「パン工場の手伝いをしている 錠前サオリだ」【完結】 作:俺っちは勝者の味方ー!
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サオリがこの世界──アンパンマンワールド──に来てから約一ヶ月もの時が流れた。
その間はずっとパン工場で厄介になっており、アンパンマンのパトロールを手伝う他、パンづくりやそれの配達、自発的な警邏を行うなど自分に為せる仕事を最大限こなしながら過ごしていた。
初めての土地での生活は戸惑いの連続だったが、心優しい人々に支えられてきたおかげで、今ではもうすっかりここに馴染みつつあった。
自慢じゃないが、ジャムおじさんの指導が丁寧なのもあり、パンづくりの腕前はかなり上達したと思っている。キヴォトスに戻ったら、いつか先生や姫たちに私の作ったパンを食べてみてもらいたい。
…さて、そろそろか。
「あ! サオリお姉ちゃん!」
「やあ、クリームパンダ。今は休み時間か?」
「うん! 僕が鬼になって、みんなでかくれんぼで遊んでるんだ。
…ねぇ、その後ろの台車ってもしかして」
「ああ。ジャムおじさんの代わりにパンの配達をしに来たんだ、みんなで一緒に食べるといい」
「わーいやったー!!」
「わあっ!? か、カバオくん!」
「パンの匂いにつられてきたか……だが、カバオ。今はかくれんぼの最中なんじゃなかったのか?」
「あ」
パンを積んだ台車をごろごろと引いてやってきたのは、みみせんせいの小学校だ。私と同じようにパン工場で暮らしているメロンパンナ、クリームパンダ、そして町に住む子どもたちがここに通っている。
今はちょうど休み時間であるらしいし、なかなか良いタイミングで配達に来れたようだ。
「まったく、カバオは本当に食いしん坊だなぁ」
「たはは…ごもっとも」
「ふふっ。中断させてしまって悪かったな。
さあ、手を洗って中で食べよu───」
「ハヒフヘホー!!」
……平穏なひとときをぶち壊すようなこの声は、
「「「ばいきんまん!」」」
「………」
「べろん! おれさまは腹ペコなのだ。その台車に積んであるパン、ぜーんぶよこせ!」
浮遊物体──UFOから身を乗り出し、下品に舌舐めずりをするばいきんまんの姿を見て、サオリは露骨に不機嫌な表情を浮かべた。奴の顔を拝むのは一体これで何回目になるだろうか。
よくも邪魔をしてくれたなと…ばいきんまんに刺すような視線を送る。
「──って、お前はサオリっ!?
どうしてこんなところに、アンパンマンと一緒にパトロールしてるんじゃなかったのか!?」
「お生憎様、今日の私はパンの配達員なのでな。また性懲りもなく現れて……みんなのパンを奪おうというなら、容赦はしないぞ」
ある意味挑発的なその言葉に、ばいきんまんの敵意が焚き付けられる。
「ふん。言われなくても、こっちだって手加減なんてしないのだ!」
瞬間。
UFOから特大のマジックハンドが飛び出した。
「くらえ! バイキンパーンチ!!」
「「「サオリお姉ちゃん!」」」
「案ずるな」
ユラリ。
みんなの声に応えると同時に、サオリは流れるような動きでばいきんまんの攻撃を回避する。
次いで、勢いよく地を滑りながら懐から
辺りに立ち上る砂埃の影響で、視界は最悪だ。
──しかし。キヴォトスで鍛え抜いた狙撃技術と研ぎ澄まされた五感を以てすれば……この程度の問題、サオリにとっては些事に過ぎない。普段と違う武器であることもまた然り。
「くそぉぅ! ………んぅ?」
パンチを躱され悪態をつくばいきんまん。
すると彼は、UFOの挙動が何やらおかしくなっていることに気が付いた。
「おいこら。急にどうしたってんだ──ぐはっ、ぐへぇっ!?」
小さな綻びは大きな瓦解に。
サオリの弾が内部を貫いた結果、バイキンUFOは小さな爆発と共に不具合を起こし、コントロールが利かなくなってしまった。
アンパンマンの
右へ傾き、左へ落ちて。ばいきんまんの体が、ぐわんぐわんとUFOに弄ばれる。
「お、おぼえてろ〜…バイバイキーン!! ──ぐぎゃ、ごはっ!?」
そして、
ついに戦闘をするどころではなくなり、ばいきんまんはお決まりの捨てゼリフを吐きながら泣く泣く退散していった。
UFOが何度も地面に激突する様を見届けたサオリは緊張を緩め、クリームパンダたちの安否を尋ねる。
「無事か? みんな」
「うん! サオリお姉ちゃん、すっごくカッコよかったよ!」
「ばいきんまんを一瞬でたおしちゃったぞう!」
「…そうか。
まあ、なんだ。
『おおー』と、子どもたちの感嘆の声が上がる。
特に、いつかアンパンマンのようになりたいと願うクリームパンダからは羨望の眼差しを向けられたので、お返しに彼のその大きくて柔らかい頭を撫でてやった。もちもちだった。
…この子たちも難儀なものだな。
なんてことをふと思う。こうも頻繁にばいきんまんの襲撃を受けているようでは、落ち落ち遊ぶことも出来ないのではないだろうか。
サオリは疑問をぶつけてみる。
「みんなは…、ばいきんまんを倒したいとは思わないのか? 今日のように略奪にやってくるのも、決して珍しくはないんだろう」
「え? うーん…そうだなぁ」
「確かにばいきんまんにはお菓子を取られたり、お祭りを台無しにされたり……嫌なことをいっぱいされたよ。
だけど──」
「ばいきんまんを倒したいと思ったことは一度もないわ」
みんなを代表してメロンパンナが言った。
「普段は乱暴で自分勝手だけど、ああ見えて優しいところもあるの」
「ほんっっっっっとうに! たまにしか優しくないけどね!」
他の子たちも、首を縦に振って同意している。奴に意外な一面があるというのはどうやら本当のことらしい。
しかし、
「あの外道を地で行く小悪党にか? にわかには信じ難いが…」
「ばいきんまんにも誰かを想うこころはあるわ。
だって、いつもばいきんまんの隣にはドキンちゃんがいるんだもの」
──そうだ。
真の “悪” は、自分さえ幸福なら・愉悦を味わえるならと、他人を気遣うような真似は絶対にしない。
傲岸不遜を絵に描いたような悪い大人を幾人も見てきたからこそ、理解できる。悪は悪でも、ばいきんまんと私の知る “悪” はまったくの別物だと。
『うるさいうるさーい! こいつはドキンちゃんへのプレゼントにするのだ。ぜーったい返してやらないもんねー!』
今にして思えば初めて会ったときも、奴の性格の片鱗が垣間見えていた。
確かに少なからずドキンのことを想っていなければ、あんな言葉が飛び出すはずもない。
──ばいきんまんに対する認識を、少しだけ改めておこう。
サオリはそう考えながらみんなを教室の中へと率い、未だほんのりと温かいパンを配るのであった。
「あ」
「はひ?」
……なぜ、私はこんなにも運が悪いのか。
もしも運命を司る神がいるなら、一言文句を言ってやりたい気分だ。
「どっわあぁーっ⁉︎ ななな、なぁんだってまたお前が…!?」
「それはこっちのセリフだ。
分教場から帰る途中に変な金属音がすると思って来てみれば」
山の一角を削って建てたのであろうログハウスと、そのすぐ横でUFOを修理しているばいきんまんを交互に見遣る。
また襲撃の準備をしているとは…懲りない奴だ。
自然とスリングショットに手が伸びそうになったが、
「あらサオリじゃない。こんなところに来てどうしたの?」
「あ、ほんとだ! サオリお姉ちゃん!」
「ホラホラァ〜。何やらばいきんまんと揉めてるようですねホラ」
主にばいきんまんと行動を共にしているドキンとホラーマン。そして、そのドキンの妹分であるコキンがやってきた。
三人の声を聴いてはっと我に返り、すかさず手を引っ込める。
「ドキンたちもここにいたか。
何、パンを配達し終えた帰りに山の中で異音を聞いてな。それを辿ってみたら偶然ここを見つけたんだ」
「へえーそうなの」
「ていうことはぁ。サオリお姉ちゃん、お仕事がないからひまなんだよね?
だったらコキンちゃんと一緒にあそぼー!」
「なにぃっ!?」
突然のコキンの提案に一瞬だけドキリとしたが、私が反応を示すよりも先に、ばいきんまんが驚きと抗議の声を上げた。
「パン工場で暮らしてるサオリをバイキンログハウスに入れるだと? そんなもん、おれさまは断固として反対だ!」
「ぶぅー。ばいきんまんのけちんぼ」
「けちじゃなーい! こいつに
「ばいきんまん?」ゴゴゴゴ…!
瞬間、ドキンから凄まじい怒気が放たれる。
「は、はいぃっ!」
「コキンちゃんが
「そ、そんなあ…」
「い・い・わ・ね?」
「…………ハイ」
そのドキンの圧にばいきんまんは根負けした。
心なしか奴の背がコキンよりも小さく見える。
「さ。あっちでサオリに遊んできてもらいなさい、コキンちゃん。ホラーマンはジュース持ってきな」
「はーい!」
「了解ですホラ」
…そう言ってドキンは、ハンモックで横になってしまった。
どうやら私がコキンと遊ぶのは決定事項らしい。
意見する間もなく決められてしまったが…、まあこの後は特に予定も無いしな。
「
「うん!」
「…………」ジー
「(な、なんだかものすごく見られているような気がするのだ…)」カンッカンッ!
「みてみてサオリお姉ちゃん!」
「おお、しょくぱんまんか。特徴を捉えてよく描けているな」
「えへへ〜」
「(ぐぬぬ…! まったく気が散ってしょうがな──)」カンッカンッ─
ごきん。
「い゛ぃっでぇぇ!? 親指がぁぁ!?」
「…………はあ」
ログハウスのすぐ後ろ──岩山に隠れたバイキンメカの秘密の保管所にて、ばいきんまんは大きな溜め息を吐いていた。
「はあー……、今日はサオリのせいでひどい目にあってばかりなのだ。ドキンちゃんとコキンちゃんのお気に入りじゃなかったら、今すぐにでも追い返せるのに…」
じくじくと親指が痛む。
トンカチを誤ってぶつけてしまったことも含め、何もかも全部あいつが悪い。
「この借り、いつか絶対に返さなくては…!」
「それならせめて、私以外の誰も巻き込まない方法で頼みたいところだな。ばいきんまん」
「! サ、サオリ」
思わぬ客人の登場にばいきんまんは動揺する。
流石に一日に三度も驚くことはなかったが。
「お前、コキンちゃんと遊んでたはずじゃ…」
「遊び疲れて眠ってしまったよ。──ところで、その……指は大丈夫か?」
「ぜーんぜんだいじょばない! だいたい、お前がずっとおれさまのことを睨んでくるのが悪いんだぞ!」
「……すまない。つい気になって」
なんだかサオリらしくない、妙にしょぼくれた謝罪だった。その態度や謝ってきたこと自体少し意外ではあったものの、『どうせこいつおれさまの敵だし』と、ばいきんまんはそれ以上サオリについて考えることはしなかった。
「変なやつ」と一言だけつぶやき、もう一度トンカチを振るい始める。トンテンカンと、リズムよく火花が飛び散った。
「…おい。まだ指が痛むんだろう、今日はもう作業は止めにした方が──」
「うるさい! この程度のケガや失敗ごときで止まってなんかいられるか。
───俺様はアンパンマンを倒す。それまでは絶対に、立ち止まることも諦めることもしないのだ」
「…!」
その瞬間、サオリはばいきんまんの表情に既視感を覚えた。
それはアンパンマンにも似た…いや、アンパンマンと同じ。
この一ヶ月、アンパンマンに敗北し続ける奴の姿しか見てこなかったが、その裏で積み重ねられている膨大な努力は、誰にも真似できるようなものではないと即座に確信した。事実、その証拠たるバイキンメカたちが目の前にたくさん鎮座している。
目的を達するための努力を怠らぬ姿勢と、何度失敗しても決して諦めない不屈の精神は尊敬に値するもの
サオリはほんの少しの羨望を胸に、ばいきんまんに問いかけた。
「…なあ、ばいきんまん。お前の
「ハッヒフヘホー! そんなもん決まってるのだ。おれさまの夢は、“アンパンマンを倒して、おれさま好みのばい菌だらけの世界をつくること” !
……って、何言わすんだ!」
「なんだと? お前こそノリノリで答えていただろうが、理不尽な」
───この時、ふたりは気付いていなかった。
ばいきんまんがツッコミを入れると同時に、彼の手からトンカチがすっぽ抜けてしまったことに。
くるくると真上に浮かび上がったそれは、やがて重力に従って降下していき……そして。
ごきん。
「ぎゃあ゛あぁっっ!!?? 足の小指がぁぁ!!??」
「………ぷっ。くくっ…、はははっ!」
格好良いのか、悪いのか。
まるでマンガのような面白おかしい展開に、サオリの表情は自然と穏やかになっていくのだった。
今さらですが、サオリは銃やナイフを所持していない設定です。アンパンマンワールドに絶対馴染まないので…。
パチンコは彼女が自作しました。
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