Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ! 作:tonkacchi
第47話 XM3トライアル演習
2001/12/10 横浜基地 11:00
この日は再編成されたA-01に補充要員が来る日だった。第2中隊、第3中隊には国連軍の中でもトップクラスの腕前を持った衛士が揃っていた。搭乗機は基本的にはF-15Eだったが、中隊長機はF-15Eの改修型である
装甲の軽量化、通信機能の強化が施されており、兵装担架も4つに変更されている。通信機能の強化のために頭部にセンサーマストが増設されており、不知火のウサギの耳のようなものが追加された。重金属雲漂う前線でも問題なく通信が行えるほどの性能だった。
そして、第1中隊にも補充要員が充てられた。格納庫前にハードランディングで彼らは降り立ってきた。機数は2機で見た目は不知火だった。カラーは片方はフェリス・カモフラージュで、もう片方は茶色ベースに黄色の線が引かれている感じだった。少ししてから機体から2人降りてきた。格好は帝国軍の格好だった。
トンカッチは書類を見返して確認した。補充要員の名前は霧雨丙、黒谷ヤマメ。元々帝国軍第514戦術機甲中隊の所属で、ずっと不知火・壱型丙を使い続けているらしい。腕部の短刀を格納する箇所が少し大型化して変わった形になっているところを除けば、本来の不知火そのものだった。正直、最近の不知火は兵装担架を増やしたり、マントをはおらせたり、長物を持たせたりといささかロマンに偏り過ぎている節があったので、このシンプルさが逆に新鮮に思えてしまった。
霧雨の方が大尉で、ヤマメの方が中尉だった。2人は恋人らしい。ちょうど機体整備をしていたジェームズとみちるも近くにやってきて、2人を迎えた。
「本日付でVF-01に着任した霧雨丙です。これからよろしくお願いします!」
「同じく黒谷ヤマメです!よろしくお願いいたします!」
3人は自己紹介を受けた後、2人から事務手続きに必要な書類をもらった。その時、トンカッチとジェームズはあることを思った。
「おいジェームズ、ちょっとこっちこい」
「ああ、お前の言わんとすることは分かる…」
2人は手続きをみちるに任せて、少し離れたところに行った。
「さて、これくらい離れていればアイツらには聞こえんだろう…。にしてもよ、あの黒谷ヤマメだったか?正直に言っていいか?」
「ああ、多分同じこと考えているはずだなぁ!せーので行くぞ?いいか…………せーのっ!」
『胸でっっか!』
正直に言って部隊の中でも勝てる者はいない程のデカさだろう。デカいだけでなく形もしっかり整っている。さらに顔もカワイイときた。これは常に女性陣に囲まれている既婚者の2人でも、目をバキバキに開いて見つめてしまうほどだった。というか、ヴァルキリーズの女性陣は強い女性だからか気が強くて近寄りがたい。だが、彼女はなかなか物理的にも精神的にも柔らかい印象を受ける。
そう言った意味では紅一点と言えるだろう。それから少し雑談をしていると、みちるにさっさと来いと呼ばれたので向かった。
階級が中佐になったことにより、面倒な事務仕事が増えていた。最近は朝5:00に起きてパソコンと書類を反復横跳びしながらにらめっこし、夜1:00に寝る生活をしていた。大隊のメンバーの整理、予算や作戦計画書、報告書に実機での訓練指導。タフネスで知れ渡っていたみちるも流石に疲れが見えていた。
今日も事務手続きが終了次第、実機での演習があった。新任の2人の歓迎パーティーの代わりだった。ただ気になったのは、実弾を装備した演習だった。無論、演習中では実弾を発砲することは無く、CGにて合成された映像が流れる仕様となっている。しかし、わざわざ実弾を携行する意味が分からなかった。まるで、襲撃されるのを予知しているかのようだった。
12:30
トンカッチは村雨に乗り込むため、強化装備に着替えに行った。着替え終わった後、みちると合流をした。最近は忙しいのでこういった移動時にしか話す暇がない。
「………トンカッチ、もちのことはどうするの?」
急にこんなことを言うものだから、思わず飲んでいたドリンクを喉に詰まらせかけた。確かに、もちの葬儀然り色々なことはまだ行われていなかった。忙しいというのもあったが、彼の遺体が見つからなかったのだ。それもそのはずで、古鷹のモーターブレードでぐちゃぐちゃにされているのだ。歯の一つでも見つかれば御の字だろう。
現地では未だに戦闘後処理部隊がおり、速瀬もその一員として参加している。彼らは戦死者の回収の他、放棄された戦術機の回収、戦地の復興に努めている。だが、一向に見つからないそうだ。期限は今日の夜までだそうだ。これを過ぎれば、もはや探すことは不可能となる。
速瀬にはぜひ見つけてほしいものだと思った。そういったことを鑑みながらトンカッチは回答した。
「今ちょっとした休暇の申請を出している。最近俺ら忙しかったろ?このままだと、絶対につぶれちまう。そうなる前に一回リフレッシュしようと思ってな。………その時にやってやればいいんじゃないか?」
場所としては長野県の雪山だ。軍の保養地として設計された安全の保障された山で、ちゃんとした施設があって、最悪の場合に備えて戦術機も数機格納されている。香月は自分も連れて行くという条件付きで許可していたが、他の部署がなかなかゴーサインを出してくれなかった。問題点は、香月の条件だった。一応横浜基地の副司令だ。それがこの忙しい時に外にフラフラと出て行ってもらっては困るのだ。
まあ、香月が何とかすると言っているのですべてを丸投げしておいた。みちるもこれで納得してくれた。そして二人は村雨に乗り込んだ。
村雨も小規模改装が行われた。頭部の装甲ラウンドモニターが撤去されたのだ。幾度の実戦を重ねた結果、装甲ラウンドモニターの存在価値が見いだせなくなったための措置だった。機体各所にもハードポイントがつけられていた。というのも、整備班が計画しているプランのためだそうだ。
よくわからないが、機体性能に何の影響がないので無視することにした。機体に火を入れると、XM3の表示が出た。XM3Fは最終段階としてしか使わないようにセットしてある。今回の演習では、新型OSのXM3のテストも兼ねてある。ついにあのXM3を実戦レベルに武は仕上げたそうだ。
すべての起動準備を終えて滑走路から発進し、演習場に向かった。この日は他の演習場でもXM3のトライアル演習が行われているそうだ。対戦構図はトンカッチとみちるの2人に対して、霧雨、ヤマメ、ジェームズ、宗像と風間の5人の2VS5の対決だった。
数では圧倒的に不利だったが、「中佐になったんだからこれくらいのハンデはくれなきゃいけないよねぇ?」というジェームズの挑発にトンカッチが乗った結果、こうなった。
「まったく、トンカッチはいい加減挑発に乗るのをやめなさいよ!?………昔、もう少し冷徹だったくせに」
「あのな、これくらいのハンデがあったほうが面白いんだよ!」
「そう言ってあなたはいつもいつも!もう少し真面目にやってよね!?最近やれ仕事だ事務だって言って私に全然かまってくれないじゃない!」
「そ、それは今の話と関係ないだろ!?」
この回線はオープンになっており、全員に聞こえていた。
「お~いトンカッチ!?全部筒抜けなんだわ、痴話喧嘩するなら他所でやってくれ!…状況開始、以降は両チーム間での無線封鎖!」
ジェームズのテンペストからカラースモーク弾が発射された。戦闘開始の合図だ。交戦区画の第1演習場は高層ビルの跡地となっており、射線を切るのが容易な地形だった。だが、奇襲がしやすい地形でもある。村雨のステルスをONにして、2人は裏から回るように接近した。
相手の5機はステルス機能は無いはずだ。だが、不知火・壱型丙にどのような武装を仕込んでいるのかが全く分からなかった。書類にも不知火・壱型丙としか書かれていなかったからだ。しばらく索敵をしていると、スモークが辺り一帯で展開された。ステルスだというのにバレているのは日頃の訓練の成果の賜物だと信じたい。
「みちる、IRSTに反応あるか?」
「ダメね、使い物にならない。…これは戦術機の移動音!?………10時の方向から3機突っ込んでくる!」
すぐに全門斉射の構えを取る。スモークから一瞬、バイザーの発光が見えた。そこに斉射する。何かに当たった音こそすれど、それがビルだったことに少ししてから気づく。すぐにスモークの中に隠れるように移動する。ずっと跳躍ユニットの音がするものの、全く位置が分からなかった。常に動き続けているのだろう。
しかし、一瞬だけレーダーが反応した。真後ろに1機迫っていた。
「そこぉ!」
背部の突撃砲を乱射する。真後ろから長刀を振り下ろそうとしていた秋月が撃墜された。機体番号から宗像だと判明した。スモークが晴れてきた。レーダーも復旧する。みちるの方はジェームズ、風間と対面しているようだった。そうなると、残った2機がどこに行ったかが全く分からなかった。
少々危険な賭けだったが、上空を飛ぶ。すると、みちるの背後に何かが向かっていった。
「正面は陽動か!?みちる、急上昇しろ!」
すぐに上昇する。その直後、みちるのいた場所の両隣りの建物が土ぼこりを上げて損壊した。
「丙ちゃん、これ避けられちゃったよ!?」
攻撃を仕掛けたのは、ヤマメの不知火だった。得体の知れない攻撃の正体は、腕部のブレードワイヤーだった。スーパーカーボン製で、切れ味抜群だった。
「…あの中佐たち、ただものじゃないな!」
「御託は良い、さっさと上空に逃げた奴らを追撃するぞ!」
『了解!』
すぐに4機が上空に上がってくる。みちるには風間を迎撃するように命令した。みちると風間のタイマンなら、みちるのほうが有利だ。そこで打ち勝てば、数的に余裕が生まれる。もちろん、トンカッチはその間に3機からの攻撃を受け切らなければならない。
「突撃砲は、ここに置いておくとしますかな」
トンカッチはデッドウェイトになる可能性を鑑みて、突撃砲をビルの屋上に置いておいた。そして長刀を構える。もはやステルスが通用するとは思えない。真っ向からの勝負に打って出たほうが安全策だ。二刀流を得意としていたが、脚部のモーターブレードも準備をしていた。3方向から襲撃されても何とかなるはずだ。
そして、ロックオン警告が3方向から鳴り響く。正面と左右からだった。正面はテンペスト、両脇から不知火だった。全機、近接装備に持ち替えていた。唯一の逃げ道は後方だったが、それが敵の狙いの一つだ。後方に回り込まれれば、前後から挟まれてお陀仏だ。まだここを死守するほうがマシだ。
「さぁ、かかって来い!」
ジェームズが長刀を振り下ろす。それを一歩下がって、モーターブレードで押さえつける。
「おいおいジェームズ、反応速度鈍ってんじゃねえの!?」
「てめえこそこのままで大丈夫か?」
「うっせえ。まずはジェームズからだな!」
左手の長刀を、抵抗することができないテンペストに振り下ろそうとしたが、長刀が動かなかった。右腕も同様だった。
「よくやったヤマメ!」
「少佐、丙ちゃん、後はお願いします!」
ワイヤーが村雨の長刀と手に巻き付いていたのだった。村雨の関節強度はかなり強固に作られていたが、その引っ張りに若干押されていた。このまま行くと、腕は折られるだろう。だが、すぐに跳躍ユニットの向きを変える。
「跳躍ユニット出力リミッター、3秒間解除。フルバースト!」
地面に噴射口を向けて、思い切り噴射する。土ぼこりで何も見えなくなるが、一気に上昇する。ワイヤーで必死に引っ張って抑えるものの、ずるずるとヤマメの不知火は引きずられた。余裕のできたジェームズが、長刀を上に突き上げるも、蹴り飛ばされてしまい、行動不能になった。だが、村雨の上昇速度は遅かった。戦術機一機を持ちあげているのだから当たり前だった。
その鈍足な村雨を霧雨が襲う。
「中佐の首、もらったぁ!」
霧雨が短刀を突き出して突っ込んできた。ちょうどトンカッチと霧雨は正面で対面する格好になった。この時、霧雨は勝利を確信していた。目の前の機体は回避も取れず、反撃もできないように見えたからだ。しかし、村雨の伝統的な兵装を霧雨は知らなかった。トンカッチはトリガースイッチを2回押し込む。
「Fire!」
胸部125㎜砲が火を噴いた。高速徹甲弾は、正面から馬鹿正直に突入した不知火の胸部にクリーンヒットした。同時にワイヤーが緩み、腕が自由になる。
「丙ちゃんがやられた!?」
「…ブリーフィングの時に教えときゃ良かったぜ。風間、そっちはどうだ?」
「大分厳しいですね!もう少しだけ持たせます!」
以外にも風間は善戦していた。徐々に追い詰められてはいるものの、時間稼ぎにはなっていた。
「トンカッチ、風間の奴なかなか成長してて前に進めない!」
「えぇ…。まあこっちは何とかしとくから頼むぜ!」
「了解、すまないな!」
成長はうれしいことだ。あのみちるにこれだけ耐えれているのだ。十分だろう。しかし、目の前の2機はかなり厄介だ。ジェームズの機体も再起動して戦線復帰し、トンカッチの突撃砲をパクっていた。ヤマメの不知火も健在だ。現状の最大の脅威はブレードワイヤーだった。軌道が予測しにくく、何よりワイヤーが細くて見えない。
だが、このままではらちが明かない。決着をつけるべく、覚悟を決めて長刀を構えなおした。突撃の構えを取ろうとしたが、機体が急に地面に降り始めた。他の機体も同様だった。続けてアラートが鳴り響く。
『演習中止! WARNING! CODE:991 対象区域:第2演習場』
13:00
全く状況が理解できなかった。なぜこの横浜でBETAが出現するのかが最大の疑問点だった。その疑問が解決される前にHQから通信が入る。
「こちらは横浜HQ。現在第2演習場エリア2にてBETAが出現した!速やかに退避・迎撃を開始せよ!」
第2演習場はすぐ隣だった。全員、実弾を満載しているためすぐに向かうことができた。また、推進剤も余裕がある。HQも混乱しているからか、命令が全く発令されていなかった。だが、即応部隊より早く到達できるのは間違いない。
「…みちる、現状近くて実弾を持っているのは俺たちだ。HQの命令なんか待ってたら前線の連中死んじまうぜ?」
「そうだな…。了解した。これよりA-01は第2演習場に急行する!」
『了解!』
第2演習場に到着すると、演習部隊の被害は甚大なものとなっていた。道中でエリア3の部隊の支援を命令されたため、他の救援要請を全て無視して向かった。エリア3に到着すると、吹雪が遠方で6機移動しているのを確認した。どうやら格納庫まで退避するのだろう。だが、そのうちの1機がコースを外れて、近くにいたBETAと交戦を始めた。
すぐに機体を照合して所属部隊を判明させる。第207訓練小隊の吹雪だった。必死に抵抗しているように見えるが、ペイント弾だったため効果がなかった。着弾地点がカラーで彩られていく。それは徐々に吹雪に迫っていた。別の吹雪が増援でやってきた。だが、訓練用の装備では多勢に無勢だった。だんだん損傷していき、片方に至っては
「畜生何やってんだアイツら!みちるとジェームズ、他の奴らの護衛に入れ、ここは俺と新人が引き受ける!ついてこい!」
『了解!』
実弾装備のトンカッチにとって、吹雪を囲んでいたBETAは子供同然に過ぎなかった。吹雪から最も近いBETAから始末していく。新人の2人も良い動きを見せてくれていた。この二人は
トンカッチは擱座していた吹雪に通信を入れる。
「おいそこの吹雪の衛士、生きてるか!?」
「は、はいっ!?あっ、トンカッチ大尉ですか!?」
声の主は武だった。
「武か!後、俺もう中佐になったから間違えるなよ!にしてもこっぴどくやられたな?」
「す、すみません」
武の体は小刻みに震えており、汗まみれだった。武はあの12・5事件では殿下の護衛部隊にいたそうだが、ここまで後れを取ることはなかったはずだ。恐らく薬の悪酔いだろう。他にもいろいろ聞きたかったが、他のエリアの友軍の救援が先だった。もう片方の吹雪の衛士も無事だったようだ。基地から飛んでくる即応部隊に後は任せることにした。
17:20
夕暮れ時になり作戦終了が宣言された。トンカッチたちは吹雪の擱座地点まで戻ってきた。すでに黄色い規制線テープが辺り一帯に貼られており、関係者以外は立ち入ることを許されていなかった。衛兵に話しかけると、簡単に許可をもらえたので侵入した。奥の方に武と女性がいた。
少し前にグラウンドで見た教官と同じ顔だった。みちるはその女性を見て軽く敬礼をしていた。
「知り合いか?」
「ええ、あの人は私の教官だった人よ。神宮司まりも軍曹、聞いたことはさすがに無いわよね」
昔、朝鮮半島に出兵していた時に似たような女性を見たことがある。確か撃震に乗っていたはずだ。まりもも同様だった。どうやら先日の撃震も彼女の乗機だそうだ。武には色々聞きたかったが、話し合っているようなのでそっとしておいた。しばらくの間は歩哨として動くように衛兵に言われ、FA-MASを持たされた。
闘士級や兵士級がまだ潜伏している可能性があるそうだ。とりあえずセレクターをフルオートに切り替えておいた。ふと武の方を再度見ると、何か黒いものが揺れるように動くのを見た。注視すると、異形の物体がカサカサを動いていた。瓦礫の影になって識別こそできなかったが、BETAの可能性が高かった。
「そこの奴、止まれ!止まらなければ撃つぞ!」
警告に臆することなく武の方へと近づいていった。
「全員、小型のBETA出現!撃て撃て!」
銃下部のレーザーポインターで照射し、すぐに発砲した。距離が少しあったので、危険を承知で距離を詰める。他の歩哨も撃ち始めたものの、なかなかくたばらなかった。ようやく日の当たるところに出てきて、兵士級だと確認した。体中から体液が出ているのは確認できたが、まったく問題なさそうに進んでいた。武とまりもの位置では死角になっており、気づいていなかった。
村雨にリモートで狙うように指示しようと考えたが、誤射の可能性を考慮し止めた。再び武に呼びかける。
「武、今すぐそこから逃げろ!兵士級が1匹向かってるんだ!早くしろ!」
「神宮司
周りからの必死の呼びかけにようやく気付き、彼らは目の前に兵士級が迫っていることを知覚した。武は腰のホルスターに手を掛けたが、それより早くまりもが拳銃を抜いて構えていた。飛び出すかのように兵士級が現れた瞬間、頭部に全弾撃ち込んだ。ようやく兵士級は倒れた。
何とか助かったようで、みんな安堵の息をついた。だが、BETAはその油断を刈り取ってくる死神のような存在だ。襲撃を免れた2人の背後から別の兵士級が迫る。誰よりも早くまりもが気づく。しかし、兵士級は口を大きく開けて武を捕食しようとしていた。
「白銀、危ない!」
まりもがすぐに武を突き飛ばす。武は距離を離すことに成功したが、まりもは体勢を崩してしまい、兵士級の目の前に倒れてしまった。兵士級がまりもの両腕をつかみ、宙吊りにする。無防備になった腹部をめがけて、兵士級は高速のパンチを撃ち込む。
メキメキと腹部付近の骨が折れる音が響き、血が交じった嘔吐をした。痛みに悶え苦しみ、絶叫していた。目の前の武を心配させないためか、必死に声を抑えようとしていた。だが、隠しきれないほどの痛みだった。こらえればこらえるほど痛みと吐き気が襲ってくる。一撃でボロボロになった体に第二撃が加えられる。到底我慢できるものではなかった。
悲痛な叫びが辺り一帯を包む。先ほどまで立っていた凛とした女性の姿はそこに無かった。あまりにも酷いものだったので、逆に発砲できなくなってしまった。恐怖が
まるで人質のような扱い方だった。要求条件の無い、最悪の人質の取り方だった。戦いの中で知性でも発展したのだろう。その際に人質などと言うゲスな戦法を学習したようだ。
しかし、誰もそれを止めることができない。ガタガタと手が震えてしまい、銃を握るのが精一杯だった。自分もいずれこうなってしまう、むごたらしい死を迎える、そういったことばかりが頭をよぎっていた。
みちるも同様だった。だが、このままでは恩師は死ぬ。それはここまで育て上げてくれた彼女に対して失礼ではないか。その思いのおかげで何とか勇気を奮い上げ、再び銃を強く握りしめて構えなおした。
包囲や回り込むには時間が足りない。これ以上の被害を拡大させるわけにはいかない。まりもごと兵士級を撃ち抜くほかない。だが、それしか方法は無いのだろうか。みちるは究極の選択を迫られていた。
まりももそれを察したようだ。
「中…佐、私に…構わず、撃って…………撃ってください」
必死に微笑んでみちるを楽にさせようとするも、みちるは引き金を引ききれなかった。
「駄目だ…………!私には、私にはあなたを撃てないっ!」
思わず涙を流してしまっていた。トンカッチが回り込もうとするも、体が鉛のように重く動けなかった。そして、まりもは覚悟を決めた顔つきに変わった。
「………伊隅ぃ!貴様…また………訓練校のときのような、いい子ぶった奴に逆戻りか!?」
「違うっ!私は、そんなこと!」
「黙れぇ!…せっかく成長した姿を見れたと思ったら………このざまか!?ああ!?」
「私は………私はぁ!」
覚悟を決めたみちるは、重く鈍い引き金を引いた。
冬の夕空に乾いた音が鳴り響いた。
本編まりもちゃんは無理だわ。じゃけん内容は変えたわ。
今回の友情出演組です。(敬称略)
ジェームズ・スミス(@Lt_smithFFR41mr)
霧雨アロナクス壱型丙(@Ke78684Hasunuma)