Muv-Luv 本土戦線異状なし、進撃せよ!   作:tonkacchi

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第58話 血塗られた覚悟

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 神槍作戦終了から一日が経過した。帝国軍と国連軍は、佐渡島ハイヴ跡地に大規模前線基地を建築することを決定した。共用の基地として作る予定で、佐渡島全域が基地として建設される予定だった。元居た島民に開放すべきという意見もあったが、有事のため犠牲になるのは仕方がないという意見が大半だった。以前あった、大邱基地のように要塞化される予定だ。

 

 さらに、この日に戦没者追悼式が執り行われることとなった。戦死・行方不明者が全員判明したからだ。そのリストの中に、みちるも入っていた。しかし、世間一般には公表されないようになっていた。状況が状況なので、もう少し詳細な状況が確認でき次第、個別に通知するそうだ。

 

 トンカッチは、全体の追悼式に参列した後、病院に向かった。受付で病室の番号を訪ね、入室許可をもらう。部屋主はヤマメだった。容体はすぐに回復し、今では話すことも可能となっていた。彼女と話している先客がいた。

 

「………ずいぶんピンピンしてるじゃないか、霧雨」

 

 先客は霧雨だった。偵察部隊として出撃し、完全に死んだものと思われていた。大量の敵に囲まれ、最期はS-11を使い道連れにして自爆。この状況は各所で観測されていた。だが、霧雨曰く奇跡の連続だったそうだ。

 

 爆発直前に緊急脱出装置が作動、管制ユニットごと射出される。さらに、管制ユニットが強制解放され霧雨は遠くに吹き飛ばされた。吹き飛んだ先は坑道の入り口で、そこでしばらく待機していた。少し奥に行くと、かつて使われていた救護所があり、そこで応急処置を済ませた。しばらく待機すると、地上では交戦音が発生し、そのタイミングに置いてあった無線機らしきものを利用し、救助してもらったそうだ。

 

 奇跡というにはあまりにも出来過ぎた話だが、救護班の証言もある。だが、生き残ったのは奇跡というほかないそうだ。内臓損傷、全身打撲に軽度火傷まである。それを、車いす一つで動き回っているのだ。ある種BETA並の生命力だろう。

 

「で、今はこうやってイチャイチャしてるってわけか。後にお前の病室に行こうと思ったが、行く手間も省けて良かったよ。ほい、これ」

 

 トンカッチは霧雨に報告書を渡した。詳細な戦闘推移が書かれている。まだ提出していない文書ではあったが、全く知らないまま部隊に戻るのも良くないと思い、暇つぶしがてらに読んでおくように言った。それを渡して、トンカッチは病院を去った。向かう先は横浜基地の宿舎だ。

 

 宿舎について早々、みちるの部屋に向かった。つい癖でノックをしたが、誰もいない部屋から返事は返ってくるはずがない。部屋に入ると、きれいに物が置かれていた。ベッドですら、しわ一つないのだ。ある意味、人が居なかったかのような感覚を覚えた。机には2枚の額縁に入れられた写真があった。一つはみちるとまりものツーショットだ。恰好から訓練学校卒業後のようだ。

 

 もう一つは、結婚式の時の写真だった。これを撮影してくれたのは、義兄弟の正樹だった。彼は帝国軍に所属しており、義姉のやよいと結婚している。この後会う約束もしていた。彼の撮った写真はトンカッチも所持していたが、村雨のコックピットに張り付けていたので燃えてしまっていた。みちるには申し訳ないと思いつつ、トンカッチはその写真をもらっていくことにした。

 

 他にも数々の私物が置いてあった。昔入った時よりも明らかに増えていた。鍵がかかった箱があり、気になったので鍵を探すことにした。机の引き出しを開けると、封筒が一つあり、手紙と一緒に鍵が入っていた。この手の物は大概遺書だと決まっている。書いた日付まで丁寧に書いてあり、宛先も書いてあった。さらに、それはやよい宛になっていた。

 

 見ない方がよさそうだと思い、今日は正樹と会った後に伊隅家によることを決めた。電話をかけると、やよいが出た。ちょうど家に帰ってきたタイミングで、電話でそのことを伝えた。明日だとまりかやあきらもいると言われたので、明日にしてもらった。了承を得たので、みちるの部屋を漁るのをやめ、自室に戻って外に出る支度をした。

 

 

 17:00 東京

 

 正樹との予定の時間より早く到着してしまった。恰好が軍装だと目立つので、スーツにロングコートを羽織り、目の色を隠すべくサングラスをしていた。行きかう人々が街灯のモニターに映っているニュースに釘付けになっている。内容は無論、神槍作戦についてだった。久しぶりの人類側の大勝利に、帝国臣民のみならず各国の人類が湧き立っていた。

 

 だが、本来なら秘匿されているはずの凄乃皇の存在までバレてしまっているのには苦笑を隠せなかった。いくら公的部隊になったとはいえ、ここまで筒抜けだと軍機とは何だろうかと問いたくなるほどだった。待ち時間まで1時間ほどあるので、どこかで暇をつぶそうとしようと歩いた。どの店も戦勝セールと割引されていた。

 

「まだ勝ってないだろうが、阿呆どもが。何にも知らない奴は呑気で困る」

 

 ボソッと口に出してしまったが、すぐに口を閉じた。知らなくて当然なのだ。現実を知っているのは兵士だけでいい。彼ら市民は何も知らず、勝利の報を待ち続ければいい。そして我々兵士は、勝利をもたらさなければならない。兵士の帰る場所は、戦場なのだ。一度戦争を経験してしまえば、二度と平和など享受できない。そうトンカッチは考えていた。

 

 そう考え事ばかりしながら道を歩き、無意識のうちにプレゼントを取り扱う店に入っていた。帝都然り、どこかに単独で行った時には、みちるへのお土産を買って帰るのだ。その癖も抜けきっていない。直そうと思ったが、それはみちるの死を認めることになる。若干の矛盾に苦しんでいると、後ろから肩を叩かれた。

 

「もしかして、トンカッチ中佐ですか?」

 

 肩を叩いてきたのは、正樹だった。腕時計を見ると、予定の時間になっていた。

 

「正樹か!?会いたかったぜ兄弟!元気してたか!?」

「俺もだぜ兄弟!いつもにも増してガチガチな格好だから一瞬分かんなかったけど、あっててよかったぜ!」

 

 結婚式以来に正樹とは一度も会っていない。だが彼の顔は、すっかり戦士の顔になっていた。それでも、元々持っていた優しさの面影はそのままだった。合流した二人は、翌日に持っていく手土産を選んだ。店を出て、予約していた料亭に向かう。どうやら帝国軍御用達の高級料亭だそうだ。それを今回は、正樹のコネで貸し切りにしてもらったそうだ。どうやらゆっくりと話し合いたいそうだ。店には、店主とトンカッチ、正樹の3人しかいなかった。

 

「まずは、神槍作戦お疲れ様。確か最前線配備だったろ?」

「まあ、最前線だな。……うん、地獄そのものだったさ。正樹は本土第1防衛線にいたんだったか?」

「ああ、最前線ほどじゃねえけど酷いもんだったぜ。あ、俺が酒注ぐよ」

 

 トンカッチはしばらく雑談をしていた。話によると、最近の帝国軍で正樹は大活躍中だそうだ。最前線でBETAを次々と駆逐していき、何度も防衛線に成功している。小隊規模の部隊長を務めており、彼の指揮する小隊は誰ひとりとして未だに欠員が出ていない。その噂はトンカッチも聞いており、聞くところによれば『不死鳥小隊』と呼ばれているそうだ。

 

 そんなことを語る正樹の顔は、明るく輝いていた。一方のトンカッチは、表面だけ明るく見せて、内心ではみちるの話をいつするべきか悩んでいた。悩んでいる間にも、正樹は嬉々として話を続けていた。

 

「で、落ち着いたら嫁さんと旅行に行こうと思ってるんだけどさ、トンカッチ的にはどこに行くべきだと思う?俺は東北のあたりとか――」

「すまん正樹、一回俺の話を聞いてくれないか?」

 

 トンカッチは覚悟を決めた。そして、自分の考えに一つの結論を出した。

 

「みちるのことなんだが………それについて話さなきゃならないことがある」

「はぁ……あ、明日来れないとかか?それなら話しておくけど」

「違う、違うんだ。………みちるは、俺と一緒の部隊で神槍作戦の最前線にいた。そして………」

 

 トンカッチはここで声を詰まらせ、涙を流してしまった。これから自分が何を言おうとしているのか、それを確認すると涙が止まらなかった。

 

「おいおい、どうしたんだよ兄弟?飯でも詰まらせたのか?」

 

 正樹が背中をさすって落ち着かせようとしたが、全く落ち着かなかった。だが、トンカッチは覚悟を決めた。

 

「正樹………みちるは、死んだ。俺のせいだ………すまない」

 

 正樹は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。自分の義妹が、死んだのだ。それなりに関わりもあり、思い出もある。自分の人生において重要が存在であったことは間違いない。それが、今回の作戦で死亡したと、その人の夫から直接告げられた。頭が一瞬真っ白になる。すぐにまとめようとするが、全く整理できない。

 

「トン…カッチ、冗談きついぜ?さすがに笑えねえよ…なあ、嘘だと早くネタバラシしてくれよ。…何が『死んだ』『すまない』だ!?おい、何とか言ってみろよトンカッチ!」

 

 正樹はトンカッチの胸倉を掴む。

 

「だから死んだって言ってんだろうがぁ!」

 

 それに対して、トンカッチは語気を強めた。店主は何かを察したように奥に下がる。トンカッチは続けて言った。

 

「アイツは最期まで立派に戦ってた!俺を残らせないように考え、地盤崩落が始まった反応炉の周りで、誰の援護もなく、わずかばかりの弾薬と燃料で、必死に、見たこともない新種のBETAと戦わされ続け、誰にも看取られることなくひっそりと姿を消したんだ!俺が後で戻ったときには、死体が残っていないから希望にすがったさ!?だから、上の人間に嘆願して調査もしてもらった!今お前に言う瞬間まで、俺はあいつのことを一切諦めていなかった!だが、お前には言わなきゃいけないって思ってこっちは覚悟決めて話してんだよ!このつらさが、この気持ちがお前に分かるか!?」

 

 正樹はトンカッチに何も言えなかった。同情も叱責も、彼らの間には存在しなかった。

 

 その翌日、トンカッチは伊隅家へと向かった。部屋にあった鍵のかかった箱と、封筒、それと正式な死亡通知書を一緒に持っていった。どうやら正樹からある程度聞いたのだろう。全員の顔は酷く暗かった。荷物をやよいに直接渡し、トンカッチから話し始めた。

 

「どうやら………話は伝わっているみたいだな」

 

 だが、トンカッチはそれ以上は何も言えなかった。代わりに、あきらが詰め寄る。

 

「みちるお姉ちゃんは、どうして死んだの?あなたの隣で一緒に戦ってたんでしょ!?ねえ、答えてよ!」

 

 トンカッチは正樹に言ったことをそのまま伝えた。だが、あきらは納得していなかった。

 

「そんなことわかってる!正樹ちゃんに聞いたもん!けど、それじゃ納得できないよ!」

 

 そう言うと、あきらは泣き崩れてしまった。必死に抑え込んでいたのだろうが、限界が来たのだろう。トンカッチはそんな彼女に背中を向け、家を出て行った。家を出ると、ジェームズが車を待機させていた。基地まで送ってくれるそうだ。

 

 最初の内は互いに何も言わなかったが、ジェームズが口を開いた。

 

「………俺はお前となんだかんだ言ってそれなりの付き合いだ。だからよ、もう少し自分の気持ちに正直になれよ。辛いなら辛いって言えよ。じゃなきゃ、お前パンクしちまうよ?」

「…………そうかもしれないな」

 

 トンカッチは基地に戻り、書類をまとめた。外出していた間に、大量に仕事が溜まっていた。今までは、この半分近くをみちるが片付けていた。しかし、もういない。それを理解した瞬間、全身から力が抜けた。そして大粒の涙を流す。このままだと仕事にならないと思い、必死に止めようとする。

 

 だが、止まらなかった。もう限界だった。正樹と話した時でさえ、弱いところを見せまいと必死に抑えていたが、臨界点はとっくに越していた。壁に拳を殴りつける。何度も、血が出てもやめない。大声で何度もむせび泣き、叫んだ。何人かがその叫びを聞いたが、誰にも止めることはできなかった。

 

 そして、泣き止んだときに悟った。もう自分の愛する女性はこの世にいない。だが、彼女の愛した世界を守る。それが自分に課せられた唯一の贖罪だ、と。

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