキのなんとか絞りだした言葉も、すぐに途切れてしまう。
何かを忘れているような気がする。何か大事なものを。
「もしかすれば、彼女達の言っていることは正しいのかもしれない」
「うん、正しい」
「シロコ先輩って、たまにすごく大物に見える時があるわ……」
即答するシロコに、セリカが呆れたような顔をして、ノノミとセリカが笑った。
「でもこれで」
「うん」
「「「「ホシノ先輩を助けに行ける!」」」」
「アリウスの人達も手伝って欲しい」
シロコはサオリを見た。サオリはアツコを見る。彼女は任せるように微笑んだ。
「……はあ、分かった。乗りかかった船だ。最後まで行こう。ちょうど」
サオリが後ろを振り向く。ヒヨリが息を切らしながら、タワーへと入ってきていた。
「こっちのも、来たところだしな」
■
「にはははは!!」
ヴェリタスのコンピュータールーム、そこにゲーム開発部、チヒロ、そしてキーボードを打ち込むコユキがいた。ッターン!!と音を立て、コユキがガッツポーズを取った。
「ハッキング! 終了!!」
「流石です! コユキ!」
アリスが拍手をする。モモイも拍手をした。
「というか、セミナーなのにここにいてもいいの?」
「ユウカ先輩が、1万円やるからどこかに行っててって言いました!」
「厄介払いされてるじゃん!」
「これで、ミレニアム最上階のセキュリティは完全に掌握! 思いのまま!」
「そもそも、セミナーなのに裏切ってもいいの?」
今度はミドリが聞いた。
「面白そうだったので!」
「あ、そう……」
「でも、私達も大問題だよね……、完全にアビドスの味方してる」
ユズは苦笑いをした。それに、アリスが答えた。
「バレた時は全てコユキのせいにしましょう!」
「ええ!?」
「まあ、そこまで気にしなくてもいいと思うよ」
チヒロが口を開く。彼女の存在に、アリス以外のゲーム開発部は気が気ではなかった。マキが部室に来た後、アリスに説得されてヴェリタスへ向かった。だが、そこにこの常識人がいたのだ。
確実にチヒロに止められると思っていた3人は、緊張しつつも成り行きを見守った。だが、アリスの話を聞いたチヒロは止めることもなく、マキ、コタマ、ハレの3人がミレニアム内を停電させに行き、コユキのハッキングが終了するまで何もしなかったのだった。
「チヒロ先輩は何か知っているんですか?」
ユズが疑問を問う。チヒロはユズを見た後、コンピュータを操作する。
「アリスの先生の話を聞いて、あることが気になったんだよ」
「…あること?」
「うん、最上階のセキュリティがエンジニア部と市販の物が合わさってる」
「…それがどうかしたの?」
モモイは首を傾げた。
「私が知ってた範囲なら、セキュリティはエンジニア部が設計したものだけだよ。市販の物があるのはおかしい」
「それは、…ヴェリタスがハッキングするのを警戒したからとか?」
「それなら、変にミレニアム内のものを組み込まないよ。しいて考えるとすれば、以前に内部のもの……それこそエンジニア部が反抗して、その対策の名残が残っているとか」
「あ、そうです! モモイがユウカ達を襲撃するときに、エンジニア部とヴェリタスの人達に協力してもらいました!」
「うええ!? 私そんなことしてないよ!?」
「いや、お姉ちゃんならやるよ」
「うん、モモイならやる」
ミドリとユズが頷く。
「いや、絶対違うよ!!」
「まあ、問題なのは、私がアリスの話を聞くまでそのことに、気にも止めなかったこと」
「それだけで?」
「他にも色々あるよ、例えば……、モモイ達はどこでアリスと最初に会ったの?」
「それは……えっと、それ…は」
あれ? モモイはユズとミドリを見る。彼女達も思い出せないようで、首を傾げていた。
アリス、ゲーム開発部の1番最後に入ったメンバー。それは分かる。アリスの好きな物や、好きなゲーム、彼女の良いところ悪いところ、それらはすぐに思い出せた。だが……、
「私達、アリスと何処で出会ったんだっけ……?」
「……確か、部活動の人数が足りないから、探してた…よね」
ミドリが恐る恐る口を開く。そう、それはあっている気がした。
「わたしが知っているのは……、モモイとミドリが連れてきたはず…」
ユズは目を泳がせた。
「アリスは、先生とモモイ達に見つけてもらって、ここに来ました」
「多分、その先生が関わってることだから、思い出せないんだよ」
チヒロは近くの席に座り、カメラの映像が映し出されている画面を見た。アリウススクワッド、SRT、全く関係のない者達が加勢しにきている。異常な事態だった。だが、アリスの言っていることが正しければ……、それは正常なことなのだろう。
「アリスの、アビドス生達の言ってることは正しい。そして、それはセミナーの2人も気づいてる可能性がある」
「ユウカ達が?」
モモイの言葉に、チヒロは頷いた。
「うん、じゃないと、こんな敵に有利な条件で戦争なんてしないよ」
「ただいま〜、ハッキングできた?」
マキ達が戻ってきた。チヒロは彼女達におかえりと、返事をする。
「私も少しだけ手伝おうかな。後悔したくないからね」
カタカタと、キーボードを打ち込んだ。
「チヒロ先輩何を?」
コユキが画面をのぞき込む。誰かのPCにアクセスをしているようだ。
「このままだと作戦の立てようもないだろうからね。遠くにいる兎達に伝えてもらおう」
■
「モエ!?」
ミヤコがインカムを抑えながら無線をする。無線の相手が、置いていったはずの同期たちだったことに、驚いたようだ。
ホシノ達は先程までの接近戦とは打ってかわり、射撃戦を行なっている。ミヤコが侵入してきた大窓が近くにあり、入ってくる冷たい風が、熱い体を冷やしていた。
「はい、はい……、分かりました」
ミヤコは無線を切った。
「友達? 来てくれるのかな」
「いえ、離れた場所にいるようなので、不可能です」
「そっか……」
「ホシノさん。先生が信じてくれた私を、信じてくれますか?」
「信じる。何したらいい?」
ネル達は攻めあぐねていた。トキが射撃を行ってはいたが、決定打にならないことは明白であった。回り込もうにも、置いていった方が狩られてしまう。
ホシノとネルは同格であるが、ミヤコとトキでは、先に戦闘を行い疲労しているトキの方が分が悪い。また、外にいるカリンからの無線も途絶えていることから、狙撃手がいる可能性もあった。つまり、こちらが不利な状況で膠着状態になっているのだ。
ネルは舌打ちをする。
「新人、援護しろ。突っ込んでくる」
「この状態でですか、それに目眩の方は」
「粗方回復した。あとあれだ。いちいち何か考えるのはめんどくせぇ」
「……分かりました」
ネルとトキがカウントダウンを始め、呼吸を合わせる。だが、そのカウントが終わる前に、相手の動きがあった。
煙幕だ。相手はスモークをたいたようだった。
「あん?」
だんだんと、その煙はネル達の方へ向かっていき、視界を封じていく。
「これは……」
「舐めた真似してやがんな」
トキは落ち着いて赤外線スコープをつけ、確認をする。
「ネル先輩、1名が盾を構え接近してきます」
「はん、分かってるよ」
ショットガンが撃たれる。風の微かな動きで敵の位置を捉えたネルは、それを難なく避け勢いよく蹴り付けた。
盾を持った人物は、そのまま吹き飛ばされる。ネルとトキは違和感を感じた。
「あ?」
「これは…まさか」
ネルとトキの後方でガラスが砕ける音がした。
ネル達はホシノ達の作戦を即座に理解し、そちらへ向かおうとする。だが、遅かった。
「RABBIT3! 私のいる区画を全て封鎖してください!!」
四方を強化シャッターが勢いよく塞いでいく。大窓にもそれはかかっていき、3人は完全に閉じ込められてしまった。
「セキュリティへのハッキング? どうやって……」
ネルは舌打ちをし、座り込んだ。目の前で倒れている人物を睨む。スモークが換気によって消えていった。倒れていたのはミヤコだった。彼女はホシノの盾と愛銃と共に、床に寝ている。
「私達の勝ちです」
ミヤコはニヤッと笑った。
「装備を切り替えて、煙幕で誤認。その間に小鳥遊ホシノが月雪ミヤコが侵入した際のロープを使って、C&Cを迂回」
オペレーションルーム、ユウカが冷静に分析をする。小鳥遊ホシノは真っ直ぐこちらに向かってきていた。
「再起動を行いますか? 一か八か、セキュリティの復旧が間に合いますが……」
モニターの子が進言をするが、ユウカは首を横に振った。
「ううん、もういいわ。みんなお疲れ様。上がってもいいからね」
彼女達は苦笑いをした。席を立つものは誰もいない。
「負けちゃったわね」
ユウカは隣にいる親友へ話しかける。
「ふふ、そうですね」
「はーあ、まーた悪役やっちゃって、嫌われちゃうな」
「誰に嫌われるんですか?」
「それは……」
「ユウカちゃんも、気づいてたんでしょう?」
ノアはノートを取り出した。白紙のノート。なぜこんなものがあるのか、ノアには分からなかった。全てを記憶しているはずのノアが、分からないもの。でも、これには大切な記録があった気がした。とても大事なものが。
「先生のこと?」
「はい、じゃないとこんな負け戦しないでしょう?」
「どうかしらね、ただ……、あのホシノって子の目。あの子の眼を見てたら、なにか、大事なことを忘れてるような気がしたのよね」
「それに賭けてみたと?」
「論理的じゃないわよね」
ユウカが自嘲気味に笑う。
「ふふっ。でも、私はそんなユウカちゃんのこと好きですよ」
「ありがと、ノア」
ドアが開かれた。ユウカとノアはそちらへ振り向く。
小さな少女が立っていた。服には血がこびりつき、髪の先は焦げ、その肌には至る所に傷がついていた。肩で息をし、見るからにボロボロの少女だった。
だが、それでも少女は微笑み、預けてもらった短機関銃を構えた。
「お嬢さん、お久しぶり。両手をあげてもらえるかな?」
こうして、アビドス高等学校とミレニアムサイエンススクールの戦いは、アビドスの勝利に終わったのであった。