Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ! 作:tonkacchi
2000/1/5 10:39 大隅改
村上の機体から警告音が鳴りやまなかった。それは、機体状況をモニターしていた他のA-01隊員からも観測できていた。既に、オーバーロードを表す領域に突入していた。
「…トンカッチ、念のためだ。アレの準備をさせておく。」
「ああ、頼む。…アレなら、もしかしたら間に合うかもしれない。」
2人が話しているアレとは、大型跳躍ユニットであった。時雨のハードポイントに増設することが可能で、ほぼ一方通行レベルの直線番長だった。だが、その速さは凄まじいものがあり、彩雲の約1.2倍の速度を有していた。もしかしたら、その速度を生かして村上のみを救出することが可能かもしれない。しかし、搭乗者にかかる負担が大きい。そのため、リモートによる操作になっている。しかし、まだ技術が未熟であるが故、正確な操縦ができてないのが欠点となっている。なので、簡単な救助活動は可能だったが、爆弾の操作はできなかったのだ。そして、すぐに換装作業が終わった。整備員が話しかけてくる。
「トンカッチ大尉!準備完了しました。要望通り大型跳躍ユニットを3本、増槽もつけておきました。リモート操作の準備にかかってください。」
「了解した。すぐに行く。」
時雨を操縦するのは、みちるではなかった。トンカッチだった。それは、高速戦闘が得意なのはトンカッチのほうだと何度も証明しているからだ。すぐに、リモート用管制ユニットに搭乗する。と言っても、ほぼ戦術機シミュレーターに近いものだった。そして、トンカッチはそれに搭乗した。しかし、おかしなことが起きた。
「…………なぜ村雨の表示が出ているんだ?」
そこに映し出されていたのは、村雨からの視点だった。それはすぐに暗転し、全ての操作を受け付けなくなった。さらに、大隅改に警報が鳴る。
『甲板要員は全員退避せよ。時雨が発艦する。全員退避急げ。』
しかし、現にトンカッチは操縦していなかった。
「こちら、トンカッチ。時雨を止めてくれ!俺は今、動かしていない!」
「何ですって、大尉!?じゃあ、何で動いているんです!」
整備員も絶叫していた。既に甲板には誰も上がることができない。だれも止めれない。しかし、どうして時雨が勝手に動いたのか。すぐに答えは出てきた。
それは、村雨からのハッキングだった。
「トンカッチ大尉だ。もう、奴を止める術はない。
「しかし、もう大型跳躍ユニットはありませんよ!?」
「………俺の手であの
「了解しました!2分ください!」
もちろん、時雨が村上を助けることができれば、狙撃する必要はない。しかし、助けることができなければ?それは、立派なポンコツ暴走戦術機となってしまう。厳密にはXM1ではあるが、この際どうでもいい。味方にこれほどの迷惑をかけてしまったのだ。もちろん、トンカッチにもだ。
同時刻 海岸線
管制ユニット内は警報音で溢れかえっていた。すぐに、パネルで警報を遮断する。一気に静かになった。海岸からの艦砲射撃は地形を変えんばかりのものだった。そこらじゅうにクレーターを作り上げている。その射撃は、綺麗に村上の進路を作るように着弾していた。さらに、海岸に2隻ほど乗り上げていた。BETAの興味関心がそっちに移り始めていた。恐らく、艦内は地獄絵図となること間違いなしだ。しかし、村上は振り返らなかった。
これから自分のすることは、独りよがりな考えではあるが、格好のいい死に方を求めての行動であった。正直に言えば、自分に追従はしてきてほしくなかった。たった一人、敵陣の爆弾を起爆しに行き、見事爆破。自分は死ぬだろうが、人類はまた一日、生存することができる。最高の死に方だ。自分が軍に入ってから求めてきたものだ。それが、ついに来たのだ!
「大尉たちには、迷惑かけちまうけど、これだけは貫き通させてもらうぜ!」
機体にさらに加速させた。しかし、機体から火を噴き始めた。強制冷却装置と消火剤を使用し、無理やり継続する。それでも、火は止まらなかった。
『火災発生、有毒ガスに注意。管制ユニット内の換気を開始。排煙装置起動。跳躍ユニット、出力を低下させ消火に専念させますか?』
「…ダメだ、継続。現状の速度を維持、最悪破壊しても構わん!」
『承認、出力維持開始。』
機械音声にしては、えらく自分の命を優先するように語りかけてきやがる。そう、村上は思った。これは村上の感知するところではなかったが、この時に時雨内のXM1はハッキングを開始していた。しかし、全システムの掌握に失敗していた。そのため、搭乗員の命を優先するように語りかけることしかできなかった。それが、XM1が判断した最良の選択だった。村上機のレーダーには表示されていなかったが、時雨は急速に村上に接近していた。
「まったく、あと少しなんだ。持ってくれよ、不知火!」
ついに、右側跳躍ユニットが火災により爆発した。機体がスピンしかけるのを、人力で回復させ、改めて爆弾の位置を確認した。幸いにも光線級は付近にはいなかった。
「畜生!速度が落ちやがった!ただ、このままだったら持たせれる!」
しかし、これが油断へと昇華してしまった。曲がり角を曲がった先にあった、ビルの残骸に機体を接触させてしまった。機体がバランスを崩し、地面に不時着してしまった。
『警告、跳躍ユニット全損。両主脚、損傷。自力歩行、困難。即時退避勧告発令。』
「…うるさいなぁ!もう少しだけ歩けるだろ!…………ゴハッ!」
村上は血を吐いていた。それも、大量にだ。自分の腹部を見ると、脇腹に鉄骨が刺さっていた。それは、管制ユニットを貫通するほどだったので、村上の体を深く貫いていた。しかし、不知火は爆弾の隣に不時着していた。
村上の不知火は最後まで
朦朧とする意識の中、パネルを操作する。一応、戦術機からの操作は可能だった。幸いにも、BETAは近くにはいなかった。落ち着いて操作する。タイマーを一旦解除し、再設定。死ぬのは俺一人でいい。時間は最小の10秒にセットした。
新たに警報が鳴る。ロックオン警報だった。レーダーには時雨のマーカーがあった。
「…伊隅大尉、ではなさそうだな。ゴハッ…………。督戦隊かもしれないなぁ。それだったら、さっさと俺だけ殺してくれ。…………俺は、もう疲れた。」
村上の意識レベルはもはや、生存不可能のレベルまで達していた。しかし、何かを思うことならできた。
田島、仇は取ったぜ。俺もカッコよかっただろ?
これは、言葉にこそならなかったが、きっと
そして、村上は目を閉じた。タイマーのカウントが始まった。
爆発まで10秒前
時雨は村上の不知火をロックオンしていた。攻撃個所は腰部の上半身接合部、頭部、両腕部だった。無人状態であったが、行動はログに映っていた。
…………対象確認:攻撃可能 Y/N
…………Y
…………攻撃開始
…………対象の無事を祈る
突撃砲が斉射しながら、長刀を投げつける。頭部と両腕部が切り離され、接合部は長刀により切断された。
残り5秒
村上機の管制ユニットのみを回収した。すぐにバイタルチェックを開始した。状況は、死亡判定一歩手前の意識不明の重体だった。大量出血、腹部損傷。脳挫傷も発生。前進は複雑骨折しており、肺もやられていた。しかし、XM1は腐っても機会だった。人間より素早い判断で、1秒で蘇生処置を開始した。その裏で、0.2秒でルートを設定、さらに急加速させつつ、時雨が爆発炎に近くなるようにポジションを取った。
残り1秒
もはや、逃げ切ることはできなかった。しかし、最低限の距離だけは取ることができた。後は天に祈るのみだった。
…………対象の生存を祈る
…………神の加護のあらんことを
残り0秒
タイマーは0秒になった。一瞬、佐渡島全域が青白い光に包まれたと同時に、3か所から巨大な爆発が発生した。その爆発は、今までのような水爆や核などのものではなかった。紫色のドーム型の爆発だった。その破壊力は凄まじいものであった。辺り一帯の地形を更地に変え、数少ない植物や動物は蒸散し、戦術機やBETAも残らず消し去った。爆発の光は、作戦参加していた全部隊が観測できるほどのものであった。その光は、佐渡島を覆ったのち、大きなキノコ雲のようなものを作り上げた。
残念ながら、ハイヴのモニュメントの破壊には至らなかった。だが、この一撃に対し、あるものは歓喜し、あるものは絶望し、あるものは深く悲しんだ。
無論、時雨も爆風から逃れることはできなかった。未知の領域の温度に対し、大型跳躍ユニットは耐えきれず、機能を停止してしまった。通常速度に戻ってしまった。それでも、十分な距離は稼げていた。背部がジリジリと焼けていったものの、何とか原形は保っていた。
そして、無事に洋上に出た。爆発による津波などは発生はしていないエリアに艦隊は停泊していた。もちろん、大隅改もそこにいた。しかし、XM1はこの期に及んで不調をきたし始めた。機体の制御が困難になっていたのだ。速やかに、演算処理が行われる。しかし、どうも上手いこと成立しなかった。さらに、洋上からロックオン警告がされた。
10:45 大隅改甲板上
トンカッチは99式中隊支援重火砲による狙撃を開始しようか迷っていた。バイタルモニター上では、村上は死亡だった。しかし、モニターに映る時雨は、村上の乗る管制ユニットを抱えている。この行動の心理が読めなかった。
なぜなら、勝手に制御を奪い、混乱に陥れたことに変わりはなかったからだ。現に、それにより、援護艦隊も誤射を仕掛けていた。本来なら、通信を入れて、誤射を避けるようにするものだったからだ。それを怠ったのだ。
「アイツは、どっちなんだ!?…何とか言って見せろよ、XM1!」
XM1を失った村雨は、最低限の行動しかできなくなっていた。しかし、狙撃はできる状態に持っていった。天候は、良好。風も無く、気温も1月としては暖かいほうだった。狙撃する状況としては、最高だった。恐らく外すことはない。マガジンから薬室に一発、装填した。
「…………頼む、来ないでくれ。来たら、撃つしかなくなる!」
そんな思いを踏みにじるように、時雨は接近してきた。速瀬が警告を入れる。
「大尉、もう迎撃可能限界線に近づいています!撃って!」
「黙れ!…撃つから黙っててくれ!」
戦術機にしては大口径の76mmが、時雨の管制ユニットめがけて放たれた、ように見えた。しかし、初弾は外れてしまった。まあ、威嚇射撃程度にはなる。しかし時雨は、速度を緩めなかった。
「……警告は、もう済んだ。次弾装填。目標、頭部。…………Fire!」
2発目は正確に時雨の頭部を吹き飛ばした。破片が、管制ユニットにも突き刺さっていた。しかし、少しよろけた程度で、歩みを止めない。なかなか止まらない時雨に対し、艦隊も対空砲弾を装填し始めた。急に暴走して被害を出されたら困る。対空砲が警告射撃を始めた。それでも、止まらない。そして、迎撃可能限界線に到達した。
「……許せ、村上!」
次は時雨の管制ユニットに対し、4発も射撃した。遅延信管のため、タイムラグが発生した。その時、奇妙なことが起きた。
時雨が、村上機を投げ飛ばしたのだ。それを、トンカッチは辛うじて受け止めた。距離にして200m。凄まじいパワーを見せつけた。そして、着弾地点が光り、管制ユニットが吹き飛んだ。うなだれるように機能を停止しながら、大隅改まで滑空しようとしていた。
「まだ、飛ぶつもりか!」
すぐに砲弾を薬室に入れ、再度補足した。それを、みちるが制止する。
「トンカッチ、もうやめろ!……アイツはもう、何もできない。そうでしょう?」
「しかし!…………いや、了解した。艦隊にも中止命令を!」
ロックオンを解除し、時雨を迎え入れれるように準備をした。すぐに、甲板に消防隊が出動して待機していた。そして、ふらふらと滑空しながら、時雨は膝から崩れ落ちるように着艦した。すぐに、消火が開始されたが、なかなか火が消えなかった。洋上艦隊からの援護放水もあり、1時間かけ消火に成功した。結局XM1は火災により、破壊されてしまっていた。しかし、その直前にあるメッセージを香月宛に送っていた。
…………宛 香月副司令 発 XM1
…………謝罪の念と共に、フィードバックデータを送信する
…………また、トンカッチと伊隅に対して、感謝と謝罪をする
…………SEE YOU AGAIN SOON
…………交信終了
2000/1/5 11:00
作戦司令部は甲21号作戦の作戦終了を宣言。極東国連、帝国の総力を動員しての戦闘ではあったが、作戦結果は失敗であった。艦隊は8割損傷、うち5割撃沈。戦術機部隊は、帰還率71%。第2機械化混成軍団と第4歩兵師団は9割が戦死した。まさに、地獄そのものであった。さらに、特殊爆弾により1年半は立ち入り禁止となった。戦果は、ハイヴ内の構造の把握や、戦術形態の改善程度だった。あまりにも、犠牲と釣り合っていなかった。
もちろん、国民感情は最悪のものとなった。
これにて甲21号作戦編は終了です。
少しネタバレになりますが、甲21号作戦はこれで終わりではありません。
以上
今回は友情出演組なし!