Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ!   作:tonkacchi

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今回からは日常回になります
がんばります
この小説は何とかして2024/10/13までには綺麗にまとめたいです


間章 冬休み
第36話 聖夜よ、奇跡を起こせ


 2000/12/24

 

 世間ではクリスマスイブだ。BETAの侵攻も最近はわずかなものとなっていた。仮に発生しても、小規模のもので即対応可能だった。例によって横浜基地内でもクリスマスパーティーの準備が進められていた。25日は基地祭という扱いで、基地内に一般の人も入ることができる。そのため、基地内でも準備に勤しんでいた。無論A-01も久しぶりに全員で集まってその準備を進めていた。彼らは前夜祭を行うことにした。だが、その場にトンカッチとみちるはいなかった。

 

 

 16:00 副指令室

 

 トンカッチは香月に呼ばれ、部屋に入った。香月にしてはやけに重苦しい顔だった。

 

「伊隅に関しては気の毒だったわね。ああ、あなたも伊隅性に変えたのよね。まあ、トンカッチのほうが呼びやすいからいいか」

「…御託はいい、さっさと用件だけ述べてください」

 

 用件は未確認個体についてだった。名称は「司令(コマンダー)級」とされた。爆破の影響でほぼ原形はとどめていなかったが、コンピュータ解析と戦闘データから概形が復元されていた。体の形は戦車級そのものだったが、頭部が変わっている。光線級と同様の目玉を有しており、背中からは4本の触手が生えていた。ほかのBETAの同様、採掘型としての機能を実は有していた。この触手により、他のBETAの行動を制御するというのが本来の目的だそうだ。といっても、司令級に頭脳というほどのものがあるかは不明だった。予想では他の上位個体が司令級を統括しているらしい。用件はそれだけだった。そして、トンカッチにみちるへの見舞いの品を渡した。

 

「私からは以上よ。何もなければ伊隅のところに行ってやりなさい。…一人にさせるわけにはいかないでしょうに」

「分かっていますよ。…………それでは失礼します」

 

 トンカッチはすぐに病院へと向かった。

 

 病室にはトンカッチとみちるの二人だけがいた。この場を邪魔するものは何一つなかった。あれから容体は回復せず、未だに目を覚ましていない。医者が言うには、目を覚まさなければわからないが記憶喪失・混濁の状況下の可能性が高いそうだ。

 

 しばらく眺めたのち、トンカッチは病室を出た。

 

 18:00 ミーティングルーム

 

 クリスマスパーティー前夜祭が開幕された。メンバーはA-01Aの他にも、香月副司令や他の国連軍部隊の他に在日米軍のメンバーも多くいた。準備で疲れ果てた体に、酒や肉をたらふく注ぎ込む。会場は狂喜乱舞となっていた。みんなが謎に催し物を始めだした。A-01Aは準備でもしていたのか謎のダンスを踊り始めた。特に驚いたのが、宗像と風間のペアがとても天才的な動きだったことだ。美しい動きで周りを驚かせていた。

 

「いいですよ~速瀬中尉!」

「いや~中尉殿も機体は踊らせても生身は無理なようですなぁ!?」

 

 逆に速瀬は絶望的なセンスを見せつけ、逆に場を盛り上げていた。

 

 A-01Bは炊事を担当していた。もちは寿司や肉じゃがなどの日本料理を、ヱルムとクリスカはシチーとビーフストロガノフを作っていた。どちらも軍人が作ったとは思えない美味さで、会場の人間は舌鼓を打ったものだ。だが1番人気だったのが、サンダーク中尉特製のポジャルスキー・カツレツだった。合成食材にもかかわらず、この旨味を再現できたのはもはや神の御業とも言えるだろう。次々と料理が消えていく。

 

 だが、ジェームズのエリアはひときわ違っていた。一向に料理が減らないのだ。というか誰も手を付けない。その理由としては、クソマズ飯として有名なイギリス料理を振舞おうというのだ。隣には料理上手な恭子がいたが、それでも全員が警戒した。何でわざわざパーティーで不味い飯を食わなきゃいけないのかと。極めつけに、実際に作られたものはフィッシュアンドチップスだった。参加者の顔がさらに曇っていく。しかし、ジェームズの顔は自信に満ち溢れていた。とりあえずの毒見役を用意しなければならない。最終的にビルストが食うこととなった。

 

「おいおい、やっぱり俺はこういう役なのか?………神の御加護を、といったところか」

 

 ビルストは死を覚悟しながら嫌々食べてみた。その結果は…………驚くべき美味さだった。イギリス人はどうも魚の臭みを抜かないらしい。また、揚げるための油も酷い。とにかく料理の下処理が酷いのだ。だがこれは、しっかりしていた。その理由としては、隣に立っていた恭子にあった。実は、つい最近までジェームズは恭子から料理の修業をさせられていた。

 

 というのも、しばらく同棲をすることになった二人は普段は恭子が料理を作っていた。だが、ジェームズが最近1回だけ作ったのだ。それがあまりにも酷い出来だったので修行をさせられることとなった。今回のフィッシュアンドチップスはその成果が出たということだ。

 

 料理の美味さに気づいた全員が殺到する。他のエリアの食事も大方食いつくされた。会場のボルテージも最高潮に達していた。パーティーは夜遅くまで続いていた。25日の夜中1時を回ったところで、ようやくお開きの兆しが見え始めた。その頃になってようやくトンカッチはパーティー会場に来た。

 

「あれは、トンカッチ大尉じゃないか!?」

「おいおいおいおい、今更来たのかよ?もうお開きだぜ?」

 

 A-01A以外のメンバーは事情を知らなかったので、トンカッチがてっきり道草でも食っていたのではと茶化していた。中には、みちるがいないことを疑問視する者もいた。実は、彼らには大邱での話が伝えられていなかった。というのも、香月がA-01Aに箝口令を敷いていたのだ。あの出来事を知っているのは、大邱防衛部隊のみだったのだ。そのためA-01Aは全ての事情を知っているので、周りを納めようとした。適当に病欠だと言ってごまかしていたが、騒動は止まらなかった。そこで、トンカッチが動いた。

 

「おいおい、俺の愛しい嫁さんはちょっと風邪ひいちまったんだよ。多分明日までには回復するだろうから、まあ楽しみに待っててくれ!」

 

 それを受けて別の参加者が応える。

 

「こいつはいい!ラブラブ伊隅家待ってますからね!?」

「ははっ、期待して待っとけ~!?」

 

 ニコニコ笑顔で振舞ったつもりではあったが、どうにも顔が引きつっていたのか周りがキョトンとした顔をしていた。それを見て、ヱルムが話しかけてくる。

 

「どうしたんだ、トンカッチ?怖い顔して、そんなにさっきの冗談が気に入らなかったのか?」

「ん?そんなに怖かったか~?ま、気にするな!さ、ここからが二次会だろぉ?酒くれよ、とびっきりに強いやつ頼むよ?」

 

 普段トンカッチは、ここまでごまかした話し方はしなかった。そのため、全員が不思議に思った。その視線を振り払うように、トンカッチはウォッカを原液で飲んだ。一気に視界がぼやけるような感覚がした。今はこのままでいたい。ただならぬ気配を感じ取った参加者一行は、そそくさと会場から退避していった。会場に残ったのはA-01のメンバーのみだった。

 

 速瀬はトンカッチに対し、A-01Bには事の顛末を伝えてもいいのではないかと示唆した。だが、トンカッチは断った。そして、軽く注意した。

 

「おい速瀬、止めろ。いいか、俺は止めろと言った。これ以上は言わないから、お前らもさっさと帰った方がいい。片付けは俺がやっておくからよ」

 

 そうしてトンカッチは一人酒をしながら片づけを始めた。

 

 

 12/25 10:00 基地祭当日

 

 クリスマス基地祭が開幕し、一般市民が基地に多数来場した。基地祭ということもあり、全員が張り切って屋台を出したり体験ブースを開催していた。中には戦術機の体験搭乗まであった。香月にいたっては、BETAのはく製まで展示する始末だった。基地にはこの日のために、多種多様な戦術機や兵器が集められていた。中でも異彩を放っていたのは、村雨・壱型丙だろう。なぜなら、損傷状態をそのままにしていたままの展示だったからだ。展示と言っても、だいぶ離れた位置から見える程度ではあったが。

 

 両碗は肩部を無くしており、左主脚は喪失、頭部のセンサーマストも右側が破壊されていた。一応ではあるが、何かしらの支えがあれば機体は動かすことはできる。だが機体各所がボロボロのこの機体は、BETAとの戦闘がいかに凄まじいものであるかを伝えるのに十分だった。

 

 ちなみに村雨は現状予備パーツがなく、生産待ちだった。そのため、応急改修プランが検討され始めていた。と言っても、現存する機体のパーツのつぎはぎとなる。その形態は特段命名されることもないが、仮称として村雨・(かい)と呼ばれているそうだ。もっぱら馬鹿にした言い方ではある。改と壊をかけているんだろうが、全く面白くもない冗談だった。各パーツにはリミッターを設ける措置で機体を調整しているため、性能が大幅に劣化するそうだ。まだ戦えるだけマシではあったが。

 

 

 12:00

 

 会場の人々が屋台飯を食べている最中、機体格納庫から展示中の戦術機が起動した。全機のバイザーが発光する。跳躍ユニットのエンジンの音が徐々に高く唸り始める。その機体群は次々と滑走路に出ていく。最初はF-4やMiG-21などの第1世代機が多数発進し、2個中隊規模での編隊飛行を行った。スモークを駆使し、快晴の冬空にアートを描き上げていく。ただ飛行するだけでなく、難易度が高い機動も取っていた。その姿は第1世代を感じさせないものだった。

 

 続いてF-15EとSu-27SMによる模擬空戦が行われた。3vs3の構図だった。開幕早々は攪乱戦術により、F-15Eが1機撃墜されてしまった。それに劣ることなく、砲撃戦を十八番とするF-15Eは制圧射撃によりSu-27SMを追い詰め、確実に1機を撃破した。途中、戦闘中に空中衝突しお互いに1機ずつ撃破判定となった。そして、最後には一騎打ちとなった。F-15Eは短刀を取り出し、Su-27SMはモーターブレードを起動した。射撃戦を得意としているF-15Eは圧倒的に不利だったが、善戦していた。そして、ついに短刀が折れた。

 

「短刀如きで格闘戦を挑もうとなど!」

 

 Su-27SMのモーターブレードの先端がF-15Eの胸部をとらえたはずだった。だが、機体に鈍い衝撃が走るとともに撃墜判定を食らった。撃破理由は機体胸部に対しての致命的損傷だった。F-15Eは急降下をし、すぐに2本目の短刀を引き抜いた。といっても機体にかかるGは半端なものではなかった。そのため、F-15Eは徐々に高度を落としていった。ブラックアウトだった。もう少しで落下事故を起こす寸前で、待機していた1機が飛び出して救出した。この救出劇を見た観客は歓喜した。

 

 飛び出した機体は、まさかのYF-22Xだった。本来なら後2個先の演目で出撃するために、倉庫裏で待機していたのだ。だが、危険と判断し緊急出撃したのだ。この機体は国連に供与された唯一のYF-22Xだった。国連軍カラーに塗装されており、黒色からUNカラーとして使われている青色系統に変わっていた。

 

 そして、第3演目に移った。第3演目ではA-01A対A-01Bの大規模模擬戦闘だった。残念ながらトンカッチは戦闘に参加していなかった。A部隊は速瀬が、B部隊はジェームズが指揮を執っていた。本来なら滅多にメディアや一般に露出することはなかったA-01だったが、部隊名は伏せて演目に参加していた。公的に出るときは国連軍横浜第1戦闘大隊『ヴァルキリーズ』として活動することになった。

 

 そして、戦闘が開始された。まず、お互いに様子を伺いつつ陣形を整える。

 

「おい、ジェームズ。今日のA部隊の動きがどうにも悪い。さっさと仕留めちまおう!」

「いいや、今日は演習だ。まず、しっかりと陣形を整えてから徹底的に叩きのめす。そして、完全勝利(パーフェクトゲーム)だ!」

 

 恭子、クリスカ、ヱルムは左翼。ジェームズとビルストは正面、右翼には誰も入らなかった。背面を駒木と如月に任せられた。右翼を開放していたのは、A部隊は自然と右側に退避していくことになるのを目論んでいた。そして、もちとサンダークは()()()()()()()()()()()()()にいた。この位置はいつでも右翼に差し込めるポジションだった。強襲としての役割になるので、特に戦闘慣れしている衛士が必要だった。

 

 そして、全ての準備が整った。

 

「よし、全機散開!作戦開始だ、一機も残らず食い散らせ!」

『了解!』

 

 A部隊は数で劣っていたが、機体性能では明らかに上回っていた。そして、実戦経験ではB部隊の比ではなかった。そのため、B部隊が何をしようとしているかも理解していた。

 

「速瀬隊長、どうしますか!?」

「やめてよ宗像、その隊長呼び。何か本当に消えちゃったみたいで縁起が悪い」

「まあまあ二人とも、雑談する余裕はなさそうですよ?」

 

 気づいたらA部隊は包囲されていた。既に術中にはまったというわけだった。だが、これもA部隊の計算の内だった。

 

「じゃあ、今日だけは隊長になりますか。よーし、全機で()()に行くわよ!」

『了解!』

 

 A部隊は右翼に殺到した。

 

「サンダーク中尉、これまずくないっすか!?」

「そうだな、我々だけで相手にできるとは思えない。だが、時間稼ぎが主目的だ」

「なら、行けるか!」

 

 もちとサンダークは、必死に牽制弾幕を張る。1機で3機を一旦相手にしなければならない。1分1秒でも長く持たせればいい。だが、予想よりも早く突破されてしまった。

 

「畜生やられた!ジェームズ、こっちはもう突破されちまったぞ!?」

 

 予想より早くA部隊は突破していた。そして、一気に散開していった。だが、僅かに涼宮の機体が遅れていた。それを見逃すわけがなかった。距離を縮めていき撃墜した。追いつかれることを理解し、A部隊は反転攻勢に回った。しかし、数で劣っている以上なかなかうまく立ち回れない。そして、柏木も交差時に被弾し、そのまま撃墜された。風間と宗像が2機連携(エレメント)でビルストを撃墜しようとした。戦闘不能にはしたが、撃墜には至らなかった。そして、ビルストの得意技を発動させる。

 

「きたきたきたぁ!データ上とはいえ、しっかりと煙まで出る特殊仕様だこの野郎!」

 

 ビルストは腰部からS-11mod2を取り出し、空中に放り投げ、起爆させた。

 

 その爆炎に風間と宗像が巻き込まれた。これにより、致命的打撃を受けた2人は戦線を離脱した。戦場に残されたのは、速瀬ただ1人だった。仕方なくリミッターを解除することにより、本来以上の性能を引き出すことに成功した。一撃離脱の構えでB部隊に立ち向かう。急降下と急上昇による攪乱機動により、ジェームズの機体に致命的なダメージを与えた。これにより、B部隊は指揮官を失うことになったが、すぐにサンダークが引き継いだ。

 

 一方の速瀬はG負荷に必死に耐えていた。急降下によって得た運動エネルギーを用いて、次の機体に襲い掛かる。だが、サンダークは既に手を打っていた。運動エネルギーでは補いきれないほどの高度にB部隊は退避していた。

 

 そしてサンダークの合図の後、猟犬のごとくB部隊は速瀬に殺到する。

 

「あちゃ~、これはヤバそう!?」

 

 速瀬は必死に回避するが、最後のサンダークのSu-37はモーターブレードは避けれなかった。それなりのダメージは負ってしまった。その時、地上ではある男が機会をうかがっていた。

 

「…………全く、世話の焼ける奴だ」

 

 地上から何かしらの機体が発進したのを、地上にいた観客が観測した。

 

「チェックメイトだな、速瀬中尉」

 

 サンダークはモーターブレードを振りかぶった勢いそのままの回転エネルギーで斬りかかろうとする。だが、下からのロックオン警告に気づき、すぐに距離を置いた。

 

 誰がロックオンをしたのか、すぐに分かった。機体コードは、村雨・壱型丙だった。

 

「えらく遅い登場ですな、大尉」

 

 トンカッチの乗ったボロボロの村雨・壱型丙は急上昇をし、全員の上を取った。機体の制御は、ほぼ跳躍ユニットのみで行っている。だが、これもトンカッチにとっては懐かしいものだった。78部隊でも似たシチュエーションはあった。それと何ら変わりない。トンカッチは速瀬と合流をする。

 

「速瀬、まだ死んでいないらしいな?」

「大尉!?その機体は使えないんじゃ?」

「無理やり動かすのは、俺の得意技だ。いいから、全員ぶっ潰して終わらせるぞ!」

「了解!」

 

 そうして、トンカッチと速瀬はB部隊を殲滅した。とは言え、その戦果のほとんどはトンカッチによるものだったが。ボロボロからさらにオンボロになった村雨を速瀬が抱えながら着陸する。A-01の模擬戦終わりには会場のボルテージは大盛り上がりだった。

 

 その勢いそのままで、YF-22Xがアクロバット飛行を開始した。追従機には他の横浜基地所属機がいた。つまり、この基地祭も終わりに差し掛かっているということだ。そして16:00をもって、ついに横浜基地クリスマス基地祭は閉幕した。

 

 

 19:00 基地内PX

 

 PXでは後夜祭と称して片付けが始まった。全員が片付ける中で、トンカッチはやはり心ここにあらずというった状態だった。たまたまそれを見かけた恭子は話しかけに行く。

 

「あの、大丈夫ですかトンカッチ大尉?」

「…うぇっ!?ああなんだ、崇宰大尉か。いや、ちょっと気がかりなことがありましてね。まあ気にするほどでもないんですが」

「差し支えなければですが………みちる大尉のことですか?」

 

 ドンピシャだった。どうやらB部隊の連中も薄々ではあるが、感づいてはいるらしい。とりあえず入院中だということだけは伝えておいた。それを聞いた恭子は何かを察したようだ。彼女はトンカッチに今すぐに病院に行くように言った。それを受けてトンカッチは病院へと向かった。

 

 恭子はその背中に願いを込めてこう言った。

 

「…………神よ、彼らに祝福を。彼らに奇跡を与えたまえ」

 

 

 22:00 病院

 

 夜も遅くなり、どこも静まり返っていた。基地も例外でなく、6割近くの建物は消灯していた。病院もそのほとんどが暗くなっている。みちるのいる部屋は12階の一番奥だった。昼間とは打って変わって廊下がとても暗く、正直言って薄気味悪い。非常灯が赤く照らしている。何か幽霊とかの怪奇現象でも起きそうだ。トンカッチは幽霊のような怪奇現象がとても苦手だった。少しビビりながら部屋に入った。角部屋だが、南側だったが雲が月を隠していた。相変わらず、みちるは寝たままだった。

 

「……まあ、そんなに簡単に治るわけないわな」

 

 トンカッチはクリスマスプレゼントと称して、袋に色々詰めたものを置いておいた。もし起きたら、サンタクロースでも来たと錯覚するだろうと思っての選択だった。しばらく動かないままの彼女を見つめる。

 

 思えば付き合い始めたのが去年の6月。あの時は、急に告白なんてされて正直困惑したままOKしてしまった。だが、付き合う間にどんどん彼女の魅力に気づき、引き込まれていった。そして、先月には結婚までした。

 

 伊隅家にあいさつしに行ったときには、緊張しすぎて頭が真っ白になってしまっていた。酷いことに気絶してしまい、気づけば義姉のやよいの膝枕で寝ていた。その時のみちるの鬼のような顔は今でも忘れられない。

 

 朝鮮半島に向かう前に、トンカッチはある約束をしていた。それは、新婚旅行へ行くというものだった。そのためには、BETAの脅威を取りのぞかなければならない。現状としては、帝国は佐渡島ハイヴを抱えており、朝鮮半島にも鉄原ハイヴがある。帝国本土内のBETAは掃討されてはいるものの、佐渡島からは定期的に旅団規模が上陸していた。しばらくは行けそうにはない。だが、いつかは行けるだろうという希望の元で戦っていた。

 

 だが、約束を誓ったもう一人は、未だに眠ったままだった。起きるかどうかは分からない。それでも諦めるわけにはいかなかった。今までだってそうだった。諦めなかったからこそ、今ここに生きて大地に立っている。

 

 とはいえ、もう遅い時間だった。そろそろ()()()()()()が始まるころだ。例のイベントとは、特殊塗装された戦術機1個小隊が夜の上空を飛ぶというものだった。カラーリングはサンタクロースそのものだった。トンカッチもその編成に組み込まれていた。機体こそ撃震ではあったが、久しぶりの夜の空を少し楽しみにしていた。しかし、のんびりしすぎたために予定の時刻に間に合いそうになかった。すぐに格納庫に間に合いそうにないことを連絡をする。

 

「了解です、大尉。ですが、大尉はフライト予定でしたっけ?大尉のおっしゃている機体には崇宰大尉が乗ることとなっていますが」

 

 どうやらこうなることを恭子は見越していたようだ。

 

「………本当によく察しが利くお方だ」

 

 だがせめて見届けには行かなければ。みちるの額に口づけをして、病室を離れようとドアに手を掛けた。

 

 その時、後ろで何か音がした。何かが動く音だった。

 

「………何だ!?」

 

 ついに幽霊でも出たのではないかと驚き、つい腰の拳銃に手を掛けていた。しかし、音の正体は驚くべきものだった。

 

 トンカッチが振り向くと、みちるが起き上がっていた。何が起きたのか分からなそうな顔だったが、とにかく起きていた。

 

 すぐに医者を呼んだ。彼女を混乱させないように慎重に話しかける。何かを彼女は話そうとしていた。だが、覚醒したばかりだからか呂律が回っていなかった。そのため話しかけるのは止めて、そっと手を握ることにした。

 

「大丈夫だ、大丈夫だから。………そうだ、ゆっくりでいい。落ち着いてから話してくれ」

 

 すぐに医者が病室に入ってくる。いくつかの質問をみちるにしていた。記憶喪失の可能性を診断しているそうだ。トンカッチは緊張していた。この結果次第で今後の彼女が変わってしまうのだ。そして、医者がトンカッチにメモを渡して病室を出ていった。

 

 内容には、質問の内容とその回答だった。質問者と回答者の言ったことが一言一句違わずまとめられているそうだ。

 

 

 

質問1:自分の名前は?

A.伊隅みちる。それくらいは覚えている。

 

質問2:所属は?

A.A-01A部隊。横浜基地を拠点にしている。

 

質問3:直近で覚えていることは

A.目の前が光ったところまでは覚えている。死にかけた。何なら死んだと思った。

 

質問4:伊隅トンカッチという名前に覚えは?

A.トンカッチは私の夫だ。馬鹿にするのも大概にしろ。

 

質問5:記憶喪失の自覚は?

A.あるわけない。そもそもあったら今までの質問が全部破綻するだろ。いい加減にしろ。

 

 以上の質問結果より検査の必要があることを前提とし、伊隅みちるに記憶喪失並びに混濁状態にあることは確認できない。

 

 

 

 このように書かれていた。そして、みちるがトンカッチを手招きした。

 

「……久しぶりね、トンカッチ」

 

 少し弱ってこそいたが、間違いなくこの間まで共に過ごしたみちるそのものだった。思わずトンカッチは彼女を抱きしめていた。

 

「ちょっと、急に抱き着かないでよ!恥ずかしいじゃない!?」

「ああ、良かった!………本当によかった!」

「もう………珍しく泣いちゃって」

 

 トンカッチは思わず号泣していた。ひどく泣きじゃくっていた。それを、みちるは優しく抱きしめ返す。

 

「ねえ、トンカッチ。私はずっと夢の中にいたの。そこでも何かに襲われて死にかけていた。だけどね、私は諦めなかった。だって、トンカッチなら来てくれるって信じていたから。あなたは?」

「俺もだ……俺も君を、諦めずに待ち続けていたよ」

 

 聖夜の軌跡が雲を散らし、祝福と月の明かりが二人を煌々と照らしていた。さらに、それに重なるように戦術機(サンタクロース)が悠々と飛んでいた。




本来の予定ならみちるは記憶喪失になる予定でした。
だけど、だけど俺の精神が持たねえよ!

という作者都合によりハッピーな方向にしてみました()
今回はかなり1話あたりが長くなってしまいましたがどうでしたか?
私にもよくわかりませんw

次の回は軽めの日常回をやります。
それ終わったらまた戦争だよ!

ただ、多分きっとmaybeで時間が一気に飛ぶ可能性があります。
時間軸がどうなっているかをちゃんとチェックしておいてください。

ちなみに瑛都大尉は富士教導団に帰りました。おつかれ~

以上、クソ長後書きでした。



今回の友情出演組です。(敬称略)

ヱルム・ビャーチェノワ(@ElM_Su37UB)
もち(@mochi02913)
ジェームズ・スミス(@Lt_smithFFR41mr)
ビルストと戦術機好きの男(@Yuki90300757993)
如月中尉(@KSRG_TSF94)
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