「ハァァァァァ!」
黒髪を揺らし剣を持った少女はイノシシに向かって突撃する
「セイッ!」
少女はイノシシの真正面から横に飛び、そこからイノシシの横っ腹に剣を突き刺す
「ブギィィィ!?」
その絶叫が聞こえた瞬間目の前のイノシシ『フレンジーボア』はポリゴン体となりパァンという音をたててはじけた
「ふう………ゲームなのになんだか疲れる……」
黒髪の少女『イリス』はゆっくりと腰を下ろし剣をそっと横に置く
「それにしても……このゲーム……凄い…」
イリスは周りの草原を見渡してそう呟く、それはまるで本物のようで草の香りが本当にしてくるような感じがする、そして吹いてくる風も髪をなびかせ、本当にこの世界が現実であるかのように思われる……
この世界、世界初のVRMMORPG〈ソードアート・オンライン〉こと通称SAO、これは〈ナーヴギア〉と呼ばれる機器を自身の頭に取り付け、仮想空間へ自身の意識を飛ばすという方法でこの仮想空間で自身の体の代わりになるアバターを現実のように操作し遊ぶといった活気的なゲームである
「…………眠い…」
イリスは眠気を感じたため、弱いといえどモンスターが沢山湧いている場所で寝るわけにもいかないためログアウトをしようと空中をタッチしメニューを開く…
「…ログアウトが……ない……?」
…が最初に確認したときにはしっかりあったはずのログアウトボタンが消えていた
「…………?」
イリスは首を傾げ、自身のナーヴギアが故障でもしたのか?などと考えていたが周りにいる人達もログアウトボタンを必死に探しているためそうでは無さそうだ
─ゴーン……ゴーン……
ログアウトボタンを探していると夕方の空が映し出される草原に鐘の音が鳴り響く………それが地獄の始まりを告げる鐘の音とは誰も思わず……
「………鐘の音……?」
イリスは鐘の音がなった為ゲームでいう何かのイベントが始まるのかと思いまた首を傾げていると
─瞬間……世界が変わった
「……え…!?」
イリスが驚いて目を見開くと、そこは先ほどいた草原ではなく、始めてログインしたときにでた場所……〈はじまりの街〉だった
「うわ!?」「何だ!?」「強制テレポート!?」
そしてイリスがはじまりの街へ強制的にテレポートされると、他のプレイヤー達も次々とテレポートさせられ青い光の柱の中から現れる
「どういう……こと……?」
「おいおい……早くしてくれよ……どうせなんかのイベントなんだろ?」
イリスが不思議そうに周りを見渡していると他のプレイヤー達はさっさと終わらせろというように悪態を吐く……
そして光の柱が収まりSAOにログインしているであろう、プレイヤーがはじまりの街へテレポートが完了すると……
─warning! warning! warning!
空一帯がその赤い枠で囲われた文字で覆い尽くされた…
「あれは………何……?」
イリスは訳が分からず混乱していると空のwarningの枠の隙間から血のような赤い液体が垂れ、一カ所に集まり何かを形作る
「GM………」
形作られた物はビル程の大きさがあるのではなかろうかというような赤いローブであり、それはこの世界を唯一管理する事の出来るGM(ゲームマスター)であった、そのGMの姿はローブの中には顔がなくとても不気味な姿に見え、良く分からない不気味さを放っていた
「プレイヤーの諸君……私の世界へようこそ、私の名前は茅場晶彦、今やこのゲームをコントロールできる唯一の存在だ」
「……なっ…!?」
イリスが茅場晶彦本人がいきなり現れたことに驚いているが、茅場はただ淡々と言葉を続ける
「プレイヤー諸君は既にメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気づいているだろうが、これはゲームの不具合ではない…」
「不具合じゃ……ない?」
「繰り返す、これはゲームの不具合ではなく、ソードアート・オンラインの本来の使用である」
嘘だ……そう思いたかった…それは此処にいる全員がそう感じた事だろう……だがそうでなければ茅場晶彦本人がでてくる筈はないし、不具合であるのならサーバーそのものをダウンして強制的にログアウトさせればいい話だ……つまり……茅場晶彦が言っていることは本当なのだと確信させられる
そして茅場晶彦は更に話しを続け、プレイヤー達は自発的にログアウトできず、外部からナーヴギアを外し強制的にログアウトさせようとすると、ナーヴギアから高出力マイクロウェーブが発せられ脳が焼かれるということも、既に実際に外部からナーヴギアを外され213人もの人間がこのアインクラッドと現実世界から永久退場したと告げた……。
茅場晶彦である赤いローブの周りに実際にナーヴギアを解除することを試みた人達によって脳が焼かれたであろう人のニュース記事などが浮かんでさえいなければまだ楽観的な人間は「何をバカな事を」と笑い飛ばせたかもしれない……
もうその時点で絶望している人もいるはずなのに茅場は更に地獄へと叩き落とす言葉を発した……
それは……
「また、十分に留意してもらいたい……今後ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない……」
「えっ……?」
「君達のHP(ヒットポイント)が0になった瞬間…君達のアバターは永久的に消滅し……」
「君達の脳はナーヴギアによって破壊される…」
この世界の死は現実での死を意味するものだった…
「嘘……だろ?」
「ま、まさかな……」
そう言って、笑い飛ばそうとする人もいたがその人達もやはり顔が引きつっていた…
「確かに……マイクロウェーブは電子レンジと同じ………内臓バッテリーもあるし、リミッターを外せば脳も………」
イリスも余りに現実味がありすぎる事態に此処で死ねば現実でも死ぬということはもう確信していた
「諸君らが解放される条件は……このゲームをクリアすればいい……」
茅場晶彦はこのアインクラッドの第一層から迷宮を攻略し、フロアボスを倒せば上の層に進め、第百層に存在するボスを倒せばクリアであると……そう告げた
「……できる訳がない……ベータテストでもろくに上がれなかった筈なのに……百層なんて……」
イリスも余りのムリゲーっぷりに絶望するしかなかった……だが……
「此処で死ぬのも良いのかも知れない………どうせ私は現実から逃げて此処に来たんだから……」
そんな事を思ったりもしていた……
「それでは、諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントがある…確認してくれたまえ」
そう言われイリスも周りのプレイヤー達も空中に指を滑らせアイテムストレージを開く
「……手鏡?」
アイテムストレージを開くと、そこには手鏡が送られてあった……不思議に思いながらもイリスは手鏡を手に取る……
「うわっ!?」
するとイリスの体の周りが発光し、イリスを包みこむ
周りのプレイヤーも同様だ
「………ん…?」
光が収まり目を開くとその鏡には先程の黒髪の少女の姿はなく、銀髪の少女が存在した………それは紛れもなく現実の自身の姿であった……自身の嫌いな銀髪が揺れ少しイライラが募る……イリスは中に浮いている赤いローブ……茅場晶彦を睨む
「諸君らは何故あの茅場晶彦がこんな事を?と思っているだろうが私の目的は既に達せられた………私はこの世界を作り出し鑑賞するためだけにこの世界……〈ソードアート・オンライン〉を創った……」
茅場晶彦はそう告げ、続ける……
「そして今、全ては達成せしめられた………以上を持ってソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する…………プレイヤーの諸君…健闘を祈る……」
茅場晶彦はそう告げ終わるとノイズがはしり、赤いローブと空一帯を覆っていた赤い枠に囲われたwarningの文字は完全に消滅した………
「い……いやぁっ!!」
「だせ!!此処から出してくれ!!」
「この後約束があるのよ!!」
所々からそんな声が聞こえてくる……まるでそれは地獄絵図…または阿鼻叫喚のようであった……
今此処から二年半の地獄が始まった……