「パン工場の手伝いをしている 錠前サオリだ」【完結】   作:俺っちは勝者の味方ー!

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※映画『いのちの星のドーリィ』と『だだんだんとふたごの星』のネタバレを含みます。未視聴の方はご注意下さい。














 それでは、本編スタートです。




ほしまつりとせまるかげ

 

 

 

 ───時は、サオリがパン工場に保護される少し前まで遡る。

 

 

 

 暗雲立ち込める小山の頂上、

 そこに聳え立つヒヤリ城の研究室にて、ドクター・ヒヤリが高笑いの声を上げていた。

 

 

 

「ヒヤーッヒャッヒャッヒャッ‼︎ 今度こそ完成するぞ、ばいきんまんのメカを生まれ変わらせる究極の発明が!」

 

 

 外で轟く雷に負けず劣らずの凄まじい声量だ。

 ヒヤリは高速で機器を操作する。彼のおばけのような青白い顔はいつもより生気に満ち満ちていた。

 

 それもそのはず…この研究の出発点は、かつてヒヤリが発明した『だだんだんの心』にある。

 あの時は双子の星の妖精──キララとキラリのエネルギーをふんだんに吸収してしまったために、『ジャイアントだだんだん』に()()()()が芽生え、アンパンマンを倒すことができなかった。

 

 

 

 

 

 ───ならば。最初からばいきんまんのメカに、()()()()()を与えてしまえばいい。

 

 

 ヒヤリはそのように考えた。

 『アンパンマンを倒したい』『アンパンマンは敵だ』という純粋な敵対心、もとい、ばいきんまんと同じ()()()を持っていれば、誰かの影響を受けて()()()が生まれるなんてことは決して起こり得ない。

 

 “自分で考え、自分で動き、自分の力で戦う” というコンセプトはそのままに、バイキンメカをより強力で無慈悲な存在へと生まれ変わらせる…まさに文字通りの究極の研究だった。

 

 

 加えて。今回はさらに、とっておきの秘策まで用意しておいてある。

 

 

「おっといかん、こいつにアンパンマンの戦い方を分析したデータも搭載せねば。ただ倒したいと思うだけで勝てる相手ではないからな」

 

 

 そう…ばいきんまんと共謀し密かに収集していた、アンパンマンに関する戦闘データ。これを例の悪しき心に組み込むのだ。

 さすればアンパンマンへの敵対心はさらに助長され、彼との戦いをより有利に進められることだろう。

 

 ──顔のにやけが止まらない。

 別室に保管してあるデータを取りにいこうと、ヒヤリは軽い足取りで研究室を後にした。

 

 

「さあて、楽しみに待っておれよ、ばいきんまん。いつかお前さんがわしに言った言葉を後悔させてやる。

 この世紀の大発明…『バイキンメカ・バトルコンピューター』を以てしてのう。ヒヤーッヒャッヒャッヒャッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐにゃり、

 

 

 と。ヒヤリが立ち去った瞬間、突如として空間の一部が歪む。

 次いで、仄かに『色』を帯びた()()が、そこから姿を現した。

 

 

 ───……… !

 

 

 ()()は言葉にならない声を上げながら、靄の如く揺らめき漂う。重々しい空気が辺りに満ちた。

 

 

 その光景はただひたすらに異質だと、そうとしか言い表しようがなかった。

 

 …なぜなら。()()が放つ声には、純然たる正義と悪だけが存在するこの世界にとても似つかわぬ…どろどろとした憎しみの感情が込もっていたから。

 

 

 

 そして、しばらくすると──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()

 

 

 誰もいない研究室に、小さな音が静かに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───現在。

 

 

 

 日を追うごとに強まっていく日差しと、あちこちから聞こえてくる蝉たちの鳴き声に本格的な夏の訪れを感じ始める頃。

 

 誰もが忙しそうに働いて汗を流しつつも、しかし普段より活気に満ち溢れている様子の町を見て、サオリはふっと笑みをこぼした。

 

 

「これが聞きしに及ぶ『星祭り』か。まだ準備をしている段階なのに、すごい気合いの入りようだ」

「ええ、年に一度のお祭りですからね。いのちの星に “ありがとう” って感謝の気持ちを伝えるために、みんなで力を合わせて頑張っているんですよ」

 

 

 子どもたちが作った綺麗な飾りをステージの壁や柱に取り付けながら、みみせんせいは『星祭り』について話してくれた。

 

 ──曰く。

 

 かつてここは、ごつごつとした岩に覆われた恐ろしい場所であったが…ある夜。空から無数のいのちの星が降り注いだことで、水が湧き、川が流れ、緑が生まれ──今のような豊かな大地になったのだという。

 

 故に。いのちの星がよく見えるこの時期になると、町全体を挙げて『星祭り』を開くのだそうだ。

 

 

「そういえば、アンパンマンのからだの中にもそのいのちの星が溶け込んでいるんだったな」

「そうよ。むかしむかしのお話じゃなくて、今も時々いのちの星は私たちの元へ降ってくるの」

「……なるほど」

 

 

 ──まさか自分が、これほど素晴らしい祭りの準備に携われるとはな。

 みみせんせいの話を聞いて、サオリは改めてそう思った。俄然やる気が漲ってくる。

 

 余所者の自分に、今までたくさん良くしてくれた町の人たちへ報いたい。その想いも胸にして、サオリはテキパキと作業に戻った。

 

 

 …瞬間、お腹に柔らかい衝撃が走る。

 

 

「きゃっ」

「おっと。すまない、怪我はないか?

 

 

 ()()()()

 

 

 自分が勢いよく振り返ったせいで危うく転びそうになってしまった金髪の少女を抱き留める。真っ白なコーラスの正装に身を包む()()の女の子──ドーリィは、首を横に振って笑顔を浮かべた。

 

 

「ううん大丈夫。こちらこそごめんなさい。急にサオリお姉ちゃんの側に来てしまって」

「気にするな。…よく似合っているぞ、その衣装」

「そう? うふふ、ありがとう! リハーサルまでまだ少し時間があるんだけど、待ちきれなくて着替えてきちゃったの」

 

 

 くるりと回り、真新しい衣装を魅せてくれるドーリィ。彼女もまた、アンパンマンと同じようにいのちの星から()を与えられた存在であるためか、今年の星祭りを心から楽しみにしているようだ。

 

 

「コーラスの練習、よく頑張っていたものね」

「うん! 本番はもっともっーとがんばるわ。空を流れるいのちの星まで私の声が届くように」

「まあまあ。ふふふっ」

 

 

 ドーリィは元々わがままな人形であったらしいのだが、今はその面影を全く感じない。

 アンパンマンとの出会いを機に、自分の本当の生きる理由を見つけ、“今” を全力で生きている。…そんな彼女の姿が、サオリの目にはとても輝いて見えた。

 

 

「おーい、サオリー! これからスターツリーを運ぶんだ。手伝ってくれないか?」

「! カレーパンマン。わかった、すぐに向か──いや、まずは…」

 

 

 まだ箱の中に残っている飾りたちを見遣り、サオリは口を噤んだ。流石にみみせんせいの手伝いを中途半端な状態で投げ出すことはできない。

 どうするべきか悩んでいると、

 

 

「飾りつけは私に任せて! サオリお姉ちゃん」

「そうね。サオリさんが手伝ってくれたおかげで、もう大した量は残っていないし。後は私たちがやっておくわ」

「…そうか。それならお願いしても大丈夫だろうか?」

「もちろんよ」

 

 

 ドーリィとみみせんせいがそう提案してくれた。ありがたいことこの上ない。

 サオリはロングコートを翻し、次の仕事がある場所へ向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

 ……少女の心は、新たな()()に直面していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───スターツリーの光がぼんやりと輝く。

 

 町のみんなが寝静まる時間に合わせ、ツリーの光の強さは多少抑えられてはいるが、それでも十分に暗闇を優しく照らしていた。

 

 そして、パン工場の屋根の上で。小さな輝きが灯る町を見渡しながら、サオリは考える。ここで何を得て、何を学んだのか。

 その答えがきっと、自分の生きる理由に繋がると信じて。

 

 

「サオリちゃん」

「……」

 

「? サオリちゃん?」

「! ああ…アンパンマン。すまない、少し考え事をしていた」

「気にしないで」

 

 

 夜のパトロールから帰ってきたアンパンマンがサオリの隣に腰掛ける。彼は何も言わなかったが、二人の間に気まずさはなかった。

 

 心地良い静寂に包まれ、幾許か心が落ち着いた時。サオリはアンパンマンに話しかけた。

 

 

「アンパンマン…」

「なあに?」

「私はこのパン工場と町に来て、そこに住む人々から数え切れないほど多くのものを貰った。愛や、優しさや、真心や、他人を思い遣る気持ち。それ以外にもたくさん。

 

 

 …でも、わからないんだ。

 

 

 自分は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が。

 なんとなくではわかるのに…それがあまりにも漠然としているせいで。上手く言葉で言い表せられずに零れ落ちてしまう。

 

 ──なあ、私はどうすればいい? アンパンマンやドーリィのように、自分の生きる理由を見つけるためには。教えてくれ…」

 

 

 随分と無茶なことを言ったものだと…、自覚はしている。けれど、後半はほとんど歯止めが効かず、まるで憤りをぶつけているかのような、そんな口振りになってしまった。

 

 アンパンマンが不快な思いをしていなければいいんだが…。サオリは少し不安に感じた。

 

 

「うーん、そうだなあ…。

 ()()()()()()()()()()っていうその理由は、意外と自分のすぐ近くにあるものだと思うよ。ぼくも小さい頃、ジャムおじさんやバタコさんと一緒に暮らしている内に気づいたことだから」

 

 

 …しかし。アンパンマンはそのことを特段気にする様子もなく、真剣に彼女の問いに答えを返していた。

 懸念は大きく外れたものの…それはそれとして。サオリは、尚も続くアンパンマンの話に耳を傾ける。

 

 

「ぼくがそうだったように、誰にだって最初はわからないんだ。だから “わからない” っていうのは、決して悪いことじゃないよ。むしろ、その理由を()()()()()()()にしておくことのほうがよっぽどいけない気がするかな」

()()()()()()()()()()、か…」

 

 

 それは小学校の手伝いの際、コーラスの練習をしている子どもたちの口から何度も聴いたフレーズだった。初めて聴いた時の…、あのちくりと胸を刺すような感覚は今でも明瞭に覚えている。

 

 

「焦らずゆっくり、自分のペースで見つけていこう。サオリちゃんの夢や生きる理由は、きみにしか見つけることのできない…きみだけのものなんだから」

「! ………ああ。そうだな、その通りだ」

 

 

 

 自分の進む道は自分で決める、それが人生。

 

 

 

 例え、どんなに遠回りをしても構わない。自分の納得のいく生き方を見つけていきたい。

 この世界の人々から貰ったたくさんの贈り物を、決して忘れないようにして。

 

 

 

「──星がきれいだね。明日の星祭りもきっといい日になるよ」

 

 

 町やスターツリーを見渡すため、下に向けてばかりいた視線をおもむろに上げる。

 

 

 目の前には、満天の星空があった。

 

 

 色や大きさはまったく異なるけれど…星の一つひとつがそれぞれの輝きを放っていて、とても綺麗だった。

 

 ──数多の流れ星が空を駆ける。

 アンパンマンの言う通り、明日はきっと素晴らしい一日になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───その頃、バイキン城では。

 

 

 

「やったー!!

 

 ついに改良が終わったぞ、星の輝きを残らず奪う『スーパーやみだんだん』!! 今年の星祭りこそ、この新型メカを使って台無しにしてやるのだ!」

「「「ヤミヤミヤミ…!」」」

 

 

 手下のやみるんるんを大勢引き連れ、ばいきんまんがいつものように悪巧みを働いていた。

 

 

 星祭りなんてくっだらない。みんなが笑顔だと、おれさまはちっとも楽しくなんかないのだ。

 過去にはいのちの星のふるさとで起きたトラブルを解決したこともあるが…それはそれ、これはこれ。

 

 いのちの星に感謝を捧げるお祭りは何としてもメチャクチャにしなければならない。それがバイキン星からやってきたおれさまの使命なのだから。

 

 

「さあ、やみるんるん。早速突撃の準備にかかれー!」

 

 

 

 

「ヒャッヒャッヒャッ。今回も随分と気合いが入っておるのう、ばいきんまん。空をくらやみで覆いつくす『やみだんだん』の改良型とは…、これまた星祭りの邪魔をするにはぴったりのメカじゃな」

 

「はひ? ドクター・ヒヤリ」

 

 

 突然の来客の登場に、ばいきんまんの目が点になる。ヒヤリは薄気味悪い笑顔を浮かべながら、彼のすぐ隣に並んだ。

 

 

「うげ。気持ちわる…なんなんだその笑みは」

「ヒャッヒャッヒャッ、見るがいい」

 

 

 そう言うと、ヒヤリのUFOが飛来してくる。

 それの下には赤い光を放つエネルギーの結晶体が取り付けられていた。

 

 

「なんだこれ?」

「これはばいきんまんと同じ悪の心をもとにしてつくった大発明…、『バイキンメカ・バトルコンピューター』じゃ」

 

 

 ヒヤリの口角がニタリと上がる。

 

 

「『アンパンマンを倒したい』という思いと、アンパンマンの戦い方をカンペキに熟知したプログラムを融合させたのじゃ。

 これをバイキンメカに載せれば、例え地の果てまで追いかけてでもアンパンマンを倒しにゆくぞ?」

 

「す、すごい…!」

 

 

 ばいきんまんの目がキンキラキンに光り輝く。

 以前ジャイアントだだんだんが敗れたときは、『心なんて余計なもんを載っけたから負けたんだ!』とヒヤリを貶していたばいきんまんだが、その態度は一体どこへやら。今はヒヤリのことを尊敬の眼差しで以て見つめていた。

 

 

「じゃが、それだけではない。

 

 なんとこのコンピューターには、お前さんの故郷──()()()()()()()()()()も入っておるのじゃ!」

 

「なに!? お前、あの星の雷を呼び寄せられるのか!?」

「ヒャッヒャッヒャッ。ばいきんまんにできて、わしにできぬことなどないわ。…ともかく。雷のエネルギーのおかげで悪い心はより強力に、誰の呼び掛けにも応じぬほど頑固なものになった。

 余程のことがない限り、暴走する危険もないじゃろう」

 

「…おい。それじゃあまるで、いつもおれさまの発明が暴走してるみたいな言い方じゃないか」

「はて? しょっちゅうしていなかったかの?

 スーパーダストデーモン、チェンジバードロボにバイグモラと──」

「ええい! うるさいうるさーい!!」

 

 

 やっぱりこいつ一々癇に障るのだ。もう絶対、尊敬の目で見てやんないもんね。

 

 

「いいから早くそのコンピューターをやみだんだんに取り付けろ!」

「言われなくとも」

 

 

 ガチャン、と結晶体がスーパーやみだんだんの胸部に嵌められる。

 

 瞬間。ボディが赤黒く…アンテナが白く塗り変わり、アームもただの丸い形から楕円形へと形状を変えていく。

 最終的に倍近くの大きさまで巨大化を果たしたやみだんだんを見上げて、ばいきんまんとヒヤリは声高に叫んだ。

 

 

「スーパーやみだんだんをも超える究極のやみだんだん……

 

 『ハイパーやみだんだん』の誕生じゃー!!」

 

「ハッヒフヘホー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ───し゛ょ……ぇ、………ぃ

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 今ハイパーやみだんだんから何か聞こえなかったか」

「そうか? わしには何も聞こえんかったぞ。どうせ空耳じゃろ」

「んー……まあそうだな」

 

 

 

 

 

 ───まだ見ぬ脅威はゆっくりと。しかし、確実に忍び寄っていた。

 

 

 

 

 






拙作が多くの人に見て閲覧されているようで嬉しい限りです。
時間はかかると思いますが、一応どんな形で完結を迎えるかは考えてあるので何とか最後まで頑張っていきます。



…あとそこ、ダサいとかまんまだとか言わないの。回れ右してリオ会長のアバンギャルド君を見てきてからそゆこと言いなさい。
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