「パン工場の手伝いをしている 錠前サオリだ」【完結】 作:俺っちは勝者の味方ー!
みんなも「ロールパンナちゃんは可愛い」と言いなさい。
──そしてやってきた星祭り当日。
茜色に染まりし空に、祭りの開幕を告げるたくさんの打ち上げ花火が咲き誇った。
「釜めしうめぇどー!」
「ミーのかつ丼も食べて食べてー!」
「はい! 天丼一丁あがりザンス!」
まだ星は見えないが、すでに多くの屋台で美味しそうな食べ物が振る舞われ始めている。他にも、縁日玩具や射的などのゲームを楽しむ子どもたちの姿がちらほらと確認できた。
…祭りは順調に盛り上がりつつある。これから段々忙しくなっていくだろう。
「サオリちゃん。そっちのパンを配ってきてくれるかい?」
「わかった。今すぐに」
パン工場もまた例に漏れず、町まで出張し道行く人にパンを配っていた。星祭りにちなんで作られた、星型のパンを。
ジャムおじさんの指示の
───雲のように大きなわたあめを頬張る人、
───たこ焼きを熱そうに食べる人、
───わくわくしながらくじを引く人。
サオリとすれ違う町の住人の誰しもが皆、とても幸せそうな表情を浮かべていた。
この町へ来た当初こそ何も感じはしなかったが…、今はただその幸せな光景を目にするだけでも心が和む。お祭りという特別な状況も相まってか、より一層穏やかな気分になれた。
「あ! サオリおねえちゃんだ!」
「おーい!」
そんな風に少しぼんやりしていると、どこからか聞き慣れた声が響いた。
いつかサオリが助けた子どもたちが、彼女の名を呼びながらこちらに駆け寄って来る。見れば彼らの手には、屋台を巡って得たのであろう水ヨーヨーやフランクフルトなどが握られていた。
「やあ。…みんなすごいな、祭りの戦利品でいっぱいじゃないか」
「うん! おいしいものたっくさんたべてきたよ。まだのこってるから、サオリおねえちゃんにもしあわせのおすそわけしてあげる!」
「そうか? なら遠慮なく」
子どもの手が口に届くように腰を下げる。
いわゆる『あーん』をしてもらう形でサオリが食べたのは、肉厚で柔らかいからあげだった。
むぐむぐ。うむ、美味しい。
「ほら、幸せのお返しだ。好きなパンを持っていくといい。ジャムおじさんと私のお手製だぞ」
「いいの? やったー!」
「サオリおねえちゃんのパンどれだろ〜?」
「ぜんぶおいしそうだからまよっちゃうや」
そう言うと子どもたちは、和気藹々としてどのパンを食べようか相談し始める。
これにしようかな? あー、でもこっちもきになるなあ。と、わかりやすく悩んでいた。可愛い。
──まさかこんなに楽しそうに選んでくれるとは…。苦労して作った甲斐があったな。
サオリは人知れず心を打たれていた。
「ぼくこれにきーめた!」
「わたしはこれ!」
なんてことを思っていると、子どもらは次々とパンを選び終えていく。戦利品が増えて少し大変そうに見えたものの、依然として彼らの表情は笑顔のままだった。
そうして、新たに掴んだ幸せを優しく握りしめながら、小さな冒険家たちは再び次なる屋台を目指して駆け出していった。
「またねー! サオリおねえちゃん」
「パンありがとう!」
「ああ。転ばないように気をつけるんだぞ」
「「「「はーい!!」」」」
次第に人混みに紛れていく子どもたちの背を見て、サオリは思う。
嗚呼…アズサ。お前の言葉は確かに正しかったよ。今なら胸を張って言える。
──明日を信じて生きることは決して無意味なんかじゃない。『全ては虚しいもの』という教えこそが
「───それじゃあ、ジャムおじさん。約束した通り、少しだけ席を外すぞ」
「ああ。どうせなら “少しだけ” と言わず、ゆっくりお祭りを楽しんでおいで」
「そうね。私とチーズも頑張ってパンを配るから、目一杯羽を伸ばしていらっしゃい」
「アンアーン!」
「…ああ、ありがとう。バタコさんとチーズも」
それから、仕事が一段落したタイミングで。
サオリはある
『町を出る』と言っても、何もそう遠くまで行くわけではない。人々の喧騒が微かに耳に届く…光り輝く町の景色を一望できるような、そんなところへ向かうだけ。
丘へ続く小道を進む。
流石に街灯は設置されておらず、星や月の──自然の明かりだけが頼りとなった。
さらに周囲を見渡す。程よく静かで…落ち着きと趣のある場所、虫のさざめきが深く耳に残る。
……そして。
暫く進むと、夜の暗闇に紛れて人影がぼんやりと浮かび上がってくる。
風に靡く
…ああ、やはり既に来ていたか───
「ロールパンナ」
「! サオリ」
「遅くなってすまない。待ったか?」
「……(ふるふる)」
「そうか。
──今日もお前のためにパンを持ってきたんだ。私の手作り、良かったら食べてみてほしい」
「うん」
涼しい夜の風が吹き抜ける。
経緯や理由は異なれど、愛する者を想うが故に自らそれと距離を置いているサオリとロールパンナ。どこか似たような雰囲気を感じさせる少女たちは、倒木に座って肩を寄せ合い、パンの美味しさを分ち合った。
…はむり。
ふんわりと柔らかい
その時ふと、「この味は…」と、ロールパンナが独りごつ。
「──メロン、ジュース?」
「ああ。
「そうか…ありがとう、サオリ。
ほんの少しでもメロンパンナの愛情を感じることができて、私は嬉しい」
ロールパンナの胸に刻まれた、真っ赤なハートが強く光る。
メロンパンナと共に暮らすことができない彼女のためにと拵えてみたが、どうやらお気に召してくれたらしい。ロールパンナが微笑む姿を見て、こちらもほっと一安心する。
元より波長が合うためか、二人きりで過ごすこの時間はサオリとロールパンナにとって非常に得難いものであった。日々の出来事や自分たちの妹について語り合ったり、時には…内に秘めたる葛藤を打ち明けたり。
そんなお互いに自然体でいられる関係性を、二人はこの上なく好いていた。
ロールパンナは胸に手を当てて、話を続ける。
「───でも。
メロンパンナの贈り物のおかげだけじゃない。作り手のサオリが
「ほう…今日は随分と口が回るな、ロールパンナ。以前は『おいしい』の一言で済ませていただろうに。これもメロンジュースを味わった影響か?」
「かもしれない。
だけど、これは紛れもない私の本心だ。腕前が上達したというのはもちろん、サオリがパンづくりにどんな想いを懸けていたのかがよくわかるよ」
「っ…///」
…慧眼の持ち主であることは知っていたつもりだが、まさかこうも的確に変化を見抜かれるとは。おまけにずけずけと褒めちぎってくるので、あまりの恥ずかしさで顔から火が出そうだった。
恐ろしやメロンジュース…、メロンパンナの愛の力。クールなロールパンナをこんなにも素直で可愛らしくしてしまうだなんて…! *1
───はっ。いかん…何を考えているんだ、私は。
「ふんっ…!」ぺしんっ!!
「? どうした? 急に頬っぺたなんか叩いて」
「何でもない。周りに蚊が飛んでいてな」
「そう………ふふっ」
「ロールパンナ?」
碧色の目を細め、ロールパンナは淑やかに笑う。一体どうしたと言うのだろう。
「良い表情をするようになったな、サオリ。初めて会った時と比べるとまるで別人だ」
「そんなにか? ……いや、そうだな。確かに自分でも変わったと思う。かつての私は愛情や夢なんてものを露ほども信じちゃいなかった」
……でも、今はちがう。
「人が生きていく上で、それが…それらが如何に大切なのかを学んだよ。パン工場やこの町のみんな──そして、ロールパンナに出会っていなければ、きっと気付くことは出来なかった。
だから、
「ふふ、どういたしまして。こちらこそ、サオリが友だちになってくれて嬉しかった。ありがとう」
───キラリキラリと瞬く星々が、少女たちをいつまでも優しく見守り続けていた。
ぎらん。
深い深い暗闇の中、赤い双眼が怪しげな光を放つ。
遥か遠くから感じるいのちの星の鼓動。
早く戦いたい、暴れたい、倒したいと
───さ…お…ぃ
───あれ?
そういえば…、なぜ俺は奴と戦いたいんだっけか。
奴が
それが
それが
であれば、なぜなんだ?
───に…く…ぃ
───嗚呼、そうか。
にくい。ニクイ。憎い……!
元々そこに存在しなかったはずの感情が、決壊したダムのように流れ込む。ある意味愚直で純粋だった悪い心は、徐々に
……運命の時は近い。
一応クロスオーバーなのに原作側の主人公が登場しないのはこれ如何に。と、前々回の話を書いてるときにも思ったんですよね。実際どうなんでしょうか?
他にも、今回はサオリだけじゃなくロールパンナもちょっとキャラ崩壊してる感じありましたし、読者の皆々様が思った率直な感想を頂けたらと思います。コジキジャナイヨ、ホントダヨ。
誤字脱字等の報告もよろしくお願いします。
それとごめんね、しょくぱんまん。次こそは絶対セリフ付きで出してあげるから…。(震え声)