Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ! 作:tonkacchi
KIAとは:Killed in action、戦死の頭文字を取ったものである。
4:45
突入部隊が編成され、準備が開始された。みちるが率いるA-01、沙霧
「作戦開始時刻を0450に設定する。この時刻から、地獄が始まると思え!」
『了解!』
装備の再チェックを済ませていると、艦隊旗艦の最上から通信が入った。内容は、データ解析の結果だった。解析の結果、ここ一帯は地盤が固く見えるだけで、実際は空洞だらけの危険地帯ということだった。霧雨はこれを知らず知らずのうちに、データとして残していたのだ。
空洞になる原因は様々だが、この佐渡島には過去に鉱山があった。金が取れていたそうだが、その時に掘った穴が埋められていないのだ。そのため、複数個所が地盤崩落の危険性があるのだ。また、その穴を通ってBETAが移動している可能性があった。だから、BETAが奇襲に近い動きができたということだ。
そして、危険地帯をマップに反映させる。該当箇所には、多くの戦闘部隊がいた。このままでは、地盤崩落に巻き込まれるかBETAに奇襲されてしまう。すぐに連絡を入れようとするが、なかなかつながらない。それもそのはずだ。現在も重金属濃度は高水準で、通信など有線で引いてあるところしかつながらない。現在の地点は、上陸地点までの通信網が設営されているため通信が可能というだけに過ぎないのだ。別の部隊は、そのような地点を確保などしていない。
伝令のため、旧型機を2機向かわせることにした。そして、作戦開始時刻になった。凄乃皇を囲むように、各部隊は展開した。未だに凄乃皇の死守は絶対だった。この命令は、作戦終了まで生き続けるものだ。ラザフォード場による危険エリアになるところは伝えておいた。味方による被害も避けられるだろう。
「しかし、久しぶりのハイヴ内部だな。如月、今回は大丈夫そうか?」
「ええ、もうこいつは暴走なんてしませんよ!それに、暴走したら駒木に撃墜してもらうように言ってあるんで!」
トンカッチと如月に関しては、2回目のハイヴ内部になるのだ。内部構造やルートは変わっておらず、主広間までの道のりは楽なものであった。これまでの抵抗の量とは打って変わり、全くと言っていいほどBETAは出現しなかった。偽装縦坑・横坑ともに見つからなかったのだ。そのため、何の苦労もなく主広間に到達した。
「よし、ここで地点防衛のために戦力を割いておこう。斯衛軍の方々にここを防衛してもらうことにしたいが、問題ないか?」
「了解しましたわ。ここは私、崇宰恭子以下斯衛軍が預かります。伊隅中佐、ご武運を!」
彼女たちが地点防衛についてくれたおかげで、退路の確保は盤石なものとなった。仮にこの先で襲撃を受けても、この場所まで戻ってこれば安泰だからだ。そして一歩、また一歩と反応炉へと進んだ。
しばらく侵攻し、反応炉に到達した。本当に何も襲撃がないのだ。周辺索敵を開始し、状況を整理する。元々使われていたと思われる横坑は確認できたが、そこにもBETAは1匹もいなかった。
「トンカッチ、この場合はどうするのが正解なのかしら?」
「一度、状況を香月副司令に連絡するべきだ。恐らく、反応炉の制圧をしろって言うんだろ?」
有線での通信が可能だったので、することにした。少しノイズが混じっていた。
「香月副司令。反応炉まで到達したのですが、この後の指示を願います」
「普通なら制圧をするべきなんでしょうけど…BETAが道中に存在しないってことは、隠れてる可能性が高いわね。…………いいわ、制圧をしなさい。うまくいけば、基地として再利用することもできるから壊さないでちょうだい」
予想通りの回答だった。そして、偽装通路と暴走状態には気を付けるように念押しされた。カメラをズームして確認する。反応炉はかなり大きく、青白く光っていた。しかし、その前に黒い影が見えた。さらにズームをする。
「こいつ…………司令級じゃねえか!?」
すぐに突撃砲を構える。だが、全く攻撃する様子を見せない。前回の接敵時は即座に触手を飛ばしてきたが、今回は全くその気配がなかった。しかし、その背後の壁面から他のBETAがわらわらと出てきた。司令級は非常に硬い。倒すには多対1の構図に持っていく必要がある。すぐに周りのBETAを迎撃し始めた。
突撃砲による強力な弾幕形成により、凄乃皇には一切近づかせない。突出してくるBETAには長刀を振り下ろす。しかし、今まで接敵しなかった分が一気に放出されたのか、BETAの波が止まらなかった。弾薬は現状問題なかったが、これが続けば足りなくなるのは明白だった。有線通信にて補給コンテナを輸送するように命令した。しかし、地上も状況は最悪なものとなっていた。
「こちら地上、現在BETAが地下から多数出現!それほど長くは持たせることはできません!」
「同じく地上、伝令です!伝令途中に目標地点から地盤崩落を観測しました!地盤崩落地点には戦術機甲部隊が多数おり、生存部隊がBETAの襲撃を受けています!」
ハイヴでの出現と同時に地上にも出現したようだ。戦闘が長引けば地上部隊は殲滅され、突入部隊も脱出することが困難になる。残り30分は持たせれる想定だそうだ。後30分で終わらせなければならない。
次々とBETAを撃破していくと、ついに終わりが見えた。反応炉周りの壁面からBETAが侵入してこなくなったのだ。残っているのは排出されたBETAのみだった。要塞級や突撃級もおらず、比較的楽な戦闘だった。武装を再装填し、最後に残った司令級に照準を合わせる。120㎜では致命的打撃こそ与えられないが、ダメージは入る。それにより怯んだところを、近接戦で撃破する算段だった。
一斉発射をしようとタイミングを合わせようとしたが、突如触手を動かし始めた。しかし、伸ばした先は同族のBETAだった。種族は様々だったが、次々に刺していく。意図が全く読めない。とりあえず、120㎜を司令級に砲撃していく。弾着直前、突撃級が急に現れて盾になった。突撃級は木っ端みじんになったが、その後ろにいた司令級にはダメージが入っていなかった。
さらに、奇妙な行動は続いた。触手を刺しこんだBETAを自分の近くに持って行ったのだ。それを、人を模したような形へとパズルのように置いていく。最終的に、戦術機をまねたような形に変わった。この間わずか20秒の出来事だった。その出来栄えは、20秒にしては異常なほど完璧に特徴を真似ていた。武装こそ人類側の兵装を持っていないが、代わりに光線級を1体有しており、突撃級をシールドとして保持している。
「…こいつは見とれている場合じゃねえな!」
トンカッチはすぐに長刀を引き抜いた。変な行動をする前に始末してしまえば、問題はない。ましてや人型だ。仮にも戦術機を模しているなら、その動きをトレースされたら厄介極まりない。
そう思い、長刀を振り下ろす。だが、突撃級シールドでブロックされる。間髪入れず零距離で120㎜を撃つ。だが、ひらりと避けられた。一度後退し、その間に他の部隊が射撃を浴びせる。命中弾は多数あったが、奴のパーツの一部が剥がれた程度だった。
「ジェームズ、ショットガンの威力はどの程度あるか分かるか?」
「零距離なら戦術機は軽く吹き飛ばす威力はある!」
「なるほど了解だ!」
長刀を片手に、ショットガンを持つ。ユウヤも近接戦闘に参加しようと、長刀を取り出す。他の機体が射撃により援護を開始した。36㎜を突撃級シールドで防がれ続けたが、その間は動けなくなっていた。その隙にトンカッチがショットガンを至近距離で発砲する。先ほどとは打って変わって、怯みのようなものを感じた。それに合わせるように長刀を左右から挟み込むように振る。刃先は完全にBETAを捉えていた。だが、バックステップにより躱される。
しかし、それを先ほどまでの動きから予測することは可能だった。この人型BETAは回避行動に秀でている。避ける方向さえ考慮して攻撃すれば、簡単に位置を固定することができる。たまたまユウヤが合わせてくれたため、予測通りの位置にBETAは移動した。そこにショットガンを撃ち込む。ついにBETAの右腕を吹き飛ばすことができた。
だが、奴はまだ動いていた。吹き飛んだ右腕の付け根からは、触手がだらりと垂れていた。頭部の位置に値する司令級の部位が光り始めた。
「全機散開!こいつはレーザー攻撃持ちだ!」
無理やり頭部に長刀を突き刺して射線を外す。レーザー発射時には頭部は上を向いていた。レーザーが内部の天井を勢いよく焼く。レーザーの光が消えるとともに、人型BETAは活動を停止した。しかし、村雨が不調を起こし始めた。
「火災警報?おまけにフレームの損傷も発生してるが、どうにもそのようには見えないのだが。おい、ユウヤ。俺の機体、燃えてるか?」
「いいや、燃えてないですよ。急にどうしたんです?」
だが、エラーメッセージが止まらなかった。その影響で、機体も動かなくなり始めた。同様の被害は、突入部隊ほぼ全機に発生した。レーダーも機能不全を起こし始め、戦況が全く読めなくなった。
「この感じは………各機、機体を一度再起動させろ!このパターンはシステムの暴走一歩手前の状態だ!」
再起動するため、シートの下にあるスイッチをオンにする。このスイッチは強制再起動用のものだ。ここまでの暴走状態のフィードバックの結果だ。アルゴス試験小隊の機体が早めに再起動し、周辺警戒に当たった。どうやら彼らに不具合は見られなかったようだ。続いて村雨以外の戦術機が再起動完了する。XM3を搭載しており、システムログにはエラーログが大量に残っていた。だが、そのどれもが誤作動によるものだと自己診断がされていた。
最後に村雨が再起動する。みちるの村雨には異常がなかった。だが、トンカッチの村雨は異常を残したままだった。システムメッセージにXM3側からの物が表示されていた。
『任意発動可能:対象 リミッター解除 パターンXM3F Y/N』
XM3に換装した際に、まだXM2Aの要素が残っていたようだ。引継ぎ作業を
「仕方なし、か。……各機に通達。これより、本機はXM3Fに移行する。簡単に言えば、暴走状態になる。ある程度は制御できるが、制御ができないように見えたら、即刻撃墜してくれ。俺を殺してくれて構わない。以上」
パネルにYを入力した。機体が大量に排気口からエアーを大量に噴出させ、機体各所の吸気口が全解放される。各種センサーユニットのカラーが青白く変化する。村雨は、XM3F使用時に移行した。
しばらくすると、地面が揺れ始めた。日本特有の地震かと思い、すぐにデータを参照したが違っていた。このパターンは、地盤崩落の予兆だった。ハイヴが地盤崩落するという前代未聞のことが起きようとしているのだ。しかし、この周辺には坑道は存在していない。すると、地面からBETAが大量に出現した。
「出やがったなクソ野郎ども!」
光線級がいないことを確認し、機体を上昇させる。地揺れなど、空を飛んでしまえばいいのだ。空中から射撃を浴びせる。BETAが湧くと同時に、高威力砲弾を叩き込む。さらに地揺れがひどくなり、大型種が排出され始める。その中には、要塞級も大量にいた。弾薬はそろそろ足りなくなってきており、近接戦で節約し始める機体も出始めた。
「要塞級ぐらいなら、長刀1本で足りてるんだよぉ!」
武が長刀で突撃する。彼の独創的かつ変態的な機動に、BETAもついてこれていなかった。もはや遊んでいるようにさえ見える。こうなってくると、部隊で活動させる必要などないのではないかとトンカッチは思った。
「だが、XM3Fを打診してきた割にはBETAが弱いな?」
人工知能だとしたところで、未来予測ができるわけではない。所詮は統計学だ。さっきの状況では、強敵の出現をシステムが統計学的に予測しただけに過ぎない。今回はそれが外れただけだ。そもそもBETAは予測のつかない行動ばかりだ。今回もそれに該当しているのだろう。地揺れが収まり、各機が集まった。未だに損害はなかった。だが、残弾が心もとなくなっていた。
「みちる、ここは一度退くべきだ。外の連中も気になる」
「………いや、ここは死守するべきだ。現在はBETAが散発的に出現している程度だが、ここを離れた瞬間に急増する可能性も捨てきれない」
どちらの意見も的確だった。そのため、地上に戻る部隊と残る部隊に分かれた。みちるが残り、トンカッチは地上に戻ることにした。その際に、XM3Fはシャットダウンすることにした。下手に起動したままだと、機体と自分への負荷が異常になるからだ。残留部隊には、エコー部隊とアルゴス試験小隊が編成された。地上に戻るのはA-01と凄乃皇、第1大隊だった。
元来た道を戻る途中、トンカッチたちは軽い雑談をしていた。
「全く、今回は暴走しなくてよかったぜ!去年だったか?あの時は最悪だったからな………」
「あの時は本当に最悪でしたよ。機体は動かせなくなったと思ったら、機能停止するし、助けがなぜか来たりするし、意味が分からなかったですよ!?」
以前の作戦でハイヴで孤立した経験があるトンカッチと如月は、若干苦笑交じりで話した。主広間に到達し、斯衛部隊がいることを確認する。全機健在だった。恭子の機体から通信が入る。
「あら、トンカッチ中佐が何故ここに?まさか、作戦失敗とか―――」
恭子の声を塞ぐように、ジェームズが割って入る。
「馬鹿野郎、失敗してたらもっとボロボロになってるっての!それに、やばくなったときは連絡が途絶えた時だって一番言われてんだぜ!?だから通信の繋がる今のうちは安全だってこと!」
ジェームズは冗談半分で言った。しかし、恭子は真剣な声で返答した。
「…ジェームズさん、それ本気で言っていらっしゃる?中佐たちが今戻ってきてから、通信にノイズが発生して不調をきたしていますの。それも、反応炉に向かった部隊との通信ですわ。有線が断線したものだとばかり思ったのですが、もしかして―――」
「おい、トンカッチ。すぐに回線開けるか!?」
「馬鹿、お前がやれ!俺の機体の通信機能はその場しのぎだって知ってるだろ!?」
すぐにジェームズが通信回線を開こうとする。だが、全く反応がなかった。時折かすかに聞こえるものでさえ、ノイズでかき消されてしまっていた。
「トンカッチ、反応炉残留部隊との通信途絶!どうする―――」
「A-01各機、急速反転!速やかに残留部隊と再合流する!凄乃皇と第1大隊は地上に退避!」
意味がないと知りつつも、通信回線を開こうと試みる。有線も無線もだめだった。さらに、天井からパラパラと崩れ始めていた。時間は残されていないことは明白だった。
「早く行かないといけねえんだよ!…どけ!」
BETAからの妨害を受ける。このクソ忙しいときにだ。だが、斯衛軍が後ろから援護射撃を飛ばしてきた。
「斯衛か!?何故来た!」
「仮にも崩落するのなら、あそこを守っていても意味無いでしょう?だから、ここの敵は引き受けます。…早くお行きなさい!」
すぐにA-01は元居た地点まで帰還する。かなり崩落が始まっているようだ。反応炉の制圧は諦めるほかないだろう。
「みちる、反応炉は諦めるしかない!さっさと脱出命令を出すんだ!」
「…了解!全機、この場を急速離脱!今すぐに――」
「伊隅中佐、3時の方向より高熱源を感知!」
すると、レーザーが放たれた。ギリギリ追加装甲で防ぐ。照射元を逆算し、ロックオンする。そこには、BETAがいた。だが、光線級ではなかった。さっきの人型よりもっと進歩した、戦術機の形をしたBETAだった。先ほどのBETAと違い、つぎはぎではなかった。最初からそういう目的で作られている。今までの採掘ユニットではなく、明らかな対人類用のBETAだった。
「…………トンカッチ、後は頼む!」
みちるは、リミッターを全て解除させた。XM3Fの表示が出る。みちるは一回も暴走状態を経験していない。だが、この際仕方のないことだった。一番BETAに近いのがみちるだったのだ。他の部隊は、動こうにも動けない状況になっていた。中には、地面に機体が挟まった機体まで出る始末だった。さらに、光線級警報が鳴る。もう高度を取ることはできない。地面すれすれの匍匐飛行か、主脚走行しかない。
だが、みちるは一気に高度を取った。BETAがレーザーを初期照射する。
「クールタイムは通常の光線級と同様ね。だが、遅い!」
高度を取ったおかげで、位置エネルギーを確保する。それを利用した加速により、長刀の威力も増す。
「もらったぁぁ!」
しかし、振り下ろした長刀は地面を捉えてしまっていた。背面ががら空きになってしまった。その背中を押さえつけるように、戦術機もどきのBETAが襲い掛かる。背中の長刀を、兵装担架ごと奪われてしまった。奪った勢いそのままに、長刀を振り始める。さすがに長刀の戦闘は、BETAにはない動きだった。そのため、全く脅威にはならない。
だが、徐々にBETAなりに形になった戦闘スタイルを確立する。攻撃頻度が増していく。それに対して、みちるは防戦一方だった。XM3Fの真価を発揮しきれていなかった。この状態は、攻撃行動の際にフルスペックを発揮する。防御など考えていないのだ。それを知らないみちるは、防御を取り続けていた。それを見ていたトンカッチは、援護射撃をしながら通信を試みた。
「馬鹿野郎!そんな戦い方をしてると、お前の方が先にへばっちまうぞ!早く攻撃行動に移れ!」
しかし、通信は届かなかった。だが、みちるも薄々気づき始めた。
「このプログラムは、攻撃戦に特化しているというの!?なら、私の苦手とするところといった感じかしら?」
試しに、蹴りを入れてみる。回避するべく、BETAは距離を取る。しかし、距離の取り方が甘い。ただ下がるだけでは、距離を取るとは言えない。その後隙も消して、初めて「距離を取る」と呼べるのだ。脳から伝達されるよりも早く、みちるの村雨は動いていた。長刀を投げつける。それと同時に短刀を引き抜く。
「…………こいつ、私の思っている通りに動く?」
みちるは、戦術機と自分が一緒のような感覚を覚えた。人馬一体というにはあまりにもシンクロしすぎていた。機体の先から芯まで自分の体とリンクしているように感じるのだ。それを覚えながら、みちるの攻撃は徐々に激しくなっていく。普段は使わない、モーターブレードまで使用し始めた。
「何よこれ…こんなに戦術機って簡単に動かせたの!?」
何度も短刀とモーターブレードで切り刻み、BETAは活動を停止した。だが、みちるは止まらなかった。死体となったBETAに何度も攻撃を続ける。ようやく到達したトンカッチが、みちるの村雨を制止する。
「おい落ち着け!もう死んでるだろうが!」
「まだだ!こいつは殺さなきゃダメ!このクソ異星人どもがぁ!」
トンカッチの村雨を突き飛ばす。みちるは混乱状態に陥っていた。夢と現実の区別がつかない状況と同じだ。今みちるの目の前に映るものは、全てBETAなのだ。トンカッチもBETAに見えてしまうのだ。極度の緊張状態、不期遭遇戦に大部隊を指揮するプレッシャーに薬物投与がとどめを刺した。すぐにトンカッチがなだめようとする。
「落ち着いて深呼吸するんだ!いいか、落ち着くんだ!…そうだ、ゆっくりと息を吸え。そして、吐くんだ」
少ししてようやく落ち着き始めた。徐々に現実が見え始める。すぐにXM3Fをシャットダウンさせる。かなり村雨に無理をさせていたからか、膝から崩れ落ちるようにして機能を停止した。みちるは、若干ふらつきながら再起動させる。
「おい大丈夫か?意識はあるか?」
「……ええ、何とかね。このシステム、私には扱えそうにないな」
「まあ、俺に合わせて作られてるからな。後で封印処置をしておくから安心しとけ。とりあえず、今は脱出に専念するぞ!」
今度こそ離脱を図るべく、反転した。だが、足元が急に崩れた。さらに、地面から数本の触手が生えてきた。先端には衝角がついていた。要塞級のもので間違いない。衝角がトンカッチの村雨の右半身を切り裂いた。
「なっ…!地面から生えてくるんじゃねえクソが!」
その場に倒れてしまう。他の部隊は撤退しており、残っているのはA-01のみだった。すぐにジェームズと速瀬が駆け寄る。
「おいトンカッチ、大丈夫か!?」
「…俺に問題はない!だが、村雨はもうダメかもしれないな。一応飛行は可能だが、念のため補助についてくれ!」
速瀬の秋月が補助に入る。地面の安定する地点まで後退しなければならない。そうすれば、この状態の村雨でも飛行できるだろう。だが、撤退しようとする彼らの背後からBETAが大量に出現した。ジェームズとみちるが対処に入る。
「こっちはさっさと帰りたいってのによ!」
「…殿は私が勤める!少佐はトンカッチと一緒に撤退しろ!」
「おい待て!みちる、もしかして死ぬ気じゃないだろうな!?」
そのトンカッチの問いに、みちるは答えなかった。かわりに、再びXM3Fを起動した。
「ここは………私が受け持つ!」
そう言い放ち、迫りくるBETAに吶喊し始めた。地面はほとんど崩れており、少なくなり始めた推進剤そのままで戦う必要があった。だが、みちるは無理やり戦闘を継続した。
「かかってこい!貴様らの獲物はここにいるぞ!早く私に襲い掛かってこい!」
その声に引き寄せられるように、BETAはみちるの方へと殺到した。トンカッチは自殺志願者並みの行為をするみちるを止めようとした。だが、それを速瀬がホールドする。
「速瀬!?早くその腕を解け!じゃないとみちるが―――」
「もう中佐の機体は動けません!………もうここまでですよ!」
「トンカッチ、諦めろ!ここでうだうだしていれば、彼女の挺身は無駄になる!」
「ジェームズ、テメエまでそんなこと言い始めるってのか!?」
トンカッチは現実を受け入れずにいた。目の前にいるのは、自分が一生をかけて守り抜くと誓った相手だ。その相手が自分を守るために命を懸けているのだ。
「クソックソッ!………みちる、戻るんだ!まだ間に合う!」
トンカッチは必死に呼びかける。だが、みちるは聞く耳を持たなかった。一向に防衛地点を死守している。突撃砲の残弾が少なくなり、長刀の積極的使用を余儀なくされているほどには損耗していた。
「トンカッチ………私は必ず生きて帰る。大丈夫、安心して?………だから、今だけは私のわがままを貫かせて頂戴!」
そう言い、みちるはトンカッチの村雨の跳躍ユニットを狙撃した。もう、トンカッチは補助無しで離脱することはできない。
「少佐、速瀬。後は頼んだ!」
「………了解した、中佐。アンタも生きて帰ってこい、それをもって作戦は完遂されるからな!」
「そのようなこと…私が一番わかっている!」
トンカッチは残った左半身で必死に抵抗するが、全く無意味だった。急速に離脱していき、徐々にみちるの機体が小さくなっていく。最大望遠で見ると、既に敵に囲まれていた。ジェームズが話しかけてくる。
「…………トンカッチ。辛いときは目を背けることも大切だ。見たくないものを無理にみる必要はない。お前は、信じて待っていればいい。…違うか?」
「ジェームズ……そうだな、今は信じて待つことにするよ」
そう言い、トンカッチはズームを戻した。何本かの曲がり角を経て、上がったり下がったりを繰り返し、ようやく地上に到達した。地上は完全制圧しており、奇襲にも対応できているそうだ。先ほどの坑道のデータが生きているようだ。ある程度の予測が可能になったそうだ。凄乃皇も健在で、不調は発生していないようだ。すぐに補給と整備を開始する。そうすれば、みちるを助けることも叶うかもしれない。トンカッチはそう思っていた。
だが、地上地点に集まっていたのは、ボロボロの機体ばかりだった。どの機体も、作戦継続は困難だ状況だった。最悪の場合、単独で再突入する必要があると考えた。
村雨はボロボロだったが、奇跡的に各部位の接続ユニットは生きていた。残りカスのような破損したパーツをパージし、予備に置いてあった陽炎の脚部と腕部を装着した。MROSの強みである現地補修能力を遺憾なく発揮している。だが、先に機体が悲鳴を上げ始めた。急に機体が膝をつき、緊急脱出勧告が鳴り始めた。
「おいおい、冗談だろ!?動け、動けってんだよこのポンコツ戦術機!」
ついに排気口から出火した。今度こそ本当に出火している。胸部を中心として、火の手は広がっていく。すぐに消火器で鎮火を試みるが、焼け石に水だった。どんどん燃えていき、最終的に全身から出火していた。トンカッチは仕方なく機体から脱出した。脱出直後、使命を果たしたように村雨は爆発した。
「………最後の最後まで、俺に一途な機械だったな。感謝してるぜ、相棒」
トンカッチは村雨の残骸に敬礼し、辺りを見渡した。使えるものがないか探し、ふとテンペストの方を見た。そこには、無人の自律機が置いてあった。急いでそのうちの1機に乗り込む。
「まさかとは思うが、戻るんじゃないだろうな?」
ジェームズがトンカッチを止めようとするが、トンカッチは起動準備を進めていた。
「お前が止めても俺は行くぜ。………まだ間に合うはずなんだ、頼むから行かせてくれ!」
トンカッチが必死に懇願するのを、ジェームズは必死に止めた。
「お前は馬鹿か?いいか、周りを見てみろ!」
ジェームズはボロボロになっている部隊を指さす。
「ここにいるのは瀕死の疲れ切った病人だらけのようなもんだ!それをお前は引き連れていくって言うんだな!?」
「ああ、よく分かっているよ!だから俺一人で行く!……どけ!」
そういってテンペストを押しのけようとする。だが、ジェームズは突撃砲の銃口をトンカッチに向けた。
「そういうなら、俺の答えはこれになるな!」
トリガーを引き、威嚇発砲する。
「………二度目はない!」
それでもトンカッチは行こうとした。だが、地揺れが再び発生した。それもかなり大きなものだ。
「これは、BETAの奇襲か!?」
「いや違う、これは………地盤崩落!?地盤崩落地点は、さっきまでいた反応炉付近と推定!」
さらに、入り口だった場所が落石で封鎖されてしまう。すぐに工作班が出動する。そのうちの一人に話しかける。
「落石除去にかかる時間は?」
「推定4時間以上であります!これ以上早くはできそうにありません!」
もはや手遅れだった。おまけに内部での地盤崩落も観測されている。トンカッチたちにできるのは、待つことだけだった。
9:00
ようやく入り口が解放された。戦力が一新され、再び突入することが可能となった。トンカッチも、予備の不知火を使うことにした。先ほど使った道をたどり、反応炉まで到達する。反応炉周りは地盤崩落により、ボロボロになっていた。一部は落石の山が積み重なっている。その山の一つに、長刀が突き出ていた。トンカッチはその山を掘り返す。
その山に埋もれていたのは、みちるの村雨だった。しかし、管制ユニットは無かった。ベイルアウトというよりも、抜き取られたような状態だった。機体各所には、深々と触手の刺さった跡がある。機体は完全に沈黙しており、ピクリともしなかった。その姿は、彼女の墓標のようだった。
13:00
作戦旗艦の最上より、戦闘終了の宣言がなされた。反応炉は完全制圧状況下になり、甲21号ハイヴは人類側のものとなった。これで、人類側2度目のハイヴ戦勝利となった。だが被害も大きく、地上戦力は8割は被害を受けており、海上戦力も3割が撃沈するという状況だった。
そして同日15時30分に、みちるは
今回の友情出演組です。(敬称略)
ジェームズ・スミス(@Lt_smithFFR41mr)
如月中尉(@KSRG_TSF94)