電記分解   作:猫神瀬笈

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いつか書こうと考えていた電ちゃんの話
いろんな電ちゃんを書いていく予定です。


プロローグ 不運なエクレール

 

「ふふふーん♪」

 

 とある小さな鎮守府の中で、上機嫌な鼻歌を歌いながら、『』は部屋の掃除をしていた。

 今日は鎮守府の大掃除で、電の担当は提督の部屋、ではなく隣にある資料室。

 姉妹たちとは離れている場所ではあるが、提督が近くに居る状態で作業できるという事に喜んでいた。

 提督に好意を寄せる艦娘は多く、電も例外ではない。

 初期艦ではないが、自分の夢を否定せず認めてくれる提督の優しさ、艦娘という『兵器』ではなく『』として見てくれる考え方に好感を持っていた。

 姉たちにも場所を変わらないかと言われたが、丁重に断りを入れている。

 このポジションは、いくら姉でも譲るわけにはいかなかったからだ。

 それ故に上機嫌で部屋の掃除をしていたのだが、浮ついていて気づかなかったのか、足元にある紐に足を引っかけてしまった。

 

「はにゃぁッ!あうッ!」

 

 『カァーン!』という音が鳴り響く。

 何故資料室にあるのか分からない紐に足を引っかけ、その拍子に棚に頭をぶつけてしまい、おでこを赤くしてしまった。

 ぶつけたところにはタンコブができ、あまりの痛みに涙を流し、頭を押さえていた。

 

「大丈夫か⁈すごい音が聞こえたぞ⁈」

 

 扉が早く、勢いよくノックされる。

 心配してくれたのは、電が好意を寄せる提督。

 姿は見えなくても、ノックと扉越しに聞こえる声から、自分を心配してくれていることが伝わる。

 嬉しくてもう一度心配してもらいたいと思う自分がいるが、ぐっと我慢して無事を伝える。

 

「躓いてしまっただけなのです。大丈……」

 

 『大丈夫』。そう伝えようとしたとき、電の頭に衝撃が走った。

 それは赤く、分厚く、六法全書のようなページの多い本で、電の意識を狩るのには十分だった。

 

「ブッ!……きゅ~」バタン

「電?入るぞ……っ!どうした、しっかりしろ電⁈

メディック!メディ~ック‼」

 

 電は目を回し、提督は大声で叫ぶ。

 鎮守府に響く提督の叫びを聞いて、艦娘たちが駆けつけたのは、それから数分後の事だった。

 

 

 

「う~、ひどい目に合ったのです…」

「だから言ったじゃない!交代しないと大変な目に合うって!」

「『』、貴方も不運なんだから、意味ないでしょ?お姉さんである私に頼ればいいのよ!」

「『』だと、大泣きする未来しか見えないけどね」

「「うん、うん」」

「ちょっと『』⁈それはどういう意味よ!貴方たちも、何を頷いてるの!」

 

 『プンスカ』と怒る暁と、それを笑う妹たち。

 姉妹だからこその仲なのだろうと、提督はその様子を離れて心配しながら見ていた。

 先ほど暁が言ったように、雷と電の二人は不運である。

 各個人のデータを数値化したもの*1があり、本来の彼女たちの運は『12』と記されている。

 しかし、この二人の運は『-12』と記されており、普通ではないことが分かる。

 日常生活では、クジは確定で外れ、何もないところで躓き、乗り物に乗れば遅延や運休・そもそも乗れないことが多い。

 戦闘においては、弾が殆ど当たらず、態勢を唐突な荒波に崩され、整備済みの艤装で弾詰まりや故障を引き起こす。

 あまりの不運に、見ていられなくなることもしばしば…。

 今回の『泣きっ面に蜂』な状況も、電自身の不運によってもたらされたようなものだ。

 しかし、悪い事ばかりでもなかった。

 

「電の運は、周りが吸い上げているのかもしれないな。俺にとって幸運なことが起きたから、君たちにも共有しよう」

 

 提督がそう言いながら4人の前に本を差し出した。

 それは、電の頭に落ちてきて意識を刈り取った、赤く分厚い本だった。

 

「電の頭に降ってきた本だね、これには何が書かれているんだい?」

「この本は、俺が子供の頃に元帥から頂いた物だ。読むのは大人になってからと言われてずっと見ていなかったから俺も中身は分からない。

電のお陰で、またこの本に出会うことができたよ」

 

 提督は『ありがとう』と、電の頭を撫でる。

 撫でられた電は嬉しさのあまり、体をくねらせながら喜んだ。

 喜びすぎて自分の世界に入り込んだ電。

 全員で名前を呼ぶが中々戻ってこない。

 提督の声にすら反応しないため、放っておくことにした。

 

「この本には何が書かれているのかしら?」

「元帥が渡した本だからね、重大な秘密が書かれているんじゃないかな?」

「そうと決まれば、早く中を確認するわよ!」

「君たちだけで話を進めないでくれ…」

 

 勝手に話が進んでいくが、彼女たちは決めたら諦めないので、提督は自身が諦めた。

 そして、皆が見えるように机の上に置き、赤い本を開いた。

 

 

 

『これは、「」と言う存在のあるべき姿、「解答(こたえ)」を探し、多くの「私」と出会った旅の記録。己の「解答」を見つけた者、未だ探し続ける者、諦めた者。性格も、心も、手にした「解答」も、何もかもが違う「私達」を書き記した物である。

 私が「解答」を得るまで、彼女たちの「解答」を、その足跡を、ここに書き記すことを誓おう。願わくは、これから生まれてくる「私達」の事も…』

 

 1ページ目に、このような言葉が書かれていた。

 何度も出てくる『解答』という言葉を不思議に思いながら次のページをめくると、2人の電とスーツ姿の男たちが写った写真が現れる。

 2人の電の内、1人は左腕の肘から先が無く、長い髪を左にまとめて三つ編みにしている。

 もう1人は、綺麗な白いスーツを着て、タバコを口に(くわ)えたままえたままカメラを睨んでいた。

 

「2人の電…。でも、どっちも見たことが無い」

「後ろのおじさんたちも、この電も怖すぎよ。できれば会いたくないわね」

「三つ編みの電はどこかで見た気がするわ。どこで見たのかしら?

 司令官は何か知っているの?」

「ああ」

 

 提督は1度席を外し、しばらくして大きな本のようなものを持ってきた。

 それを開くと、そこには多くの写真が飾られていた。

 提督が持ってきたのはアルバムだった。

 

「確かここに…。お、あったぞ、この写真だ」

「「「お~、可愛い~!」」」

 

 そこに写るのは、元気な男の子が電と元帥に挟まれて手を繋いでいるところだった。

 他にも運動会の写真やピクニック、授業参観などの写真が載っていた。

 

「これは、俺が小さい頃の写真だ。

 深海棲艦の侵攻で、家族と離れ離れになっているところを、元帥が拾ってくれたんだ」

「あれ?提督のご両親は、この前鎮守府に遊びに来たはずよね?」

「元帥に世話になっていたのは、小学校の6年間だけだ。中学に上がる頃に海も穏やかになり始めて、遊びに来たあの両親と再会したんだよ」

「ハラショー。じゃあ、この写真の電は…」

「その写真の電で元帥のお嫁さんだ。」

 

 提督は懐かしそうに、その写真を見つめていた。

 自分の事を実の子供の様に可愛がってくれた育ての親。

 たとえ血が繋がっていなくても、彼にとっては第二の母親だったのだから。

 その記憶を辿っていると、雷が大声をあげた。

 

「あッ、思い出した!

 そうよ、一度会ったことがあるわ!私と電が無人島にいた時に助けてくれた人よ!」

 

 雷は1度だけ面識があり、残りの三人はその言葉で、その事件を思い出した。

 朝の『名前占い』で不運に見舞われるという結果になった日、いつもの様に任務をこなしていた戦闘終了後に不運が起きた。

 晴天の空が黒雲に覆われ、土砂降りの雨と荒波に襲われた。

 雷と電は仲間とはぐれて無人島に座礁。

 助けを待っていたのだが、弾詰まり、食あたり、虫刺され、食べ物爆散、深海棲艦の進行海路などという、不運が積み重なり、脱出・生活が困難な状況で耐え忍んでいた。

 そんな生活を続けて約一週間、島の木々の中で身を潜めていたところに、たまたま通りかかった電が島に立ち寄ったことで発見。

 大本営から来た護衛と共に海上を移動、無事に鎮守府に帰還することができた。

 

「すぐに帰っちゃったし、記憶も朧気だったから忘れていたわ」

「すごくレディな電なのね。私も会いたかったわ」

「元帥に頼めば会えるんじゃないかな?それこそ司令官からお願いすれば…」

「…多分、今もいないぞ。この「解答」探しに行って帰ってきてないんじゃないかな。育てられた時も、最長で1年は帰ってこなかったからな。

 …それよりも、電はいつまでグネグネしてるんだ?」

 

 写真の電と会いたい3人と、未だに自分の世界に入っていた電。

 この後、電が正気になるのは、提督がアルバムを片付けて帰ってきてからだった。

 不運なのだろうが、ある意味幸運ではあるのだろう。

 雷たちが、提督の子供の頃の写真を見たと口外しない限り、電は何も知らずに幸運のままでいられるのだから…

 この事は内緒にするとして、提督は写真の次のページを開いた。

 

 

*1
ステータス




このお話しは、電ちゃん以外の子も書きます。

今回は暁型姉妹で、雷が同じような状態でした。
あくまでも主役は電ちゃん、その他の子はゲストとして書く予定です。

それでは次回をお楽しみに。
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