Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ! 作:tonkacchi
2001/12/10 17:25
みちるは引き金を引いた。夕暮れの赤く染まった大地に、真っ赤な血が飛び散る。涙こそ流していたが、視界ははっきりとしていた。正確に放たれた弾丸がまりもの胸を貫き、奥の兵士級に命中する。
頭に命中した兵士級は活動を停止し、まりもをつかんでいた腕がほどける。その場にドサッとまりもは倒れこんだ。トンカッチはふと我に返ってメディックを呼ばせる。他の歩哨も周辺警戒を厳となした。みちるはすぐにまりもに走って駆け寄る。武はショックのあまり動けずにいた。
「教官………神宮司教官!」
銃弾は胸に当たっている。血がなかなか止まらず、地面に血の池を作り上げ始めた。すぐに簡易救急キットを取り出し、止血用のタオルを使用する。だが、すぐに真っ赤に染まり新しいのに変える。どんどん顔色は悪くなっている。真っ青というのが正しいのかもしれない。
せめて苦しさだけは取り除かせようと、鎮痛剤を投与する。もはや助かることはない。だが、せめて苦しんで死なないようにしようとした。苦悶に満ちた顔から少し安らいだ顔に変わった。
「大丈夫ですか、教官!?」
「伊隅中佐………私は、軍曹ですよ。そのような物言いは、おやめください」
「今そんなこと言っている場合ですか!?私は………」
「まったく………いいか伊隅、そういうのを直せと散々言ってきただろ?……私が撃てと命令した、貴様はそれに従っただけに過ぎない。軍人として正しい行いをしただけだ。………違うか?」
「しかし―――」
「しかしもクソもあるか!………久しぶりにこうやって怒鳴ったな、伊隅」
会話こそはっきりとできるものの、声は徐々に弱くなっているのを感じた。
「伊隅………私の今の教え子たちはきっと貴様の部下になるはずだ。あまり厳しくし過ぎるなよ?私みたいに…嫌われ役になる必要はない」
そして胸元から封筒を渡した。
「ちょうど今日訓練をすると聞いてな…渡せたら渡したかったものだ。…………こんな渡し方にはしたくなかったがな」
中には手紙を写真が入っているそうだ。
「教官………!…………今まで、本当にお世話になりました!」
「…………後は…頼んだぞ」
みちるとまりもは互いに敬礼した。まりもは優しく微笑みながら手を降ろした。そして、二度と動くことはなかった。
「メディックここだ、早く来い!みち……る?………そうか、いや何でもない。だからもたもたせずにさっさと来い!」
メディック到着後、まりもはストレッチャーで運ばれていった。
「みちる…きっと軍曹は助かるはずだ。だからそこまで気に病む必要は―――」
「私が撃った。これは変わらない事実なのよ、一生変わらない事実なの。…………ねえトンカッチ、私はどうするのが正解だったの?ねえ、教えてよ!」
トンカッチにできることは、みちるを抱きしめて慰めることしかできなかった。少しして落ち着いてから、病院に行くように指示した。フラフラとよろめきながら、みちるは村雨に乗り込んで病院へと向かった。トンカッチは武の方を見た。発狂一歩手前までいっていた。
「武、お前も大丈夫か?」
「駄目だった…………まりもちゃんを、また助けられなかった!クソクソっ!どうして………どうしてだよ!どうしてこうなっちまうんだよ!」
武は地面に思いっきり拳をぶつけていた。
「もしかしてだが、こうなることはお前は知ってたのか?」
「………はい」
「少し酷な話をするぞ。じゃあ何で知っておきながらこのようなことが起きた?未来を知っているのなら、神宮司軍曹があんな風になるのは避けられたはずだろう!?」
「ええわかってましたよ!?だけど、体がなぜか動かなかった、口も思ってもないことをべらべらと喋るだけで、本当に言わなきゃいけないことが全然言えなかったんですよ!」
手を見ると、ずっと震えていた。恐らく悪酔いの影響が引きずったままだったのだろう。だから、この惨劇を回避することは難しかったのだろう。
「…………分かった、すまなかったな。それともう一つばかりお願いがある」
「…何ですか」
「みちるが軍曹を撃ったのは見ていたな?だがそのことをアイツには責めないでやってほしい。…頼む」
「分かってます。伊隅中佐は正しいことをした、何も間違っていませんよ」
そして武も後から来た救急車に乗せられて、病院へと搬送された。しばらく現場に残っていると、ジェームズたちがやってきた。彼らは別の場所の残敵確認に回っていた。
「あっ、中佐。先ほど個々のエリアから発砲音がかなりしましたが、何かありました?こっちは何もいなかったので引き上げてきたのですが」
トンカッチは黙りこくってしまった。
「おいトンカッチどうした?おい、しっかりしろ。何があったか落ち着いて話せ。…トンカッチ?」
トンカッチは兵士級の死骸と、人の血だまりを指をさした。
「まさか、伊隅中佐じゃないよな?」
「ああ、別の人間の血だ。…だが、彼女の心は深く傷ついた。今はそれしか言えん」
何かを察した3人は、すぐにトンカッチにみちるのそばにいてやるように言った。トンカッチは村雨を起動し、病院へと向かった。
18:00 病院
トンカッチは急いで手術室前まで走っていった。着替える暇など無く、強化装備のままだったが、別に入るわけではないので受付で許可された。2階の最奥の集中治療室にいるそうだ。手術棟には多数の重軽傷者がいつもひっきりなしに運ばれてくる。なかには今日の戦闘での負傷者もいた。中程度以下のものは、床に寝かされて待機させられていた。
廊下は痛みに悶えるうめき声でひしめいていた。中にはトンカッチに助けを求めてしがみつく者もいた。手の空いている者もおらず、なかなか放してくれない。だが、一人だけ応えて他に応えないのは不平等だ。だからと言って全員に応えるわけにはいかない。後で戻ると告げて、無理やり手を放してその場を離れた。道中で看護師に廊下の負傷者の手当てを急ぐように指示した。
再び走り出し、いくつかの扉を開けた先にのベンチにみちるは座っていた。彼女もまた強化装備のままだった。
「軍曹の容体はどうなってる!?」
「分からない…今は、意識不明の重体だって」
中からは必死に手術する音がしている。少しすると、アラーム音が鳴り響いていた。かすかに聞こえたのは、心肺停止という単語だった。
トンカッチ到着から約1時間後、手術中のランプが消灯した。手術室から担当の男性医者が出てくる。彼が全てを話す前にみちるは奥のバイタルモニターを見てしまった。それは全てフラットになっていた。そして医者は話し始めた。
「伊隅中佐とトンカッチ中佐ですね…。我々は最善を尽くしましたが、残念ながら…………」
2人は手術室内の立ち入りを許可された。後で全消毒するから構わないそうだ。中には、時の止まったデジタル時計が一つあった。そこには19:08と表示されていた。壁にかかった時計では19:30となっており、ずれていた。デジタル時計の時刻は、医者が患者の死亡を宣告した時刻だそうだ。
トンカッチはみちるをまりものそばに行かせて、医者と距離を離させた。全ての真実を知ってしまったら、みちるがどうなるか分かったものではなかったからだ。
「すまないなドクター、それで軍曹はどうなったか小声で言ってくれ。あいつには俺から言っておく」
「分かりました。神宮司まりも軍曹についてですが、臓器の重度損傷もありましたが、致命的なのは胸部からの多量出血でした。見たところ、銃弾の貫通とお見受けしましたが……」
「ああ、その通りだ」
「まさか、伊隅中佐が―――」
「それ以上言うな!……アイツをこれ以上傷つけさせるわけにはいかん。分かるな?」
「………中佐のご命令とあれば」
医者はその場を後にし、別の患者のもとに走っていった。一方のみちるは、まりもの亡骸を前にして泣き崩れてしまった。手には封筒があった。震える手で開けようとするも、上手く開けれなかった。代わりにトンカッチが封筒を開けた。
中に入っていた写真は、みちるとまりもが仲良く笑顔で肩を組んでいるものと、少尉に任官されたときの写真だった。他にも数枚ほど入っていたが、どれも2人が笑顔なものばかりだった。もう一つ入っており、手紙が入っていた。これを読むわけにはいかないので、そっと元に戻してみちるに返した。
トンカッチは手術室を後にした。隣にいてあげたいが、彼女には一人で整理するための時間が必要だ。トンカッチは廊下に戻り、負傷者の手当ての手伝いを始めた。
23:00
トンカッチは病院から戻り、自室に帰還した。訓練と、その最中の事件の詳細、発砲事件についての報告書をまとめ始めた。訓練と事件での戦闘中についての報告書は簡単に書けた。書く内容など基本戦闘推移だの反省点だのを書くだけにすぎない。問題は発砲事件についてだ。
まりもからの指示とは言え、友軍ごとBETAを始末したのは若干問題がある。それこそ小説やメディアなどでは美談として語られるだろうが、現実はそんなに甘くはない。まりもの死因は胸部からの多量出血が原因だ。BETAに殴られた腹部は死に直結するものではない。
また、周りの人間の対応も問題があった。さっさと走って回り込んでBETAのみを撃ち抜くことも可能だったはずだ。だが、誰ひとりとして動くことができなかった。これが特に問題だろう。
トンカッチは、それらを全て事細かに書こうとしたが、どうにもまとまらなかった。悩んでいるとき、ドアがノックされた。
「誰だ?」
「俺だよ、トンカッチ。ちょっとお前、ついてこい」
ノックしたのはジェームズだった。報告書がまとまりそうにも無いし提出期限は明日なので、ジェームズについていった。冬の夜は冷えるため、コートを着ていった。向かった先は、憲兵隊本部だった。別に出頭命令が出ているわけではないが、とある事情があって連れてこさせられていた。
「トンカッチ中佐と、ジェームズ少佐ですね。奥の部屋へどうぞ」
案内された部屋は少し広く、真ん中に机が一つ置いてあった。2人は座るように指示された。しばらくすると、憲兵の腕章をつけた少尉がパソコンをもって入ってきた。机の上にパソコンと書類を広げる。そして映像を見せてきた。それは、トンカッチの村雨のカメラ映像だった。ちょうど発砲事件発生時刻と一緒だった。
「今回お二人を呼んだのは、この映像で流れる発砲事件についてです。中佐と少佐には事実確認をしたく思い、ここまで来ていただきました。夜遅くで申し訳ありません」
別日にすれば良いのではないかと少尉に聞いたが、とある事情により至急で確認したかったそうだ。しばらく動画を見て、みちるが発砲したシーンまで早送りする。そして、発砲のシーンを見る。やはりみちるの放った弾丸が、まりもの胸を貫いて兵士級に着弾していた。
「………この映像の通りだ。音声も入っているなら前の部分も確認しておけ。一応、神宮司軍曹が自分ごと撃つように指示している」
「ええ、そういったことから我々憲兵隊は同士討ちとしては認めていないんです。ですが…………」
そういって少尉は書類を渡した。そこには自首願いが出されていた。自首したのは、みちるだった。数分前に来ており、友軍を撃ったと言ったそうだ。そのため、すぐに拘束からの尋問室行きだったそうだ。だが、それを見た少尉は不審に思い話を聞いていたそうだ。すると、今回の事件についての話だったそうだ。
少尉はこの事件の現場に赴いており、資料はすべて目を通していたので違和感に気づいたそうだ。
「やはり現場にいたトンカッチ中佐に聞いておきたくて至急で呼んだんです。電話でも良かったんですが、向こうの部屋で伊隅中佐本人が居られるもので、一応といった形で」
「なあ、俺いる?」
「ジェームズ少佐も一応あの後、現場の調査に協力していただいたので」
「なるほどね~」
しばらく事実確認をして、隣の尋問室に入った。みちるの顔は、酷く泣いてぐしゃぐしゃになっていた。尋問担当の中尉も若干困り顔だった。
「中尉、どうでしたか?」
「ああ、ずっと自分が殺したの一点張りだ。こっちとしては、別に事件として見てないから釈放したいんだがな」
そう言いながら中尉は少尉に手帳を見せてきた。憲兵隊規則と書かれた手帳には、容疑者が自首した際の扱いについて書かれている。本人が罪を犯したと自白し続けている限り、被疑者のままだと書かれていた。要するにトンカッチは説得のために呼ばれたということだ。
「トンカッチ中佐、申し訳ないが伊隅中佐を説得していただけませんかな?彼女の活躍は我々内勤組でも話題になっている。…このようなところに勾留するような方ではない」
「了解した。では、中尉と少尉は外に出てくれ。後は俺と少佐で何とかする。ついでに監視カメラもここだけ切っておいてくれ。プライバシーにかかわる話なんでな。…夜遅くまですまなかったな」
「いえ、我々にできることはこれくらいですので。それでは失礼いたします!」
2人は外に出て行った。椅子を持ってきて、トンカッチとジェームズは座った。カメラを確認すると、電源が落ちていた。しばらく沈黙が続いたが、それをジェームズが破った。
「…なあ、中佐。俺は今まで色々な部隊にいたんだ。何故かわかるか?それはな、俺の味方は出撃のたびに全滅しちまってんだ。唯一全滅しなかったのはThree idiotsの時だけだ。恐らくアンタより仲間を失った経験は多いんだ。もちろん、味方を殺したこともある。その中には友人もいたさ。…だけどさ、これは戦争なんだ。そうやって割り切るしかねえよ?」
「…………」
「映像も確認したけどよ、あれは軍曹が言ったことじゃねえか。アンタと軍曹がどれ程の絆で結ばれているのかは知らねえが、アンタは軍人として、一人の人間として正しい行いをしたと思うぜ?だから―――」
「みちる、さっきは優しく慰めてやったが本心を言ってやる」
トンカッチがジェームズに割り込む形で話し始めた。
「自分が神宮司軍曹を殺したから、一生この罪は消えることはない。そう言ってたよな?そうだ、お前のせいで神宮司軍曹は死んだ」
そう言って、トンカッチはポケットからボイスレコーダーを取り出した。流れた音声には、医者の死因についての話が録音していた。
「死因は胸部からの多量出血だ。鎮痛剤のおかげで痛みはそこまでひどいものではないそうだが、ずっと苦しかっただろうな」
「おいトンカッチお前!」
ジェームズはトンカッチの首をつかんで、壁に押し当てた。
「お前、自分が言ってることわかってんのか!…みちるさんは辛い思いして撃ったんだぞ!?それを貶すように言いやがって!」
トンカッチはそれを意に介さず、続けた。
「お前は一生このことを自分に言い続けていくんだろうな。違うか?今まで俺が見てきた伊隅みちるという女は、所詮はその程度の女だったということだったんだな!他の部下が死んだときは桜の木に埋めてさっぱりと忘れてたくせに、自分の恩師になったらイジイジと泣き続けるのか!?とんだ偽善者だなお前は!?」
ジェームズは思いっきりトンカッチを殴った。本気のストレートがトンカッチを吹き飛ばした。そして、再びつかみ上げて殴る。
「何言ってんだお前は!お前は友人や恩師を撃ったことがあるのか!?大事な人を失う痛みを感じたことはねえのか!」
「黙れ!」
トンカッチはカウンターパンチをジェームズにお見舞いする。不意の一撃だったので、ジェームズがよろめいて後退する。そこに追撃するように、重い一撃を腹に打ち込む。ジェームズはその場に倒れこんでしまった。そしてみちるの方に再び顔を向ける。すると、彼女はフラフラと立ち上がっていた。
「私は…………私は偽善者なんかじゃない!引き金を引いていないあなたに、何が分かるってのよ!」
そう言って、みちるはトンカッチに殴りかかってきた。その拳を手で受け止め、腕をつかんで投げ飛ばした。大きな物音を立てたが、奥だった故誰も気づいていなかった。
「お前から見たら分からないように見えるだろうな!?…だがな、後悔し続けたって軍曹は戻ってこねえんだよ!お前がどれだけ悔やんだとて、十字架を切ったところで軍曹は帰ってこない!死人は…………決して戻ってこない!だけどな、俺たちの魂には残り続ける!俺らが忘れない限り、一生だ!」
トンカッチはみちるを起こす。そして、優しく抱きしめた。
「だから、俺たちは死んでいった者たちのために、ずっと彼らの生きた軌跡を覚えて行かなきゃダメなんだよ!それを糧にして戦い続ける、それが、俺たちにできる唯一の贖罪なんだ!だから、そんな悲しいことを言い続けるな。みんな同じだ。俺だって同じだ。だから…………もう自分を責めるな」
しばらくしてから、尋問室を見に少尉がやってきた。部屋の中は荒れており、椅子や机は破壊されており、3人がぐったりした様子でいた。全員怪我をしていた。
「3人とも何があったんです!?と、とにかく誰か呼ばなきゃ!」
「おい、少尉。ちょっとこっち来てくれや」
トンカッチが少尉を近くに呼んだ。そして、みぞおちにパンチを入れた。
「さて2人とも、ここから急いで逃げるぞ?暴力沙汰になったことがバレたら本当に憲兵隊行きだからな」
そう言って、トンカッチはメモを少尉の手に差し込んで、尋問室から抜け出した。メモには、今回の件については黙っているように書いておいた。帰る際に、中尉に尋問室の立ち入り禁止と、カメラを後1時間ほどは戻すなと命令した。そうして、トンカッチたちは酒場まで退避していった。
こんな夜中までやっているのは、ジャンヌしかない。そこで3人は追悼の意を込めて、酒を飲んだ。
『死にゆくものに敬礼を、生きるもののために戦いを、守る者のために勝利を』
そう言って彼らは別れていった。
いろいろ迷った結果の今回の話でした。
色々考えた結果の末がこれです。
今回の友情出演組です。(敬称略)
ジェームズ・スミス(@Lt_smithFFR41mr)