「パン工場の手伝いをしている 錠前サオリだ」【完結】   作:俺っちは勝者の味方ー!

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前回はプロローグで短めだったのに早速投票してくれた方がいて嬉しかったです。
拙作ではございますが、お気に入りはもちろんのこと感想・評価もして頂けると励みになります。



いきるりゆうをさがして

 

 

 ───出来立てのパン、スープとサラダは絶品だった。

 食べる姿を誰かに見られるのは正直小っ恥ずかしくはあったものの、食卓を囲む心地良さの方が勝って大して気にはならなかった。

 

 そうしてすべての皿が真っ白になると、アンパンマンが立ち上がった。

 

 

「それじゃあぼく、パトロールの続きに行ってきますね」

「ああ。気を付けて行くんだよ」

「はい」

 

「そういえば……私を助けてくれた時も “パトロールをしていた” と言っていたな。これがアンパンマンの日課なのか?」

「そうだよ。困っている人を助けたり、お腹を空かしている人にぼくの顔を分けたりするんだ」

「力仕事を請け負う事も?」

「もちろんあるよ」

 

 

 そうか。であるなら、早速恩を返すチャンスが来たかもしれないな。

 サオリはアンパンマンに懇願する。

 

 

「私もパトロールに加わっていいだろうか? アンパンマンのように誰かの飢えを満たすことはできないが、腕っぷしには自信がある。重たいものでも何でも、運ぶのを手伝えたらと思う」

「え? でも…」

「体はもう大丈夫だ。十分に休ませてもらったし、美味しいパンもご馳走になったからな。任務の途中で倒れるようなヘマはしないと約束しよう」

 

 

 む、つい勢いで啖呵まで切ってしまった。やはりと言うべきか、アンパンマンは驚いたような表情を浮かべている。

 自分が救けた相手にいきなり治安維持に協力したいとせがまれたのでは、こんな反応になってしまうのも無理はない。

 

 

「うん。サオリちゃんが大丈夫なら、ぼくは一緒にパトロールをしても構わないよ」

 

 

 だが意外なことに。アンパンマンは快く私の頼みを承諾してくれた。

 今ここに己の半身と呼ぶべき武器(愛銃)はないが、それでもきっとできることはある。彼の助けになるために、持てる力を遺憾無く発揮しよう。サオリは、固くそう決心するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、ぼくの背中に乗って」

「えっ」

「町の方まで空を飛んで行くんだ」

 

 

 …流石に冗談だろう? と思ったが、アンパンマンの表情は至極平然としていてとても嘘をついているようには見えなかった。

 

 この真剣な瞳は疑うに疑えん…。

 

 

「…空を飛ぶなんて初めての体験だ」

「もしかして高いところは苦手?」

「いや、高所には慣れているから問題ない。少しばかり面食らってな。

 

 ───では、その……失礼するぞ」

「安心して」

 

 

 ふわり。

 

 アンパンマンの背に乗った瞬間、彼の身体が地面を離れて宙に浮き上がる。

 

 

 飛んだ…。本当に飛んだ。

 その身一つで、マント以外の道具も無しに、本当に風に乗っている。夢のような信じられない出来事が、紛れもない真実と化した瞬間だった。

 

 どこまでも続く青い空を眺めていると、爽やかな風に頬を撫でられる──。

 

 そして、サンサンと輝く太陽の眩しさに当てられ、思わず目を伏せてしまった一瞬。

 現在進行形で跨っているアンパンマンのマントに縫い直した跡がたくさんあることに気が付いた。遠目ではよくわからなかったが、近くで見るとかなりボロボロだ。

 

 

「このマントは…」

「これかい? バタコさんに直してもらってるんだ。誰かを助けたり守ったりしていると、どうしても破れてしまうからね」

 

 

 彼の話に耳を傾けながら、サオリは丁寧に修繕されたマントの縫い目を指でなぞる。

 これがアンパンマンの功績……いや、アンパンマンの頑張ってきた証ということか。彼の生き様が、少しばかり理解できた。

 

 

「もうすぐ町に着くよ。サオリちゃんに案内するね」

「ああ」

 

 

 

 

 ──なあ、アンパンマン。お前は今まで、どれだけ自分を犠牲にして生きてきたんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ! アンパンマンだ!」

「おーい!」

「あれぇ? せなかにだれかのってるよ」

「おんなのこだ」

 

 

 それから五分と経たずして。町の上空に差し掛かると、地上からいくつもの無邪気な声が聞こえてきた。

 下に広がる町を見渡す。見るとここの住人たちはウサギにネコ、イヌにクマなど…いずれも可愛らしい動物の姿をしていた。流石にロボットはいないようだが、キヴォトスと少し似ているな。

 

 なんてことを考えて、サオリはアンパンマンの背を退き町へと降り立った。

 

 

「こんにちは、みんな。こちらは錠前サオリちゃん。今ぼくと一緒にパトロールをしてくれているんだ」

「錠前サオリだ。…初めまして」

「「「「はじめまして!」」」」

 

 

 子どもたちの曇りなき眼差しが眩しい。まさに興味津々、といった様子で、彼らはサオリの元に群がっていった。

 

 

「ねえねえ。サオリおねえちゃんはどこからきたの? パンこうじょうから?」

「…まあ、そうだな。先程はパンを頂いたりと、随分世話になった」

「パンこうじょうのパンたべたんだ! おいしかった?」

「ああ。あんな美味しいものは今まで食べたことがなかったよ」

「そうだよねー。わたしもパンこうじょうのパンだいすき!」

「ぼくもぼくも!」

 

 

 パンの味を思い出してきゃいきゃいとはしゃぐ子どもたちに、サオリは終始振り回されっぱなしだった。助けを求めるようにちらりと横を見てみたが、アンパンマンはただ微笑ましげにその光景を眺めているだけで、特にアクションを起こすことはなかった。

 

 お前、完全に楽しんでいるだろう…。彼のまん丸の顔を見てサオリはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「あちゃー…参ったな」

 

 

 すると、どこからか困ったような声が聞こえてきた。アンパンマンがこれに即座に反応する。

 

 

「どうしたんですか?」

「アンパンマン。いや何、家を建てるのに必要な材料を運ぼうとしたら、荷車の後輪が外れてしまってね。替えの車を用意しようか悩んでいたところなんだ」

 

 

 その声の主たる男性は、後輪の一つが脱輪した荷車の前で難しい顔をしていた。

 山のように積み上げられた石材を見上げる。荷車無しでこれらを運搬するのは、確かに骨が折れそうだ。

 

 

「そういうことならぼくに任せてください。材料を運んでいきたい場所まで、全部持っていきますよ」

「本当かい? すごく助かるよ」

 

 

 けれども、事情を聴いたアンパンマンは躊躇いなく、笑顔を以てそう答えた。男性の表情がたちまち明るくなっていく。

 私もうかうかしてはいられない。

 

 

「待った。その仕事、私も手伝おう」

「おや? きみは…」

「アンパンマンのパトロールに協力している者だ。力仕事には自信がある。どうか私にも任せてほしい」

 

 

 簡潔に素性を述べて、サオリは返答を待つ。

 

 そして、

 

 

「そういうことなら、君にもお願いしようかな」

 

 

 返ってきたのは了承の意を示す言葉だった。

 先ほどのアンパンマンとのやり取りでも思ったことだが、この世界の人々はどうにも “疑う” ということをしないらしい。ここがいかに平和な場所であるかがわかるものの、それはそれとしてまんまと悪人に騙されないか心配だな。*1

 

 サオリは子どもたちのいる方へ向き直る。

 

 

「すまない。もっとみんなと話してみたかったが、やるべきことができた。また今度会ったとき、この話の続きをしよう」

「うんわかった! やくそくだよ」

「ああ。約束だ」

「じゃあ、はい!」

「?」

 

 

 なんだ、小指…?

 

 

「 “ゆびきり” だよ。おねえちゃんしらないの?」

「…………聞いたことはある。何か大事な約束ごとを守るための儀式のようなものだと」

「えー。そんなにむずかしいことじゃないよ、わたしがいっしょにやってあげる!」

 

 

 そうしてフック状に曲げた小指と小指を優しく引っ掛け合うと、女の子が歌を唱え始める。

 

 

「ゆびきりげ〜んまん♪

 うそつ〜いたらはりせんぼんの〜ます♪

 ゆびきった♪」

 

「───ほう。これが “ゆびきり” なのか」

「うん! やくそくやぶったら、はりせんぼんだからね〜?」

「ふふっ。肝に銘じておこう」

 

 

 まったく…無邪気なものだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「がんばってねー!」」」」

 

 

 子どもたちの声援を背に、荷車の元へ向かう。

 そこには既にアンパンマンの姿があり、相変わらず彼は温かい目をして今の一部始終を見守っていたようだ。

 やめろ、そんな目で見ないでくれ…。

 

 

「残っていてもよかったのに。あの子たち、すごく楽しそうにしていたよ」

「…埋め合わせはいつかする。ただ今日は、アンパンマンの力になるために来ているからな。本来の目的をしっかりと果たしたいんだ」

「責任感が強いんだね、サオリちゃんは」

 

 

 流石にお前には敵わんだろうがな。

 

 

「それで、この石はどこに運ぶ?」

「中央ひろばの側にある空き地まで運ぶよ。道はぼくとクマじゅうろうさん*2が教えるから」

 

「了解した。───では、始めるとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サオリは当初。これだけの石材を腕力のみで運ぶとなれば、少なくとも半日近く時間を要しそうだな、と。そのように予想を立てていた。

 

 

「────よしっ、これで最後だね。お疲れさま、サオリちゃん」

「(……ちょっと待て。まだ作業を始めて()()()しか経っていないのにもう終わりなのか…!?)」

 

 

 …だが実際は、その想定を遥かに上回る圧倒的なスピードで仕事が片付いてしまった。

 アンパンマンの持つパワーと最高の機動力(マントによる飛翔能力)。それらの相乗効果を直に感じ取り、サオリは人知れず驚愕するのだった。

 

 

「いやぁ、おかげで助かったよ。これなら予定通り工事を始められそうだ。本当にありがとう」

「ふふふ。どういたしまして」

 

「…? なぜ私にも礼を言う? 私は、アンパンマンほど仕事に貢献できていたとは思えないが…」

「おじょうさんこそ何をおっしゃられる。『誰かのために』と声をかけ、そして実際に手伝ってくれたじゃあないか。その気持ちがうれしいんだよ」

 

 

 わからないな…。作業効率が良かったのは、すべてアンパンマンに起因するものだ。私は、石材をまとめて運ぶなんてことも…往復を一瞬で済ませるなんてこともできなかった。決して礼を言われるべき功労者ではない。

 

 

 

 

 それなのに───どうしてそんなにも気持ちの良い笑顔を、私に向けてくる…。

 

 

「どうもありがとう」

 

 

 …お礼を言われるだけで、こんなにも心が温かくなるなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを考えていると、

 

 

「きゃあー!!」

 

 

 ──どこかで平穏が崩れ去る音がした。

 

 

 

 

「ハーヒフーヘホー! この店の花は、ぜーんぶおれさまのものなのだ!」

 

 

 騒動はすぐそこの広場で起きていた。紫色の浮遊物体が屋台を襲い、バキュームのようなメカでその店の花を残らず吸い尽くしている。

 誰がこんな惨いことを…。

 

 

「やめるんだ、ばいきんまん!」

「出たな、お邪魔虫!」

 

 

 アンパンマンが飛び出し、件の浮遊物体に乗っている者と相対する。この騒ぎを起こした犯人は “ばいきんまん” というらしい。パンに命が宿るのなら、バイ菌に自我が芽生えるのもアリなのか…。

 

 

「奪ったお花をみんなに返すんだ」

「うるさいうるさーい! こいつはドキンちゃんへのプレゼントにするのだ。ぜーったい返してやらないもんねー!」

 

 

 アンパンマンがばいきんまんの説得を試みるものの、交渉は決裂。

 戦うことを望んでいないのであろうアンパンマンの意思に反し、ばいきんまんは敵意を剥き出しにして高らかに叫ぶ。

 

 

「変形! バイコング!」

 

 

 すると奴の搭乗している物体の形が瞬時に変わり、ペンチ型のロボットアームがアンパンマンに襲い掛かった。

 しかし、彼はこれを難なく躱す。その後もさらにばいきんまんの猛攻が続いたが、それらもすべて華麗に避け切ってしまった。アンパンマンに疲弊している様子は見られない。

 

 何て俊敏な動きだ。空中での飛行速度は何となく察しがついていたが、まさか目で追うのも精一杯なほどとは。

 

 

 そう思って舌を巻いていると、ばいきんまんが苛立ちを露わに次なる行動に乗り出した。

 

 

「これでもくらえ!!」

 

 

 突き出すように構えられたアームの先端部分が火を吹き、アンパンマン目掛けて勢いよく発射される。ごうごうと音を立てて飛んでいくその様はまるでミサイルのようだ。

 即座に受けの体勢を取ったアンパンマンは、これを見事に捉えて離さなかった。

 

 

「!?」

 

 

 だが捉えられたのは、あくまで()()()()だけ。

 残るもう片方のロケットパンチは目標を失い、あらぬ方向へと飛んでいく。

 

 

 

 ───その先には、つい先刻再会の約束を交わしたばかりの幼い子どもたちの姿があった。

 

 

 

 広場で遊んでいて、逃げ遅れてしまったのだろう。迫り来る危険に為すすべがなく、恐怖で身を強張らせていた。

 

 

 

 彼らの瞳から零れ落ちる涙。それを目の当たりにした瞬間、サオリの中で何かがどくんと脈打った。

 

 己の血が、心が。『守らねば』と熱く燃えたぎる。

 

 

「はあっ!」

 

 

 気づいた時には考えるよりも先に体が動いていた。子どもたちを守るように立ちはだかり、ロケットパンチを受け止める。この威力……少しでも気を抜けば、一気に押し込まれてしまいそうだ。

 

 全身を襲う猛烈な負荷に歯を食いしばっていると、後ろから不安と恐怖に震える声が響いた。

 

 

「おねえちゃん…」

 

 

 大丈夫だ、と。笑顔で答えてやりたかった。…けれども、そんな余裕はどこにもない。

 足の着いている地面が徐々にクモの巣状に罅割れていく。持ち堪えるのも時間の問題だ。

 

 

 一体どうすれば…!

 

 

 

 

 

 

 

「サオリちゃんっ」

「っ! …アン、パンマン」

 

 

 その時。

 アンパンマンがサオリの名を叫んだ。

 

 ──なぜかはわからない。

 だけど、視線を空に向けて互いの目と目が合った瞬間、彼が何を言わんとしているのかがわかったような気がした。

 

 …理屈じゃないのは重々承知の上である。まだ出会って一日と経ってもいない。

 

 

 

 だが、私は彼を…アンパンマンを信じてみたい。

 

 

 

「(ふっ、やってやるとも…!)」

 

 

 痛む両手に、限界まで力を込めていく。否、その限界をも越えるつもりで。

 

 力を溜めて溜めて…その果てに───。

 

 

「お返しだっ!」

 

 

 ロケットパンチを()()()()()

 アンパンマンと同時に放ったその一対のアームたちは、火力とスピードはそのままに、ばいきんまんのメカへ舞い戻る。

 

 

「のわあぁぁー!?」

 

 

 自分が撃った腕にメカをがっちりとホールドされ、慌てふためくばいきんまん。

 この隙を好機とみたのか、アンパンマンがメカに急接近していく。

 

 そして、

 

 

「アーンパンチ!」

 

 

「バイバイキーン!」キラーン

 

 

 アンパンマンの強力なパンチが炸裂し、ばいきんまんは空の彼方へ吹っ飛ばされていった。

 

 爆発四散と同時に、メカに吸い込まれていたたくさんの花々が宙を舞い、雪のようにゆっくりと降り注ぐ。辺りから沸き上がる歓声も相まって、まるで世界がアンパンマンを祝福しているかのように映った。

 

 ふわりと優しい風が吹き、花のいい香りが鼻孔をくすぐる。空からアンパンマンが降りてきた。

 

 

「ぼくを信じてくれてありがとう。サオリちゃん」

 

 

 彼の眩しい笑顔に再び胸が温かくなっていくのを感じながら、サオリもまた心からの感謝を述べる。

 

 

「こちらこそ。アンパンマンのおかげで助かった、…ありがとう」

 

 

 ───今に至るまでで、すっかり心が満たされていたからだろうか。

 もう面と向かって礼を伝えても気恥ずかしいと思うことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──パトロールお疲れ様。どこか痛むところはない?」

「もう痛みは引いたから大丈夫だ。私たちを含め、あの場にいた住民の誰にも怪我は無かったし……本当によかった」

「そうだね」

 

 

 太陽が西に傾く。

 

 赤い夕陽に照らされながら、サオリとアンパンマンは小高い丘の上から町を眺めていた。先ほどまでの出来事が脳裏に浮かぶ。

 

 あの後サオリは子どもたちに泣いて抱きつかれ、それはもう大変な目に合った。

 小さな子の話し相手になるならまだしも、泣いている子を宥めて落ち着かせるのは容易ではなく、危うく自分も涙目になりそうだった。何なら…重い荷物を運んだりばいきんまんのメカと戦ったりするよりも難しかったかもしれない。

 

 

 ──こうした人助けをいつも一人でこなしているんだな。

 そう思うとサオリは、とても感心せずにはいられなかった。

 

 

「アンパンマンはすごいな…。困っている人を助けるだけじゃない、ばいきんまんと戦ってみんなの日常をも守っているだなんて」

「ううん。ぼくは、サオリちゃんが思っているほどすごくなんてないよ。

 …みんなが応援してくれるから。いつも笑顔を見せてくれるから。だから頑張れるんだ」

 

 

 

 嗚呼、そうか…。

 

 これこそが、アンパンマンが持つ自己犠牲の精神の本質。

 だから彼はこんなにも強く逞しく、そして誰よりも優しいんだ。

 

 

 

 それに比べて、私は───

 

 

 

「私は……アンパンマンのように、前を向いては生きられない…」

「サオリちゃん?」

「私は今まで、間違った生き方しかしてこなかったんだ。大切な人たちを守りたいがために、罪も無い人々を大勢傷つけて。

 …そんな私が、アンパンマンの隣に立とうなど愚かしいにもほどがあるだろう」

 

 

 サオリは、アンパンマンと自分に言い聞かせるようにこの後ろめたい感情を吐き出した。これまで犯してきた己が罪の数々と、不幸をばら撒いてきた “疫病神” としての自身の姿が想起される。

 果たしてアンパンマンは幻滅しただろうか…?

 

 

「…そうだったんだね。サオリちゃんの過去に何があったのかはわからない。けれど、きみが間違いを犯してしまったというのなら、それはぼくも同じだよ」

「えっ?」

 

「ぼくも何度も騙されたり、友だちや大切に思う人の心を傷つけたりしてしまった。

 …でもね。その間違いからは目を逸らしちゃいけない。間違いと向き合って、それを受け入れて、そして乗り越える。そうすることができたとき、人は強くなれるんだと思う」

「……」

 

 

 アンパンマンの話は続く。

 

 

「きみはまるで『自分に生きる価値なんてない』と言いたげだけれど、この世に生きる価値がない人なんていないよ。

 例え、どんなに小さな()()()でも、すべての()()()ある者は必ず何か役目を持って生まれてくるんだ。サオリちゃんにもきっと、サオリちゃんにしか果たせない役目と生きるべき理由があるはずだよ」

「───そう、だろうか…。私は本当に、生きていてもいいと…?」

 

 

「もちろん、ぼく()サオリちゃんに生きていてほしいと思っているよ。──大切な友だちだから」

 

 

 

 彼の飾り気のない言葉は、暗闇に差し込む一筋の光に等しかった。

 恩人(先生)アリウススクワッド(家族たち)の想いを知りながら、その実…『生きること』に対して抱いていた自身の迷いが霧散する。

 

 ───まずいな、自然と目頭が熱くなっていく。私は帽子を深く被った。

 

 

 …が。

 

 

 

 ぐう〜。

 

 

 

「っ…///」カアァ

「ふふふ。今日はたくさん動いたからね」

 

 

 うう…こんな、二度も恥ずかしいところを見せてしまうとは…。

 

 

「サオリちゃん。はい、どうぞ」

 

 

 アンパンマンが自分の顔をもぎり、それを私に分けてくれる。遠慮しようとも思ったが、それ以上に空腹で…芳醇なあんぱんの香りには勝てなかった。

 

 

 パンを一口、齧ってみる。

 

 

「───美味しい」

「よかった」

 

 

 涙が混じり少しだけしょっぱくなってしまったけれど、彼の顔はとても甘くて美味しくて…優しい味がした。

 

 

*1
お前が言うなポンコツめ

*2
先ほどの男性






主に最後の場面を書くにあたって、アンパンマンの映画を色々と参考にさせて貰いました。
ドーリィ然り、クルン然り…『いのちの星』が鍵を握る映画は総じて神なので、全員一度は見ておきましょう。
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