Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ! 作:tonkacchi
2001/12/5 19:00 伊豆補給所
A-01は狙撃任務を開始するため、補給を開始していた。コンテナの中には予備の99式が2丁入っていた。他にも87式支援突撃砲が入っていた。だが、見慣れない兵装が一つあった。データ照合すると、すぐにヒットした。試製97式狙撃銃というものだった。口径は90mmと大口径だった。
銃の大きさもかなり大きく、見たことある奴だとM82A2が近いだろう。あの見た目に、バレル下部に大型の横長なボックスユニットの制御装置などが取り付けられている。
砲弾は
弾倉1つあたり5発しか入らないため、少々隙が生まれやすい。そもそも上空を高速で飛行する物体に当てるのが難しいが、対空砲のように専用の装置があるわけでもない戦術機にはより難しかった。
狙撃作戦は隠密に行わなければならない。狙撃が得意なのは、もちだったなとトンカッチは今になって彼のいなくなったことを実感した。
「トンカッチ、狙撃は誰に行かせるつもりだ?」
みちるが通信をしてきた。だが、1人で十分だった。トンカッチ自ら行くことにした。現在の部隊の中では特に狙撃の自信があった。というか、トンカッチ以外の部隊員が狙撃がそこまで得意ではない。大概が近距離戦闘狂だった。
すぐに燃料を補給し、試製97式を持ちだす。射撃プログラムを改めて確認する。村雨の装甲ラウンドモニターを再度装着する。追加で左肩部にレーダーユニットを装着した。これは高倍率カメラユニットも兼任しており、狙撃に適している装備だった。
さらに、ギリースーツのような擬装用のマントも追加でもらった。そもそも村雨・弐型にはステルス機能はあるが、このマントには熱吸収や視覚的に効果があるのだ。これも狙撃任務には欠かせない。
燃料が満タンになったので、すぐに射撃ポイントに向かう。適しているのは、見通しが良くて高い場所だった。殿下の現在地は天城高原料金所に移動していた。また護衛部隊が誰かも判明した。国連軍の第207戦術機甲小隊、斯衛軍の第19独立小隊、ウォーケン少佐率いる米軍の第66戦術機甲大隊だった。
狙撃ポイントには冷川料金所を選んだ。ここは山に囲まれてこそいるが、北側の山に陣取れば南側が少し開けているので、射撃可能時間が長くとることができる。また、敵からすれば後方から撃たれるので、被発見までの時間も長い。すぐに冷川料金所に向かった。
19:10 冷川料金所
到着してからしばらくしたが、なかなか対空レーダーに引っかからない。エンジン音もしないので本当に来るのかだんだん怪しくなってきた。殿下は天城高原料金所から移動しておらず、未だに停滞したままだった。とりあえず対空炸裂弾のマガジンを差し込む。薬室には弾を入れなかった。入れてしまうと、第1発目は絶対に対空炸裂弾が発射されるからだ。
もし敵に護衛機がいようものなら、HVAPを使いたい。だが1発撃ってからでは隙が生まれてしまう。その隙をできるだけ少なくしたかったのだ。敵の予測進路をマップに表示させて、そのたびにレーダーをそのエリアに集中的に使用する。
6回目の探索でようやくレーダーに引っかかる。輸送機の
トンカッチの真上を飛んでいく可能性が高い。すぐに初弾を装填する。選ばれたのは対空炸裂弾だった。レーダーロックしてしまうと逆探知されてしまうので、アナログでの射撃観測となる。
「初弾装填、次弾も同じ!」
すぐに上空のムリーヤに照準を定める。アナログではあるが、精度は上々だった。ちょうど風も吹いてなく、狙撃にはうってつけの状況だった。
「環境偏差良し、風速調整良し、進路予測データリンク良し。砲身スタビライザー作動良好。銃身内温度正常値を確認、望遠倍率を2倍から16倍に修正。冷却装置稼働確認、射撃姿勢安定装置起動、発射シーケンスオールグリーン!」
いったん心を沈ませる。
「…………発射!」
初弾を発射する。命中弾だったが、致命傷にならなかった。後部のパーツを吹き飛ばすのみだった。次弾が装填され、修正射を撃ち込む。
2発目はムリーヤのコックピットに命中した。機体制御が不可能になったムリーヤは徐々に高度を落としていく。戦術機格納庫ハッチが展開され始めたが、そこに第3射を放つ。内部からおびただしいほどの爆発と炎が巻き上がった。
敵襲に気づいた航空部隊はすぐに回避機動を取り始める。だが、所詮は輸送機。鈍重な足回りのため、その行動が遅かった。射撃ポイントがいまだにバレていないので続行した。格納庫が開きそうな機体から優先して撃墜する。先頭のムリーヤがその代表例となった。
ある程度距離を離したと油断したのか、ハッチを開けながら直進していた。それを見逃すはずもない。4発目を発射する。格納庫に被弾し、しばらくは姿勢を保っていたがふらつき始め爆散した。残るは2機。残弾は11発だった。対空炸裂弾のおかげでここまでできているので、次のマガジンも対空炸裂弾入りにする予定だった。
だが、村雨が警告音を鳴らす。レーダー照射警報だった。機体右側、さっきまで何もいなかった空間からのレーダー照射だった。機体を向けるも、何もいなかった。そもそもステルス特化型に装備で変貌していた村雨を看破するのは不可能に近かった。何かの誤作動だと信じ、すぐに狙撃任務に戻る。
薬室に残った1発を上空を悠々と飛ぶもう1機のムリーヤに撃ち込む。今度はエンジンに命中した。だが、撃墜とは至らなかった。次のマガジンも対空炸裂弾にしようと手を伸ばしたとき、マガジンがどこからかの射撃により吹き飛ばされてしまった。
先ほどのレーダー照射をしてきた方角からだった。残ったマガジンはHVAPのみだった。航空機にとっては正直貫通力が高すぎて過貫通を引き起こす可能性があり、あまり使いたくはなかった。だが、戦術機相手なら貫通力はあったほうがいい。今度はしっかりとマガジンを差し込み、薬室に弾を込める。
しかし、ムリーヤはかなり先を飛んでおり、戦術機の降下も開始した。それでも狙撃はまだ可能だった。試製97式をムリーヤに再び向ける。だが、妨害する形で敵が射撃を開始した。弾はまばらで掠りもしなかったが、このまま狙撃にお熱だと撃墜されてもおかしくない。
トンカッチは不本意ながら狙撃を中止し、横合いから迫る敵との戦闘に備えた。村雨のレーダーには敵機が3機映っていた。
「…………なぜだ、なぜこの所属機が俺を襲ってくるんだ!?」
機影をカメラでも確認する。機種は、斯衛軍所属の82式戦術歩行戦闘機『瑞鶴』だった。トンカッチは目の前の敵が斯衛であることに動揺を隠せなかった。
斯衛は今回のクーデター事件でも帝都城の防衛をしており、殿下の護衛部隊にも斯衛軍所属の部隊がいた。しかし、確実に瑞鶴はトンカッチを狙っていた。そのうちの1機は支援突撃砲を持っていた。つまり、狙撃可能な武装を持っているということだ。
しかし、ムリーヤに対しては見向きもしない。ということは、トンカッチを始末しに来たということで間違いない。ステルス看破の原因もよくわからないが、とにかくマントを脱ぎ棄ててレーダーロックをした。先頭の瑞鶴はカラーリングが黒ではなく白色であるところから、武家であることがうかがえる。
これで実際に仲間だったらシャレにならないので、一応警告は入れておく。
「こちらは国連軍A-01部隊のトンカッチ大尉だ。現在緊急任務に就いている。敵意がないのなら速やかにレーダー照射並びに攻撃を中止せよ!」
その警告に従うわけもなく、今度はロックオン警報に変わる。
「警告はしたからな!?」
すぐにトンカッチも試製97式を発砲する。たった5発で戦術機3機を相手にできるとは思っていない。撃ちきり次第、短刀による近接戦を挑むつもりだった。すぐにでも援護を呼びたかったが、どうやら補給が難航しているようだ。立て続けに撃つが、全く当たらない。5発の砲弾全てを撃ちきった。もちろん全弾外した。
両腕の短刀をすぐに出す。敵は縦1列になって突っ込んでくる。見た目上は1機しか目の前には見えていない。敵も突撃砲を投棄し、長刀に切り替える。近接戦の時間だ。
「かかって来い、全身凶器の村雨の力ってやつを見せてやるよ!」
直前に迫った瞬間、3機が散開する。実質3方向からの同時攻撃だった。しかし、そのすべてを収納式短刀で受け止める。3機分のパワー相手に何とか持ちこたえていた。相手が村雨より旧世代ということもあり主機出力での勝負は案外耐えれる。瑞鶴の衛士が接触回線で話しかけてくる。
「おいトンカッチ大尉、今すぐに下がれば見逃してやらんこともない」
「何で俺のことを知ってんだ!?」
「それについては答えられない」
「じゃあ言わなきゃいいだろ!…くそっ、機体が!」
ついに村雨がパワー負けし、姿勢を崩す。だが、その崩れた状態を活かして脚部のモーターブレードを起動し、目の前の瑞鶴の胸部に蹴りを入れる。
「なんちゃって!?なーにが見逃すだ馬鹿野郎が!お前らが俺に見逃される側だろうが!」
1対2の構図になり、すぐに片方を突き飛ばした後にもう片方の瑞鶴を貫手の格好で突き刺す。中の衛士は即死だった。その機体の背部にある突撃砲を拝借し、蹴りを入れた機体にありったけ射撃する。残すは突き飛ばされた1機のみだった。この状態になるまで僅か5秒の出来事だった。突き飛ばされた瑞鶴は未だに尻もちをついたままだった。
「さ~て、お前の生死は俺にゆだねられてるって訳だけどさ…死にたくないだろ?」
そう言いながら、瑞鶴の両主脚を切り落とす。
「まず、何で俺のことを知ってるんだ?」
「…………答えるつもりはない!」
強情にも抵抗をしようとしているので、次は両腕を切り落とした。
「誰?」
「だから言うつもりはないと―――」
胸部の横に突き刺した。
「言え、言わねば引きずり出す。貴様に選択の余地はない!吐け、貴様の知っていること全てを!」
さすがに死にたくはなかったのかようやくしゃべり始めた。どうやら彼らは斯衛軍の機体を借りているだけだそうだ。ただ貸出人は不明だった。所属は首謀者の権田の直属部隊だった。つまり、正規部隊ではない。権田の指令でトンカッチを拘束していてほしいとのことだったそうだ。
その権田は今どこにいるのかと聞いた。
「権田隊長は、多分あそこだ。お前が撃ち落していなければな」
彼が言った方角は、先ほどムリーヤが飛び去った方角だった。つまり、あの中に権田はいたのだ。尚更撃ち落せなかったことを深く後悔した。
「俺が知っているのはこれだけだ!これ以上聞いても何も出てこないからな!?と、とにかく全部話したから解放してくれ!」
「そうかそうか、それは結構。ま、死んでもらうことには変わらんけどな?」
そう言ってトンカッチはもう片方の腕で瑞鶴の胸部の真ん中を貫いた。
「人類の存亡をかけているというのに、内乱を起こす狂人はこの国の癌そのものだということが何故分からんのだ!…すぐ死ねるだけありがたく思えクズ野郎!」
すぐにムリーヤと殿下の現在地を確認する。ムリーヤは既に洋上に退避しているので投下し終わったのだろう。そして、肝心の殿下の位置は天城高原料金所から変わっていなかった。さらに、その付近を取り囲むように敵表示されている戦術機がいた。
データ照合結果は不知火・壱型丙が3機と、朧改だった。やはり権田はそこにいた。トンカッチは再補給を済ませるために伊豆に帰還した。