Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ! 作:tonkacchi
今回の話では第2話と第4話と第6話で触れた、トンカッチの過去にかかわる話を見直しておくといいかもしれませんな。
2000/5/27 8:00 エドワーズ基地内PX
この日、トンカッチはユウヤと合流した。前日にジェームズはイギリスへと出発していた。ユウヤは既に食事を済ませていたようだった。
「お、ユウヤ君待たせちゃったね」
「いえ、先に食事をとらせていただきましたので」
「そうかい。じゃあ俺もいただこうかな?」
トンカッチはアメリカ伝統の朝食、トーストにハッシュドポテトとベーコンとコーヒーのセットを選択した。なんだか懐かしい味がした。食事を手に取り席に戻る。
「さて、話って何だい?別に暇だからいいんだけどさ」
「実は自分は日系アメリカ人なんです。それで、今までどのように過ごされたのかをお聞きしたく思っていまして」
日系アメリカ人ということにユウヤはコンプレックスを抱いていた。そのため、同じ日系人で帝国軍にいたトンカッチに興味を抱いたのだ。
「ああ、そういうことね。OK、少し話は長くなるけど構わないかい?」
「ええ、今日は非番なので」
それからトンカッチは自分の過去を語り始めた。
1985/7/4 アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ エルカホン
11歳の夏。世間一般的には独立記念日として休暇となっていたり、みんなで遊んだりしている日だった。しかし、トンカッチはこの日に今まで過ごした家とアメリカを去ることになる。なぜなら両親が他界し、日本の遠い親戚の家に送られることとなったからだ。さらに条件として、日本帝国陸軍への編入が義務付けられていた。玄関を開けるとスーツを着た日本人が2人待っていた。片方はガタイのいい男で、もう片方は華奢な女だった。男がトンカッチを見ると同時に話しかける。
「君が
「…はい」
「よし、じゃあ車に乗ろうか。おい、空港まで送れ。」
男の方はここに残るようだ。女が車で空港まで送るらしい。家から近隣の空港であるサンディエゴ国際空港までは30分ほどだった。恐らくしばらく見ることのできないアメリカの街並みを目に焼き付ける。少ししてから女が話しかけてきた。
「トンカッチ君。…お父上の最期については知っているのかしら」
「………はい。父は訓練中の事故で死んだと父の戦友だという人が言っていました。ニュースにもなっていました」
「そう…………。実はね、そのことについて話さなければならない事があるの」
女は目に涙を浮かべながら語り始めた。
「その死んだ日付の時、あの人は中国戦線での戦闘で殿を務めていたの。訓練中なんかじゃない。作戦は日中米の三か国での大規模作戦だったんだけれど、結果としては失敗に終わったの」
11歳のトンカッチには理解しがたい言葉だらけだったが、何となく内容は入っては来ていた。
「私含め彼の部下は大勢生き残っていたけれど、補給が少なくなってだんだん苦しくなっていった。本当ならそこで全員死ぬまで死守する命令が出ていた。だけど、あなたのお父さんは仲間を助けるために軍規違反を犯した。私たちを守るためにね。」
トンカッチは全く意味が分からなかった。父さんが戦死だったとは。てっきり訓練で事故をしたのだと信じ切っていた。確かに葬式の時には死体がなかった。だが、機体が事故時に火災が起きて遺体ごと燃えたとすれば納得できる。そもそも軍規違反だったら、そのように公表すればいい。でもそうではなかったのだ。女はさらに続けた。
「私たちは急いで撤退した。部隊が集結して彼を助ける準備ができたのに、前線司令部はこれを良しとしなかった。結局、大佐は8時間も耐え抜き最後は自爆した。……これがお父上の本当の最期よ」
「じ、じゃあ何でみんな嘘をついているんですか!?父さんは立派に軍人として働いたんでしょ!?」
「そうよ、ええそうよ!?彼は立派な軍人としてその責務を全うした!………だけどね、上層部は軍規違反を優先した。規律ある米軍としてのイメージを損なわないようにするために揉み消しにしたのよ!」
気持ちの整理もつかぬままに、車は空港に到着した。女とはそこで別れた。トンカッチは用意されていたチャーター機に乗り込んで、親戚のいる日本帝国へと飛んだ。
日本に到着後すぐに親戚と思われる人物が迎えに来た。少し年の取った夫婦で優しい性格だった。しかし養父のほうが元帝国軍人ということもあり、しっかり基礎体力を身に染み込まされた。この時はまだ役に立つと思っていなかったが、1年半も続けていると見違えるようになった。その姿は11歳の少年の体格ではなかった。
1987/4/7 日本帝国 兵庫県宍粟市 宍粟訓練校
トンカッチはこの年、ついに親戚との約束となっていた帝国軍への編入となった。といってもゼロスタートでは意味がない。そのため訓練校からの参加となった。宍粟訓練校は若年層からの訓練に特化している特殊な訓練校だった。この訓練校に入るということは、将来は帝国の特戦隊に入隊することを暗示していた。実はここの訓練校の卒業はかなりハードルが高いものとなっている。なぜなら、卒業検定が『中華戦線で8分生存する』というものだった。通称『死の8分』よりも難易度は高いものだった。これを合格することにより、晴れて特戦隊になれる。表の第1連隊、裏の特戦隊と呼ばれるほどだ。
それほどまでに仕上げるためには、死と隣り合わせのレベルの訓練をする必要があった。まず入学早々に基礎体力訓練を死ぬほどやらされた。トンカッチは基礎訓練を1年半みっちり養父に鍛えてもらっていたこともあり、初等部門を首席で突破した。きつい訓練を乗り越えたおかげで、戦友と呼べるほどの友人が何人かできた。山本と島本だった。どちらもトンカッチを実力だけでなく性格の面でも認めており、互いに切磋琢磨しあっていた。彼らも上位突破者であったので、3人は特別に上等部門に飛び級となった。
上等部門では戦術についての座学が始まった。最初こそ全くわからなかったものの、稀にある実演により知識と見聞を広めた。それと並行して、戦術機の訓練が始まった。実際に運用されている撃震のシミュレーターからのスタートだったが、どうにもこれはうまくいかなかった。何度も車酔いのような症状に苦しめられ、機体操作もおぼつかなかった。この点では2人に大きく離されてしまった。
「なあ山本と島本、どうやったらあんなに上手く機体を動かせるんだ?」
「そうだな。トンカッチって剣道やったことあるか?俺と島本なら昔からやってたんだが」
「剣道?それは基礎訓練でやってるから当たり前だろ?」
「いや、あれは厳密には剣道じゃないんだ。あれは体の動かし方を覚えるための技術だ。だけど俺たちのやってた剣道は戦術機の動きと共通しているところがある」
「まあ、山本の家は元々剣道の家系だったもんな。トンカッチにも分かりやすく言えば、人馬一体というやつだ」
島本はトンカッチに分かりやすく人馬一体について説明した。元の言語の意味は『人と馬が心身ともに一体化している状態で、一緒に活動を行う際に重要な要素』といった意味がある。それを彼らは戦術機に転用しているというわけだ。
「だから、今度から自主練で俺たちと剣道やらね?」
「いいのか?」
「構わねえよ!だって俺たち、親友だろ!?」
「しっかり教え込んでやるから覚悟しとけよ!?」
「……ああ、よろしく頼むよ。二人とも!」
それからは着実に練度が上がっていった。徐々に練度が上がっていくのを感じた。人馬一体を覚えてからは上級生相手にも引けを取らないぐらいのレベルで立ち回れるようになった。流石に教官や正規兵には勝てる希望すら見えなかった。座学もそれに伴って内容が実戦的になっていく。この間は歩兵装備での制圧訓練を行った。もはや座学ではなかった。いくら訓練を積んでいるとはいえ、結局は子供だった。計画したプランは早々に見抜かれ、強行突破は体格差で止められた。
「教官たちとの体格差を埋めるための戦術がどうにも刺さらねえよな!いつになったら勝てるのやら」
「おい山本、それくらいにしとけよ。……トンカッチのことも考えてやれ」
「あ、ごめん。そういうつもりはなかったんだって!」
「いや、俺の戦術ミスだった。否定するつもりはないさ」
「じゃあさ、寝る前にもう一度だけ練り直そうぜ?例えば最初の砲撃支援の位置とかさ…………」
彼らは常に3人で動いていた。どんな時も3人でいればきっと上手くいく。呪いじみたものさえ感じていた。何度も何度も失敗を繰り返し、それを対策して成功を見つけていった。そうして数年が経った。
1988/11/10 中華戦線第101仮設戦術機格納庫
この日はついに卒業検定の日となった。この間に何度も落第をしかけてきたものの、必死にしがみついてこの場所まで来た。最初は40人ほどいた訓練生はその数を5人にまで減らしていた。さらに今回の卒業検定に参加するのはトンカッチと山本、島本の3人組だった。
既に前線では戦闘が始まっていた。彼らは作戦概要を聞かされた後に撃震で出撃した。作戦としては、『前線維持』のたった一言のみだった。無線では実戦の叫びが響いていた。どうやら戦局は芳しくないようだった。前線は予定より2㎞後退しており、被害も甚大なものとなっていた。このままでは戦線は瓦解し始める。前線将兵は少しでも数を欲していた。それが学徒兵でもだった。
前線までしばらくかかる。飛行中のトンカッチたち3人に教官が話しかける。実は教官の機体も同行していた。本来なら後方からの無線指示のみだったが、戦況はそれを許していなかった。
「よし、3人とも。一応だが貴様ら3人は101A分隊となった。そのリーダーはトンカッチ、貴様がやるんだ。出来るな?」
「もちろんです、教官殿!」
トンカッチは教官から隊長権限を受領した。セットアップを少ししていると戦場に到着した。辺り一帯で火災が発生しており、少しでも目を離せば撃墜される世界だと直感した。目の前にいたF-4から通信が入る。
「てめえらが
「了解!101A、行くぞ!」
『了解!』
初めての実戦は明らかに異質だった。何というか空気感が違っていた。緊迫しているとか悲惨だとかそういったものより、狂気が戦場を支配していたのだった。それでも平静さを3人は何とか保っていた。
「島本、右方向警戒!要撃級近いぞ!」
「やってるって!畜生、数が多い!」
「大丈夫だ島本、山本!訓練通りやれば行ける!現に俺たちのエリアは持ちこたえている!」
「そ、そうだな!よし、俺たちなら行けるぞ!」
101A分隊は横一列に並び、BETAに対して壁になるように布陣していた。36㎜の劣化ウランがBETAに突き刺さる。弾薬の補給はすぐ後ろにあるコンテナで行う。101Aは順調に攻撃を行っていた。少しして、島本機の弾薬がゼロになった。
「トンカッチ、弾切れになった!補給したいんだけどさ!?」
「…………良し、補給今!30秒で弾薬補充してくれ!」
「了か……おい2人とも、何だこの音は!?」
島本はすぐにデータベースから探す。何件かHITし、最有力候補はBETAの地下移動音だった。そして島本のコンテナの真横から突撃級が出現した。
「島本!回避しろ!」
「了解!」
すぐに回避機動に移行する。間一髪、突進は食らわずに済んだ。だが、マップには包囲するようにBETAの表示が出ていた。管制ユニット内右側には、目標時間であった8分までのカウントダウンタイマーがあった。時間は残り2分だった。何とか耐えていたが流石に後退しなければならない。
「致し方なしか!…全機、防衛線を200m後退させる。そこで奴らを迎え撃つ!」
『応!』
部隊を引き始めさせると教官から通信が入った。
「ち、畜生!トンカッチぃ、今どこだぁ!?」
「教官殿!?どうかされましたか!?」
「クソどもに機体の半分を喰われてる!畜生、痛え!くそったれ!」
教官は他の味方機の殿を務めていた。そのため孤立してしまったのだ。バイタルモニターには腹部出血との表示が出ていた。
「教官!今助けに行きます!
トンカッチはすぐに救援に行こうとした。それは101A全員が思っていたことだった。しかし、教官は怒鳴りながら応答した。
「馬鹿野郎!救援に来いと誰が言ったか!今の報告はただの現状報告だ!…どのみち長くはもたん。腹がやられてる。」
「しかし!」
「しかしもクソもねえよ!黙って今いるポジションを維持しろ!…だから最後に伝えといてやる」
教官は吐血しながら何かを操作していた。ベイルアウトにしては操作が長い。ここでトンカッチはある可能性に気づいた。
「まさか…教官、自爆はダメです!あきらめないでください!」
「……最後の教練だ。貴様らは恐らく特戦隊になる。だったらな、戦友を見捨てる覚悟を常に持て!…………じゃあな、てめえら。…お前らは、卒業検定合格だ」
そう言って教官は辺り一帯のBETAとともに自爆を敢行した。
過去編はもう少し続きます。今回は教官の自爆で終わり!