それは夢のように儚くて   作:小さい鯨

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虚無と兎

 明かりはすぐにつき、最高(暁のホルス)最強(コールサイン「ダブルオー」)の戦いは再開された。

 彼女達は辺りを蹴散らしながら、血と瓦礫と共に舞っていく。壁をいくつもぶち破り、備え付けられてあった爆弾で身を焼きながら、暴れていく。

 

「うへ〜、ちょっとおたくの子、火薬の量多くない?」

 

「あんだよ、バテたのか?」

 

「おじさん歳だからね〜」

 

「嘘つけ!」

 

 ネルは鎖を引き、ホシノを壁に叩きつける。身を翻し、壁に着地したホシノは、目の前の敵を見上げ、勢いよく跳び体当たりを行った。2人は絡み合いながら、コンクリートの壁をビスケットのように粉砕し、廊下へと転がった。

 

「ネル先輩?」

 

 2人の目の前に、トキが立っていた。彼女は銃を構え、交戦をしていたようだ。アスナとアカネの姿はない。

 ホシノが勢いよくトキを蹴り付けようと、脚を動かす。ネルは脚でそれを防いだ。

 

「お前! アビなんとかはどうした! 後、他の奴らは!」

 

「アビ・エシュフです。先輩方は降ろしました。流石に両手が塞がった状態で、あの方と戦うのは…」

 

 金属が跳ねる音、その後何かがこちらに転がってきた。3人がそれに視線を向ける。筒状の物体、スタングレネード。音と光で無力化する非致死性武器だった。

 

「ばっ!!」

 

 3人は目を隠す。音と光が世界からなくなった。

 遠くの方で何かが砕ける音が聞こえる。いや、耳がやられたせいで遠くから聞こえるだけのようだ。

 トキは回復してきた目を恐る恐る開ける。

 ネルが腹を抑えて倒れていた。ホシノの姿はなく、辺りを見回すと少し離れた場所で倒れていた。彼女はゆっくりと立ちあがろうとしており、腕を縛っていた鎖はなくなっている。

 

「スタン状態で戦っていたんですか、お二人…」

 

「あいつが先に殴りかかってきたんだ!」

 

 トキの手を借りて、ネルが起き上がる。

 

「ちっ、頭がくらくらする…、ああくそ!!」

 

 ネルはトキの前に立ち、降り注ぐ銃撃を身体で受け止めた。トキを後ろ手で押し、下がらせる。

 

「いったん下がれ!! くそ、誰が来やがった! よく見えねぇ…!!」

 

「SRTです!」

 

「はぁ!? あそこは廃校に……、いやそもそもなんでそんな奴らが!」

 

 トキはネルを引き、近くの壁へと隠れた。

 ホシノもなんとか起き上がる。吐き気を我慢し、状況を確認しようとした。

 

「ミレニアムの子達を撃った? 増援…? でもシロコちゃん達が来れるわけが……」

 

「アビドス生の方」

 

 ホシノは声の方を見た。短機関銃を構えた少女が走ってくる。彼女はホシノの盾を背負っていた。

 

「……ミレニアムの子?」

 

「違います。SRT特殊学園所属……、いえ元ですか。月雪ミヤコと言います」

 

「……私は小鳥遊ホシノ。あ、おじさんの盾…」

 

「貴女のでしたか、とてもいい盾でしたので、少し使わせてもらいました」

 

 ミヤコはホシノに盾を渡した。うへぇ、とこんな状況なのに、彼女の言葉で頬が緩んでしまう。

 

「移動しましょう。ここは見晴らしがよすぎます」

 

「わ、わかった…。でも、なんでSRTの人が?」

 

 ミヤコはホシノを連れ、ネル達がいる方面へ牽制射撃を行いながら、少しずつ移動を始めた。曲がり角に隠れ、トキたちの様子を伺う。

 

「人伝に先生を探していると聞いて……、すいません、来るのが遅れてしまって。あまりニュースは見れなくて…」

 

「ううん、助かったよ。でもそっかぁ、おじさん以外にもいたかぁ……」

 

 ホシノは複雑そうな顔をした。それにミヤコが疑問を持つ。

 

「何か問題が?」

 

「いや、こっちの話、助かったよ。他に誰か来てるの?」

 

「来てません」

 

 ミヤコは即答した。

 

「うへ?」

 

 ホシノはなんだか圧を感じた。彼女が怒っているような、そんな気がした。

 

「え、えっと、何かあったの?」

 

「ありません! あんな焼肉弁当と先生、どっちを選ぶかで焼肉弁当を選ぶ人達とは!!」

 

「ええ……」

 

 どうやら複雑な事情の子のようだ。ホシノはそう考え、それ以上の追及はやめた。ミヤコは首を振り、気持ちを切り替える。

 

「こちらの勝利条件は?」

 

「あ、えっとね──」

 

 場所は変わり、ミレニアム敷地内のビルの1つ。その場所に、カリンは潜伏をしていた。彼女は狙撃姿勢を取っていたが、動揺の色が隠せなかった。

 SRT所属の謎の人物の出現、そして1階フロアでもアリウススクワッドと名乗る4人組が加勢しにきていた。

 アビドス高等学校のことは事前に調べていた。彼女達の学校はたった5人で構成されており、カイザーとの繋がりはあるが彼らとの関係は最悪そのもの、エデン条約に関わったという噂もあったが、今回トリニティもゲヘナも動いている様子はない。

 つまり、今回の敵勢力はたった5人だけのはずだった。増援があるとすれば、十六夜ノノミが金で雇った傭兵程度の物のはずだ。

 だが、なんだこれは。なぜ、廃校したはずのSRT特殊学園の関係者や、アリウススクワッドが味方をする。

 アリウスに至っては、敵対していたはず、味方をする理由は全くなかった。

 まさか、先生というのは本当に…

 

 いや、待て…、増援がいるとしたら、この場所はまず

 

 カリンの意識は1発の弾丸により、刈り取られた。

 2km先、ミレニアムサイエンススクール敷地外のビルの屋上に3人の少女がいた。

 

「スナイパーダウン」

 

 狙撃手はボルトを引き、装填をし直す。ため息をつきながら、スコープを覗く。

 

「他にスナイパーはなし、RABBIT4、ここからRABBIT1の支援はできるか」

 

 観測手がスコープを覗きながら、タワーへと視線を移した。

 

「難しいかな、角度が悪いよ」

 

「そうか、引き続き警戒を」

 

「分かった」

 

 ぎりっと、観測手の握っている手に力がはいる。

 

「……ミヤコのやつ……!! これで今日の焼肉弁当はなしだ!! くそ!!」

 

 観測手のサキは、ここにはいない同期へ悪態をつく。それを見ながら、モエは笑った。

 

「くひひっ、まさかミレニアムの戦争に混ざるってのが、本当だとわね〜」

 

「私達も大丈夫なのかな、これ…。明らかに加担してるし……」

 

「知るか!! 最悪ミヤコに全部押し付けるぞ!! モエ、そっちはどうだ!」

 

「はいはい」

 

 モエは自前のノートパソコンを打ち込みながら、答える。

 

「流石に、オペレーションルームのハッキングは無理だね〜。なかなかめんどくさいセキュリティもあるし、こりゃ負け戦だわ」

 

「じゃあ私達の仕事はこれで終わりだな」

 

「じゃあみんなで帰る?」

 

 笑いながら、モエは聞いた。その答えがなんなのか、3人とも分かっていた。

 

「……はぁ、撤退時の支援ぐらいはしてやるか」

 

「りょーかい。あ、カメラの映像見れるようにできたよ」

 

 ■

 

 アバンギャルド君は、侵入者3人へ多弾頭ロケットランチャーと、ライフルを構えた。

 サオリはそれに臆せず、シロコ達へ顎で指し示した。

 

「ノノミ、セリカを担いで!」

 

「は、はい!」

 

 シロコ達4人は遮蔽物から出て、走り出す。アバンギャルド君は残った腕、ロケットランチャーを構えシロコを狙うが、轟音、その手首がまた離れていった。

 シロコは、走りながら音の方を見る。ゲート近くで、こちらに巨大なライフルを構えている少女がいた。

 サオリ達も移動を始める。シロコ達を対角線に置くように走り、ライフル弾を掻い潜っていく。牽制射撃をばら撒いていくが、装甲によって弾かれていった。

 

「やはり関節部を狙わないと効果は薄いか」

 

 サオリが巨大ロボを見上げながら悪態をついた。ミサキが愛銃セイントプレデターを構え、放つ。直後、アバンギャルド君の多弾頭ミサイルランチャーが放たれた。空中で2つのミサイルが交差し、大爆発を起こす。

 

「私もあんまり役に立たれそうにないな」

 

 ミサキがため息をついた。

 3発目の轟音、ミサイルランチャーが地面に落ちる。

 

「ヒヨリは大活躍」

 

「囮になったんだから、それぐらいしてもらわないと困る」

 

 アツコとサオリは遠くの方を見る。遠くで手を振る、緑の小動物に苦笑した。

 アバンギャルド君はライフルを手放した。キャタピラをフル回転させ、サオリ達へと迫る。

 

「砲台のままだと、残りの腕も破壊されると思ったか」

 

「なかなか賢いね」

 

 観察をするサオリと感心するミサキ。

 アバンギャルド君は拳を握り、その腕をサオリ達へと振り下ろした。

 3人は横に大きく跳び、転がるように攻撃を回避する。すぐに立ち上がり、また移動をした。

 

「確かにその巨体で、その機動力は恐ろしいものだ。だが、お前が真価を発揮するのは屋外戦闘。屋内であれば、どうとでもなる」

 

 アバンギャルド君はキャタピラを器用に動かし、走り回るサオリ達を追いかけようとするが、瓦礫といった障害物や低くなる天井にその巨体を遮られ、思うようにいかない。

 

「上半身を人型にすることで、多彩な装備の換装を行えるようにしたようだが、逆を言えばそれは人の弱点も内包したということだ。関節部分が増えれば、それだけ装甲が弱くなる場所も増える。全てを武器にするのではなく、盾を持たせるべきだったな」

 

 アバンギャルド君の脚部が突然爆発を起こし、履帯が弾け飛ぶ。その近くにシロコがいた。彼女が爆破したようだ。

 

「これで終わりだ」

 

 アバンギャルド君は腕を伸ばし、サオリ達を掴もうとするが届かない。キャタピラは動くことはなく、近くの武器を取ろうとしても、その全てが遠くにあることを確認した。

 

『じ…』

 

『自爆します』

 

 巨大ロボは戦闘不可能と判断し、爆散。大量の瓦礫達を産み、その役目を終えた。

 

「戦闘終了ー」

 

 アツコは武器を下ろし、アビドス生達の方へ向かう。サオリとミサキはトリガーに指をかけたまま、近寄った。

 

「ごめんね、遅くなっちゃって」

 

 アツコが仮面を外しながら、シロコ達に声をかける。シロコは銃を下した。

 

「……あなた達も、先生のことを?」

 

「うん、私だけだけどね。サッちゃん達は付き添い」

 

「姫、仮面…」

 

「いいんだよ、ミサキ」

 

「さっき、アリウススクワッドって」

 

 セリカがアヤネの手を借りながら、立ち上がる。アリウス、エデン条約でトリニティとゲヘナに弓を引いたテロリスト達。そのことは、セリカたちはよく知っていた。

 

「そうだ、私達がアリウスだ。どうする、ここで殺し合うか?」

 

 サオリが銃を構える。シロコ以外の3人が、身を固くする。アツコがそんなサオリを咎めた。

 

「サッちゃん、後で後悔するよ。そんなこと言ってると」

 

「だから、その後悔の意味がわからないんだが…」

 

「先生とは、仲が良かったの?」

 

 シロコがアツコに質問をする。アツコはキョトンとした後、口を開いた。

 

「うん、一緒に花壇を作ったりしてた」

 

「そう、なら心配ない。セリカ達も、警戒を解いて」

 

 ミサキがシロコの態度に、鼻で笑う。

 

「私達のこと信用するんだ、ふざけてるね」

 

「あんた…!」

 

 噛みつこうとするセリカを、シロコは手で制した。

 

「信用したわけじゃない。ただ、ホシノ先輩……、私の先輩が信じた人が、気を許した人なら大丈夫と判断しただけ」

 

「あなたも先生のことを?」

 

 アツコが覗き込むように、首をかしげる。

 

「ううん、私は覚えてない」

 

「変なやつだな、お前……」

 

 サオリはため息をつき、トリガーから指を離した。ミサキも悪態をついたあと、それに倣う。サオリは遠くにいるヒヨリに合図を送り、こちらに来るよう指示をした。

 

「それで……、そこの奴らは敵か?」

 

 サオリがエンジニア部を睨む。彼女達は丸腰をアピールしながら、手をあげた。

 

「その人達は、観客」

 

「観客って……、ミレニアムって頭がいい人がいる学校じゃないの……」

 

 ミサキは呆れた。

 

「人それぞれ」

 

「おや、こっちの勝敗はついたのかな」

 

 声の方へ、サオリとシロコが銃を向ける。向けられた相手は手をあげた。彼女は廊下の方から歩いてきたようだ。

 

「「ウタハ先輩!」」

 

「待って、この人は敵じゃない」

 

 同じくやってきたクロコが、ウタハの前に立つ。それを見たシロコが銃を下ろし、サオリも渋々と下ろした。

 

「クロコちゃん! 無事でしたか!」

 

「ん、目的の物は手に入れた」

 

 クロコは、白く輝く石を見せる。

 

「それが残骸ですか?」

 

 アヤネの言葉に、クロコは頷いた。

 

「うん、エネルギーとコンピュータを兼ねた物って思えばいい、これで先生の居る場所へ飛べる」

 

「作戦成功ってこと?」

 

 アツコが嬉しそうに微笑む。クロコはウタハの方を見た。

 

「ウタハが探すのを手伝ってくれた」

 

「礼にはおよばないよ」

 

「ウタハ先輩、アビドス生の手伝いをしたの?」

 

 ヒビキが鋭い目つきでウタハを見る。その行為は利敵行為に他ならない。先輩といえども、その行動には疑問を抱かざるを得なかった。

 

「彼女はアビドス生ではない。それに、ミレニアムの理念は未知への探究だろう? 私が知らない物が何故エンジニア部にあったのか、気になったんだよ」

 

 コトリが首を傾げた。

 

「知らない物って、それはエンジニア部とヴェリタス、新素材開発部が共同で調べている物では?」

 

「ああ、そうだ。だが2人に聞くが、これをどこで手に入れたか覚えているかな」

 

「それは…」

 

 ヒビキとコトリは言葉に詰まった。クロコの持っている石は、未知のテクノロジーであり、ミレニアムの共同研究の一つであった。全く進捗は進んでおらず、頭を悩ませていたものの一つでもある。

 だが、これをどこで手に入れたものかといわれれば、疑問が出てきてしまった。

 

「たしか、連邦生徒会から渡された物で……」

 

「その詳細については?」

 

 ヒビキのなんとか絞りだした言葉も、すぐに途切れてしまう。

 何かを忘れているような気がする。何か大事なものを。

 

「もしかすれば、彼女達の言っていることは正しいのかもしれない」

 

「うん、正しい」

 

「シロコ先輩って、たまにすごく大物に見える時があるわ……」

 

 即答するシロコに、セリカが呆れたような顔をして、ノノミとセリカが笑った。

 

「でもこれで」

 

「うん」

 

「「「「ホシノ先輩を助けに行ける!」」」」

 

「アリウスの人達も手伝って欲しい」

 

 シロコはサオリを見た。サオリはアツコを見る。彼女は任せるように微笑んだ。

 

「……はあ、分かった。乗りかかった船だ。最後まで行こう。ちょうど」

 

 サオリが後ろを振り向く。ヒヨリが息を切らしながら、タワーへと入ってきていた。

 

「こっちのも、来たところだしな」

 

 ■

 

「にはははは!!」

 

 ヴェリタスのコンピュータールーム、そこにゲーム開発部、チヒロ、そしてキーボードを打ち込むコユキがいた。ッターン!!と音を立て、コユキがガッツポーズを取った。

 

「ハッキング! 終了!!」

 

「流石です! コユキ!」

 

 アリスが拍手をする。モモイも拍手をした。

 

「というか、セミナーなのにここにいてもいいの?」

 

「ユウカ先輩が、1万円やるからどこかに行っててって言いました!」

 

「厄介払いされてるじゃん!」

 

「これで、ミレニアム最上階のセキュリティは完全に掌握! 思いのまま!」

 

「そもそも、セミナーなのに裏切ってもいいの?」

 

 今度はミドリが聞いた。

 

「面白そうだったので!」

 

「あ、そう……」

 

「でも、私達も大問題だよね……、完全にアビドスの味方してる」

 

 ユズは苦笑いをした。それに、アリスが答えた。

 

「バレた時は全てコユキのせいにしましょう!」

 

「ええ!?」

 

「まあ、そこまで気にしなくてもいいと思うよ」

 

 チヒロが口を開く。彼女の存在に、アリス以外のゲーム開発部は気が気ではなかった。マキが部室に来た後、アリスに説得されてヴェリタスへ向かった。だが、そこにこの常識人がいたのだ。

 確実にチヒロに止められると思っていた3人は、緊張しつつも成り行きを見守った。だが、アリスの話を聞いたチヒロは止めることもなく、マキ、コタマ、ハレの3人がミレニアム内を停電させに行き、コユキのハッキングが終了するまで何もしなかったのだった。

 

「チヒロ先輩は何か知っているんですか?」

 

 ユズが疑問を問う。チヒロはユズを見た後、コンピュータを操作する。

 

「アリスの先生の話を聞いて、あることが気になったんだよ」

 

「…あること?」

 

「うん、最上階のセキュリティがエンジニア部と市販の物が合わさってる」

 

「…それがどうかしたの?」

 

 モモイは首を傾げた。

 

「私が知ってた範囲なら、セキュリティはエンジニア部が設計したものだけだよ。市販の物があるのはおかしい」

 

「それは、…ヴェリタスがハッキングするのを警戒したからとか?」

 

「それなら、変にミレニアム内のものを組み込まないよ。しいて考えるとすれば、以前に内部のもの……それこそエンジニア部が反抗して、その対策の名残が残っているとか」

 

「あ、そうです! モモイがユウカ達を襲撃するときに、エンジニア部とヴェリタスの人達に協力してもらいました!」

 

「うええ!? 私そんなことしてないよ!?」

 

「いや、お姉ちゃんならやるよ」

 

「うん、モモイならやる」

 

 ミドリとユズが頷く。

 

「いや、絶対違うよ!!」

 

「まあ、問題なのは、私がアリスの話を聞くまでそのことに、気にも止めなかったこと」

 

「それだけで?」

 

「他にも色々あるよ、例えば……、モモイ達はどこでアリスと最初に会ったの?」

 

「それは……えっと、それ…は」

 

 あれ? モモイはユズとミドリを見る。彼女達も思い出せないようで、首を傾げていた。

 アリス、ゲーム開発部の1番最後に入ったメンバー。それは分かる。アリスの好きな物や、好きなゲーム、彼女の良いところ悪いところ、それらはすぐに思い出せた。だが……、

 

「私達、アリスと何処で出会ったんだっけ……?」

 

「……確か、部活動の人数が足りないから、探してた…よね」

 

 ミドリが恐る恐る口を開く。そう、それはあっている気がした。

 

「わたしが知っているのは……、モモイとミドリが連れてきたはず…」

 

 ユズは目を泳がせた。

 

「アリスは、先生とモモイ達に見つけてもらって、ここに来ました」

 

「多分、その先生が関わってることだから、思い出せないんだよ」

 

 チヒロは近くの席に座り、カメラの映像が映し出されている画面を見た。アリウススクワッド、SRT、全く関係のない者達が加勢しにきている。異常な事態だった。だが、アリスの言っていることが正しければ……、それは正常なことなのだろう。

 

「アリスの、アビドス生達の言ってることは正しい。そして、それはセミナーの2人も気づいてる可能性がある」

 

「ユウカ達が?」

 

 モモイの言葉に、チヒロは頷いた。

 

「うん、じゃないと、こんな敵に有利な条件で戦争なんてしないよ」

 

「ただいま〜、ハッキングできた?」

 

 マキ達が戻ってきた。チヒロは彼女達におかえりと、返事をする。

 

「私も少しだけ手伝おうかな。後悔したくないからね」

 

 カタカタと、キーボードを打ち込んだ。

 

「チヒロ先輩何を?」

 

 コユキが画面をのぞき込む。誰かのPCにアクセスをしているようだ。

 

「このままだと作戦の立てようもないだろうからね。遠くにいる兎達に伝えてもらおう」

 

 

 ■

 

「モエ!?」

 

 ミヤコがインカムを抑えながら無線をする。無線の相手が、置いていったはずの同期たちだったことに、驚いたようだ。

 ホシノ達は先程までの接近戦とは打ってかわり、射撃戦を行なっている。ミヤコが侵入してきた大窓が近くにあり、入ってくる冷たい風が、熱い体を冷やしていた。

 

「はい、はい……、分かりました」

 

 ミヤコは無線を切った。

 

「友達? 来てくれるのかな」

 

「いえ、離れた場所にいるようなので、不可能です」

 

「そっか……」

 

「ホシノさん。先生が信じてくれた私を、信じてくれますか?」

 

「信じる。何したらいい?」

 

 ネル達は攻めあぐねていた。トキが射撃を行ってはいたが、決定打にならないことは明白であった。回り込もうにも、置いていった方が狩られてしまう。

 ホシノとネルは同格であるが、ミヤコとトキでは、先に戦闘を行い疲労しているトキの方が分が悪い。また、外にいるカリンからの無線も途絶えていることから、狙撃手がいる可能性もあった。つまり、こちらが不利な状況で膠着状態になっているのだ。

 ネルは舌打ちをする。

 

「新人、援護しろ。突っ込んでくる」

 

「この状態でですか、それに目眩の方は」

 

「粗方回復した。あとあれだ。いちいち何か考えるのはめんどくせぇ」

 

「……分かりました」

 

 ネルとトキがカウントダウンを始め、呼吸を合わせる。だが、そのカウントが終わる前に、相手の動きがあった。

 煙幕だ。相手はスモークをたいたようだった。

 

「あん?」

 

 だんだんと、その煙はネル達の方へ向かっていき、視界を封じていく。

 

「これは……」

 

「舐めた真似してやがんな」

 

 トキは落ち着いて赤外線スコープをつけ、確認をする。

 

「ネル先輩、1名が盾を構え接近してきます」

 

「はん、分かってるよ」

 

 ショットガンが撃たれる。風の微かな動きで敵の位置を捉えたネルは、それを難なく避け勢いよく蹴り付けた。

 盾を持った人物は、そのまま吹き飛ばされる。ネルとトキは違和感を感じた。

 

「あ?」

 

「これは…まさか」

 

 ネルとトキの後方でガラスが砕ける音がした。

 ネル達はホシノ達の作戦を即座に理解し、そちらへ向かおうとする。だが、遅かった。

 

「RABBIT3! 私のいる区画を全て封鎖してください!!」

 

 四方を強化シャッターが勢いよく塞いでいく。大窓にもそれはかかっていき、3人は完全に閉じ込められてしまった。

 

「セキュリティへのハッキング? どうやって……」

 

 ネルは舌打ちをし、座り込んだ。目の前で倒れている人物を睨む。スモークが換気によって消えていった。倒れていたのはミヤコだった。彼女はホシノの盾と愛銃と共に、床に寝ている。

 

「私達の勝ちです」

 

 ミヤコはニヤッと笑った。

 

「装備を切り替えて、煙幕で誤認。その間に小鳥遊ホシノが月雪ミヤコが侵入した際のロープを使って、C&Cを迂回」

 

 オペレーションルーム、ユウカが冷静に分析をする。小鳥遊ホシノは真っ直ぐこちらに向かってきていた。

 

「再起動を行いますか? 一か八か、セキュリティの復旧が間に合いますが……」

 

 モニターの子が進言をするが、ユウカは首を横に振った。

 

「ううん、もういいわ。みんなお疲れ様。上がってもいいからね」

 

 彼女達は苦笑いをした。席を立つものは誰もいない。

 

「負けちゃったわね」

 

 ユウカは隣にいる親友へ話しかける。

 

「ふふ、そうですね」

 

「はーあ、まーた悪役やっちゃって、嫌われちゃうな」

 

「誰に嫌われるんですか?」

 

「それは……」

 

「ユウカちゃんも、気づいてたんでしょう?」

 

 ノアはノートを取り出した。白紙のノート。なぜこんなものがあるのか、ノアには分からなかった。全てを記憶しているはずのノアが、分からないもの。でも、これには大切な記録があった気がした。とても大事なものが。

 

「先生のこと?」

 

「はい、じゃないとこんな負け戦しないでしょう?」

 

「どうかしらね、ただ……、あのホシノって子の目。あの子の眼を見てたら、なにか、大事なことを忘れてるような気がしたのよね」

 

「それに賭けてみたと?」

 

「論理的じゃないわよね」

 

 ユウカが自嘲気味に笑う。

 

「ふふっ。でも、私はそんなユウカちゃんのこと好きですよ」

 

「ありがと、ノア」

 

 ドアが開かれた。ユウカとノアはそちらへ振り向く。

 小さな少女が立っていた。服には血がこびりつき、髪の先は焦げ、その肌には至る所に傷がついていた。肩で息をし、見るからにボロボロの少女だった。

 だが、それでも少女は微笑み、預けてもらった短機関銃を構えた。

 

「お嬢さん、お久しぶり。両手をあげてもらえるかな?」

 

 こうして、アビドス高等学校とミレニアムサイエンススクールの戦いは、アビドスの勝利に終わったのであった。

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