それは夢のように儚くて   作:小さい鯨

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存在証明

「本当に良かったんですか? 模擬戦扱いにして」

 

「うん、色んなところに迷惑かけたから、それはそれで大変だけどね〜」

 

 大きなモニターがあり、30人は座ることのできるミレニアムの会議室、そこでユウカとホシノが今後のことを話し合っていた。部屋にはアビドス対策委員会、ユウカ、ノア、クロコ、RABBIT小隊、アリウススクワッドがいた。

 戦いの後、怪我の治療が行われた。アビドス側の負傷者はホシノ以外軽傷で済み、ミレニアム側はトキ以外のC&C全員が重傷であった。

 小鳥遊ホシノは全身ボロボロで、ベッドで寝ていなければいけない体だったはずだが、包帯を巻いただけで済んでいる。ユウカは目の前にいる人間が、同じ人間なのか疑わしく思っていた。

 ガヤガヤとうるさい横の連中に、ユウカは視線を移す。他の生徒達は、部屋に置いてあるお菓子に群がっていた。特にアリウスとRABBIT小隊の食いつきがすごい。あまり食べれていないのだろうか。

 

「ですが、それだと賠償金を貰えませんよ? 借金もそれで返済が……」

 

 ノアがホシノに伺う。ホシノは首を横に振った。

 

「それは目的じゃないから、それにおじさん達勝つために色々卑怯な手を使ったからねぇ。だから、それに目を瞑ってもらう代わりにってことで」

 

 話が纏まったあたりでドアが勢いよく開かれた。視線がそちらに集まる。髪を床まで伸ばした少女が、息を切らしながら立っていた。

 

「アリスちゃん」

 

 ユウカがその少女の名前を呼ぶ。アリスは部屋を見回し、ミヤコを指差した。

 

「あっ、遊園地の時の人…!」

 

「……ああ、虚妄のサンクトゥムタワーの時の」

 

「うへー、4人目かな〜?」

 

 アリスの後ろからゲーム開発部達が覗いている。彼女達を見て、ユウカは何故セキュリティが突破されたのか、理解した。

 

「ユウカ、アリス達も参加したいです」

 

「……はあ、騒がないでね?」

 

「ありがとうございます!」

 

「お、お邪魔します…」

 

 アリス達は会議の席に座る。ホシノが周りを見回した。

 

「これで全員かな?」

 

 ユズが恐る恐る手をあげた。

 

「あの……ここにいるのは、先生って人を探している集まりでいいんですよね……?」

 

「あれ、ミヤコの妄言じゃなかったの?」

 

 モエがキャンディを口に含む。ミヤコがモエを睨んだ。

 

「私達もあまり詳しくは……、え、えへへ、同じ状態の人、他にもいたんですね…」

 

 サッちゃん探すのに手間取ったからねと、アツコがヒヨリに同意した。サオリは渋い顔をした。

 

「じゃあ、まずはその辺りの説明からしよっか」

 

 ホシノが立ち上がろうとする、だがクロコがそれを止めた。

 

「ホシノ先輩、私がする」

 

「クロコちゃん」

 

「私の責任だから」

 

 アビドス生はクロコを心配そうに見る。ホシノは少し考えた後、席に座った。代わりにクロコが立ち上がる。

 

「じゃあ、まず私のことから…」

 

 十数分後、クロコの話が終わった。自身のこと、キヴォトスを襲ったこと、その結果生じた先生の喪失、その対策について。反応は大きく2つに分かれた。半数は話しの内容を理解していなかったが、もう半数は不快感や不信感といったネガティブな感情が、表情や姿勢から出ていた。先ほどまで騒がしかった会議室は、しんと静まりかえった。

 

「……つまり」

 

 ミヤコが静寂を破る。

 

「貴女が今回の原因だと?」

 

「うん」

 

「キヴォドスを攻め、そのうえで先生を消したと」

 

「そうなる」

 

「ちょ、ちょっとミヤコちゃん」

 

 ホシノが間に入ろうとしたが、ユウカがそれを止めた。

 

「小鳥遊ホシノさん。こちらに少し任せてもらっても」

 

 ホシノは口を開こうとした後、閉ざし、成り行きを見守る。ミヤコはそれを見た後、改めてクロコへ視線を戻した。

 

「正直なところ、私は貴女のことを憎んでいます。もしかしたらここにいる他の人たちも、忘れていなければ怒号を発していたのかもしれません。先生を返してと」

 

「うん……」

 

「たとえ貴女にその意思がなかったとしても、貴女の行動によって生じた現象です。…だから、私は貴女を恨むし、貴女のその、負け犬のような落ち込んだ顔も殴り飛ばしたいぐらいには、怒っています」

 

「………」

 

「ですが」

 

 ミヤコは一度息を吐き、改めて口を開いた。

 

「……貴女がその場に立っていることは、称賛されるべき行為だと、私は思います」

 

「うん、私もそう思う」

 

 アツコが同意をした。

 

「自分の罪を認めて、前に進もうとするのはとても大変」

 

 アツコは隣に座っているサオリを見た。忘れていなければ、彼女は今も探し物を探していたことだろう。

 

「なんでこっちを見る、姫」

 

「別に?」

 

「アリスは……、アリスは先生を忘れていたって思い出した時、とても心がきゅーってなりました。とても、悲しかったです。多分、今のクロコと同じ顔をしていたと思います」

 

「私と同じ顔……」

 

 アリスは頷く。

 

「はい。クロコも悲しいんだと思います。やりたくなかったんだと思います。でも、先生を助けたいって気持ちは本当だと思います! だから、アリスはこう言います。なりたい自分になっていいんです! 先生が言ってました。魔王じゃなくて、勇者になってもいいんです。アリスたちは!」

 

「勇者?」

 

「はい! 世界を救ったっていいんです!」

 

「そうだね、クロコちゃんがいなかったら、おじさんも思い出せなかったし。おじさんの手伝いじゃなくてさ、クロコちゃんが先生を助けるってのほうが、"先生”も喜ぶんじゃない?」

 

「私に、そんな資格は…」

 

 アリスは立ち上がって、クロコの手を掴む。そして、自分の隣の席まで案内した。

 

「クロコとアリスで、W勇者です! 一緒に先生を助けましょう! そのクエストに資格なんて、必要ありません!」

 

「彼女の名前はシロコ、クロコはあだ名」

 

 別世界の自分が、シロコの名前をアリスに伝えた。アリスは笑顔で、シロコの名前を言う。

 

「チームを組みませんか? シロコ」

 

 黒い少女は、困った顔をした。奪ってきた者たち、代償を払ってくれた大人、血と死で汚れた心が笑ってはいけないと囁きかける。だが、目の前の少女(勇者)笑顔()に、ほんの少しだけ、昔を思い出してしまった。まだ、マフラーがあった時の頃を。

 

「……うん」

 

「パンパカパーン! シロコが仲間になった!!」

 

「ま、仲間になるのなら私にゲームで勝ってもらわないとだけどね!」

 

「お姉ちゃんはちょっと黙ってて……」

 

「その、いつでも遊びにきていいですからね、……ゲーム一緒にやりましょう」

 

「うん」

 

 別世界のシロコは、アリスの隣に、ゲーム開発部達の中心に座った。アビドスの生徒たちはそれを見た後、微笑んだ。

 

「よし、それじゃあ会議を始めます!」

 

 ユウカが手を叩き、進行をしようとした。だがアリスが手をあげる。

 

「何? アリスちゃん」

 

「アリス気になってることがあります!!」

 

 ユウカはアリスに発言の許可をあげた。アリスは息を吸う。

 

「さっき言っていた、先生の運命の相手がアリスというのは、本当でしょうか!!」

 

 先程とは違う意味で、部屋が凍りついた。

 

「そ、それ蒸し返すの!? アリスちゃん!」

 

「はい!!」

 

 ミヤコがホシノをちらりと見た。

 

「あの時、複雑な顔をしていた理由が分かりました」

 

「うへ〜、まあ、おじさんが1番最初に会った運命の人なんだけどね?」

 

「ホシノ先輩、その言葉はなぜか見過ごせない」

 

「はい、私も何故か納得がいきません」

 

 シロコとユウカがホシノに詰め寄る。

 

「仕方ないじゃん、本当のことだし」

 

「でも、ホシノ先輩の性格からして、デレるの遅かったんじゃないかしら。最初は嫌ってたっていってたし」

 

 セリカの鋭い指摘に、ホシノの体が強張る。ノノミがうんうんと頷いた。

 

「そうですよね、性格から考えたら、私かシロコちゃん、アヤネちゃんの方が先に会っていそうな」

 

「で、でもほら、運命の相手だからおじさん」

 

「運命の相手はそう意味じゃないよ、ホシノ先輩」

 

 汗を流すホシノへ、クロコが止めを刺した。

 

「うわーん!! すごいギスギス空間です!! もうおしまいです!」

 

「どうでもいい、誰がどういう関係だとか」

 

 騒ぐヒヨリ、サオリは呆れ、アツコは頷く。

 

「うん、ちなみに私は先生と2人きりの教室で、赤ちゃんの作り方を教えてもらったよ」

 

 え? アツコへ視線が集まる。あ、言っちゃったと、アツコは口を隠した。

 

「あ、アリスも先生に裸を見られました!!」

 

「やめて、アリス!! 燃料を投下しないで!!」

 

 暴走するアリスを止めるモモイ達。

 

「ミヤコも何かないの?」

 

「何もないんだろ」

 

「どうしてよ、サキ」

 

「あったら言ってるだろうから」

 

「あー」

 

「うぐぐぐ……、わ、私だって次こそは…」

 

 言いたい放題のRABBIT2とRABBIT3、そしてそれに反論ができないRABBIT1。

 

「会議は踊る、されど進まず、ですね」

 

 ノアは議事録へ記録した。

 

 ■

 

「話を戻しますよ!!」

 

 ユウカが机を叩いた。全く話が進まないまま、1時間が過ぎ何故か全員が肩で息をしていた。

 

「クロコさんの話では、必要なのは方舟の残骸と、先生が最後にいた場所についての情報、残骸はもう手に入ったそうです!」

 

 クロコが頷く。

 

「となれば、最後のピースは先生がどこにいたかとなります。ホシノさん達分かりませんか?」

 

「おじさん、最近先生と会えてないんだよね、先生忙しそうだったから」

 

「はい、アリスも同じです」

 

「私も会えていないよ」

 

 ホシノ、アリス、アツコがそれぞれ返答をしていく。ミヤコは手をあげた。

 

「私は最近会いました」

 

「その時のことを詳しく聞かせてもらっても?」

 

「はい、10日ほど前に、先生が子うさぎ公園に訪れました。先生が私達に特上うなぎ弁当を渡し、少し会話をした後別れました」

 

「うなぎ……?」

 

 サキがミヤコの顔を凝視した。ミユ、モエもそれに続く。ミヤコは何ですか? と、彼女たちに聞いた。

 

「ミヤコちゃん、うなぎ食べたの…?」

 

「みんなで食べましたよ、4人分ありましたから」

 

 モエが首を横に振りながら、ウナギの記憶がない……とぼやいている。それを無視して、ミヤコは話しを進める。

 

「先生は、用事があると言っていました。それと電車の時間も気にしていたので、恐らくD.U.から出たのは確実だと思います」

 

「D.U.かあ……」

 

 ホシノが天井を見上げる。それは、ある程度予想がついていた内容であった。

 

「すいません、私がついて行っていれば……」

 

「そうだよ、お前ついていけよ」

 

「サキもその場にいたんですが」

 

 ミヤコが白い目で同僚を見た。

 

「用事に心当たりとかがある人はいますか?」

 

「なんとなくだけど、先生は生徒に会いに行った気がする」

 

 アツコが唇に指を当てながら喋る。ユウカが理由を聞いた。

 

「その根拠は?」

 

「そうじゃないと、そこのミヤコって人と会話してる時に、電車のこと気にしないと思うから」

 

「確かに、先生が生徒と話している最中に気にする用事っていうと、生徒関係って気はする…」

 

 ホシノがアツコに同意し、ユウカが結論をまとめた。

 

「となると、D.U.からでて、生徒に会いに行ったと……」

 

 色んな意味で白熱していた空気が一気に冷める。明らかに手詰まりだった。彼女達がやっていることは、目隠しをしながら、足跡を探せと言われているようなもの、それも無数に踏み込まれた足跡の中から……。人数が増えればどうにかなると思っていたが、予想以上に難航していた。

 

「他に知っている人を探す?」

 

 アツコの提案に、ユウカは首を横に振った。

 

「それはあまり得策じゃないかと。今回の騒動ですら気づかない人は、それこそ山奥に隠れていたりしてるような人達でしょうから」

 

「クロコさん。転移は何回ぐらい行えるんですか?」

 

 ミヤコの質問に、クロコが答える。

 

「1回か2回、しらみ潰しは不可能」

 

 誰かがため息をついた。それを咎めるものはいなかった。

 10分ほどたって、サオリが立ち上がる。

 

「サッちゃん?」

 

「帰るぞ、姫」

 

「そうだね」

 

 ミサキもまた、ゆっくり体勢を起こした。ヒヨリはキョロキョロと、3人の顔を見回す。

 

「帰るって……」

 

「もう手詰まりだ。どうしようもない。それに……、ここに長居していては、いつ通報されるかもわからんからな」

 

 ユウカがそんなこと! と立ち上がる。それに意を止めず、サオリは自身の銃を手に取った。

 

「サッちゃん待って、まだ何か手が…」

 

「そんな物はない。虚しいことだったんだよ、アツコ。私たちには分かっていたことだろう? 何もかも、虚しい」

 

 サオリの銃を握る手に力が入る。彼女は手を離し、自身の手を見つめる。何故、自分がこんなにも苛立っているのか、彼女には分からなかった。

 

「…一泊ぐらいしていってもいいんじゃない? 眠って頭を休めたら、なにか思いつくかもよ?」

 

 ホシノが止めても、サオリの考えは変わらない。

 

「そんな余裕はない。今にもヴァルキューレやトリニティがここに来るかもしれない」

 

「だからそんなことしませんって……」

 

 サオリとユウカが口論を始めた。

 

「アツコ、行こう」

 

 ミサキがアツコへ促す。ヒヨリはお菓子をいくつかポケットに入れ、立ち上がった。アツコは後ろ髪を引かれる思いで、ゆっくりと立ち上がる。

 

「何故それを信じられる。私たちはエデン条約へのテロと、浦和ハナコの暗殺未遂を行っている犯罪者だが?」

 

「通報してるのなら、護衛もつけずに武器を持たせたまま、なんてことしません!」

 

「C&Cはエージェントだろう。扉の向こうに隠れてこっちを監視しているんじゃないか」

 

「あの人たちにそんなことできるのなら、苦労なんてしてませんから!!」

 

「………えっ」

 

 何か、変なことを聞いた気がした。アツコは立ち止った。サオリとユウカはいまだに口論をしている。そこから漏れて聞こえた言葉。

 サオリは、さっき何と言った…?

 

「サッちゃん。今なんて…?」

 

「……扉の向こうにC&Cが」

 

「そっちじゃない…!」

 

「何のことだ…?」

 

「浦和ハナコ暗殺って何……?」

 

 アツコの言葉に、サオリも、ユウカも、部屋にいるほとんどの人物がその意味を理解していなかった。当時、まだSRTに所属していたミヤコが立ち上がった。彼女の眼も大きく見開かれている。

 

「……アリウススクワッドが関わった暗殺は、百合園セイア、桐藤ナギサではないんですか?」

 

 ミヤコはサオリたちへ聞いた。サオリとユウカは不思議そうな顔をした後、口を開く。

 

「「……百合園セイアって誰ですか(だ)?」」

 

 アツコとミヤコが顔を見合わせた。ミヤコは口を手で押さえ、力が抜けるように座った。

 

「そうか、その発想はありませんでした……」

 

「サッちゃん、お手柄!」

 

「な、何のことなんださっきから!!」

 

「ど、どういうこと?」

 

 情勢に疎いホシノはまだぴんと来ておらず、ミヤコに聞く。

 

「先生以外にもいたんです!! 消えた人が!」

 

「ティーパーティーは桐藤ナギサ、聖園ミカ、浦和ハナコではないの?」

 

 ミヤコはユウカの言葉を首を振って否定した。

 

「違います、桐藤ナギサ、聖園ミカ、そして百合園セイアの3人です」

 

「クロコちゃん! 他の人が消える可能性ってあるの!?」

 

 ホシノに問われ、クロコは少し考えた。

 

「ん……、その可能性はある。先生と密着してた場合、一緒に巻き込まれる。消えたことで、代わりの誰かが、その役割を担ったのかもしれない」

 

「ティーパーティーってことは、先生はトリニティへ向かったってことですか?」

 

 ユウカがクロコの考えから、推測を述べる。だが、アツコがそれを否定した。

 

「ううん、どうだろう。百合園セイアは不思議な力を持っている。その力の影響で、遠くにいても引っ張られた可能性が……」

 

「なんか、ゲームのバグみたい……」

 

 ユズがぽつりと呟いた。モモイがうんうんと頷く。

 

「あー、あるよね。関連付け失敗してキャラ置いていったり、変な人連れて行ったり」

 

「うん、修正するの大変……。ソースコード間違えてるから、デバッグして、ちゃんと連れて行けるかを確認を…」

 

「それだ!!」

 

 ユウカの声が響き渡る。指をさされたゲーム部が怯えた。

 

「えっ!? なに!? ユウカ怖いんだけど!?」

 

「先生と一緒に消えた人、もしくは物を探すんです! そこから逆算すれば……!!」

 

「ああ、なるほど。先生という人物の行動範囲が広くても、生徒であれば基本的に学園から出ませんし、行動も予想つきやすい」

 

「マインスイーパーみたいな?」

 

 ユウカとノアの考えを、ミドリがゲームで例えた。地雷除去ゲーム、周りの数字を手掛かりに爆弾を探すゲームだ。

 

「ええ、百合園セイアという人物以外にも消えた人を探しましょう!! その人の行動範囲から先生がどこにいたかを導き出せます!」

 

 ■

 

 すでに外は真っ暗になっていた。街明かりのせいでアビドスよりも、星の数が少ないミレニアムの夜空と共に、ホシノは後輩たちを見送っていた。

 

「ん、じゃあ私達は帰る、ホシノ先輩」

 

「うん、気を付けてね皆」

 

「何かあったらすぐに呼んでくださいね☆」

 

「皆もね~」

 

 長い間アビドスを無人にしておくわけにもいかず、ホシノは後輩たちを帰すことにした。アリスやミヤコたちも、友人たちと別れることにしたようだ。サオリだけは残り、アツコについている。

 余談だが、RABBIT小隊とアリウススクワッドは弁当と缶詰を貰って帰ったので、とても嬉しそうだった。

 後輩たちを見送った後ホシノはタワーへ戻り、会議室へ向かった。帰ってくると、机の上に山のように積まれたファイルがあった。

 

「……え、なにこれ」

 

「よう、久しぶりだな」

 

 部屋を見回すと、包帯を巻いたネルと、書類を積んでいるトキがいた。ネルも重傷のはずだったが、ぴんぴんしている。部屋には他に、ティーパーティ―について調べているユウカ、壁に背中を預けているサオリ、そして絶望した顔になっているアリス、ミヤコ、アツコ、クロコがいる。

 

「お前たちが読むキヴォトスの生徒の資料だ」

 

「……えっ」

 

 ホシノは改めて山のように積まれたファイルを見た。1冊を適当に取ると、写真と名前が記載されている。1つ1つのファイルだけでも、大量の生徒の情報が載っていた。

 

「ミレニアムが保存しているものです。一応先生の行動範囲から可能な限り減らした物ではありますが」

 

「もしもここから見つからなかったら、大人の資料も持ってくるからな」

 

 トキとネルの言葉は、ホシノに届かなかった。

 

「うわーん!! こんなことなら、モモイ達を返さなければよかったです!!」

 

「さ、サッちゃん手伝ってほしいなぁ…」

 

「私は覚えてないから無理だ…」

 

「……お、おじさんメイドちゃんにやられた傷が痛んできたなぁ……」

 

「つばでもつけとけ」

 

「これあれでしょ? メイドちゃんがおじさんに負けた腹いせでしょ?」

 

「誰が負けたって?」

 

「私に」

 

「おう、表にでろや」

 

 ミヤコが各自の反応にため息をついた後、ファイルを1つ取った。

 

「喧嘩はしないでください…。少しずつ片付けていきましょう…」

 

「えっと…「アリスです!!」アリスさんはミレニアムをお願いします」

 

「アツコ」

 

「アツコさんはトリニティを」

 

「ホシノさんはゲヘナをお願いします。私とクロコさんは他の学校を」

 

「うへぇ……、というかおじさん達、別にキヴォトス中の住人たちの顔全部覚えているわけじゃ……」

 

 ミヤコがファイルを手渡していき、5人の生徒は席に座った。ファイルを捲る手がとても重い。アリスが1ページ目を捲った後、呟いた。

 

「これ全部で何人分あるんでしょうか」

 

「アリスさん、聞かない方がいいと思います……」

 

 ミヤコが再度ため息をついた。

 ぱらぱらと、何年かかるのか分からない作業が始まる。だが、その予想は間違いに終わった。

 

「……あっ」

 

 作業開始から10分後、ホシノが声をあげた。

 

「分かったよ、消えた人」

 

 部屋にいる人物たちが、ホシノを見る。ホシノは自分が読んでいたページを開き、机の中央に置いた。全員がそれをのぞき込む。ミヤコ、アリス、アツコ、そしてクロコがその人物に驚いた。

 

「風紀委員長ちゃんがいない」

 

 ホシノが開いたページ、そこには天雨アコ、役職風紀委員長と書かれてあった。

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