「パン工場の手伝いをしている 錠前サオリだ」【完結】   作:俺っちは勝者の味方ー!

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かなり長いので見落としがあるかもしれません…。誤字脱字等ございましたらご報告よろしくお願いします。

そして運営さん。サイバー攻撃への対応、本当にお疲れ様でした。



はかないゆめは───

 

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ…!」

 

 

 ……駆ける、駆ける、駆ける。

 

 

 サオリは息を切らして一直線に町を駆け抜ける。

 じんわりと額に汗が滲むが、立ち止まっている暇などない。私には、絶対に果たさなくてはならない大切な『約束』があるのだから──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、来たよ」

「遅いぞう! サオリお姉ちゃん」

「はあっ、はあっ…。う……すまん」

 

 

 ちびぞうの言葉に、もう少し早く来るべきだったか…とサオリは反省させられる。

 

 あの後、

 コーラスが始まるからと言ってロールパンナと別れたのだが、思ったよりも話に夢中になりすぎたせいか…ぎりぎりの到着となってしまった。

 私を待ってくれていた子どもたちも、白い正装に身を包んですっかり準備万端な様子である。…嫌な顔一つ見せずに送り出してくれたロールパンナのためにも、メロンパンナの勇姿をしかと目に収めておかなくてはな。

 

 

 ……おい待てカバオ。

 気持ちはわかるが、もう食うのはやめておけ。お腹を壊してしまうぞ。

 

 

「やあ、サオリちゃん」

「滑り込みセーフだったな〜」

「! しょくぱんまん、カレーパンマン。二人もコーラスを聴きにきたのか?」

 

 

 声を掛けてきたのは正反対の性格を持つ二人の戦士、しょくぱんまんとカレーパンマンだ。

 サオリが問うと、しょくぱんまんは些か大仰な身振り手振りを以てこれに答えた。

 

 

「ええ。いのちの星が最も輝く夜に響きわたる、みんなの歌声──ああ! 想像するだけでもなんて素敵なんでしょうか! 胸の高鳴りが抑えられません」

「カァー! …ったく、背中がムズムズするぜ。普通に『わくわくしています』って言えば済む話なのによ、キザったい」

「ふふ。まあだが、楽しみに思っているのは私も同じだ。あれだけ頑張って練習をしていたのだから、期待も相応に高まるというものだろう」

「ま。それもそうだな」

 

 

 

 ───だが。一つ、懸念があるとするならば…

 

 

 

「ちらほらと雲が出てきたな。このままだと曇るぞ」

「確かにそうですね…。お星さまがどんどん見えなくなっています」

「ちぇっ、折角の星祭りだってのに。運が悪いな」

 

 

 

 …瞬間、空が急激に輝きを失い始めていった。

 

 

 最初は小さな塊が一つ二つ浮かんでいる程度だったのに…。数分と経たない内に、空は完全に分厚い黒雲に覆い隠されてしまった。

 ───どうにか晴れてくれと願えど、その望みは叶わず仕舞い。本来子どもたちの歌声が響くはずの空では、不気味な雷がごろごろと恐ろしい音を立てている。

 

 …心なしか空気も重い。胸がむかむかするような息苦しさに襲われる。

 

 

「怖いよぉ…」

「みみせんせい…」

「大丈夫。大丈夫ですからね」

 

 

 上空で轟く雷鳴に、子どもたちは怯えている。

 …私も、みみせんせいと協力して彼らの不安を和らげねばと。サオリがステージの方へ歩き出した───その時。

 

 

 

「ハヒフヘホー!!」

 

 

 

「「「「ばいきんまん!」」」」

 

「ドキンちゃんもいまーす♡」

「ホラーマンもでーす」

「ヒャッヒャッヒャッ。今日はわしもおるぞ」

 

 

 …招かれざる客人たちがUFOに乗って現れた。

 いつものトリオと、()()()()。まるで幽霊のように生気の無い、青白い顔をしたあいつはなんと言っただろうか。名は確か──

 

 

「ドクター・ヒヤリ…」

 

 

 そうだ、思い出した。

 人を驚かせ、困らせるのが大好きだという悪しき科学者(マッドサイエンティスト)。ばいきんまんとつるんで悪事を働くのみならず、あのロールパンナから『まごころ草の花粉』をすべて抽出し、彼女の心を悪に染め上げた(ブラックロールパンナを生み出した)過去もある人物だ。

 

 それ故、ここで奴が出しゃばってくることが何を意味しているのか、サオリは瞬時に理解できた。

 …何かとんでもないことを仕掛けてくるに違いないと、自然と拳を握る力が強くなる。

 

 

 そして、

 町の至るところに飾られている手作りの “星” を見て、ばいきんまんは叫んだ。

 

 

「なぁにが『いのちの星に感謝を伝える』星祭りだ。おれさま、“いのちの星”も“感謝”なんて言葉もだあっいきらい! 町も空も…なにもかも真っ黒に染めて台無しにしてやるぞ!

 

 ──さあ来い、『ハイパーやみだんだん』!!

 

 

 

 ごごごご。

 

 

 

「わっとと…!」

「きゃあ!」

 

 

 何の前触れもなく大地が揺れる。

 町の人々は皆とっさにバランスを保ってなんとか転ばずに耐えたものの、…どうにも様子がおかしい。ただの地震にしては、揺れが大きくなるペースが速すぎる。

 

 

 まさか…これは。

 

 

 

 

「…! みんな、急いでここから逃げろ!」

「───!?」

 

 

 サオリは異変の正体に勘付き必死になって声を張り上げたが…、一足遅かった。

 ───轟音が鳴り響く。

 爆発にも似た衝撃は地面を崩し、周囲に岩塊を撒き散らす。家や屋台が次々と潰れていき…その中でも一際大きな岩の塊が、無防備な子どもたちに向かって降りかかった。

 

 

「「「「わあああっ!?」」」」

「くっ…!」

 

 

 ───そうはさせない…!

 『()()()()』という強い想いが、サオリの心と体を突き動かした。

 みみせんせいと共に、子どもたちを守るように覆い被さる。その気になりさえすれば()()で岩を躱すこともできたが…、そんな選択肢(子どもたちを見捨てるという)。端からサオリの中には存在しなかった。

 

 

「(私はどうなってもいい。せめて、この子たちだけでも…!)」

 

 

 神にもすがる思いを胸にサオリは覚悟を決めた。

 みんなの影が、迫り来る大岩にすっぽりと覆い隠され、そして───

 

 

 

 

「ふんっ!」

 

 

 ()()()と…誰かが岩を受け止めた。

 つむっていた目を開き、おもむろに振り返る。

 

 

 ──嗚呼、やっぱり来てくれた…。

 

 

 (まぁる)い顔と赤い服。もはや見覚えしかないそれらを目にしただけなのに、サオリは思わず安心感を覚えてしまう。

 

 

「「「「アンパンマン!」」」」

 

「大丈夫かい?」

「うん!」

「ああ」

 

 

 みんなの無事を確認し、そっと地面に岩を下ろすアンパンマン。

 さらに、ちょうどそこへしょくぱんまんとカレーパンマンも飛んでくる。様子を見るに二人も町の人々を救けていたようだ。

 

 

「おーい!」

「! カレーパンマン、しょくぱんまん」

「行きましょう」

「うん。

 

 ──サオリちゃん。メロンパンナちゃん、クリームパンダちゃんは町のみんなを避難させて」

「「ええ/わかった!」」

「三人も気をつけて」

 

 

 その言葉にアンパンマンたちは力強く頷き、空高く飛び立って行った。

 これだけの被害を起こした元凶は未だ砂埃の中に隠れていて、その全貌がわからない。唯一視認できた赤い眼を一瞬だけ睨みつけると、サオリはアンパンマンが向かった先とは逆の方向へと走り出す。…不安は残るが、今は自分の為すべきことを為さなくては。

 

 

「(っ…)」

 

 

 ──なぜか収まらない胸騒ぎ。

 己の本能が、激しく警鐘を鳴らしているかのように感じられた。

 

 

「…杞憂であればいいんだが」

 

 

 誰かに言うでもなく呟いたその独り言は…、逃げ惑う人々のざわめきの中へ紛れ、静かに消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、上空にて。

 アンパンマン一行がばいきんまんと対峙する。

 

 

「やめるんだ、ばいきんまん!」

「みんなが楽しみにしていた星祭りを台無しになんか──」

「わたしたちがさせませんよ!」

 

「やだよーだ、止めれるもんなら止めてみ〜ろ〜。やれ! ハイパーやみだんだん」

 

 

『ヤミダッダーン』*1

 

 

 うるさい外野*2を気にも留めずにばいきんまんが言い放つ。

 …瞬間、

 砂埃を掻き消すような鋭いスピードで、楕円形のアームがアンパンマンに襲い掛かった。

 

 

「! ふっ!」

 

 

 既の所でカレーパンマンとしょくぱんまんも巻き添えをくらいかけたが、三人全員回避を果たす。

 

 …徐々に晴れてゆく視界。

 砂煙に覆い隠されていた巨大な影が今、露わになった。()()は…赤黒い体色と白いアンテナ(ツノ)を持つ、巨大な『だだんだん』だった。

 大きさこそ()のジャイアントだだんだんには及ばないものの、やや鋭く尖った目つきとアームが、このメカの攻撃性の高さを如実に物語っていた。

 

 

 ──それでも。

 正義のヒーローは怖気付いてなんかいられない。三人はそれぞれの得意技を放とうとして、拳を構える。

 

 

「アンパンチ!」

「しょくパンチ!」

「カレ~パンチ!」

 

 

『ヤミ…』

 

 

 が──、

 

 

 

 

 

 

『ダダダダダダーン!!』

 

 

「「「わああぁぁ!」」」

 

 

 足底から、ごごう…! とジェット噴射を出して、空高く飛び立つやみだんだん。難なくパンチを躱すと、その勢いのまま()()()()()()()()()()ドロップキックをさく裂する。

 …アンパンマンたちの悲鳴が響き、再び地面が大きく揺れた。

 

 

「うう…みんな大丈夫?」

「はい。なんて素早い動きなんでしょうか…」

「ただでさえデカいのに、厄介な相手だぜ」

「──よし。なら今度は三人で」

「「おう/ええ!」」

 

 

 ばらばらに立ち向かっても…、ぼくたちの力は届かない。三人の意思を一つにしなければ──。

 

 

「「「トリプルパーンチ!!!」」」

 

 

「ぎゃーっはっはっは! むだむだ。スペシャルスクリューロケットパンチだ、やみだんだん!」

『ヤミッ、ダーン』

 

 

 ドリルのように高速回転するアームが火を吹き、無敵のトリプルパンチと激突する。互いの勢力は暫らく拮抗し合っていたが、やがてアームの回転速度が三人のそれを段々と上回っていき──そして…、

 

 

 ギュイーン!

 

 

「うわあぁぁ⁉︎ …くっ」

「トリプルパンチが跳ね返されるなんて…!」

 

「ヒャッヒャッヒャッ、コイツは何がなんでも『アンパンマンを倒したい』と思っておるからのう。その強い想いが、ハイパーやみだんだん自身の力を底上げしているんじゃよ」

 

 

 ドクター・ヒヤリが自慢げにそう告げると、アンパンマンは思わず眉をひそめた。

 地中をぐんぐん掘り進んでしまうようなパワーに、巨大な図体。そして、それに見合わぬ反則的な機動力も兼ね備えているときた。…この強敵、一体どのようにして戦えば勝つことができるのだろうか──。

 

 

 

 

 

 

 

 一方…、

 町の住民に避難を促していたサオリたちは、ジャムおじさんらと合流しこの騒ぎの原因について説明をしていた。

 

 

「なんだって!」

「ばいきんまんとドクター・ヒヤリが!?」

「…ああ、コーラスを行う予定だったステージに。今はアンパンマンたちが、先の地揺れを起こした“ハイパーやみだんだん”なるメカと交戦している」

「それで私たち、町のみんなを避難させるようにって頼まれたの」

「うん!」

 

 

 三人の説明を聞いて、大方状況を把握したジャムおじさん。

 

 

「うむ、ならば私たちも。アンパンマン号を使って、一人でも多くの人を町の外へ避難させてあげるんだ」

「「はい/アン」」

 

「そうはいくかー!!」

 

 

 空から猛スピードで何かが飛来してくる──これまた見慣れた*3、紫色のUFOだ。

 

 

「ばいきんまん…!」

「おわあっ!?」

「ハッヒフヘホー、バイキンヤミ祭りはまだまだ始まったばかり。お前たちの悲鳴で、もっともっと祭りを盛り上げるのだ!」

「「「ヤミヤミヤミ…!!」」」

 

 

 その瞬間、UFOの中からとめどなく続々と、大量のやみるんるんが降り注いだ。町の中が立ち所に真っ黒な雑兵たちで埋め尽くされてしまう。10、20、30、……最低でも200匹はいる。なんて出鱈目な…。

 サオリが呆気に取られていると、一部のやみるんるんがスターツリーの方へと群がっていく。さながら真夜中の外灯に引きつけられる虫のようだ。

 

 

 ───まずい、このままではスターツリーの光が消される…!

 

 

「やみるんるんは私が。みんなは避難の誘導を」

「うん、頼んだよ。行こうバタコ、チーズ!」

「気を付けてね!」

「アンアーン!」

 

 

「……さて」

 

 

 アンパンマン号が走り去る姿を見届けながら、サオリはスリングショットを弄ぶ。初めて手にした時と比べ、今はもうすっかりそれが手に馴染んできていた。

 

 

 ──久々に暴れるか。

 

 

「行くぞ」

「「「ヤミヤミ〜!」」」

 

 

 …迫る小さな的たちに、迅速に弾を命中させていく。個々の戦闘能力は大したものじゃあないが、無駄に数が多い相手だ。サオリは複数体に纏わりつかれて動きを封じられないよう適切な距離を保ちつつ、やみるんるんの無力化に努めた。時には、手刀ではらいミドルキックを見舞うことで、弾を撃つには近すぎる相手も確実に処理をする。

 彼女の十八番(おはこ)はゲリラ戦だが、近接戦闘のセンスも伊達ではない。勢いづいたサオリは、自身を鼓舞する意味も込めて天高く吠えた。

 

 

「ばいきんまん、やみるんるん! お前たちの好きにはさせない!」

「ぐぬっ…。お、おのれぇ…!」

 

 

 

 

 

 

「………」

「どうしたの?」

「──僕、やっぱりもどる!」

「! クリームパンダちゃん!」

 

 

「…ヤミィ~」

「──!?」

 

 

 …その時。

 サオリの影に上手く溶け込み、息を潜めていた一匹のやみるんるんが彼女に襲い掛かる──

 

 

 

 

「グーチョキパーンチのグー!」

「ヤミー!」

 

「っ! クリームパンダ、なぜ?」

 

 

 ──が…、思わぬ助っ人の登場によりサオリは難を逃れられた。クリームパンダと目が合う。

 

 

「サオリお姉ちゃん、僕もいっしょにたたかうよ。今までお姉ちゃんに守られてばっかりだったから。だから…だから僕も、お姉ちゃんを守るんだ!」

「!」

「私も! 私も、ロールパンナお姉ちゃんのようにとっても優しい──サオリお姉ちゃんを守りたい」

「クリームパンダ…。メロンパンナも…」

 

 

 こんな状況なのに、心がほんのりと温かくなっていく。…そうか、私がこの子たちを大切に思っているのと同じように、この子たちもまた私のことを想ってくれていたんだ。

 与えられたものを受け止めきるのに必死で…、二人の想いにちっとも気づいてやれなかった。私は愚か者だよ。

 

 

「───わかった。背中は預けたぞ」

「「うん!」」

 

 

 やみるんるんへの攻撃が再開した。

 

 

「えいっパンチ! チョップ! …えいっキック!」

「メロンパンナのメロメロパーンチ!」

「「「ヤミッ!? …メロメロ~♡」」」

「はあっ!」スパパン

「「「ヤーミー…!」」」

 

 

 クリームパンダ・メロンパンナの加入により、戦闘の効率が格段に良くなったのを肌で実感する。背後を警戒する意識と必要性が薄れたおかげで、幾ばくか心に余裕を持ってやみるんるんの対処ができるようになった。なんなら…奴らと何度も交戦した経験のある二人の方が私よりも上手くやみるんるんをいなせているし、支援(サポート)が的確だ。どんなに幼くともやはり、パンから生まれたヒーローなだけはある。

 

 

 ──よし、これなら…!

 

 

 

 

「ええいっ…じゃまするなぁ!! くらえ『やみだま』!」

 

 

 ぽんぽん。

 

 

「しまっ──」

「「あぶなーい!!」」

 

 

 快進撃の最中(さなか)

 ついに業を煮やしたばいきんまんがUFOから二つの『玉』を放つ。虚を突かれたことで、サオリは危うく『玉』の餌食になりかけるが、そんな彼女を庇うようにメロンパンナとクリームパンダが飛び出した。

 

 

「「きゃあー!!」」

「クリームパンダ、メロンパンナ!」

「うう…や、()()()()()()()──」

()()()()()()よぉ…」

「ええっ!?」

 

 

 胴体が消え、顔と触覚と手足だけの姿になってしまった二人を見、サオリは絶句する。ぐっ…可愛い。可愛いがしかし──

 

 

「おのれなんてことを…、許さんぞばいきんまん」

「はんっ。許さないからどうするんだ。後ろにいるチビ二人を放って、おれさまたちと戦うってか?」ニヤリ 「「「ヤミヤミ…!!」」」

「っ」

「わ、私たちは大丈夫」

「お姉ちゃんは、早くやみるんるんを…」

 

 

「いや。ここは一旦退こう」

 

 

 即答。

 クリームパンダの言葉を遮り、サオリは言った。

 

 

「ど、どうして?」

「私の独断でお前たち二人を危険に晒せるものか。身の安全を確保してからでも、奴らを倒すのは遅くない」

 

 

 非常に癪だが……今回ばかりは、ばいきんまんの一言より選択の余地を与えられたと考える。『二人を放って』…などと言われなければ、義憤に駆られて突っ走っていただろうからな。

 ───腕に収まるくらい小さくなってしまったメロンパンナとクリームパンダを抱きかかえ、サオリはやみるんるんの群れの中から脱出した。

 

 

「あ、おいこら! 待てえー!」

 

 

 ばいきんまんとやみるんるんが追いかけてくるが、後者の数はかなり少なくなっていた。これなら隙を見て、二人をどこか適当な場所に匿うことができるかもしれない。

 急接近してくる何匹かのやみるんるんを迎撃しながら…、サオリはただひたすら町の中を駆け抜けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「アンキッーク!」

『ヤミダダダーン』

「ぐうっ…!」

 

 

 ───アンパンマン一行もまた、厳しい戦況の只中にいた。

 

 ヒヤリの言っていた強い『想い』の影響からか…ハイパーやみだんだんはアンパンマンを執拗に狙って攻撃を仕掛けてくる。それ故に、三人で連携を取ることが非常に難しく、未だ有効打を与えられないでいた。

 …一時離脱中のばいきんまんに代わり、ドクター・ヒヤリが命令を下す。

 

 

「さあハイパーやみだんだん。やみるんるんの持つエネルギーを極限まで高めた、主の()()()──奴らに見せてやるのじゃ」

『ダーダダダッ、ダーン!』

 

 

 雄叫びを上げるやみだんだん。

 ──楕円形のアームが、噴射口に変形する。さらに両腕に加え…口や胸部からも同様の噴射口が顔を出すと、そこから()()()()()()が四方に向けて放たれた。

 

 アンパンマンたちはこれを躱すも…、

 

 

「「わあああっ/きゃあああっ!?」」

 

 

 地面や壁、そして逃げる人々に命中した光線は、ぐちゃあ…と一瞬だけ液体のように流動し、そのまま固まってしまう。

 

 そして──、

 

 

「からだが、うごかない…」

「元気が…生きる気力がなくなって…」

 

 

 体をがちがちに固められてしまった人々は抵抗する力が徐々に弱まっていき、一人…また一人と、意気消沈していくではないか。

 これは一体…?

 

 

「なんだありゃあ!」

「ヒャッーヒャッヒャッヒャッ! 見たか、これこそがハイパーやみだんだんの最強の武器…『ハイパーヤミ光線』じゃ! 当たった()()を真っ黒に染めるだけでなく、その()()が持つありとあらゆる“輝き”を消し去ってしまうのじゃ」

「なんですって!? じゃあ、あの人たちは…」

 

 

 …彼らの言動からして間違いないだろう。

 

 

「“いのち”の輝きを奪われてるってことなのか!?」

「ピンポンピンポ~ン♪ 大正解じゃ。さあ…次はお前さんらの番じゃぞ? やみだんだん!」

『ヤミダーン』

 

 

 最悪な能力を秘めた光線が再び放たれる。

 止める手段が存在しないため、アンパンマンたちはこれをひたすら避けるしかないのだが、そうするたびに町はどんどんめちゃくちゃになっていく。…無辜の民の悲痛な叫び声がそこかしこから響き渡った。

 

 

「やめろー!」

「これ以上は許しません!」

「カレーパンマン、しょくぱんまん!」

 

 

 これ以上好きにはさせまいと、()()()からやみだんだんに突撃していくカレーパンマンとしょくぱんまん。みんなを守ることに必死のあまり、アンパンマンの制止も二人の耳には届いていないようだ。

 

 ──ハイパーやみだんだんは、この千載一遇のチャンスを逃さなかった。

 

 

『ヤミー』

「「うわあぁっ!!」」

 

 

 口から極太のヤミ光線が発射される。

 咄嗟に横に躱したことで直撃は免れたが…、

 

 

「げぇ!?」

()()()が…!」

 

 

 がちがちに固まり、空を飛べなくなる二人。そして──、

 

 

「ほうれ、ばいきんまん手製の『やみだま』じゃ!」

 

 

 ぽんぽん。

 

 

「「うわっ!? …ヤミ~」」グルグル

 

 

 仕上げと言わんばかりに、ヒヤリの手によってやみるんるんへと姿を変えられてしまった…。残るはアンパンマンただ一人。

 

 

「カレーパンマン!」

「ああ~! しょくぱんまん様ぁ、なんてお姿に…。むぅ、ちょっとドクター・ヒヤリひどいじゃないのよ!」

「うるさいのう、これもアンパンマンを倒すっちゅう大義のためじゃ。文句を言われる筋合いはなi──「おバカー!!」あぎゃん!」

「ホラホラ~。すごいですねぇホラーですねぇ、迫力ですね〜…」

 

 

 などと隣で内部抗争が起こっているが…、ハイパーやみだんだんはそんなものを気にも留めず──アンパンマンをぎらりと睨んだ。

 

 もう『アンパンマンを倒す邪魔をする者』はいない。ここからは思う存分、()()()をぶつけることができると、ヤミ光線のエネルギーを再充填し始めた──その時。

 

 

 

 

 

 

 

 ハイパーやみだんだんは、目撃してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、はあっ、はあっ、…くうっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()姿()を。

 

 

 

 

 

 

 

 ───じょうまえ、サオリぃ…!

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、やみだんだんの心が醜い憎悪に塗り替えられる。

 ダムが決壊してもなお、『アンパンマンを倒したい』という想いを(よすが)にぎりぎり保たれていた彼の自我は、たった今……完全に失われてしまったのだ。

 

 

 

 他の誰でもない、()()の意思の覚醒によって。

 

 

 

「アーンパ──ダッダーン!!うわあぁっ!」

「…んぉ?」

 

 

 目の前のアンパンマンには目も暮れず。ジェット噴射で明後日の方向へ飛び立つやみだんだんを見て、ヒヤリの口から思わず素っ頓狂な声が漏れた。

 

 

 ハイパーやみだんだんが向かった先は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まてまてまてえーい!」

「はあはあ…」

「! サオリお姉ちゃん、上見て上!」

「上? ──!」

 

 

ダダーン

「のわああーっ!?」

「ぐっ…」

 

 

 突如、空から舞い降りてくる巨大な衝撃。

 サオリ*4は吹き飛ばされてしまうが、即座に受け身を取ってメロンパンナとクリームパンダを守りきる。…口の中に広がる土の味に、わずかに顔を顰めた。

 

 

「ごほっ、げほっ…二人とも大丈夫か?」

「う、うん」

「なんとか…」

 

「イテテ、一体何なのだ…。───!! ()()()()()()()()()()

「!?」

 

 

 驚愕を孕んだばいきんまんの言葉に、サオリは勢いよく頭を上げる。

 するとそこには、高圧的な雰囲気を纏いながら自身を見下ろすバイキンメカ──ハイパーやみだんだんの姿があった。

 

 …背筋に悪寒が走る。

 このプレッシャー…、初めて感じた気がまるでしない。

 

 

ダダンダーン

「! があっ…!」

 

 

 呆然としていた一瞬の隙を突かれ、殴り飛ばされる。メロンパンナたちはぎりぎりのところで逃がすことができたが、サオリは避けきれず…家屋の壁まで一直線だった。

 ──まさに圧倒的暴力。

 銃器で蜂の巣にされるよりもずっとずっと身体が痛い。これでも一応、キヴォトスで生まれた身だというのに…。

 

 

「「お姉ちゃん!」」

「うっ、かはっ…!」

「な…あああ……

 ──ぅおいっ! なにやってんだ、ハイパーやみだんだん! お前が倒すべきなのは、サオリじゃなくてアンパンマンだぞ!」

 

 

 やみだんだんの突然の行動に一瞬だけ言葉を失うも、すぐさま再起動して()を怒鳴りつけるばいきんまん。

 

 しかし──、

 

 

ダダン?

「はひっ!? に、にらまれた。こわ…」

 

 

 聞く耳は一切持っていないご様子だ。これにはばいきんまんも思わずたじたじになってしまう。

 …そうしていると、

 ハイパーやみだんだんを追ってドキンちゃんたちがやってきた。ジェット噴射の余波をもろにくらったアンパンマンはまだ来ない。

 

 

「ちょっと、アイツなんでサオリを攻撃してんのよ。アンパンマンにしか興味ないんじゃなかったの?」

「あらあら。本当ですねぇ」

「なに? ううむ、おかしい…。サオリ(あやつ)はカレーパンマンたちのように、アンパンマンを倒す邪魔はしていなかったはずじゃ。それなのにどうして………ん?」

 

 

 その時──。

 ヒヤリは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに気が付いた。

 

 特殊合金でできた腕は木のように枝分かれ…、円筒形のボディも()()()()()()が如く細みを帯びてくる。上部を見ると、ハイパーやみだんだんの丸い顔にも無数の()がびっしりと浮かび上がっていた。

 

 

 そして、…変化は止まる。

 その何とも形容しがたいやみだんだんの姿に、ドキンちゃんは顔を引き攣らせて驚愕する。

 

 

「な、何なの。あれ」

「ホラホラ〜…面影がほとんどなくなっちゃいましたねぇ、まるでモンスターです。このホラーな機能、一体いつ付け足したんですか?」

「し、知らん! わしゃ『心』を与える以外何も手を加えてなどおらんぞ。こんな進化の仕方、流石に想定外──」

 

 

 

 

 

 

 

 ───()()()

 

 

ヤミダッダーン!

 

「「「きゃあー!/ホラー!/うぎゃぎゃ!」」」

 

 

 ()()の忌々しげな声が響くや否や、ハイパーやみだんだんが三人に向けてヤミ光線を発射した。UFOごと黒い液体に固められてしまった彼らは地上に墜落するとやはり…、町の住人と同じように動く力を失っていった。

 

 

「う、うごけん…。なんて硬さじゃ」

「たすけてばいきんまん…」

「ホラホラ〜…」

 

「あああっ、ドキンちゃん!? ~~~っ、やいやいやいやい! よくもやってくれたな、やみだんだん。誰がお前をつくったと思ってるんだ!」

 

 

 ───全く、よく吠える羽虫ですこと。(わたくし)はもっと慎ましい振る舞いのできる殿方が好みでしてよ

 

 

「!? ──()()()()()()()()()()()()()()だと…? おいこら、お前一体何モンだ!」

 

 

 ───……はっ

 

 

「なに、どっわああぁーっ!」

 

 

 静かな問答が出来そうにないと悟ると…、()()はばいきんまんを鼻で笑い、破壊光線(赤黒い光の束)を以てUFOを撃ち落とした。

 

 

「ハヒフヘホレハレ…」グルグル

 

 

 ───フフフ…。やはり身の程を知らない愚か者には間抜け面がよく似合う。ねえ? 貴女もそうは思いませんか、()()()()()

 

 

 

 ……心の傷が抉られる(トラウマが蘇る)

 その甚く高飛車かつ冷酷な口ぶりは、記憶の奥底で封じ込めていた()()のものと何ら変わりない。

 これが夢ならば…あの時感じた胸騒ぎが杞憂だったならば、どれほど良かったことだろう。しかし、認めたくもない現実は、否応無しにサオリに襲い掛かってくる。

 

 

 

 ───そんな、バカな……

 

 

 

「なぜ、お前がここにいるんだ…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベアトリーチェ!!

 

 

 

 ───儚い夢は終わりを告げる(光る星は消える)

 ハイパーやみだんだんの体を介する災厄の名が、暗雲立ちこめる空の下に木霊した。

 

 

 

 


 

 

 

 

 『アンパンマン大図鑑 げんき100倍 公式キャラクターブック』風 〜バイキンメカ解説〜

 

⚡︎ ハイパーやみだんだん

 やみだんだんに ドクター・ヒヤリが わるいこころを あたえ、じぶんで かんがえて うごくように した。アンパンマンを たおしたいという つよいおもいをもっており、それをじゃまするものにも ようしゃなく おそいかかる。やみるんるんのパワーを ぎょうしゅくした ハイパーヤミこうせんを はなつ。

 

 

 

⚡︎ ハイパーやみだんだんへんいがた

 ベアトリーチェの にくしみの かんじょうに こころを のっとられてしまった ハイパーやみだんだん。かいぶつのような すがたに かわりはて、あたまの アンテナから はかいこうせんを はっしゃする。

 

 

 

※固有能力や武装、戦闘スタイルの参考元

・スーパーかびだんだん

・バイキンシャボンダダンダン

・ズダダンダン

・ジャイアントだだんだん

・デビルスター

・スピーカーだだんだん

・スーパーバイキンゼンマイロボ …など。

 

 

*1
イメージCV. 星野(ほしの)充昭(みつあき)

*2
「きゃあ〜! しょくぱんまん様、今日もとってもすてきです〜♡」

「ホラ〜♡ そんなすてきなドキンちゃんに、今日もホラーマンはメロメロなんですね〜♡ ホラッ」

*3
※嫌な意味で

*4
と…ばいきんまん






 後書きです。

…はい。もう予想できてた方もいたでしょうが、ベアおば再臨です。こいつの口調が書いてて一番よくわからなかった。

そして、ハイパーやみだんだんは所謂『ぼくがかんがえたさいきょうのバイキンメカ』ってやつです。主に2000年代に公開された映画の敵を参考にしました。


ちなみに。

イメージCVの星野充昭氏ですが、私のお気に入りメカ──バイキンシャボンダダンダンに命を吹き込んでくださった方でもあります。このメカが登場する映画、『アンパンマンたいそう』の魅せ方が巧すぎるので是非。(隙布教)
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