Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ! 作:tonkacchi
4:00 帝都城前
「権田
そう言われて権田は手元の原稿を見ながら放送を開始した。
「現在放送を聞いている諸君。私は、権田直樹である。…今回の首謀者だ」
まず目的を話し始めた。目的は政府転覆並びに掌握だった。現状の政府は将軍殿下の存在と、前線の兵士をもないがしろにしているのだ。つまり、彼らにとっては国民はチェスの駒の一つに過ぎないと。そう訴えかけた。
その後他のことも話し終えた。最終要求は、政権全権を殿下に戻し、執政権を権田たち帝国軍クーデター派に渡すといったものだった。このシナリオは全て斑鳩が仕組んだ通りで、権田としては帝国に復讐ができればそれでよかった。正直言って、このような宣誓などどうでもよく、さっさと抵抗してくる奴らを殺したかった。
だが、斑鳩は18:00まで政府代表からの回答を待つように連絡をした。彼曰く、この時間までに殿下の身柄の確認だけはしておきたいそうだ。また、なるべく血を流したくないそうだ。それでも戦闘は回避できないそうだ。
「隊長、あの斑鳩という男ですがどうにも信用できませんな」
「まあそうだな。ただ今我々に復讐の機会を与えてくれたのは奴だ。ここはひとつ奴の機体に応えてやろうじゃないか?」
権田は帝都城に背を向け直立していた自らの乗機『朧改』を見ていた。
原型機の朧は不知火ATSF装備の原案となったものだ。機体性能は試験機のため極限まで高められている。それは初期の村雨と同等だった。だが、試験機ゆえの欠陥もあった。まず、ステルス性能はアクティブ・ステルスしかない。さらに、必要電力が多大なものとなっていた。燃費も非常に悪く、機体稼働時間が短時間だった。
改型の権田の機体はその弱点を克服するべく、外部にバッテリーパックを追加装備し燃料制御プログラムを最新型に更新していた。また、エンジンも米国製の最新型だった。これにより重量は増加したが、それを無理やり制御するために追加スラスターを増設した。完全には克服はできていないが、ある程度マシにはなった。
そんな朧改は、灰と黒の都市迷彩を施されて、帝都城の前に立っていた。
12:00 横浜基地
A-01然り国連軍は未だに出撃許可が下りていなかった。対抗できる戦力としては最大の基地でありながら沈黙を続けざるを得なかった。というのも、国連軍が帝国の政治にかかわることを介入してしまえば越権行為となる。
しかしこの時間になって、クーデター部隊が横浜基地を包囲した。さらに、全施設に対してレーダーロックをした。国連軍にとっての直接的被害に値する。この行動により、国連軍は参戦可能となった。
『総員、第一種戦闘配置』
基地内にこの警報が発令された。A-01も出動命令が下された。だが、戦闘は回答期限まで停戦されていた。そのため、出撃こそしたものの滑走路待機だった。
みちるは5・15事件を思い出していた。あの時は、この基地内にて戦闘をして最後は米軍の介入で終わった。今回も米軍などの第3勢力の介入を考えた。だが諜報部員の調査結果、CIAに動きがみられなかった。せいぜい援軍として在日米軍が来る程度だろう。
「ねえトンカッチはどう思う?」
「…………」
「…トンカッチ?」
トンカッチはみちるの問いかけに気づかないほどに考え込んでいた。
奴が生きていた。この事実はトンカッチを混乱させるのには十分だった。
「あいつは死んだはずなのに、あいつは生きていてはいけないのに…なぜ貴様はそこにいる、権田ぁ!」
17:00 帝都城前
遅ればせながら鎮圧部隊の帝国軍ならびに斯衛軍がクーデター部隊を包囲した。この部隊に帝都第1守備連隊もいた。
「………なあ駒木、俺たちはもう大義名分は持ってるんだしさ、さっさと交戦してもいいんじゃねえの?」
「如月、あなたねぇ…こっちから仕掛けてみたらどうなるかわかるでしょう?現在休戦状態にあるのにこっちから攻撃したら、大義は向こうに移るわよ?」
「けどさぁ…」
待機中の如月と駒木は暇つぶしがてらそのような雑談をしていた。彼らの所属していた第1守備連隊第1大隊はにらめっこしているわけではなく、少し後方で即応体制での待機だった。にらめっこの役は第2大隊だった。
「如月、駒木、二人ともそろそろ警戒態勢に戻って来い。…奴らが動くぞ」
「ええ動く!?本当ですか沙霧大尉!」
「ああ、………できれば交戦は避けたかったがな」
沙霧は5・15事件の際に投獄されていたが、貴重な人材を懲罰部隊で腐らせるのももったいないと上層部が判断した。そのため、釈放されて原隊復帰し、第1連隊第1大隊の大隊長になっていた。
沙霧たち第1連隊の戦術機は全機が不知火甲型・弐式になっていた。弐式は甲型のマイナーチェンジだったが、主に燃費が良くなり、機体反応速度が上昇していた。そのため、少々ピーキーになっていた。だが、精鋭しかいない第1連隊しか使っていないため問題なかった。
沙霧はカメラの倍率を上げて、前方の状況を確認した。彼らの下には歩兵が銃を肩に下げて待機していた。しかし、沙霧はそこには注目していなかった。見ていたのは、その後ろに隠れていた土嚢だった。
一見すると何もないように見えるが、少しだけ
「第2大隊、土嚢の裏に対戦車ミサイルを確認した。射撃されても応射するな。これも我慢比べになるからな」
それから2分後についにしびれを切らしたのか、クーデター兵がミサイルを発射した。警戒していたこともあり、第2大隊は回避に成功した。これにより、鎮圧部隊側がいつ発砲しても文句を言えない状況になった。
そして、鎮圧部隊側が応射した。発射元の土嚢を突撃砲で破壊する。これが戦闘開始の合図となった。
「もはや引き返すこと叶わず、か。…第1大隊全機、第2大隊の援護に入れ。反乱軍を鎮圧しろ!」
『了解!』
帝都にて戦術機同士の戦闘が開始された。数では第1連隊が勝っていたものの、練度ではクーデター部隊の方が上回っていた。クーデター部隊のほとんどは前線で戦い続けてきたベテランばかりだった。だから今回のクーデターに参加したのだ。前線兵をないがしろにした上層部を掃討するという目的のために、無駄な戦闘であると理解していても戦闘を続けた。
「反乱軍の連中、市街地だってのに突撃砲をお構いなしに撃つのかよ!?」
「多少の被害はやむを得ん。こちらも突撃砲を使用してかまわん!」
だが、互いに市街地戦闘は極力避けたかった。そのため、突撃砲による牽制をしながら帝都市街地から離れるように交戦をした。
一般市民は既に地下シェルターに退避しており、人的被害の問題こそなかった。だが、なるべく市街地への被害は抑えたい。
「鎮圧部隊は市街地に影響が及ぶことを心配している。我々もそれに乗ってやれ!我々が打破するべきは前方の敵ではなく、その背後にいる上層部であるということを忘れるな!」
『応!』
18:00 横浜基地
約束の時間にはなったものの、既に戦闘が帝都で開始。それに呼応するかのように仙台でも戦闘が開始された。権田も停戦命令は出さず、徹底抗戦の構えを見せた。かろうじて殿下の身柄はまだバレていなかった。
そして、ここ横浜基地でもついに動きがあった。包囲部隊が基地に侵入してきたのだ。すぐに香月がみちるに連絡する。
「伊隅、私よ。今すぐに前方の連中を蹴散らしなさい。その後は伊豆市まで直行、以降は現地司令部に任せなさい」
「了解しました、副司令。…聞いたな貴様ら。これより我々は戦線を移動する。ヴァルキリーの名に恥じぬ戦いぶりを見せてみろ!」
『了解!』
まずは準備体操と言わんばかりに前方の敵機をロックオン、長刀ですれ違いざまに両断した。しかし、対面していた機体の衛士が生き残れるように腰部を両断した。
「ジェームズ、その機体の調子はどうだ?」
「ああトンカッチ。こいつは前に乗った時よりも格段に制御系が良くなっていやがる!」
ジェームズの機体はテンペストだった。新潟の時に勝手に乗られていたものの、国連軍の極秘任務で正式に認可されていた作戦行動だった。これはテンペストのデータ収集目的のものだった。そのおかげで随伴機の制御も精度が高まっていた。今回のテンペストには、随伴機に2機の不知火がついていた。どれもステルス塗装だった。
「敵が散開してきたな。戦闘は避けて、このまま直進して基地を離脱し伊豆に向かう!」
包囲部隊もそれを察したのか、散開するのをやめて進行方向に壁になるように展開した。
「くそ、邪魔だな!こっちは推進剤も弾も使いたくないってのに!」
回避行動をとりつつトリガーに手を掛けた。その時、目の前の敵機はどこからかの砲撃によって撃破された。しかしレーダーには何も映っていなかった。直後、通信が入る。
「こちら、第66戦術機甲大隊。A-01、横浜の敵機は我々に任せればいい。先に進め!」
「援護感謝する!全員進軍!突き進めぇ!」
A-01は横浜基地を脱し、伊豆市に向かった。
18:20 伊豆市
A-01は伊豆付近まで何の抵抗も受けず到着した。伊豆には国連軍のCPが設置されている。そこには遙もいた。
「こちら伊豆CP、ヴァルキリーマムです!A-01の皆さん、よくご無事で!」
この声に反応したのは速瀬だった。
「その声は、遙!?何でアンタここにいんのよ?」
「香月副司令の命令で昼間にここに来ていたのよ。そうしたら前線CP将校としてサポートしてくれって言われて今ここにいるの」
伊豆CPには燃料も弾も何もかもが置いてあった。すぐに再補給をする。そして、みちるとトンカッチは司令部長から呼び出しを受けた。部屋に入ると、司令部長が作戦の概要を話し始めた。この近辺には塔ヶ島離宮というのがあり、そこに殿下は隠れているそうだ。これは極秘情報ではあるが、バレるのも時間の問題だった。
そのため、盛大に伊豆で陽動を敢行して、敵の部隊を誘引して殿下の逃げる時間を稼ぐ。殿下は別の護衛部隊がついているため問題はないそうだ。そして最終的には静岡県下田市の港に停泊する戦艦『紀伊』までたどり着けば勝利といったところだった。
予想される敵部隊は、まず帝国軍第17、18戦術機中隊の陽炎10機、撃震14機。富士教導団の輸入戦術機の古鷹4機、露軍迷彩の不知火8機の計3個中隊36機だった。ちなみに輸入機の古鷹はSu-47のことだった。対人戦用に独自改造されている。
対するこちら側の戦力は、まずA-01の11機。在日米軍からは第108、174戦術機甲大隊のF-15Eが72機がさらに待ち構えていた。
数では圧倒的優勢だった。しかし向こうにはあの教導団がいた。そして、瑛都もその中の一人だった。さらに彼らは死んででも成し遂げるという覚悟があった。客観的に見ればまったくもって狂った見当違いの正義感に過ぎなかった。現在の世界はBETAという未曽有の危機に世界中で団結して対抗しなければならない。
しかしそれは世界規模で見た時の話だった。日本帝国という国家単位で見れば話は違う。確かにBETA最前線ではあったが、帝国は現状は安定状況にあった。そうなると国民の眼は内政に向けられる。一見うまくやっているように見せかけてはあるが、実態は裏で暗躍していた。最たる例は在日米軍核運用部隊を国内に引き入れたことだ。
『バレなきゃ犯罪じゃない』とはよく言ったものだった。これらが明るみになれば、国民の政府に対する感情は最悪のものになるだろう。だから見えない裏側で行っていたのだ。しかし、今回はその化けの皮がはがれたのだ。
だからこのようなことが起きる。これは世界各地で頻発している。つい最近ではソ連でも同様のことが発生した。これは計画が最初からバレており、わざと引き起こして見せしめとして粛清した格好ではあった。だが、世界各国でも同じような感情を持ち合わせている。
その結果がこのクーデターに参加した一般兵の感情だった。
18:30
「広域レーダーならびに音響センサーに感有り。機数は事前情報通りですが、二手に分かれています!このままだと一方はここを通らずに、塔ケ島離宮方面に直行します!」
遙はそう言った。やはり塔ヶ島にいることはバレていた。すぐにみちるが指示を飛ばす。
「遙、1個中隊あたりにE1、E2、E3に設定しろ。塔ヶ島離宮に向かう中隊を我々で抑える!」
すぐに遙は目標を再設定した。どうやらE2が塔ヶ島に向かうようだ。
「E2は恐らく富士の連中だろうな。アイツらは強いからな、さっきみたいに生かしてやろうなんて思うなよ!行くぞ!」
『了解!』
塔ヶ島の護衛部隊がどれほどの練度かは知らないが、富士教導団相手には持ちこたえられるとは思えない。すぐにでも迎撃しなければ。
伊豆の防衛は米軍に任せて、A-01は早速E2の迎撃に移った。
18:40
A-01はレーダーにとらえたE2の進行方向前方2000mに展開した。装備は対戦術機用に特化した零式対戦術機用36㎜砲弾を使用していた。砲弾飛翔速度は通常弾の2倍だった。炸薬量は少ないものの、貫通力はかなりのものだった。全員87式突撃砲を装備している。
トンカッチとみちるの村雨は、長刀2本に突撃砲3本、 99式中隊支援重火砲を装備していた。99式はなるべく狙撃で数を減らしたいという考えで持ってきた。もちの不知火乙型にも同様の物を装備させている。すぐに狙撃体勢に移る。
「ここなら良い位置だな。みちる、もち、初弾装填。弾種は
「おい、トンカッチそれマジで言っちゃってんの!?マジで!?狙撃得意な俺に言っちゃってんのヤバくないWOWWOW!」
『It's a American/Japanese Jokes! HAHAHAHAHAHAHAHAHA!狙撃モードにLet's GO!』
この馬鹿二人をよそに、みちるは他の隊員に狙撃後の動きを説明していた。狙撃はあくまで牽制。当たればいいが、奴らは精鋭だ。滅多に当たったものではない。だから、狙撃後すぐに格闘戦に移行して時間をありったけ稼ぐ。目標は殿下の移動時間の確保。それさえ稼げば勝たなくてもいい。
狙撃モードに移行しているため、機体の各所から発せられる電波は最小限かつ熱も発されていない。ステルス塗料や時間帯もあってバレていなかった。夕暮れが見事に所在地を隠していた。弱点としては、機体を再起動する必要があるということだった。だからすぐには格闘戦に移行できない。再起動までは他の隊員に頑張ってもらわなければならなかった。
そして、ついに敵機が目視で捉えることに成功した。やはり機体は12機だった。だが露軍迷彩ではなかった。つまりE2は陽動部隊だった。
「みちる、これかなりまずいよな!?」
「ええ、かなりまずいわよこれ!遙、伊豆に向かったのが本隊だ!そこに富士の連中もいるぞ!」
「了解です伊隅大尉。すぐにここの防衛部隊に知らせます!」
早いとこE2を撃退しなければならない。でなければ伊豆の部隊が突破される。すぐに狙撃を開始する。
「よしレーダーロック。照準補正は風速が東南に4km/h、気温は0℃。環境補正も考慮した。敵機の行動予測パターンも入力済みだ。…今だ二人とも!」
『了解!』
3機は狙撃を開始した。秒間120発、砲初速1500m/sの砲弾は正確無比に一番先頭の陽炎に命中した。着弾と同時に木っ端みじんに砕けた。それを合図に他の隊員も一気に距離を詰める。
「一気に殲滅して伊豆にとんぼ返りするわよ!」
速瀬が前衛部隊の指揮を執る。
「これ以上は狙撃は無理そうだな。我々も合流するぞ!」
反動制御プログラムは良好に作用しており、連続射撃していても全くブレがなかった。しかし、初弾着弾と同時に敵も散開した。さすがは精鋭といったところだ。全く狙撃は当たらなかった。すぐに再起動を開始して前衛に合流する。残った相手は陽炎2機と撃震9機だった。数では同数ではあったが、なかなか突破できずにいた。それは敵も同様だった。互いのパワーバランスは拮抗していた。だが、あくまで狙撃班の3人がいなかったからだ。
「速瀬よく持ちこたえたな!狙撃班の私たちも合流したからな!」
彼らは99式を背中に回し、87式を構える。
「茜、そっち行った。ごめん!」
「大丈夫、晴子!…これくらい!」
茜が抜けてきた撃震を撃墜する。
「…私だってやれるんだ。私だって!」
「茜、6時方向敵機!」
茜の背後に陽炎が迫っていた。今まさに長刀を振り下ろさんとしていた。
しかし、その刃はもちが受け止めた。
「…あってよかった甲型銃剣っと。おい茜、大丈夫だな?視野を広く保ちながら戦闘するんだぞ!?」
「り、了解!」
今回の装備には87式に95式甲型銃剣をつけていた。本来ならその場所には120mm砲が取り付けられていたが、パーツ交換で銃剣を取り付けていた。何回も使えるようなものではないが、緊急時には役に立つことも多い。今回も役に立った。
「早いところ突破したいところだが…」
トンカッチは刻一刻と変わる戦況を俯瞰していた。伊豆はまだ交戦状態にはなかったが、時間の問題だ。そう言いながら、長刀で撃震を一刀両断した。
戦闘開始から5分が経過し、E2は全滅した。A-01に被害は無し。完全勝利だった。データリンクにより、現在の殿下の位置が知らされる。既に塔ヶ島離宮を離れており、伊豆スカイラインに入ったそうだ。だが、緊急通知が入った。
「こちらヴァルキリーマム、伊豆にE1、E3が接近!まもなく交戦を開始します!」
すぐに伊豆に戻らなければならない。
精鋭無比、最強の富士教導団が襲い掛かってくるのだから。
原作より戦闘開始時間は早いです
夕焼けに照らされる狙撃待機中の戦術機がかっこよさそうだなぁと思ったのです